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宇宙ロボット開発現場に迫る
~JAXA、記者向け勉強会を開催


宇宙ロボットで、高度な衛星利用、宇宙探査、人間との協働を実現

【写真1】第一部勉強会の模様。左から宇宙科学研究本部の久保田 孝氏、宇宙先進技術研究グループの西田 信一郎氏、宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏、ノンフィクション作家の中野 不二男氏、司会進行の内富素子氏
 宇宙航空研究開発機構は3月20日、「“宇宙一”のロボット王国への挑戦」と「2007年セレーネの旅 月へのいざない」をテーマに記者勉強会を開催した【写真1】。これは、宇宙開発の中でも特に関心の高い「宇宙活動と日本のロボット技術」および「日本の月探査計画」にフォーカスしたもの。主催は宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)。

 第一部では、インサイドストーリーとして、宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏らが説明を行なった【写真2】。

 JAXAでは2006年4月に、宇宙ロボット研究開発の戦略を検討する「宇宙ロボット推進チーム」を立ち上げた。これまでJAXA内ではさまざまな部署がロボット研究を行なってきたが、JAXA全体のロボット開発を横断的にまたがって、統一的な形で推進していくために本チームが発足されたという。いよいよJAXAも宇宙用ロボットの開発に本腰を入れ始めたのだ。

 宇宙ロボットと、ひと口に言っても多種多様なものがある【写真3】。小田氏は、まず宇宙ロボットを「場所」と「人間の介在」によって分類して説明した。場所で分類すると、宇宙船(宇宙ステーション)内外で活躍するもの、宇宙空間を飛行するもの、月・惑星表面(地中)を探査するものに分けられる。一方、人間の介在による分類では、宇宙飛行士によるオペレーション、地上からの遠隔操作、自律的操作に分けられる。


【写真2】宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏。総合技術研究本部宇宙先進技術研究グループ主幹研究員、東京工業大学大学院 理工学研究科 機械宇宙システム専攻 連携教授なども務める 【写真3】さまざまな宇宙用ロボット。惑星探査ロボットや宇宙飛行士支援ロボット、軌道上の組み立てロボットなどがある。左から現実化されているもの、あるいは現実に近いにものになる

 小田氏は宇宙ロボットの具体的な例として、軌道上で稼働するロボットと、惑星を探査するロボットについて紹介した。軌道上のロボットの例には、ドイツ航空宇宙研究所(DLR)が開発した与圧船内ロボット「ROTEX」(Robot Technology Experiment)がある【写真4】。1993年に、スペースシャトル上でこのロボットを利用した実験が行なわれた。約1mのロボットアームを取り付け、カメラの映像を見ながら宇宙飛行士や地上オペレータが遠隔でアームを操作したという。

 また宇宙ステーションに取り付けるロボットアームとしては、「SSRMS」(Space Station Remote Manipulator System)/「SPDM」(Special Purpous Dexterous Manipulator)や「JEMRMS」(Japanese Experiment Module Remote Manipulator System)などがある。前者はカナダが開発したもので、ロボットアーム・SSRMSの先端に双腕のSPDMを組み合わせて使用する。一方、後者は国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」に取り付けられるロボットアームだ【写真5】。長さ約10mの巨大な親アームと約2mの子アームで構成され、親アームの先に子アームが取り付けられる形だ。親アームは折りたたまれた状態で実験棟に設置される。また子アームにはカメラやトルクセンサなどを搭載。


【写真4】宇宙用ロボットの実例その1。ドイツ航空宇宙研究所が開発した与圧船内ロボット「ROTEX」。1993年にスペースシャトル上で実験が行なわれた 【写真5】宇宙用ロボットの実例その2。JAXAが開発を進める「JEMRMS」。国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」に取り付けられるロボットアームだ

 月惑星探査ローバは、月面に着陸した「Lunoknod」(ソビエト)と「LRV」(NASA)、火星に着陸した「Sojourner」(NASA/JPL)と「MER」(NASA/JPL)が代表的なもの【写真6】。このほかフォボスに向かって音信不通になった「PROP-F」(ソビエト)や、イトカワにおいて実験を試みたが不運にも着陸できなかった「MINERVA」(JAXA、詳細は後述)も紹介された。

