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JAXAシンポジウム「ロボットが拓く宇宙開発のNEXT STAGE」レポート

~若田光一氏らが宇宙ロボットのニーズについて講演

日本の英知を結集し、独自の宇宙ロボットの開発を!

【写真1】日本科学未来館において開催された宇宙ロボットのシンポジウム。300人収容の会場は立ち見がでるほどの盛況ぶりで、関心の高さがうかがわれた
 3月28日、東京江東区の日本科学未来館において、“ロボットが拓く宇宙開発のNEXT STAGE”~「宇宙一」のロボット王国ニッポンを目指して~をテーマにシンポジウムが開催された【写真1】。主催は独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)。

 このシンポジウムは二部構成となっていた。第一部は宇宙ロボットに関わるスペシャリストが登場し、最先端の宇宙ロボットについての取り組みを紹介した。また第二部ではパネルディスカッションが開かれた。ここでは第一部の内容と、本イベントで展示されていた宇宙ロボットなどについて報告する。

 第一部で、まず始めに登壇したのは、JAXA宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏【写真2】。小田氏は、2006年4月に発足した宇宙ロボット推進チームについて紹介。JAXAでは、2025年の長期ビジョンとして、「宇宙航空技術の利用による安全で豊かな国民生活の実現」「宇宙の中の解明と月利用に向けての準備」「日本独自の宇宙技術の獲得」「宇宙航空産業の振興」という4つの項目を挙げている【写真3】。このビジョンの実現に向けて、ロボット技術の側面から検討を加えるために発足したのが、宇宙ロボット推進チームである。このチームによって、JAXA全体で横断的な形でロボット研究を推進していこうとしている。

 小田氏は、長期ビジョンの実現に必要なロボット技術として、「衛星利用の高度化技術」「人が行けない遠方での宇宙探査利用」「人間とロボットの協働」という3点について解説した。詳細については、記者勉強会レポートを参照のこと。

 ロボットの利用シーンは、衛星の点検、燃料補給、大型衛星の軌道上での組み立て、自動化・自律化技術による宇宙探査、宇宙飛行士や宇宙ステーションでのサポートなど幅広い。このうち人工衛星や宇宙ステーションに使われるロボットや、探査用ローバは、かなりの技術レベルまで達しているという。しかし、3つの目のテーマとなる人間とロボットの協働については、まだ技術開発が進んでいない分野だという【写真4】。小田氏は「宇宙飛行士なみの作業ができるロボットが必要。今後はこの分野が技術競争の目玉になる部分で、産学官連携での開発が期待される」と語る。

 JAXAでは今後の宇宙開発ロボットを産学官連携で進めたいと考えている。今回のシンポジウムも、ロボット開発に携わる企業・大学・研究機関の関係者との技術交流を図る目的があったという。JAXAでは今年から宇宙ロボットフォーラムを年5回にわたり開催する予定だ。

 「宇宙ロボットというと難しいものだと考えがちだが、地上の技術と共通する部分がたくさんある」と小田氏は説明する。たとえば、真空環境では半導体製造工場で使われるロボット技術が利用できる。また、自動車に搭載される電子機器は振動があっても、しっかりと動いている【写真5】。小田氏は「このような日本中の英知を結集して、日本らしい独自の宇宙ロボットや宇宙開発を実現していきたい」と述べ、産学官からの宇宙ロボット開発の協力を要請した。


【写真2】AXA宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏 【写真3】JAXAが公開している2025年の長期ビジョンと、それに対する3つのロボット技術のテーマ

【写真4】「人間とロボットの協働」については、まだ技術開発が進んでいない分野。この分野が技術競争の目玉になる部分で、産学官連携での開発が期待されるところだという 【写真5】宇宙ロボットの技術には固有のものもあるが、地上の技術が利用できることも多いという

