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「第28回全日本マイクロマウス大会」レポート
~1/2サイズマウスがエキスパートクラスに登場


 2007年11月17日~18日、第28回全日本マイクロマウス大会がつくば国際会議場で開催された。主催は、財団法人ニューテクノロジー振興財団。

 マイクロマウス競技は、自立型知能ロボット(このロボットをマイクロマウスと呼ぶ)が迷路のスタート地点からゴールまでの経路を独力で探索し、走破するタイムを競う競技である。1977年にIEEE(米国電気電子学会)が提唱し、日本では1980年に全日本マイクロマウス大会が始まった。ロボットコンテストの草分け的な競技会で、現在は全国8カ所の支部で8月~10月にかけて地区大会が開催がされている。全日本大会は、韓国やシンガポール等海外からの参加者も多く、国際的な競技会となっている。

 競技会は、初級者向けのフレッシュマンクラスと、上級者が参加するエキスパートクラスがある。フレッシュマンクラスで迷路を探索しゴールすると認定証が授与され、次年度からエキスパートクラスに出場できる。

 今大会は、フレッシュマンクラスに82台、エキスパートクラスに89台の参加があった。その他、エキスパートクラスの決勝には、地区大会や学生大会で優秀な成績をおさめた7台のマウスがシード権を得て参加している。

 両クラスとも、競技内容やマウスの規格は同じだ。競技で使用される迷路は16×16区画(1区画180mm)の通路で構成されている。迷路の壁は高さ50mm、幅12mm。側面は白、上面は赤。路面は黒で塗装されいる。

 マイクロマウスは、左隅からスタートし、中央に設けられたゴールをめざす。持ち時間は予選が7分、決勝は5分。時間内に5回挑戦できる。走行時間がもっとも短いタイムが、そのマイクロマウスの成績となる。

 マイクロマウスの規格は、1辺25cmの正方形内に収まることと定められている。競技前に車検が行なわれるが、現在のマウスは軽量小型低重心化が進んでいる。車検の様子を見ていると、「必要ないんじゃない?」と思ってしまうほどだ。だが、以前はこの車検で「ん~?ギリギリだねぇ……」というマイクロマウスもあったという。こんなところからも28年間の技術の進化をかいま見ることができる。


ロボットが自律でこの迷路を探索しながらゴールを目指す。これは、エキスパートクラス予選の迷路 競技前には車検が行なわれる。かつては、この枠ぎりぎりのマイクロマウスも出場していた

 マイクロマウスは事前に迷路の情報を持っていないので、1回目の走行では、迷路を探索し経路を記憶しながらゴールへ向かう。ゴールまでのルートは複数あるので、マウスはゴール後も迷路の探索を続け、全体のマップを作成する。この走行を「探索走行」または「第一走行」と呼ぶ。マップを制作した後は、複数ある経路の中から自分がもっとも速く走ることができるルートを選んでゴールまで疾走する。この2回目以降の走行を「第二走行」と呼ぶ。

 フレッシュマンクラスとエキスパートクラスでは、迷路の難易度が違う。迷路を探索するマイクロマウスも大変だが、年々スキルアップする参加者のレベルにあわせて難易度が合う迷路を制作する委員会も大変だろう。

 速く走るためには、直線が多いルートの方が有利だが、長い直線を走っていると区間の誤差が累積し距離の計測に失敗して、カーブを曲がることができないこともある。

 マイクロマウスは、機体やソフトの特性で直進性能に優れたマウスや、旋回性能がよいマウスなど、それぞれ得意なコースが違うため単純に最短ルートを選ぶとは限らない。

 またエキスパートクラスの決勝になると、そもそも最短距離が存在しない。会場で配布された迷路図には、代表的な経路のコマ数が記載されていたので、委員会の方や参加者に該当する経路を教えてもらった。

 本稿では、エキスパートクラスに焦点を当てて紹介する。


第28回全日本マイクロマウス大会、フレッシュマンクラスの迷路 第28回全日本マイクロマウス大会、エキスパートクラス予選の迷路 第28回全日本マイクロマウス大会、エキスパートクラス決勝の迷路

エキスパートクラス予選

 今年の予選には、2009年度からエキスパートクラスの移行が予告されている1/2サイズマイクロマウスで参加している選手もいた。

 Pi:Co(坂上徳翁氏、アールティ)は、株式会社アールティの1/2サイズマイクロマウスキットの試作機にプログラミングをして競技に参加した。今回は残念ながら、迷路を探索することができなかったが、1/2マイクロマウスキットはこのように現行サイズの迷路を走行することも、当然できる。これからマイクロマウスを始めたい人にも楽しみなキットだろう。

