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ロボット学会工学セミナー「ロボット・インタラクション・テクノロジー」レポート

~感性にうったえるロボットのつくり方とその活用

 3月14日、社団法人日本ロボット学会主催第39回ロボット工学セミナー「ロボット・インタラクション・テクノロジー 感性にうったえるロボットのつくり方とその活用」が独立行政法人産業技術総合研究所・臨海副都心センターで開かれた。感性ロボティクスやロボットセラピーに関する7件の講演が行なわれた。


情動表出ヒューマノイド

早稲田大学理工学術イン総合機械工学科/ヒューマノイド研究所 高西淳夫教授
 早稲田大学理工学術院総合機械工学科/ヒューマノイド研究所の高西淳夫教授は、「情動表出ヒューマノイド」について講演した。ロボットの原点は西洋では18世紀ごろの自動人形(オートマタ)、日本ではからくり人形にある。日本の茶運び人形は人間とのインタラクションも組み込まれたからくりとなっていた。

 世界初の等身大二足歩行ロボット「WABOT-1」は日立製作所のHITACというミニコンで制御され、撮像管で画像処理をし、隠れマルコフモデルを使って限定的ながら音声認識を行なっていた。WABOT-2はピアノを演奏することで音楽を通して人とのインタラクションを行なった。現在早稲田大学では2000年4月にヒューマノイド研究所を設立し、さまざまな研究を行なっている。ヒューマノイドは人間を工学的な視点で見るための道具として使えるだけではなく、人間支援機器の開発への応用、そしてパーソナルロボットのための基礎研究に使えるという。もちろんグランド・チャレンジとしての意義もある。

 故・加藤一郎教授は二足歩行ロボットの研究チームと、義足開発のチームを同じ部屋で研究させていたという。それぞれが車の両輪のように相互に啓発する役割を果たしていたといまになって思う、と高西教授は語った。


 WABIANからは上半身をつけたが、人と一緒に手を繋いで踊ったり、楽しそうに歩いたり怒っているかのように歩いたりさせた。WABIAN-2は骨盤をつけることで、ひざを伸ばして歩かせることができるようになった。WABIAN-2はテムザックによって「新歩」や「キヨモリ」という形でも展開されている。

 またフルート演奏ロボットWF-4は、プロのフルート演奏者と一緒に開発を進めている。今は床のセンサーや人に呼吸を知ることができるセンサーなどを取り付け、フルートに加速度センサーをつけてうまく演奏する試みを行なった。

 WE-4(通称・アイちゃん)は情動を表情で表出する研究のためのロボットだ。人間の認識機能・表出機能のうち、かなりの部分は首から上に集中している。そこで上半身のロボットとした。通称のアイちゃんとは、EYE(目)に由来している。表情を表出する自由度のほか、ガスセンサーや肺なども備えている。またアームは肩部分に2自由度をつけた9自由度とし、肩を使った情動表出もできるように構成されている。ハンドはイタリアの研究所との共同開発で、人間の動きに対して不自然にならないような関節位置で設計されている。

 高西氏らは人の中枢神経系を、反射(運動・自律)、感情、知能・知識の3層構造を為していると考え、なかでも感情部分を情動方程式と呼ぶかたちで表現してロボットを動かしている。ロボットのなかには覚醒度、快、確信度の3軸からなる仮想的な3次元空間があり、そのなかをロボットの状態が動く。それぞれの領域は幸福や怒り、驚き、悲しみなど、それぞれにマッピングされている。赤ちゃんの発達心理研究をベースとしたものだ。心理ベクトルはパラメータを変えることで操作できる。また感情の表出についても個性を持たせて、トータルなロボットを作っている。最近は入力を評価する意識導入統合実験なども行なっているという。

 阪大の石黒教授の場合は非常にリアルなロボットを作っているが、高西教授らは、シンボル的に人が人として認識できる「シンボリック・ヒューマノイド」を作っていると考え、人がロボットとインタラクションしているときの生理的活動、脳活動の計測研究も始めているという。将来的には、研究室だけではなく街角で一般の人とインタラクションすることが夢だと述べた。