若田飛行士が語る、船外活動におけるロボットアーム操作

 次にJAXA宇宙飛行士の若田光一氏が「国際宇宙ステーションとロボティクス」をテーマに講演を行った【写真6】。若田飛行士は2度のスペースシャトル搭乗の経験を持ち、国際宇宙ステーション(International Space Station 以下、ISS)に3カ月の長期滞在が決定している(後述の記者インタビュー参照)。若田飛行士のロボット操作技術はNASAからも一目置かれているほどだという。若田飛行士は、現在の有人宇宙システムでどのようなロボットが利用されているかという点を中心に解説を行なった。

 スペースシャトルで利用されているカナダ製の6軸ロボットアームは「SRMS」(Space shuttle Remote Manipulator System)と呼ばれるもの。アームの基部はシャトルの貨物室に固定されている【写真7】。現在、このアームには機体の探傷検査用システムとして、OBSS(Orbiter Boom Senser System)が取り付けられている。これはコロンビア事故の後、スペースシャトルの熱防護システムとして付けられたもの。OBSSに搭載されたレーザーによって、傷を検出していく【写真8】。

 若田飛行士は、1996年1月に参加したフライトでのロボットアーム作業についてスライドで紹介した【写真9】。ワークステーションには並進操縦桿、回転操縦桿、操作パネルなどが並んでいるが、直接目視に加え、テレビカメラから送られる映像をモニタで見ながらロボットアームを操作する。無重力状態のため体を固定する足場もある。


【写真6】JAXA宇宙飛行士の若田光一氏。宇宙ロボット操作の第一人者。来年には国際宇宙ステーションに3カ月の長期滞在が決定している 【写真7】スペースシャトルで利用されているカナダ製6軸ロボットアーム「SRMS」。アームの基部はシャトルの貨物室に固定されている

【写真8】現在、SRMSの先端には、機体の探傷を検査するシステム「OBSS」がつけられている。コロンビア事故の教訓を生かしたもの 【写真9】1996年1月に若田飛行士が参加したフライトでのロボットアーム作業の模様。写真はSRMSのワークステーション

 宇宙ステーションの組み立てにとって、スペースシャトルのロボットアームは必要不可欠なもの。若田飛行士はスペースシャトルのロボットアーム・SRMSによって、人口衛星(SFU OAST Flyer)を回収した際の映像も披露した【動画1】。

 ロボットアームで作業する場合には、カメラや目視で取り付け部分がよく見えないため、位置決めが大変難しい。そのため、宇宙視覚装置(Space Vision System)を利用。コンピュータによって画像を解析し、姿勢誤差や位置誤差を確認しながらロボットアームを操縦していく【写真10】【動画2】。

 また宇宙ステーションに取り付けられたカメラの台数も限られているため、コンピュータ画像による鳥瞰図を表示させて、カメラでは見えない部分を目視しながら操縦することになる【写真11】。


【動画】若田飛行士がスペースシャトルのロボットアーム・SRMSで回収した人口衛星。ロボットアームの先端にカメラがついており、その画像を見ながら作業を行なった 【写真10】コンピュータによって画像を解析し、姿勢・関節・誘導などを確認しながらロボットアームを操縦

【動画2】】SRMSによる宇宙ステーションの取り付け。コンピュータによって画像を解析し、姿勢誤差や位置誤差を確認しながらロボットアームを操縦 【写真11】コンピュータ画像による鳥瞰図。カメラの台数が限られているため、これを利用してアーム全体の状況と周囲の構造物との位置を確認する

 さて、いま完成に向け着々と準備が進められているISSについてだが、こちらは現時点(2006年12月現在)で、重量が200tを超えているそうだ【写真12】。ISSの組み立てに、ロボットアームが大きな役割を担っている。2007年12月から、このISSにロボットアームで日本実験棟「きぼう」を取り付けていく予定だ【写真13】。きぼうの組み立てには3つのステージがあり、第一段階として土井隆雄飛行士が船内保管室を、第二段階で星出彰彦飛行士が船内実験室を組み立てることになっている。その後、若田飛行士がスペースシャトルに3カ月ほど滞在し、船外実験プラットフォームの取り付けを行なう。この期間にプラットフォームの結合機構やロボットアームの機能検査など、準備を整えておくそうだ。