 小田氏は、JAXAが公開している2025年の長期ビジョンを実現するために、今後必要とされるの宇宙ロボット技術として、「衛星利用技術の高度化」、「人間が行けない遠方での宇宙探査」、「人間とロボットの協働」という3点を挙げた【写真7】。


【写真6】宇宙用ロボットの実例その3。代表的な月探査ローバには「Lunoknod」と「LRV」がある。また火星探査ローバには「Sojourner」と「MER」がある。このほかにも「PROP-F」や「MINERVA」なども開発されている 【写真7】JAXAの長期ビジョンを実現するために必要とされる宇宙ロボット技術の1つとして、「衛星利用技術の高度化」が挙げられる。在来衛星の点検、軌道保守や大型の構造物の組み立てなど、ロボットが活躍できる場は多い

 衛星利用技術の高度化では、衛星の点検、燃料補給、大型衛星の軌道上組み立てなどのタスクが考えられる。たとえば、いま衛星は使い捨てと同じような状況だ。そこで、故障したり、燃料がなくなった場合に、それをサポートするものとしてロボットを利用しようというアイデアだ。

 あるいは、数十トン以上の大型衛星や大型構造物を構築する場合に、軌道上でロボットに組み立て作業をさせるシーンも考えられる。静止軌道上の地球観測衛星で常時観測するためには、十数m以上の望遠鏡の直径が必要だ。また、原子力発電所1基分ぐらいのエネルギー(1GW)を太陽発電で作りだし、月面や地球にエネルギーを伝送するためには、衛星に数km四方の反射鏡を取り付ける必要がある。このような巨大構造物を短期間で構築するためにロボットが大いに役に立つ。

 人間が行けない遠方の宇宙探査でも、ロボットの自動化や自律化技術が求められる。また今後、宇宙飛行士が宇宙ステーションや月面拠点で活躍する際には、ロボットとともに働くことも想定されるだろう。宇宙ロボット推進チームでは、このような長期的なミッションに備えるために、宇宙ロボットの技術を更に進展させたいという認識だ。


浜松の砂丘で月面探査ロボットの実験も

 次に宇宙先進技術研究グループの西田信一郎氏が、宇宙ロボットの役割や月面探査ロボットについて解説した【写真8】。西田氏はロボットの活躍の場を、前述のような月・惑星での探査や調査、宇宙での大型衛星などの組み立て作業、有人宇宙活動のサポートのほかに、衛星の残骸などの宇宙ゴミ(スペースデブリ)を回収する作業も含めて、4つに分類した【写真9】。

 月面探査ロボットでは、特に凹凸のあるリゴリス(砂地)上や山岳地帯をどうやって走破していくかという課題がある。西田氏は、探査ロボットの一例として、開発中の「ライトクローラ」を紹介【写真10】。地上のレスキューロボットでは、ゴム製クローラ(キャタピラ)を利用したロボットが大半を占めているが、宇宙ではゴムが使えない。真空中だとアウトガスが出て、ボロボロになってしまうからだ。そのため、すべての材料に金属を使いながらも軽量化するために、メッシュ状のキャタピラを採用。各種サスペンション機能に組み込んで、走破性能を向上させたという【写真11】。ライトクローラの重量は50kgから80kgぐらいで(月面では重力の関係で約6分の1になる)、接地圧をなるべく小さくし、機体がもぐらないように工夫している。

 また駆動系には一般的なDCブラシレスモータとハーモニックドライブギアを採用。月面の砂が入り込まないように特殊なシール材も開発したという。スタートラッカーで視野の中で星を3つ以上見つけて、どの位置を向いているかを検出するため、斜面を走行する際の横滑りなども判断できる。2006年9月には、浜松市の中田島砂丘において走行ロボットの試験を実施した【写真12】。現在このロボットの改良機をつくっているところだ。新モデルはクローラが折り畳める省スペース構造になるという。