早稲田大学のヒューマノイド WABIAN-2。人の骨格に似せてある

フルートロボット「WF-4」 「WF-4」の唇 「WE-4」(通称・アイちゃん)

WE-4の9自由度の腕 情動方程式

次はWABIAN-2の体とWE-4の顔の融合が目標 人間の計測も行なっている

メンタルコミットロボット・パロとの暮らしとロボット・セラピー

産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員 柴田崇徳氏
 産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員の柴田崇徳氏は「メンタルコミットロボット・パロとの暮らしとロボット・セラピー」について講演した。

 パロは癒しロボットとしてしられるアザラシ型のロボットである。タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルに、一体ずつ手作りで作られている。本物のかわいらしさを入れつつも、身近な動物ではないため、ある程度シンボライズされたものとして受容されている。

 産業用ロボットは客観的評価があるが、メンタルコミットロボットは主観的評価を重視して作られている。おもちゃは人との接触時間が短いという想定で、設計が行なわれている。いっぽうペットの代わりとなると、一週間で飽きるようなものでは困る。人との関係のなかで短期的ではなく長期的な相互作用を考えると、壊れないことなどと並んで、飽きられない、愛着を持たれるということも重要である。

 動物は必ずしも役に立たないが、ペットとして人と共存しており、産業用ロボットよりもはるかに大きなマーケットがある。アニマルセラピーというかたちで研究も進んでいるが、実際の動物では問題もある。メンタルコミットロボットは動物のように人と共存し、特に身体的なふれあいの相互作用を通して精神的効果を与え、主観的な価値を創り出すことを目標としている。

 メンタルコミットロボットの開発は、ロボットの階層的知的制御に関する研究の一環として始まったという。方向性のひとつは産業用ロボットの知能化で、ロボットの教示作業を自動化するための研究だった。ただ人間を超えることは難しい。ロボットが人間を超えるためには自らがゴールを作り出すことが必要だ。そうでなければ賢いとはいえない。ではその賢さを評価するのは誰かというと、それもやはり人間である。そのため人間とのインタラクションが重要だと考えたのだという。


 主体である人間はどのように周囲のものを評価するのか。植物や石のように止まっているものから動物のように動くもの、人間のように喋るものなどさまざまなものが環境にある。人工物の場合は、それを作った人間もいて、人工物には意図が組み込まれているが、インタラクションする人間はその意図を完全に受け取るわけではない。評価においては、その人間が持つ経験や知識は非常に大きな影響を持つ。

 人間のもつ感覚を意識しながらロボットを作っていくことが非常に重要だという。たとえばただの棒であっても、それが犬のしっぽと見立てられるように仕掛けられていると、犬のようだと思って人間は見てしまう。このように、インタラクションを通じて相手の動きが意味づけられていく。だから見た目の概観は非常に重要だという。インタラクションのなかでいかに人間の知識や感情をうまく引き出すかがメンタルコミットロボットにおいてはポイントとなる。

 柴田氏らはネコ型ロボットも作ったがそちらは実物と比較されることから厳しい評価を受けた。いっぽうアザラシの場合はむしろ動物型であることをプラス評価されたことから、この形で実証実験を繰り返してきた。日本、英国、スウェーデン、イタリア、韓国、ブルネイ、などで1,500名以上に試してもらったところ、たとえばイスラム圏では犬型は拒否されることがあるのだが、各国で文化や宗教を問わず、良い評価を受けたという。