【写真12】国際宇宙ステーションの完成図(上)と、現在の組み立て状況(下)。完成時には110×80×42m、重量400tの巨大建造物となる。現在半分ぐらいまで組み立てが進行中 【写真13】日本実験棟「きぼう」。船内保管室、船内実験室、船外実験プラットフォームで構成。ここでロボットアームが利用される

 今回のISSでは、カナダのほか、日本、ヨーロッパ製のロボットアームが使われる。ヨーロッパのロボットアームは船外活動をしながら操作できる点が特徴。また、きぼうの船内保管室と船内実験室をISSに取り付ける際には、カナダ製のロボットアームが使用される予定だ。日本ではISSにさまざまな物資を輸送する宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle:HTV)も開発しているが、この取り付けもカナダのロボットアームが利用される。日本のロボットアームについては、実験装置類の交換に使われる予定だ。

 すでにISSに取り付けられているカナダ製のロボットアームは「SSRMS」(Space Station Remote Manipulator System)と呼ばれるもの。さらにSSRMSの先端には双腕のSPDM(Special Purpose Dexterous Manipulator System)が取り付けられる。またアームの基部には「MSS」(Mobile Servicing System)+「MT」(Mobile Transporter)があり、これにより基部が尺取虫のように宇宙ステーション上を移動できる【写真14】。このロボットアームはISSの米国実験棟にあるMSS Robotics Workstationから操縦される【写真15】。


【写真14】カナダ製のロボットアームは「SSRMS」、SSRMSの先端には双腕の「SPDM」、ベース部となる「MSS」(Mobile Servicing System)+「MT」。ベース部は可動する 【写真15】ロボットアームはISSの米国実験棟にあるMSS Robotics Workstation。これでカナダのロボットアームの操縦をする

 一方、これから、きぼうに搭載される予定のロボットアームは2種類【写真16】。船内実験室には親アームがついている。あとからスペースシャトルで子アームを持っていき、親アームに取り付けて、細かい作業を可能にする形だ。子アームには力やモーメントを検出するセンサがあり、宇宙ステーションの構造体に無駄な力を与えないように加減しながら操縦できる工夫も凝されている【写真17】。子アームは、10年前から実証試験をしてきた実績がある。若田飛行士は、「日本のロボットアームは宇宙ステーションで実運用する前に、しっかりと機能確認についての検証手順を踏んでいる」と語る。

 アームの操作を訓練するために、Virtul Reality Labという設備も用意されている【写真18】。ここでVR技術を使って船外活動をする宇宙飛行士との共同訓練などを行なっているという。ロボットアームのほとんどの訓練はCGを利用してシミュレーションをしているが、実際のカメラ映像が重要となる作業では、実寸大でのシミュレータを使っているという。


【写真16】きぼうに搭載される予定のロボットアーム。親アームと子アームから構成される。子アームは第二段階で星出彰彦飛行士が持って行くことになっている 【写真17】子アームの構造。子アームは、10年前から実証試験をしてきた実績がある。力やモーメントを検出するセンサがあり、宇宙ステーションの構造体に無駄な力を与えないように加減しながら操縦できる 【写真18】アーム操作の訓練設備「Virtul Reality Lab」。ここでVR技術を使って船外活動をする宇宙飛行士との共同訓練などを行っている

 宇宙ステーションのロボットアームは独特なスキルが要求される。さらに現在、宇宙ステーションには3人の飛行士しか滞在していない。訓練の効率化が求められるため、ヒューマンマシンインターフェイスを共通化しているそうだ。

 飛行士の操作の誤りをなくすために、ワークステーションのデザイン、パネル、ディスプレイ、操縦桿などが同じように設計されている。また運用に関しては、マニュアルのフォーマット、単位、使用言語などを共通化する取り組みがなされている。