【写真8】総合技術研究本部 宇宙先進技術研究グループ 主幹研究員の西田 信一郎氏 【写真9】西田氏が考える宇宙ロボットの活用法。「探る」「造る」「支える」といった活用のほか、「捕らえる」という項目も。これは衛星の残骸などの宇宙ゴミを回収する作業 【写真10】JAXAで開発している「ライトクローラ」。接地圧をなるべく小さくし、機体がもぐらないように工夫している。スタートラッカーで自己位置を検出する

【写真11】ライトクローラに用いられているクローラ部の展示。すべて金属を使いながらも軽量化するために、メッシュ状のキャタピラを採用 【写真12】浜松市の中田島砂丘で行なわれたライトクローラの走行試験。実験はうまくいったという。現在更なる改良を加えているところだ

 次に西田氏は、宇宙電波望遠鏡や静止地球観測衛星などの巨大望遠鏡を組み上げる軌道上組立作業ロボットの例を紹介した【写真13】。ロボットで打ち上げられる衛星のサイズには限界があり、さらに反射鏡を組み上げる際には展開機構が必要になる。ところが、このような機構で実現できるサイズはロケットの直径の2倍程度。それ以上の大きさのものを構築する場合、ロボットによる組み立て作業が有効だという。

 西田氏は、巨大望遠鏡衛星の構築イメージをアニメーションで説明した【動画1】。部材は衛星のパレットに収納した形で搭載される。ロボットアームは衛星の横に折りたたまれた形で収納されているが、尺取虫のように移動して、パレット収納部材を取り出して組み立てる形になる。各構造物には小型の取っ手が設けてあり、それをロボットアームがつかむと、同時に電源や信号ラインが結合される機構になっている。部材をパレット単位で所定の場所に持って行き、6角形の部材(リフレクタ)をつなぎ合わせていく。このような結合機構や、ロボットアームの試作も進んでおり、実現性が確認できたという。

 さらに、故障衛星などのスペースデブリを軌道上から捕獲し除去する小型ロボット衛星についても披露。こちらは主衛星とともに打ち上げられるピギーバック衛星だ。伸展式ロボットアームを備えており、古い衛星を捕獲することが可能。軌道上から導電性テザーという仕組みでブレーキをかける。スペースデブリを減速、軌道から除去し、大気圏に再突入させて、燃え尽きさせるというものだ。


【写真13】巨大望遠鏡衛星の構築イメージ。衛星のパレットに収納した部材を移動式のロボットアームで展開していく 【動画1】巨大望遠鏡衛星の構築イメージ。ロボットアームは衛星の横に折りたたまれた形で収納されているが、尺取虫のように移動して、パレット収納部材を取り出して組み立てる

無重力状態で飛び上がるユニークな小型宇宙ロボット!

 宇宙科学研究本部の久保田 孝氏も、惑星探査ロボットを研究している一人【写真14】。宇宙ロボットは、地上で利用されるロボットと比べて活躍する場所が異なり、持っていけるリソースも違うため、新しい材料や技術が必要になる。そのため久保田氏は大学研究者と議論しながらマイクロローバを試作し、問題点の洗い出しや改良を進めてきた。たとえば、車輪を少なくした場合でも同一性能のパワーを出せるようにしたり、搭載カメラで地形を判断して移動する自律型ロボットなども検討【写真15】。

 また、環境調査では、特殊な地形に行く場合も多い。脚型で崖を上るロボットや、地中をもぐるモグラ型ロボットの基礎研究のほか、将来的には低コストで信頼性の高い作業を可能にする昆虫型ロボットを作りたいと考えている【写真16】。


【写真14】宇宙科学研究本部 宇宙探査工学研究系 助教授の久保田 孝氏 【写真15】JAXAで開発されたマイクロローバ。車輪を改造したり、搭載カメラで地形を判断して移動する自律型ロボットなども検討 【写真16】特殊地形探査ロボット。脚型、モグラ型、昆虫型のロボットがある。モグラ型ロボットは地中掘削深度10mを目標にしている

