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東北大学、自主開発のマイクロサット「SPRITE-SAT」を報道公開
~JAXAの衛星相乗りで今年度中に打上げ予定


 東北大学は15日、打上げに向けて開発を進めている「スプライト観測衛星(SPRITE-SAT)」のフライトモデル(実機)を報道向けに公開した。この衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が今年度中の打上げを予定している「温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)」の相乗り衛星となるもの。大きさ50cm立方、重量50kgのマイクロサットで、約1年前から本格的な開発が始まっていた。


宮城県仙台市の東北大学・青葉山キャンパス。この理学総合棟で開発が進められている クリーンルーム内で作業が進められているのが「スプライト観測衛星(SPRITE-SAT)」

世界初の観測に挑むSPRITE-SAT

 SPRITE-SATの目的は、大気上層の発光現象である「スプライト」現象を観測することである。“スプライト”とは落雷時に発生することがある現象のことで、雷が地上に落ちてくるのに対して、スプライトは高度40~90kmという高い場所で観測される。雷と関連があるのは確実らしいが、発見されて間もない(といっても約20年前)こともあり、詳細なメカニズムはまだ分かっていないそうだ。


これがスプライト現象。雷よりもはるかに上空で発生する。真上でなくて、50kmくらい離れた場所で起きることもあるそうだ 真上から観測して、水平構造を明らかにするのがSPRITE-SATの目的。同時に、地上からのガンマ線放射も観測する 【動画】東北大学が地上で撮影したスプライト現象。一瞬の現象なのでスロー再生になっている

 これまで、スプライト現象の観測は横から行なうしかなかったが、これを真上から見て、水平構造を明らかにしようというのがSPRITE-SATの狙いだ。そのためSPRITE-SATには真下に向けて3台のカメラが搭載されており、スプライト現象が発生したときには画像を保存するようになっている。しかしこれでは真下の撮影しかできないが、地上では1日数千~1万回もの頻度でスプライト現象が起きており、確率的には1日1回程度は撮影が期待できるそうだ。

 SPRITE-SATの大きさは50cm立方以内、重量は約50kgで、開発コストは約1億円。打上げ後には、高度約650kmの極軌道に投入される予定だ。ミッション機器としては、CMOSカメラ2台(雷・スプライト撮影用)、CCDカメラ2台(雷撮影用とスターセンサー)、ガンマ線カウンタ、VLFアンテナを搭載しており、夏までには完成する見通し。


軌道上のSPRITE-SATのイメージ。長さ1mの伸展マストに重りをつけ、自然に姿勢が安定する「重力傾斜安定方式」を採用している 公開されたSPRITE-SAT。これがフライトモデルなので、完成後は実際に宇宙まで行くことになる 当日は内部の配線作業が行なわれていた。ちなみにプロセッサはFPGAの民生品が使われているとか

底面にカメラを搭載。左の2つがCMOSカメラで、右がCCDカメラ。CCDカメラには広角レンズが付けられている CCDカメラの1つは上面に設置。これは姿勢制御のときに使用するスターセンサーとなる

大学でもトップサイエンスを

工学研究科の吉田和哉教授(右)と理学研究科の高橋幸弘講師(左)
 このプロジェクトの中心になっているのは、東北大学大学院・工学研究科の吉田和哉教授と理学研究科の高橋幸弘講師。理工の密接な連携によって進められているのもプロジェクトの特徴で、この学内協力により、約1年間という短期間での開発が実現したのだという。理学系・工学系による連携は旧ISAS(宇宙科学研究所)でも伝統的に使われてきた手法だが、その“東北大学版”とも言えそうだ。

 一般的に、大学開発の衛星は東京大学の「XI(サイ)」シリーズや東京工業大学の「CUTE」シリーズのように、10cm角クラスのキューブサットであることが多く、50cmサイズのマイクロサットというのは、大学でやるには規模が大きすぎる印象も受ける。しかも、東北大学が開発するのは、このSPRITE-SATが初めてだ。

 しかし、東北大学には火星探査機「のぞみ」や月周回衛星「かぐや」などで観測機器に協力した実績があり、宇宙関連の開発が初めてだったわけではない。「部分的に協力するのと1から全部作るのとでは、かなりの違いがあった。非常にいい勉強になった」(吉田教授)とは言うものの、これまでの経験があったからこそ実現できたと言えるだろう。また予算的には、文部科学省の科学研究費補助金を使うことができたことも大きい。

 ところで、開発コストが1億円と聞くと高く感じるかもしれないが、国の宇宙機関が開発する大型衛星に比べれば、これは桁違いに安い。その分、観測機器が少なかったりするわけだが、安いということで、失敗を恐れずに新しいことにもチャレンジできる。多少リスクはあっても、安く、早く実行できるのが小型衛星のメリットだ。これはそういった新しい科学の方法論を確立するチャレンジであるとも言える。

 SPRITE-SATが成果を出せば、「数年間の開発期間と1億円程度の予算があれば、大学でもトップサイエンスができることの実証になる」と吉田教授。「また何か宇宙での新現象が発見されたら、誰よりも先に観測する衛星を作りたい」と述べ、今後もマイクロサットを開発していく意向を示した。


URL
  東北大学
  http://www.tohoku.ac.jp/
  SPRITE-SAT
  http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/SPRITE-SAT/

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( 大塚 実 )
2008/05/16 14:53

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