 もと地上のパイロットでもある若田宇宙飛行士は、「いま使われている有人宇宙ロボットは、かなり航空機の操縦系に近い。運用的にも共通する点も多い」と実感しているという。ただし、現在の宇宙ロボットでは必ず視覚映像がなければ運用できない。アームを動かす際には、船体に接触しないようにモニタリングする点が異なるという。

 今後の有人宇宙ロボティクスで期待される技術は、地上からの遠隔操作自動化によって、宇宙飛行士のワークロードを軽減できるようなシステムである。若田氏は現在NASAで開発中の2つのユニークなロボットについて紹介した。いずれもNASAのジョンソン宇宙センターで開発されているものだという。1つは浮遊型カメラロボット「mini-AERCam」【写真19】。宇宙ステーションの外観検査などに応用できる。もう1つは「Robonaut」と呼ばれるロボット【写真20】。現存する船外活動用の手すりや固定足場を使って、飛行士の支援が行なえるもの。

 最後に若田氏は、有人宇宙ロボティクスについて、次のような自身の哲学を語り、講演を締めた。「人間が介在をするシステムでは、システム運用における安全の最終決定権は人間になければいけない。それ以外は支援できるシステムによって、ロボティクス化していく必要があるだろう」。


【写真19】NASAのジョンソン宇宙センターで開発されている浮遊型カメラロボット「mini-AERCam」 【写真20】NASAのジョンソン宇宙センターで開発中の宇宙ロボット「Robonaut」。人間のような上半身

月面基地の建設に向け、ロボットが担う役割とは?

【写真21】清水建設 技術研究所 宇宙・ロボット技術グループ長の吉田哲二氏
 清水建設の吉田哲二氏は、「月面基地構想とロボティクス」を材題に、月で暮らすための計画や技術などを説明した【写真21】。

 月面の砂は隕石が衝突して砕けたもので、とがった形状をしている。清水建設では20年前から月利用の研究をしており、月面と同様の砂を作ったり、月面での居住を視野にさまざまな取り組みを試みてきた。吉田氏は、月に有人施設を構築するためには「有人探査と無人探査のバランスが重要だ」という。うまくいけば安全かつ低コストで施設を作れるが、失敗すれば、まるで使えない物ができてしまうというリスクもあるからだ。

 さらに吉田氏は、月で暮らすために想定される月面基地発展のシナリオ、配置計画、構造形式、建設方法、居住環境などについて、いくつかの要素を挙げて説明した。基地のシナリオは、まず無人探査を実施して前哨基地を作り、人が住めるような環境を構築することによって、初期段階へと移っていく。これが2020年ぐらいまでのシナリオだ。次フェーズでは本格的な拡張期となり、月面建設や月資源の利用、エネルギー生産などが始まり、最終的に自給自足までサポートするという流れである【写真22】。

 月面基地を作る際には、さまざまなインフラを配置していく必要がある【写真23】。特に問題となるものは、居住に際する生命維持関連のインフラ。酸素の補給や電気などのエネルギーの装置だ。研究施設の配置も、埃がたつような移動が激しい場所を避ける必要がある。月面環境を考慮をした配置が肝要だという。このような配置計画が終わったら、具体的な基地の構造形式も選択しなければならない。

 基地の構造形式としては、モジュール、インフレータブル、コンクリートモジュールといった方法がある。モジュール構造は拠点となる初期段階での建造物に適している。個々のモジュールを搬送し、それぞれを連結して利用する。またインフレータブル方式は、仮設構造物に適している。風船のように内圧をかけて大きくするもので、搬送時の利便性に優れるというメリットがある【写真24】。コンクリートモジュール構造は、清水建設が研究しているもの。月資源を利用してコンクリートを作り、引張材とともに使う【写真25】。ただし、この利用はまだずっと先の話だという。ほかにも自然地形やブロックの利用も考えられるという。