 このほかにも久保田氏は、小惑星イトカワに到達し、帰還中の小惑星探査機「はやぶさ」に搭載した小型ロボットについて、ビデオを交えながら紹介した【写真17】【動画2】。これは、無重力状態で飛び上がりながら移動できるユニークな小型探査ロボット「MINERVA」。総重量591gで、カメラを搭載しており、地表の状態を伝送できる。撮影した画像データが地表にピントを合わせて撮られているか判断し、写りの良いものを優先的に衛星に送るようにしているという。


【写真17】小惑星探査機「はやぶさ」に搭載したユニークな小型探査ロボット「MINERVA」。無重力状態で飛び上がりながら移動できる。3つのカメラや温度センサを搭載。上部には衛星通信用のループアンテナもある 【動画2】MINERVAの動き。ふわりと浮き上がりながら移動するところ。ここでは、落下によって無重力状態を作り出して実験しているという

 ロボットの移動は、機体に内蔵された「はずみ車」をDCモータで回転させ、その反力を利用してホッピングさせる仕組みを考案。【写真18】【写真19】【写真20】。はずみ車の回転速度をうまく制御することで、45度方向に飛んだりすることもできるという。モータは民生用で真空でも回るように工夫されている。

 電子部品についても、できるだけ民生品を採用することでコストを下げているが、部品は放射線試験に通ったものだけを利用している。CPUにはSH3を使っているそうだ。また、はやぶさに搭載したMINERVAの基板はスペースの関係から外周に沿うように多角柱形状になっており、それぞれの基板をフレキシブルケーブルで結んだという。


【写真18】写真中央に「はずみ車」が見える。これをDCモータで回転させ、その反力を利用してホッピングさせるしくみ 【写真19】「MINERVA」上面(底面)。すべての表面には太陽電池が貼り付けられている。どのように着地しても発電できるようになっているが、もし日のあたらない岩陰に入ってしまった場合には、ただちに移動する仕掛けもある 【写真20】「MINERVA」底面(上面)。中央の2つの円筒がコンデンサ。太陽電池を使用して充電する仕組みだ

 モータや基板などの駆動源は2つのコンデンサを利用。太陽電池を使用して充電する仕組みだが、もしロボットが日のあたらない岩陰に入ってしまった場合には、ただちに移動できるように、6つのフォトダイオードで光を検知する。また、小さなロボットのため温度制御の機能を持たず、断熱材のみでカバーしている。ただし温度センサがついているため、昼間の暑いときや、夜の寒いときにはロボットが休止状態になり、最適な温度状況で活動するようになっている。


【写真21】ノンフィクション作家、宇宙政策シンクタンク「宙の会」代表幹事の中野 不二男氏。3月28日に開催される公開シンポジウムの司会を務める
 MINERVAはイトカワでのミッションを実現できなかったものの、「このロボットを製作した経緯から、小粒で賢い超小型ロボットをつくれる大きな手応えを得た」(久保田氏)という。このような小型ロボットは、世界でも特に日本が先行しており、今後は国内のMEMS技術を取り込んで、さらに高機能化を図ることで未踏破探査を推進していく構えだ。

 最後に、ノンフィクション作家であり、宇宙政策シンクタンク「宙の会」代表幹事の中野 不二男氏【写真21】が、この宇宙プロジェクトの醍醐味について客観的な立場から意見を述べた。中野氏は「本プロジェクトが発足し、日本の宇宙開発が新しい時代に突入したと感じた。宇宙船のランデブー時のロボットアーム作業を見ていて、本来このような分野をアピールすべきではないかと思っていた。日本の宇宙開発がロボット分野への良い着地点を見つけ、産業と結びついて従来と異なる新しい宇宙開発が始まるものと期待している」と語り、勉強会の第一部を締めくくった。


2025年に日本人は月に降りられる!? 夢実現の足がかりとなるSELENEプロジェクト

【写真22】宇宙科学研究本部 SELENEプロジェクト主任開発員の祖父江 真一氏
 第2部では、宇宙科学研究本部の祖父江 真一氏【写真22】が、アポロ計画以来の本格的な月周回衛星となる「SELENE」に関する概要を説明した。

