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ロボット工学セミナー「月・惑星探査で利用される日本のロボット技術」が開催
~小惑星探査機「はやぶさ」の川口プロマネらが講演


 日本ロボット学会は4月25日、ロボット工学セミナー「月・惑星探査で利用される日本のロボット技術」を開催した。このセミナーは、同学会が話題性の高いテーマを選んで不定期に開催しているもので、今回で45回を数える。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などから講師を迎え、最新の宇宙ロボティクスの動向が語られた。

 「宇宙」と「ロボット」というとピンと来ないかもしれないが、いまや宇宙開発にロボット技術は不可欠である。惑星の地表を探査するローバーは分かりやすい例であるし、そのほか探査機や人工衛星なども手足こそないものの、機能的にはロボットと見ることもできる。小惑星探査機「はやぶさ」などは、自律的な航行機能まで備えるのだ。


高い自律性を持つ探査機「はやぶさ」

 最初の登壇者は、その「はやぶさ」のプロジェクトマネージャとして名を馳せたJAXA 月・惑星探査プログラムグループ プログラム・ディレクタの川口淳一郎氏。


JAXA宇宙科学研究本部の川口淳一郎氏 小惑星探査機「はやぶさ」には多くのセンサーが搭載 「はやぶさ」は技術実証を目的としている

 「はやぶさ」は数々の最新技術を搭載した探査機である。一般に、探査機のような宇宙機には“枯れた”技術が採用されることが多いのだが(信頼性重視のため)、イオンエンジンなどの新技術が使われているのは、「はやぶさ」が工学技術実証機であるからだ。最近はJAXA自身も“小惑星探査機”と呼ぶことが多いが、「MUSES-C」というコードネームが実証機であることを表している(MUSESは「Mu Space Engineering Spacecraft」の略。ちなみに“本番”の探査機には、「PLANET-A(すいせい)」「PLANET-B(のぞみ)」のようなコードネームが付く)。

 その目的は、「サンプルリターン」技術の実証にある。サンプルリターンは天体表面の標本(サンプル)を地球に持ち帰る(リターン)こと。調査の手法としては、分析装置を探査機本体に搭載することも考えられるが、それだと重量や大きさの制限が厳しく、簡易的なものにならざるを得ない。しかしサンプルリターンであれば、標本が微量であっても、地上の最新鋭の分析装置を使うことが可能となる。

 だが宇宙探査全体で見ると、サンプルリターン型はアポロ計画にあった他はほとんど例がない。これは他天体との往復がそれだけ難しいということで、「はやぶさ」クラスのサイズ・予算で小惑星に行って戻ってこようというのは、かなり野心的なプロジェクトといえる。燃費の良いイオンエンジンがなかったら無理だったろう。

 「はやぶさ」の場合、目標が小惑星イトカワという小さな天体(約500m)だという難しさもある。相手が惑星のような大きさならともかく、イトカワのようなサイズではわずかな誤差でも到達することができなくなってしまう。地上から「はやぶさ」を観測することはできず、位置を特定することが困難なので、「はやぶさ」では光学情報を用いた自律的な航法が採用されている。


イトカワの方向は探査機自身が確認している 着陸も自律制御。このときはバウンドしてしまった

 またイトカワへの着陸にも自律的な誘導方法がとられている。このように地球から遠い場合、電波の往復に数十分もかかってしまい、指令が間に合わないためだが、「はやぶさ」は降下地点にターゲットマーカと呼ばれる目印を落とし、画像認識により着陸位置を制御することができる。こういった高い自律性が「はやぶさ」の特にロボット的な側面と言えるだろう。

 ところでこのサンプルリターン技術、まずは学術的な動機が先行するだろうが、将来的には、他天体の資源を地球に持ち帰るようなことにも応用が考えられる。またこの惑星間往復技術によって、有人火星探査も可能になるかもしれない。日本として、戦略的にも重要な技術なのである。川口氏からは、「深宇宙港を拠点とする太陽系航海」という夢のような構想も飛び出たが、現在の技術でも決して不可能ではないとの意見が述べられた。


ラグランジュ点に深宇宙港を建造するという構想。これが現実的に検討されている 同一のエンジンで地上から惑星軌道まで行くのは効率が悪いので、途中で乗り換えるのが現実的

 「はやぶさ」プロジェクトは海外から高い評価を得たが、しかし一方で「日本の弱点」として川口氏が指摘するのは、通信能力の低さだ。「はやぶさ」は1.6mアンテナ、NASAの火星ローバーはもっと小さな手鏡のようなアンテナを持つが、性能的にはほぼ同等だという。さらにNASAの場合、火星周回軌道上からの伝送速度は100kbpsオーダーになるが、「はやぶさ」のそれは8kbpsなので、まさしく桁が違う。こういった通信技術が今後の課題と言えるかもしれない。


日本も探査ローバーを打上げる時代に

 JAXA 宇宙科学研究本部 宇宙探査工学研究系の久保田孝氏は、「月惑星探査ロボットへの期待と技術ロードマップ」と題して講演を行なった。

 現在、日本は月周回衛星「かぐや(SELENE)」による観測を行なっているところであるが、その次の段階として、ランダー(着陸機)とローバーを使って調査する「SELENE-2」が計画されている(その次にはサンプルリターンを行なう“SELENE-X”も検討中)。SELENE-2はまだ正式に決定されたプロジェクトではないが、その前段階の“プリプロジェクト”にはなっており、2010年代半ばには実現する見通し。