【写真22】吉田氏が考える月面基地の発展シナリオ。赤い曲線はエネルギーなどの推移 【写真23】機能分析からの基地の配置計画。たとえば居住では、食料管理、環境制御、生命維持、健康管理、生活管理ができるような場所に配置する必要がある

【写真24】基地の構造形式その1。膜材を使って圧力で膨らますインフレータブル方式 【写真25】基地の構造形式その2。月資源を利用してコンクリートを作り、引張材とともに使うコンクリートモジュール構造など

 具体的な建設方法に関して、吉田氏は「地球と同じようなスタイルを適用できるのではないか」と考えている。とはいえ、月特有の環境も考えなければならない。たとえば、月表土(レゴリス)、ダストなどが作業に大きく影響するからだ。「月面は40億年もの歳月の間、何も手がつけられていない土地。埃だらけで、水も使えない」。当然のことながら、居住施設においては生命を維持するために、酸素、水、食料などが必要だ。リサイクルできるような「閉鎖生態系」を基地でクローズしなければならない。このような点をどのようにクリアしていくのかという課題は残っている。

 次に吉田氏は、現在各国で進められている月計画について紹介した。JAXAでは、2007年夏に月周回衛星「SELENE」を打ち上げる予定だ【写真26】。2013年にはSELENE-2を打ち上げ、月面に着陸する計画もある。米国では月周回衛星のほか、2008年には月面へのハードランディングも行なう。中国では2007年下期に国家航天局が嫦蛾(じょうが)1号の打ち上げを試みる。インドでも2008年に同様の計画があり、ここ数年で各国で月計画のラッシュが始まる。このような中で、無人探査、有人輸送、EVA(船外活動)支援、月面拠点建設など、ロボットが活躍できるシーンも多くなってくる。

 吉田氏は、月面ロボットの種類とタスクの関係について示した。「人が行けない場所で、危険を伴う作業をするために、土木建設、搬送、掘削などの作業用機械もロボット的な機能を備えてくるだろう」という【写真27】。これらのロボットの課題は、たとえば重力が小さいので掘削などの作業が進まないこと。また最も大事なポイントは地上試験にあるという【写真28】。「実際に地上で何回も検証し、本当に使えるか確認することが一番大変だ」と語る。いくら地球でうまくいっても月では使えないことも考えられるからだ。

 月面拠点の建設は「きつい」「汚い」「危険」が伴う、いわゆる3K現場。ロボットに作業を分担させ、宇宙飛行士の仕事を軽減するために、「作業要求に基づく明確な作業計画を立て、地上で十分に準備・試験して、より改良されたロボットを開発していく、というループをうまく回していくことが必要だ」と説いた【写真29】。


【写真26】2007年夏に打ち上げられる予定の月周回衛星「SELENE」。2013年にはSELENE-2を打ち上げ、月面に着陸する計画も 【写真27】月面ロボットの種類とタスクの関係。土木建設、搬送、掘削などの作業用機械もロボット的な機能を備えてくると予測

【写真28】月面ロボット技術の分類。最も大事なポイントは地上試験技術にあるという 【写真29】月面拠点の建設は3K現場。宇宙飛行士の仕事を軽減するために必要なこと。要求に基づく明確な作業計画、地上での準備・試験して、改良ロボットの開発、有人/無人のに運用計画、というループをうまく回す

小粒で賢いロボットの開発を進め、宇宙を拓く探査ロボットを実現

【写真30】JAXA宇宙科学研究本部 宇宙探査工学研究系 助教授 久保田 孝氏
 第一部の最後に、JAXA宇宙科学研究本部の久保田 孝氏が登場し、現在開発を進めている小惑星探査用のマイクロロボットについて紹介した【写真30】。

 まず久保田氏は、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載した小型ロボット「MINERVA」を例に説明した【写真31】【写真32】【動画3】。このロボットは重量が591g、大きさ直径120×100mmと小型軽量な特徴に加え、低消費電力というメリットを持つ。わずか数Wの電力で、移動・制御・通信など、すべての機能をサポートできる。MINERVAの動作原理は、機体に内蔵されたフライホイールをDCモータで回転させ、反力を利用してホッピングさせる仕組みだ。