 日本は高齢化社会を迎えている。認知症の患者に対してもパロは効果的で、脳機能を調べると、パロに対する評価が高い人ほど、脳機能も改善が見られたという。また看護士や介護士に対しても効果的で、バーンアウトを防ぐ効果があるという。海外でも高い評価を受けているが、国内では個人販売も行なわれており、現在までにおよそ850体が出荷されている。柴田氏はこれまで長年ペットを飼ってきた老夫婦がパロを購入した例や、一人暮らしの女性がパロと暮らす様子を紹介し、ペット代替物としてのロボットの有効性を示した。おおよそ500体くらいが個人で使われているという。パロの所有者たちはパロがロボットだということは了解しているが、パロを生き物のように扱っている。

 パロに関する映画を撮影中のアンボ監督はNHKの番組のなかで「パロは技術だけではなく魂をこめて作られている。ヨーロッパではこのようなことはありえない」とコメントしている。今年末には映画は完成予定だという。

 会場からは、インタラクションの設計論についてどう考えるかという質問が出た。柴田氏は、自由度やセンサー、機能が多ければいいというわけではない、と答えた。たとえば第1世代、第2世代ではパロは動き回れるように作られていたが、セラピーということを考えて、動かないようにしたという。ただし一般化は難しいと述べた。作り手の主観だけではなく、使い勝手のアンケートなどによるフィードバックが重要だという。


パロ。現在は第8世代 もともとはロボットの階層的知的制御に関する研究から始まっている

メンタルコミットロボットと人間の関係 パロは海外でも注目されている

アンドロイドサイエンス

大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻/ATR知能ロボティクス研究所 石黒 浩教授
 大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻/ATR知能ロボティクス研究所の石黒 浩氏は「アンドロイドサイエンス」と題して、人とかかわるアンドロイド、ヒューマノイドの方向性について講演した。

 アンドロイドとは人間に似たロボットである。マニピュレーション、ナビゲーションについでインタラクションがロボットのテーマとなりつつある。インタラクションは人間に近い研究分野だ。ロボットが人間に働きかけるときは、人間のモデルをベースにしてインタラクションすることになる。人間もロボットを擬人化してアプローチする。

 ロボットのインタラクションを取り巻く重要な技術には、柔らかい触覚センサー、センサーネットワーク、自然な動き、テレオペレーション(遠隔操作)などがある。重要なことは、ロボットのパフォーマンスをいかにして測るかということだという。

 ロボットのインタラクションにおいては、速度のように明らかなパフォーマンスメジャーがない。1:1だけではなく、群集のなかでロボットが活躍するシチュエーションもあるが、そのなかでロボットがどのような役割を果たしえるか、それを計測するにはフィールドテストしかない。

 「ロボットはメディアだ」と石黒氏は語る。誰もが使えるインターフェイスはない。敢えてあげれば「人間」がそれだ。あたかも人間のように人間と関われる機械、それがロボットだという。それが人間型ロボットが必要な理由である。人間が擬人化しやすい体と、移動しやすい車輪の足を持ったロボットが自律あるいは遠隔操作で人間とかかわる、というのが未来像のひとつだ。


 課題は3つある。1つ目はセンサーネットワークとの融合だ。全方位カメラを部屋内につけて人間の移動情報をとったり、タグをつけて履歴をとることで社会的な関係を明らかにしたうえでコミュニケーションするといった実験を行なっている。ユビキタスなセンサーと融合しないと、ロボットはソーシャルな存在にならないという。

 2つ目はスマートスキン、触覚センサーである。人と接触するならやわらかい皮膚を持っていたほうがいい。石黒氏らは、触られた情報だけから人の姿勢を推定する研究も行なっている。

 3つ目は評価方法だ。アンケートだけでは限界があるので、目や身体の無意識な動きを計測することで評価しようとしているという。よい印象を持っている人は、ロボットと目を合わせたり、同調動作が見られることが多い。東大・開研究室と共同で、脳の活動を直接計測する試みも行なっている(開研究室の研究の一部については「けいはんな社会的知能発生学研究会公開シンポジウム」レポートも参照)。