 瑠璃1/2(中島史敬氏)は自作の1/2サイズマイクロマウスで出場した。探索に成功し、第二走行では、17秒647の記録を残した。


【動画】Pi:Co(坂上徳翁氏、アールティ)の探索走行。坂上さんはアールティでアルバイトをしているため、試作機を使って大会で実証実験を行なった 【動画】瑠璃1/2(中島史敬氏)のベスト走行。記録は17秒647

 前述のとおり、エキスパートクラスの予選には89台のエントリーがあった。そのうち29台が外国勢だった。予選の結果は、1位~11位までを外国勢が占めている。日本の優秀選手は、地方予選で決勝出場のシード権を得ており予選には出場していないとはいえ、いささか寂しい。

 予選の1位は、MIN5(Ng Beng Kiat氏、所属:Ngee Ann Polytechnic)だった。MIN5は、第二走行で6秒154を出しトップに躍り出た後に、続く走行でも自己記録を次々塗り替えて5秒724の記録を出した。


【動画】MIN5(Ng Beng Kiat氏)の探索走行 【動画】MIN5(Ng Beng Kiat氏)、5回目の走行。記録は5秒724

 日本勢では、こじまうす2(小島宏一氏 京大機会研究会)が、12位で国内でトップだった。小島氏は、中部大会でシード権を得ているが、予選にはステッピングモーターを使った「こじまうす2」で参加した。

 また、東北工業大学高等学校の松木優実-ゆうま-氏は、父親の松木晴実氏と共同開発した「かるがも2」で参加した。松木晴実氏は、1992年の第13回大会に参加し、3位に入賞している。晴実さんは、優実さんにマイコンを教えるために、15年ぶりに昔のかるがもをベースにして新規マイクロマウスを開発したという。メカニズムとハードを晴実さんが担当し、ソフトは親子合作だ。

 マイクロマウス競技は難易度が高く、また歴史があるために長年継続して参加している人が有利だが、年々参加者も増えており、全体のレベルもアップしている。若い世代がこのように頑張って結果を出しているのは嬉しい。


【動画】こじまうす2(小島宏一氏)の探索走行 【動画】こじまうす2(小島宏一氏)の最速走行

エキスパートクラス決勝

 筆者は2003年から、マイクロマウス大会を観戦している。去年は、8秒台でゴールするマイクロマウスを見ると「速い」と感じたが、今年は7秒前半か6秒台でないと速いと感じなかった。中堅~初級者まで参加者全体のレベルが上がっているからだ。スピード感というのは相対的な感覚なので、全体的に速いと、昨年上位に入賞したマイクロマウスの走行を見ても「あれ?」と思ってしまうほどスピード感が狂ってしまった。

 予選・決勝を通して、全体的なレベルは高くなっていることを感じたが、決勝戦は苦戦するマイクロマウスが多かった。というのは、決勝戦では会場の環境がかなり厳しく設定されていたのだ。

 マイクロマウスは、赤外線センサーや可視光センサーなどを使って、壁の有無をチェックしている。そのため、マイクロマウス競技会では、センサーの誤動作を防ぐために、競技中は照明を落とし、フラッシュ撮影は禁止が原則である。だが、技術の進歩とともに、委員会内外から「ロボットのために環境を整えていては、実用的な技術が開発されない」という意見がでてきたため、昨年からエキスパートクラスの決勝に限り、場内の照明が明るくなり、フラッシュ撮影も許可されるようになった。

 その影響なのか、決勝ではセンサーの誤動作によりリタイアするマイクロマウスが多かったのだ。探索走行に成功しても、スピードを上げて走ると同じところで誤動作することがあった。特に、地区大会でシード権を得ているメンバーの苦戦が目立った。これは、大会前日に会場で試走を行なっていないこともあるが、性能の高いマイクロマウスほどセンサーのチェックを厳しくしているために、誤動作が起こりやすいこともある。

 決勝で優勝したのはHOPE Y&A(JACKSON YOUN SHI KAT氏、所属:NANYANG POLYTECHNIC)だった。2回目のトライには失敗したものの、3回目以降は走るたびにタイムを縮め5回目に6秒505の記録を出した。