 「今後も、MINERVAのような小さくて賢いロボットを開発していきたい。1kg級のマイクロロボット分野は日本が得意とするところ。ぜひ、このようなロボットを発展させて、低コストでハイリターンのミッションを成功させたい」と久保田氏は意欲を燃やす。さらにシングルポイントの探査だけでなく、昆虫のようなロボットをばら撒いて惑星全体を調べるネットワーク型探査ロボットも検討中だ。

 JAXAでは、このほかにも車輪型、脚型、地中探査などさまざまなマイクロローバを試作している【写真33】。センサによって地形を認識しながら岩を避けたり、現場の状況を判断して移動するような自律型ロボットなどがそれに当たる。また人間の手の役割を持つサンプル採取用ロボットも試作【写真34】【動画4】。太陽光と影情報を利用し、物体の大きさや位置を計測してサンプルを取る実験も行っている。久保田氏は、「まずはこのような小粒で賢いロボットの開発を進め、宇宙を拓く探査ロボットを実現したい」と述べ、今後のマイクロロボットのロードマップを示した【写真35】。


【写真31】小惑星探査機「はやぶさ」に搭載した小型ロボット「MINERVA」。重量591g、大きさは直径120×100mmと小型軽量で、3Wの低消費電力 【写真32】MINERVAが実際にはやぶさで撮影した画像 【動画3】MINERVAのホッピング実験。機体に内蔵されたフライホイールをDCモータで回転させ、反力を利用してホッピングさせる仕組み

【写真33】車輪型、脚型、地中探査などさまざまなマイクロローバ試作機。マイクロローバの試作機は現在5号機まで進化 【写真34】サンプル採取用ロボットの試作機。太陽光と影情報を利用し、物体の大きさや位置を計測してサンプルを取る実験も行なっている

【動画4】サンプル採取用ロボット。影情報を利用し、物体の大きさや位置を計測してサンプルを取る実験 【写真35】MINERVAのロードマップ。最終的に多数のマイクロロボットをばら撒いて、広範囲の探査を協調させるようなネットワーク型に進化

ユニークな宇宙ロボットの試作機も展示

 本イベントでは、講演で紹介された宇宙ロボットの展示も行なわれていた。

 JAXAでは、宇宙ロボットの開発を念頭に置いた宇宙ロボット競技会を来年から実施する予定だ。この競技会用ローバのプラットフォームとなる試作機が2点ほど展示されていた。

 試作機には4輪駆動タイプ【写真36】とクローラタイプ【写真37】があり、カメラ×2台を搭載。駆動部にはタミヤ製のキットが転用され、位置決め用エンコーダも取り付けてある。

 基板類は、画像処理やモータ制御を行なうコントローラ(CPUはSH-4を使用)、ドライバー部などに分かれている【写真38】。

 操作はPCから無線LAN経由で行なう。この操作部のインターフェイスも開発し、ゲームパッドを利用して簡単に操作できるという【写真39】【写真40】【動画5】。


【写真36】宇宙ロボット競技会用ローバのプラットフォーム(試作機)その1。4輪駆動タイプ 【写真37】宇宙ロボット競技会用ローバのプラットフォーム(試作機)その2。クローラタイプ 【写真38】基板類。画像処理やモータ制御を行なうコントローラ(CPUはSH-4を使用)、ドライバー部などに分かれている。通信は無線LANで行なう

【写真39】懇親会場に設置されていた競技会用ローバのコントロール部。ノートPCに接続したゲームパッドで操作。横に置いてあるBAFFALOの無線LANルータによってコマンドを飛ばす 【写真40】操作部のインターフェイス拡大。クルマのダッシュボードライク。実際の速度は表示の10分の1だという 【動画5】宇宙ロボット競技会用ローバ試作機のデモンストレーション。操作は別室の会場から行なっていた