JAXAが検討している月惑星探査計画 月探査ロードマップの私案という

 日本のロボット技術は世界的に見て高いレベルにあるが、ローバーの分野ではまだ経験不足(そもそもNASAに比べると、月惑星探査の回数自体が圧倒的に少なかったということもある)。しかし、日本の宇宙探査もローバーを使う段階になってきたというわけで、久保田氏からは、現在研究が進められているローバーの紹介が行なわれた。これらは宇宙科学研究本部の一般公開でも毎年披露されているので、見たことがある人もいるだろう。


これまでに活躍したローバーというのは意外と少ない 日本で研究が進められているローバー さまざまなタイプのローバーが研究されている

 また地表を走るローバー以外にも、さまざまな形態の探査ロボットも検討されているという。例えば、月面での使用が考えられている地中探査ロボットでは、二重反転型スクリューの宇宙研方式や、ミミズのような推進方式の中央大方式、ドリル式のJAXA方式などが研究されているそうだ。


宇宙研方式 中央大方式 JAXA方式

 ところで、日本にも探査ロボットがなかったわけではない。「はやぶさ」に搭載されていた「ミネルバ」だ。重量わずか600g程度の小型ロボットだが、カメラが3台搭載されており、イトカワ表面の画像を送ってくる予定だった。残念ながら、この「ミネルバ」はイトカワへの投下に失敗してしまったが(いまはイトカワ近傍を漂う“人工惑星”になっていると考えられるそうだ)、写真も受信しており、機能を確認することはできた。


重力が小さいので、「ミネルバ」は飛び跳ねるような形でイトカワ表面を移動する予定だった 「はやぶさ」が上昇中に分離したために降下に失敗。しかし撮影画像は送られてきた

 「探査ローバーはNASAが先行しているので、何をやっても二番煎じに見えてしまうが、小さくて性能の良いものは日本が得意。月惑星探査にはそういった日本のロボット技術を活かしたい」と久保田氏。「ミネルバ」をさらに発展させて、10gくらいの昆虫型ロボットを100個使う表面探査なども考えているそうだ。


月探査ローバーの具体的検討

 JAXA 月・惑星探査プログラムグループ 研究開発室の西田信一郎氏は、「無人探査から有人拠点までの月面探査ロボット技術」と題して講演、月探査ローバーに関するより具体的な説明を行なった。

 一口に「月惑星探査」と言っても、重力・大気・温度・1日の長さなど、環境は天体によって大きく異なっており、それぞれに適応したローバーを考える必要がある。例えば月(0.17G)や火星(0.38G)にはそれなりに重力はあるが、小惑星では非常に小さい。このあたりは移動方式や走行系の構成への影響が非常に大きい。

 また真空中では普通のグリスは揮発してしまうので、宇宙用に特殊な潤滑が必要となるが、火星にはわずかに大気がある。これは技術的には大きな違いがあり、「真空潤滑でなくて空気潤滑のレベルに入る。地球の機構とそれほど変わらない構成でよい」という。バッテリ的には1日の長さも重要で、月の長い夜は非常に大きな問題だ。


月は火星よりも過酷な環境であるので、月探査ローバーの技術が火星探査にも有効と西田氏 月着陸の第1候補として考えられているのは南極付近のShackletonクレーター。ここは日照条件が良い

 月は常に同じ面を地球に向けている。つまり、月が1周する間に1回転しかしていないわけで、昼と夜がそれぞれ約15日も続くことになる。これはローバーにとっては非常に厳しい環境である。夜の間は太陽電池が使えないだけでなく、極低温にも耐えなければならない。通常の人工衛星用の部品でも壊れるケースが出てくるという。

 しかしそんな月面にも、例外的な場所が存在している。北極と南極だ。極域ではほぼ真横から日が射すので、起伏によっては、常に日陰だったり、逆にほとんど日にあたっている場所もある。月面拠点の第1候補として考えられているのは南極付近のShackletonクレータの縁で、ここでは日照時間が70%以上になる場所もあるそうだ。

 極域で効率よく発電するために、SELENE-2では、極地方用には太陽電池パドルを高く伸ばしたランダーが考えられているようだ。ローバーは、重量100kg程度を想定。太陽電池も装備しているが、当初は有線で接続したままランダー付近を移動し、最低限のミッションが終わってから、切り離してもっと遠くに行って調べるという二段構えの運用も考えられているそうだ。


SELENE-2計画の概要。有人拠点の候補地を調べる ローバーは走行距離1km以上を狙うという

 ところで、ローバーで一番の問題となるのはスタックだ。NASAの火星ローバーも度々これに悩まされているが、もし砂にハマっても誰も助けに行けないので、スタック=ミッション終了になってしまう。

 JAXAが月の模擬砂(レゴリス・シミュラント)で検証したところ、固い車輪の場合では、斜面が15度以上になると急激に滑り始める傾向が出た。滑り率は30%以下に抑えないと実用的でないとされており、これでは斜度20度くらいが限界となる。一方、クローラ型の場合は斜面に強く、25度くらいでも大丈夫という結果になった。クローラ型にも弱点はあるのだが、これまでの検証の結果、「クローラの方に解が出てきている」(西田氏)とのことだ。


滑り率は斜度15度を越えると急に上昇する クローラを使うと走行性能は上がる しかしクローラにも弱点はある

URL
  日本ロボット学会
  http://www.rsj.or.jp/


( 大塚 実 )
2008/06/03 13:16

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