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第25回マイクロマウス東日本地区大会レポート
~2009年度からの新競技「1/2サイズマイクロマウス」(仮称)のお披露目も


 9月23日、東京都・科学技術館において、第25回マイクロマウス東日本地区大会が開催された。

 マイクロマウス競技とは、小型の自立型知能ロボット(マイクロマウスと呼ばれる)が、迷路のスタート地点から中央に設けられたゴールまでの最短経路を見つけ、走破するタイムを競う競技だ。マイクロマウス競技は、数あるロボット競技の中でも長い歴史を誇る競技であり、第1回の全日本マイクロマウス大会が開催されたのは、1980年のことである。

 現在、マイクロマウス大会は、全日本大会以外に全国8カ所で地区大会が行なわれており、東日本地区大会もその一つである。今回の東日本地区大会では、「マイクロマウス競技」「クォーターマウス競技」「支部サーキット競技」の3種類の競技が行なわれた。なお、東日本地区大会では、参加台数が多いため、コースAとコースBの2つの迷路を利用して、並行して競技が行なわれている(迷路の形状は両コースとも同じ)。


8×8の区画で行なわれる「クォーターマウス競技」

クォーターマウス競技の様子。持ち時間は5分で、その間に5回まで走行を行なえる
 最初に行なわれたのは、クォーターマウス競技である。マイクロマウス競技は、16×16区画の迷路で行なわれるが(1区画のサイズは18×18cm)、クォーターマウスは、縦横が半分の8×8区画で行なわれる(つまり面積は1/4になるので、クォーターマウスと呼ばれる)。正方形の角からスタートし、対角線上にある角がゴールとなる。クォーターマウスは、主に初心者を対象にした競技であり、比較的完走率が低かった。


好記録が続出した「マイクロマウス競技」

マイクロマウス競技で利用される迷路。マイクロマウス競技では、迷路の中央に2×2の空間があり、そこがゴールとなる
 次に行なわれたのが、メインとなるマイクロマウス競技だ。持ち時間は7分で、その間に5回まで走行が可能だ。こちらは、合計44台のマイクロマウスがエントリー。参加台数は38台で、完走は25台と、かなりの完走率であった。ちなみに、昨年行なわれた第24回マイクロマウス東日本地区大会では、参加台数が45台、完走23台だったので、完走率はかなり上がっている。マイクロマウス競技では、中央に2×2の空間があり、そこがゴールとなる。

 マイクロマウスは、1回目のトライで、迷路を探索しながら地図を作成し、最短経路を導き出す。2回目以降は、その最短経路を高速で駆け抜けることで、タイムを短縮するというのが、基本的な戦略だ。5回のトライで、一番早かったタイムが記録として残るため、最後のトライは、リスクを承知でフルスピードで挑む人も多い。

 今回のマイクロマウス競技で優勝したのは、井藤氏製作の「Silf-NS3」だ。Silf-NS3の1回目のトライと、ベスト記録を出した5回目のトライの動画を掲載したので、それを見てもらえればわかると思うが、1回目と5回目では走り方も全く異なる。1回目は、通路を曲がるときに、一旦停止してその場で向きを変えてから進んでいるが、5回目は、全く止まらずに滑らかに迷路を走り抜けている(なお、1回目はゴールしたあとも、迷路の地図を作成するために、別の経路で遠回りしながらスタート地点に戻っていることにも注目して欲しい)。こうした走行をスラローム走行と呼び、タイム短縮には必須だが、高速でのスラローム走行の実現には、高い技術が要求される。井藤氏は、マイクロマウス界の有名人であり、昨年の第24回マイクロマウス東日本地区大会でも優勝を果たしている。今回も5回のトライを全て完走するという抜群の安定性を誇り、6秒236という好記録で、地区大会二連覇を達成した。


【動画】優勝した井藤氏の「Silf-NS3」の1回目のトライ。ゴールするまでは、いったん停止して方向転換をしている。ゴール後、さらに迷路探索を続けているが、探索が終了後、スタート地点に戻る際には、高速なスラローム走行を行なっている 【動画】井藤氏の「Silf-NS3」の5回目のトライ。6秒236の最速タイムをたたき出している。あまりに速く、カメラが追い切れていないほどだ(筆者の腕が悪いせいだが)

 準優勝は、森永氏製作の「MF2007A」だ。森永氏は、ROBO-ONEの父として知られているが、二足歩行ロボットを始める前からマイクロマウス競技に参加しており、Webサイトに、マイクロマウス初心者講座を掲載するなど、マイクロマウス界においても偉大な存在だ。MF2007Aについても、1回目のトライと、ベスト記録を出した4回目のトライの動画を掲載する。MF2007Aは、1回目の迷路探索もスラローム走行で行なっている。MF2007Aのベスト記録は、8秒633である。


【動画】準優勝した森永氏の「MF2007A」の1回目のトライ。MF2007Aは、1回目の迷路探索もスラローム走行で行なうことが特徴だ 【動画】森永氏の「MF2007A」の4回目のトライ。タイムは8秒633