 人とかかわるロボットの研究をするときに、人の姿かたちの研究をしていないのは、半分くらいの研究をしていないのと同じだ、と石黒氏は言う。

 アンドロイドをいろいろな世代の子供に見せると、面白いリアクションが返ってくる。2歳~5歳くらいの年の子供は人間に似たロボットを非常に嫌がる。この発達過程における「不気味の谷」は脳の側抑制機能で説明できるのではないかと考えている、と述べた。

 「アンドロイド・サイエンス」は脳科学とは違うアプローチ、トップダウンで人間を理解していく道筋だという。どうしても克服できない問題は、人工知能の問題である。それは簡単には解決できない。そこで遠隔操作の出番となる。石黒氏本人にそっくりなロボット「ジェミノイド」は遠隔操作可能な実在人間の代替ロボットである。

 操作していると自分の身体だと感じるし、他人にさわられると非常に屈辱感があると述べ、センサーフィードバックがなくても、エモーショナルな情報の共有があるという。なおこの感覚は、石黒氏以外の人も、ジェミノイドを操作していると感じるようになるそうだ。人間の身体の感覚は曖昧なものであるかもしれないという。またジェミノイドに対しては、子供は最初はやはり嫌がる。しかし、すぐに馴れてしまうそうで、ここも面白いところだという。

 最近はロボットとのインタラクションだけではなく、人間がどのように発達するか――認知発達メカニズムをロボットを使って検証する研究、そして生物にインスパイアされたロボットシステム――解の探索にゆらぎを取り入れたロボットの研究を始めたという。最終的には人工器官など人間に適応的なメカニズムを作るところへ持っていきたいとのべ、自己組織化するコントローラーを持った幼児サイズのロボットや人間の筋肉を模した構造のロボットなど、最近の研究成果も一部紹介した。


タグシステムとロボット技術の融合 ロボットの触覚・スマートスキン ロボットに対面したときの脳活動を計測する東大・開研究室との共同研究

年齢による「不気味の谷」。特定の年齢層の子どもはアンドロイドを怖がる ヒューマノイド、アンドロイド、ジェミノイド 子どもは意外なほどすぐにジェミノイドに馴れてしまう

ロボットと人間とのインタラクションにおける二つの方向性 人間の筋肉と同じ構成で作られた腕のロボット。「大阪大学“ゆらぎ"プロジェクト」の一環

人を引き込むインタロボット技術

岡山県立大学情報工学部情報システム工学科・渡辺富夫教授
 岡山県立大学情報工学部情報システム工学科・渡辺富夫教授は音声から動作を作り出すことに重点を置いている。特に「コミュニケーションはリズムだ」という視点で研究をしているという。われわれは対話しているとなんとなくうなづく。そんな動作を繰り返すことで引き込まれていく。その引き込みは呼吸や心拍変動にまで及ぶという。講演でも、話し方は論理的ではなくても、うまくリズムに乗せると、思いは伝わることがある。

 渡辺氏のロボット(インタロボット)、CGキャラクタ、音声対話型システムの成果の一部は、インタロボット株式会社という形で商品化されている。

 渡辺氏は母子間コミュニケーションの研究から今日に至った。赤ちゃんは言葉は分からないが、何かしらのコミュニケーションは成立している。その間にやがて言葉が獲得される。ロボットが意味を理解したあとで反応するのでは遅い、という。むしろ先に反応すれば人間は勝手に理解したと思い込んで話し続けてくれるので、先に反応すべきだという。

 アバターを使った研究によれば、自分自身のアバターを画面に登場させると、インタラクションが理解しやすいという。渡辺氏はロボットを知能化させる研究にはあまり興味はないという。

 人間のうなづきのタイミングは、すごく意識的に聞いたときと、無意識ではあるが真剣に聞いたときとは、ほとんど個人差がないという。うなづきロボット「インタロボット」はうなづき動作を1/30秒ごとに自動生成している。