 宇宙ロボット推進チームの小田事務局長は「競技会の参加者がゼロからロボットを作るのは大変。そこで標準機のようなものを用意した。これをベースに大いに改良して競技に参加してもらいたい」と語る。

 また、JAXAのISAS(宇宙科学研究本部)と明治大学、中央大学で共同開発したマイクロローバも展示されていた。こちらは、すでに5号機まで進化しているが、すべての地上試験を想定した6号機が夏ごろまでに完成する予定だという。

 1号機【写真41】は5輪駆動で高い走破性能を実現した。2号機はマニピュレータを搭載。3号機ではCCDカメラを搭載し、ナビゲーションの実験をしたという。4号機【写真42】はさらに進化し、高度なナビゲーションができるようになった。そして5号機【写真43】はマニピュレータの性能を高め、ハンドリングの実験を中心に行なったという。

 5号機のアーム部には超音波モータが用いられている【写真44】【動画6】。普段アーム部は必要なとき以外は停止していることが多い。固定位置でホールディングさせているため、トルク電流を食う。そのため停止時の効率を考えて、超音波モータを採用したという。

 開発で特に苦労した点は「ローバは誰も行ったことのない不整地を走らなければならないので、走行メカニズムが一番最初に重要になる点。できるだけ軽くてシンプルな機構で、筐体にくらべてパワーがあるものが必要」(明治大学 理工学部機械工学科 助教授 黒田洋司氏)。車輪にもボルトやフィンを付けて工夫を凝らしている【写真45】。


【写真41】マイクロローバ1号機。5輪駆動で高い走破性能を実現 【写真42】マイクロローバ4号機。CCDカメラを搭載し、ナビゲーション機能を検証 【写真43】マイクロローバ5号機。さらに進化し、高度なナビゲーションができるようになった

【写真44】マイクロローバ5号機のアーム部のアクチュェータ。超音波モータが用いられている 【写真45】マイクロローバ5号機の車輪部。フィンを付けて走破性能を高めている

 また軸受けも防塵対策を施している。これまで岩石や砂地などで実験を繰り返してきたが、再現性のないデータがでたりして、苦労を重ねてきた。しかし、一連の研究でメカニズムの良好な性能が確かめられたという。現在は自律型走行に向け、自己位置同定のためにビジュアルトラッキングをして、画像処理で地形マップを作りながら走行させる研究などを進めているようだ。

 このほか、宇宙先進技術研究グループの西田信一郎氏が開発している「ライトクローラ」【写真46】も展示されていた。こちらは浜松の砂丘で実験が行なわれており、クローラ部に金属を使いながらもメッシュ形状を採用することで軽量化を実現。現在、最新モデルを開発中だ。

 ユニークだったのは、前述の小型探査ロボット「MINERVA」【写真47】と多脚型探査ロボット【写真48】。MINERVAは前述のとおり。後者は転倒の概念のない新しいタイプの歩行ロボットだ。本体は多面体になっており、転んでも回転しながら移動できる。歩行する場合は6脚のうち4脚を利用する。また、残りの非支持脚を利用して、マニピュレーション作業も可能だ。


【写真46】宇宙先進技術研究グループの西田信一郎氏が開発している「ライトクローラ」。クローラ部に金属を使いながらもメッシュ形状を採用 【動画6】マイクロローバ5号機のデモンストレーション。若田飛行士が操作した

【写真47】小型探査ロボット・MINERVAのモックアップ。見た目は思った以上に小さく感じる 【写真48】転倒の概念のない多脚型探査ロボット。本体は多面体になっており、転んでも回転しながら移動できるという

きぼうのロボットアームは安全性を十分に配慮~若田飛行士の記者インタビュー

【写真49】JAXAの若田光一宇宙飛行士。展示ブースにて写真撮影
 今回、シンポジウムと同時に、ロボットフォーラム設立の発表会と、若田飛行士の記者インタビューも実施された。これらの会見で寄せられた、ロボットとISSに関する一問一答を紹介する【写真49】。

------いままでの有人宇宙活動の経験をもとに、何か無人探査の開発へフィードバックされた技術はありますか?