 3位は、法政大学電気研究会の沢辺氏製作の「去年のわさべマウス」だ。こちらもベスト記録は9秒916で、3位までが10秒を切るという、レベルの高い大会となった。ちなみに、昨年のマイクロマウス東日本地区大会では、優勝したSilf-NS3が7秒859で唯一10秒を切ったが、2位は13秒082、3位は15秒047であり、今回はかなりレベルが上がったといえるだろう。

 優勝した井藤氏のマウスは、軽量かつ低重心設計が特徴で、重量はわずか98gしかない。フレームはCFRPで、無駄をそぎ落としたレイアウトは、非常に美しい。マイクロマウスの駆動に使われるモーターは、ステッピングモーターとDCモーターに大別できる。前者は、パルス信号を与えることで、決められた角度単位(ステップ)で回転するモーターであり、制御が比較的簡単な反面、ある程度以上に速度を高めることは難しい。

 DCモーターは、マブチモーターなどに代表される普通のモーターで、回転速度が高速で、小型化もしやすいという利点があるが、制御の難易度は高い。そのため、マウスの入門者は、ステッピングモーターを使うことが多く、上級者はDCモーターを利用する人が多いという。全日本大会で上位を占めるマウスはほとんどがDCモーターを採用しており、今回優勝した井藤氏のマウスもDCモーターを使っている。

 それに対し、今回準優勝した森永氏は、ステッピングモーターの限界に挑戦すべく、あえてステッピングモーターを利用しているという。会場でも、「ステッピングモーターで、あの速さはすごい」という声が聞こえたほどだ。森永氏によれば、ステッピングモーターの限界に挑むという目標は今回で一応達成したので、今後は、DCモーターを採用した、さらに高速なマウスを作りたいとのことだ。


手前が森永氏の「MF2007A」。奥が井藤氏の「Silf-NS3」。ステッピングモーターを採用したMF2007Aに対し、Silf-NS3では、DCモーターを採用している。Silf-NS3は低重心設計が特徴で、高い完成度を誇る 準優勝の森永氏(左)と優勝の井藤氏(右)。ともにマイクロマウス界では知らない人がいないほどの有名人だ

シンプルだが奥が深い「支部サーキット競技」

 最後に、支部サーキット競技が行なわれた。支部サーキット競技は、マイクロマウスの迷路(16×16区画)の外周(といっても迷路の外側ではなく、迷路の中の最外周)を2周続けて回る速さを競う競技だ。マイクロマウスで好記録を出すためには、高速かつ正確な移動や方向転換が必要になる。支部サーキット競技は、そのエッセンスを凝縮した競技であり、マイクロマウス競技での上位者は、支部サーキット競技でも好成績をおさめている。

 今回の支部サーキット競技で優勝したのは、井藤氏のSilf-NS3だ。支部サーキット競技は、持ち時間3分で、その間に3回まで走行が可能である。Silf-NS3のベスト記録は9秒50で、マイクロマウス競技とあわせ見事2冠を達成した。

 準優勝は、米氏製作のMomoco07だ。Momoco07は、ファンによって負圧を発生させることで、高速な移動と方向転換を実現する吸引型マウスだ。実は森永氏から、井藤氏のマウスと米氏のマウスは別格なので、しっかりチェックしておくようにとアドバイスをいただいていたのだ。今回、Momoco07は、迷路探索の調子が悪かったようで、マイクロマウス競技は棄権していたが、支部サーキット競技での走りで、その能力の片鱗を伺うことができた。

 Momoco07は、1回目の走りでSlif-NS3のベスト記録に肉薄する9秒70を叩き出す。1回目の走りは、安全性にふった走りだったそうで、2回目は、さらにターン速度と加速度の設定を上げて挑戦。1周目はクリアしたものの、2周目の途中でクラッシュ。3回目は、2回目よりもさらにターン速度を上げて挑み、こちらも残念ながら2周目の途中でクラッシュしてしまったが、もしこの設定で走りきれれば、とんでもない記録を出していたと思われる。

 なお、Momoco07の1回目の走りは、動画を撮影できなかったので、3回目の走りの動画を掲載する。スタート前に、ファンの回転数が上がり、タービンのような甲高い音を出しているのが、よくわかるだろう。3位は、森永氏のMF2007Aである。MF2007AAは、ステッピングモーター採用マウスとしては、ほぼ限界と思われる速度で、2周回りきっていた。こちらも動画を掲載するが、長い直線の途中でぐっと加速し、曲がる前には速度を落としている様子がよくわかるだろう。


【動画】井藤氏の「Silf-NS3」は支部サーキット競技でも、ベスト記録9秒50を達成し、優勝を果たした 【動画】支部サーキット競技準優勝の米氏の「Momoco07」。これは3回目のトライで、2周目でクラッシュしてしまっているが、1回目の走りで9秒70を記録している 【動画】支部サーキット競技で3位となった森永氏の「MF2007A」