 「インタロボット」は物理エージェントだが、CGの「インターアクター」というものもある。インターアクターを使うことで、留守番電話への吹き込みのように単に何もリアクションのない画面に向かって喋るよりも、間をもって喋るようになるという。同調したうなづきがあることで人は話しやすくなる。それによって、音声認識をしやすい方向に人を誘導することができるという。あくまでも先に認識があるのではなく、まずはリズム同調をして、それによって認識をしやすくする、という順番だ。それによってインタラクションしやすくする。

 人間は、まったく情報は一緒であっても、だらけた反応で聞いている学生の様子を模したCGのほうが内容を理解しない傾向があるという。渡辺氏らはインタロボット株式会社を2000年に設立し、事業化している。おもちゃとして商品化された「うなずきくん」のほか、インタロボット市場は教育・福祉・エンターテイメントなど幅広くさまざまな分野に用途があるという。CGキャラクターを表示した状態でテレビ講義をしたところ、インターアクターが表示されていた成績がよかったそうだ。

 形は人型あるいは動物型をしていなくてもいいという。自分と関わってくれるような動きをしさえすれば、樹木型だろうが花だろうが何でもいいそうだ。


万博でも使われた「インタアニマル」 引き込みから起こる身体コミュニケーション 身体的インタラクションシステムのコンセプト。エージェントを間に介することでコミュニケーションする2人が引き込まれる

熱心に話を聞いている様子のキャラクタを見ることで、周囲も引き込まれる 【動画】うなずきロボット

ペットロボットAIBOによる高齢者向けロボット・セラピーの試み ―効果的セラピー方法の検討―

筑波学院大学情報コミュニケーション学部情報メディア学科 浜田利満教授
 筑波学院大学情報コミュニケーション学部情報メディア学科 浜田利満教授は、ソニーが販売していたエンタテインメントロボット「AIBO」を使った高齢者向けロボット・セラピーについて講演した。

 ロボットセラピーは、安全性の問題も少なく、躾ける必要もないが、効果計測方法はまだ確立されていない。ロボットの形、台数、介在者、効果的な動作など実施方法も確立されていない。そこで浜田氏らは特別養護老人ホームのデイサービスで調査を行なった。すると、特にロボットと高齢者と介在者の3者関係があるときに効果が高かった。またロボットへの自発性評価の反応を見ると、ロボットの名前を呼んだり、抱くという動作は促しがあれば出るという結果だった。

 このような予備調査をもとに、効果のあるロボット動作の検討を行なった。使ったロボットはAIBO(ERS-210)。ねらいは、ロボットにより高齢者が体を動かすか、ロボットへの働きかけ動作が起きるか否か。設計した動作は11種類。その結果、適切にセラピーを設計すれば、意欲を持ち、目的ある行為を生起させることが分かったという。

 またレクリエーションとしてロボットセラピーを使った場合はどうか。認知症状の改善を狙いとして実験を行なった。レクリエーションのなかにはいろいろな行為があるため、能力改善に役立ったものがどれか分かりにくい。行為を作用因子に分解し、能力改善との因果関係を明らかにしモデルを構築することが研究の目的である。

 ロボットセラピーはアニマルセラピー同様、社会的効果や、感情コントロールなど心理的効果があるとされることが多い。そこに焦点を絞ったボールゲームと、記憶能力に関係するカードゲームを作った。すると、レクリエーションを重ねるごとに能力向上結果が見られたという。

 レクリエーションはセラピストのスキルが重要になるが、このような設計を導入することで、そのスキルの影響を低減することもできるという。将来的にはロボットの能力が上がれば介在者の数も少なくてすむのではないかという。今後、他の能力の改善も狙ったレクリエーション設計と分析を行なっていきたいと述べた。


ロボット・セラピーの課題 ロボット動作と働きかけ反応 行為・作用因子・効果の相互作用

当院におけるロボット・セラピー ―実施をとおして考えられたこと

医療法人 敬仁会所沢ロイヤル病院リハビリテーション科 加藤範子氏
 医療法人 敬仁会所沢ロイヤル病院リハビリテーション科 加藤範子氏は、実際にセラピーを行なっているセラピストの立場から講演を行なった。同病院は、回復期リハビリと維持期リハビリを行なっている療養型病院だという。