 HOPE Y&Aは幅76mm、全長96mm、高さ25mm。重量は130g。バッテリはリチウムポリマーを使っている。昨年のマイクロマウスと比較して、モーターを小さくし軽量化を実現した。センサにはレンズをつけて、検知範囲を絞っている。センサーの感知を厳しく設定すると誤動作をしやすくなるため制御に工夫をしているという。

 また、照明やフラッシュ対策として、フォトセンサを前方に搭載している。マイコンには、浮動小数点の計算が速いDSPを使用している。「日本では、DSPを使用しているマイクロマウスはまだないだろう」という。


【動画】優勝したHOPE Y&A(JACKSON YOUN SHI KAT氏 所属:NANYANG POLYTECHNIC)の探索走行。探索は41秒661でゴールした 【動画】HOPE Y&Aの最速走行。記録は6秒505

HOPE Y&A(JACKSON YOUN SHI KAT氏)。サイズは幅76mm、全長96mm、高さ25mm。重量は130g 優勝したJACKSON YOUN SHI KAT氏を囲んで、参加者達がマイクロマウスの構造や制御について盛んに質問をしていた

 2位はMin5(Ng Beng Kiat氏)、3位はBR5S(YIN HSIANG TING氏 所属:NANYANG POLYTECHNIC)と今年も外国勢が上位を占めた。


【動画】3位になったBR5S(YIN HSIANG TING氏)の探索走行 【動画】BR5Sの4回目の走行。記録は6秒995だった BR5S(YIN HSIANG TING氏)

 4位には瑞穂(中島史敬氏)、5位にSilf-NS3(井藤功久氏)が入賞した。

 瑞穂は6輪マイクロマウス、一方のSilf-NS3は小型軽量の日本代表といった感のあるマイクロマウスで対照的な2台が上位に食い込んだのが興味深い。両マイクロマウスの探索走行と最速走行の動画を掲載する。Silf-NS3は4回目の走行で9秒387秒でゴールしたが惜しくもタイムアウトで参考記録になっている。Silfの公式記録は9秒944。


【動画】4位に入賞した瑞穂(中島史敬氏)の探索走行 【動画】瑞穂の3回目の走行。記録は8秒443。日本勢で唯一8秒台でゴールした

【動画】5位に入賞したSilf-NS3(井藤功久氏)の探索走行 【動画】Silf-NS3(井藤功久氏)の4回目の走行。9秒387の参考記録 Silf-NS3(井藤功久氏)

2009年の第30回大会に向けて新たなチャレンジが始まる

 マイクロマウス競技は、1980年の第1回大会以来、機体のレギュレーションに変更がなかった。競技会が始まった当時は、縦横25cmというロボットの規格は技術的なハードルが高かったが、今では電子部品が小さくなり入手も容易になった。この規格でマイクロマウスを作ることが、昔ほど困難ではないことは、掲載した車検のようすからも判る。

 そこでマイクロマウス委員会は、競技会の技術アップをはかるために、2009年度の第30回全日本マイクロマウス大会から、エキスパートクラスに関してこれまでの迷路を1/2にして競技を行なうと告知している。

 記事中でも紹介したようにすでにエキスパートクラスの予選に、1/2サイズのマイクロマウスで参加している人もいる。会場では、1/2サイズの迷路で株式会社アールティが1/2マイクロマウスキットのデモンストレーションを行なっており、参加者の注目を集めていた。予選に出場した2名以外にも、1/2サイズマイクロマウスの制作にとりかかっている人達はおり、参加者の反応とモチベーションは高い。

 夏に告知があって、すでに迷路を走らせている人達がいるというと、1/2サイズマイクロマウスへの移行は簡単なのか? と思ってしまうが、これはトップレベルの人たちだから実現できることだという。実際に1/2サイズマイクロマウスの基板を見ると、部品が小さく相当熟練していないとそもそもハンダ付けができないと思う。

 また、迷路の幅に対して機体のサイズが大きくなると、走行中の制御がシビアになるためプログラミングもより難しくなる。

 油田大会実行委員長は、「今までは、迷路が大きいために自宅でテスト走行することは難しかったが、1/2になれば、クオーターサイズの迷路ならコタツの上に置くことができる。将来的には、競技会で迷路の区画数を広げることも検討している。そうすると迷路探索のアルゴリズムも新しくなる可能性がある」と、1/2サイズ迷路導入のチャレンジ効果を語った。


URL
  ニューテクノロジー振興財団
  http://www.robomedia.org/main.html
  アールティ
  http://www.rt-net.jp/

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( 三月兎 )
2007/11/27 00:02

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