2009年度開始予定の「1/2サイズマイクロマウス」(仮称)が初公開

手前が1/2サイズマイクロマウスの迷路で、奥が通常のマイクロマウスの迷路。区画数はどちらも16×16だ
 マイクロマウス競技は、第1回の全日本大会が開催された1980年以来、基本的に同じレギュレーションに基づいて行なわれてきた。迷路の一区画のサイズは18×18cmで、マウスの大きさは縦横25cm以内(高さの制限はないが、底面から高さ5cmまでの部分は直径16cmの円内に収まるようにする必要がある)とされている。

 マイクロマウスが始まった頃は、この大きさでも、十分マイクロと呼べるサイズであり(過去にはさらにサイズが大きなマイクロキャット競技も行なわれていた)、技術的にもチャレンジしがいがある競技であったが、30年近く経過した今では、そのサイズに収めることへのハードルはかなり低くなっている。

 そこで、2009年度に行なわれる第30回全日本マイクロマウス大会では、従来の1/2サイズの迷路を利用した新競技が行なわれる予定だ。ここでは、仮にその競技を「1/2サイズマイクロマウス」と呼ぶが、1/2サイズマイクロマウスでは、迷路の一区画のサイズが9×9cmになり、マウスのサイズも従来の半分程度に収める必要がある。もし形状が変わらないとすれば、長さが半分になれば、体積は1/8になるわけで、技術的にもチャレンジングな競技となる。

 今回の東日本大会では、この1/2サイズマイクロマウス競技用の迷路が初めて公開されたほか、株式会社アールティとS.T.L.JAPAN、財団法人ニューテクロジー振興財団が現在開発中の1/2サイズマイクロマウスキットの試作機も公開された。この1/2サイズマイクロマウスキットは、2008年夏頃に発売予定の製品であり、まだ詳細な仕様は決定してないという。

 今回公開されたのはあくまで試作機であり、実際に発売される製品では仕様が異なる可能性もあるが、サイズは5×5×5cm程度で、バッテリとしてニッケル水素電池を利用する予定だという。実際に、試作機で支部サーキット競技のデモが行なわれた。残念ながら、今回は完走できなかったが、テストでは何度も完走に成功しているという。

 また、マイクロマウスの達人である井谷氏が、すでに1/2サイズマイクロマウスを完成させており、1/2サイズの迷路でテストを行なっていた。実際の迷路でテストするのは、この日が初めてとのことだが、迷路探索および最短経路でのゴールへの到達を何度か成功させ、ギャラリーを驚かせていた。

 なお、2009年度から1/2サイズの新競技が行なわれる予定だが、全てのクラスを一度に移行するかどうかは、まだ決まっていないという。マイクロマウス競技会を運営している財団法人ニューテクノロジー振興財団の田代氏によれば、まずは、上位クラス(エキスパートクラス)が1/2サイズになり、入門クラス(フレッシュマンクラス)は、しばらく現行サイズで行なわれる可能性が高いとのことだ。


アールティの1/2サイズマイクロマウスキットの試作機。上部にmicroSDカードスロットを搭載している(あくまで試作機なので、製品版が同じ仕様になるとは限らない) アールティの1/2サイズマイクロマウスキットは、手のひらにすっぽり収まるサイズだ。手前の下側に、壁を検出するための赤外線センサーと赤外線LEDが実装されている

RT_3.JPG
アールティの1/2サイズマイクロマウスキットに使われている小型DCモーターとギヤボックス
モーターの出力軸の反対側には、角度を検出するエンコーダが装着されている

井谷氏が製作した1/2サイズマイクロマウス。バッテリにはリチウムポリマーバッテリを採用 井谷氏の1/2サイズマイクロマウス。手のひらに載るサイズで、名実ともにマウスと呼べる大きさだ 井谷氏の1/2サイズマイクロマウスの基板。全て表面実装部品が使われており、コンパクトにまとまっている

左が1/2サイズマイクロマウス。右が通常サイズのマイクロマウス。どちらも井谷氏が製作したもので、基本設計はほぼ同じとのことだ 左がアールティの1/2サイズマイクロマウスキットの試作機。右が井谷氏が製作した1/2サイズマイクロマウス

【動画】アールティの1/2サイズマイクロマウスキットが、支部サーキット競技に挑戦しているところ。惜しくも3/4周あたりで、戻っていってしまった 【動画】井谷氏の1/2サイズマイクロマウスは、実際の迷路で走らせるのはその日が初めてとのことであったが、見事に迷路を探索し、ゴールに到達。2回目は最短経路でゴールに向かうことに成功している

URL
  財団法人ニューテクノロジー振興財団
  http://www.robomedia.org/main.html
  アールティ
  http://www.rt-net.jp/
  1/2サイズマイクロマウスキットのニュースリリース
  http://www.rt-net.jp/news2007/070923mouserelease.pdf


( 石井英男 )
2007/10/03 00:01

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