 「いままで有人宇宙活動と無人探査の共同的な取り組みはあまりなかった。これは日本だけのことでなく、NASA、ヨーロッパを含めて接点がなかったと思う。宇宙には有人も無人もなく、その目的の1つは宇宙の探査・開発・利用である。それに向かって現存の技術や、コスト、安全性を考えて、有人/無人技術を選択していくべきだと思う。今後そのあたりのことは一緒にやっていく必要があると考えている」

------きぼうのロボットアームに関しての技術的なフィードバックはありましたか?

 「きぼうの実験棟に関しては、さまざまな開発に携わる機会があった。ロボットアームでも過去10年以上にわたり、関係メーカーやJAXA(当時はNASAD)とともに仕事をしてきた。きぼうのロボットアームの操作ワークステーションについて、スイッチの場所やロボットアームを操縦するための座標系など、飛行で得た経験をフィードバックして、開発に反映していただいた」

------きぼうに取り付けられるロボットアームの優れている点はどこでしょう?

 「まず安全対策の考え方がかなリ盛り込まれていること。宇宙ステーションは衝突を許容しない構造になっているため、アームを操作する際には視覚情報をもとに目視で確認しなければならない。万が一、宇宙飛行士が構造に接触する方向にアームを動かしたとしても、自動的にコンピュータが感知してアームを停止させる機能がある。これはカナダのロボットアームにはない機能。スペースシャトルに取り付けられているアームよりも、かなり進化したものになっていると思う」


------船外実験プラットフォームの取り付けに関して、ハンドリング技術の難しさ、求められる技術について教えてください。

 「今回はカナダのロボットアームを使って船外実験プラットフォームを取り付ける予定だが、日本のロボットアームを使って取り付ける可能性もある。そのため、いろいろなアームを操作できる能力が必要になってくる。特にハンドリングで難しいことはないと思うが、ロボットアームを操縦する飛行士に対して、船外活動する宇宙飛行士が位置決めの指示を出すことになる。私が船外活動をするのか、あるいはロボットアームを操作するのか未定だが、いずれにしても実験プラットフォームの取り付けが確実に実施できるようにしたい」

------今回のISS長期滞在について、どのように感じられているか?

 「長期滞在については日本人初ということもあり、各所から注目されて大変うれしく思っている。土井氏、星出氏、私の3人の日本人宇宙飛行士が1年間に宇宙に飛び立つことはいままでになかったこと。いよいよIISで日本人飛行士が活躍できる時代になった。長期滞在、恒久的な実験施設を有するための本格的イベントは、日本の有人宇宙技術をさらに高いレベルに押し進める重要なステップだ。任務をまっとうできるように尽力したい」

------長期間滞在において難しい点は?

 「スペースシャトルの場合は、米国の訓練で済んだが、ISSは国際宇宙ステーションということもあって、世界各国の協力で進めている。そのため各国の宇宙飛行士や飛行管制官に対して、信頼を勝ち得えなければならない。ヒューストン、筑波、ドイツ、ロシアなどの管制官と仕事をしていくため、コミュニケーションが重要。これまで以上に大変な作業になると考えている。長期滞在の飛行士候補はさまざまなリーダシップ、フォロアーシップなど、チームワークを高め、ミッションを遂行する際に必要な訓練が行なわれている。リーダーを交代しながら登山訓練をしたり、海底基地でのコマンダーシップの経験などの訓練も効果が出ていると思う」


URL
  JAXA
  http://www.jaxa.jp/
  清水建設技術研究所
  http://www.shimz.co.jp/corporate_information/sit/

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宇宙ロボット開発現場に迫る
~JAXA、記者向け勉強会を開催(2007/03/22)



( 井上猛雄 )
2007/03/30 21:35

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