 2007年から2008年にかけて、中国のCE-1 (Chang'e)、インドのChandrayaan-1、米国のLRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)というように、月探査衛星の打ち上げラッシュが始まる。そのような中でJAXAは、今夏にもH-IIAロケットによってSELENEを打上げる予定だ。SELENEは、主衛星と2機の子衛星から構成される。子衛星は主衛星と結合した状態で打ち上げ、月周回軌道上に入った後、主衛星から順次切り離される。残った主衛星も月全域にわたり観測を行なう【写真23】。

 祖父江氏は「月や月の磁場がどのようにできたのか? なぜ月は他の衛星と比べて大きいのか? 月の表と裏の様子がまるで違うのはなぜか? など、まだ解明されていない謎がたくさんある」と語り、セレーネによって月の形成や変遷など、起源と進化の核心に迫る科学データの取得を目指すという。また月をどのように活用していけるのか、観測データを基に、資源や環境面で検討材料にしていく。

 具体的なミッションとしては、14個の観測機器を搭載することで、元素や鉱物の分析、地形・表層構造、重力場・磁場の観測、月周辺の高エネルギー粒子やプラズマなどの観測を行なっていく【写真24】【写真25】。また、SELENEはNHKのハイビジョンカメラを搭載し、クリアな映像で「遠ざかる地球の姿」を見られるという。これは世界で初めてのことになるそうだ。


【写真23】月周回衛星SELENEの月までの道のり。主衛星と2機の子衛星から構成される。子衛星は主衛星と結合した状態で打ち上げ、月周回軌道上に入ると、主衛星から順次分離される 【写真24】SELENEの機器配置。さまざまなセンサや観測機器が組み込まれていることが分かる 【写真25】14個の観測機器で、元素や鉱物の分析、地形・表層構造、重力場・磁場の観測、月周辺の高エネルギー粒子やプラズマなどの観測を行なう。またハイビジョンカメラでクリアな映像も送られる

 SELENEによる観測の中でも、重力を測定するミッションは特に重要だという。重力を測ることによって、地下に含まれる重金属などを分析でき、月の内部構造が分かるからだ。今回のミッションでは、月の裏側まで重力を計測するが、これも世界で初めての試みだ。そのために、前述のように主衛星と2機の子衛星(リレー衛星、VRAD衛星)に分離させる。リレー衛星とVRAD衛星に搭載された電波源によって、月全体の重力場を精密に測定していく【写真26】。

 このほかにも、TC(Terrain Camera)と呼ばれるカメラによって、前方・後方視のステレオ画像を取得する。2点間の距離の違いから分解能10mという高精度で計測できるため、これも貴重なデータになる【写真27】。このようにして得られた多くのデータは、まず日本の研究者に提供され、2年後からインターネットでも広く公開される予定だ。


【写真26】SELENEによる観測の中でも、特に重要な重力測定のミッション。月周囲の重力場分布を高精度で作成し、月の内部構造を分析するためのデータを得る。3つの衛星を利用し、4wayでドップラー計測を実施する 【写真27】TC(Terrain Camera)と呼ばれるカメラによって、前方・後方視のステレオ画像を取得し、月の地形マップを高精度で作成。分解能10m

 JAXAの長期ビジョンでは、2025年に日本人を月に送るという構想も含まれている。SELENEは、日本人の夢を実現する足がかりとなる計画なのだ。あと20年弱で日本人が月に降りられたとして、そのときにロボットがどのようなサポートしてくれるのか、想像しただけでもワクワクしてくる。

 なおJAXAは3月28日に日本科学未来館において、「ロボットが拓く宇宙開発のNEXT STAGE」をテーマに公開シンポジウムを開催する(入場無料、要事前申込み)。このシンポジウムでは、JAXA宇宙飛行士の若田光一氏も登場し、最前線の宇宙ロボットの話題が披露される予定だ。JAXAでは今後、このようなシンポジウムなどを通じて、宇宙ロボットのニーズとシーズをマッチングさせ、新しい技術を産学官連携で積極的に取り込んでいきたいという。


URL
  JAXA
  http://www.jaxa.jp/
  セレーネプロジェクト
  http://www.selene.jaxa.jp/


( 井上猛雄 )
2007/03/22 17:54

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