 高齢者リハビリの現場では、そもそも何を目的としてリハビリを行なうのかが難しい問題だという。家庭の問題、目標や意欲の低下といった問題からさまざまなことを試みなければならない。そのなかの1つとして平成12年からロボットを入れてみた。

 同病院では、治療効果を期待するロボットセラピーと、楽しむ対象とするロボットアクティビティの2つに分けているが、今回はAIBOを使ったロボットセラピーに関する7つの実践例の紹介が行なわれた。

 グループでAIBOを自由に動かすことを通して、難聴であまり喋れなかった患者さんが積極的になったり、活動性や積極性が低かった人が高くなったという。

 当初は、ロボットを使うことは、ロボット以外のものでもできるのではないかと思っていたそうだ。しかし患者さんはロボットをロボットとして認識してアクションすることが分かった。そこで治療に積極的に使ってみた。すると認知症の患者さんがロボットを積極的に使うことで筋力強化ができたり、患者さん同士がロボットを介してコミュニケーションをとったりするようになる例が見られたという。

 麻痺側を無視してしまう半側空間無視の患者さんの場合は、AIBOが視野から消えると、麻痺側まで探すようになった。失語症の患者さんは、目配せで意図が通じてしまう人間に対するよりも、AIBOへの指示を声で伝えようとする様子が見受けられた。期待した答えが返ってこなくても意欲的に反応するようになるという。セラピストに対するよりも、AIBOに対するほうが遠慮せず練習を行なうことができるからだと考えられる。また、AIBOを誘導させるレースを行なうと、手すりがないと動けない患者さんでも積極的に動けるようになったという。

 共通効果として、表情の改善、活動性の向上などが見られた。問題点はやはり介在者の力量、遠隔操作を行なうと、セラピスト意外にオペレーターが必要になってしまうこと、ロボットに対して違和感や恐怖感がある人に対しては使えない、AIBOが小さいことから環境設定が難しいなどの課題があるそうだ。飽きが来てしまう人もいる。

 今後の課題としては、リモート操作をセラピストの手元で行なえないか、病棟生活でのロボット使用、精神的効果の検証、高齢者がロボットというものを本当はどう思っているのか、といったことがあると述べた。


療養型病院の抱える課題は訓練への意欲付け ロボットセラピーとロボットアクティビティ 多くの人が再びAIBOと触れあってみたいと回答した

関係論的なロボティクスとその展開

豊橋技術科学大学知識情報工学系 岡田美智男教授
 体と環境が1つのシステムを作り、関係を支えつつ関係に支えられるようなロボットを作ることが目標だという豊橋技術科学大学知識情報工学系の岡田美智男教授は、「弱い存在」という視点でロボットをとらえたい、と講演を始めた。

 最近はあまり作りこみすぎない弱い建築、ミニマルデザイン、便利すぎない装置が注目されている。これまでは1つのロボットが全てできてしまうという視点が多かったが、相互構成的な関係として成立する存在などをずっと考えてきたという。

 相互構成的な関係とは何か。たとえば手のかかる子供ほどかわいいという言葉がある。草木に水をあげる。すると草木が生かされる。だが自分の存在も同時に価値づけられる。これが相互構成的な関係である。

 多くのロボットが導入されても、スイッチが切られて飾られていることが多い。ロボットはこれまで自分で勝手に動くことを目指してきた。自律ロボットの研究である。ロボットは人間とはある意味無関係に成立しており、相互関係は成立していない。社会的存在としてロボットを扱おうとしても、ロボットにとっては、人間はあたりの石ころと同じように扱われる。だから人間も結果としてロボットを社会的存在として扱うことをやめ、スイッチを切ってしまう。「儀礼的無視」である。

 乳児は、1人では何もできない。だが泣くことで母親からミルクをもらい、結果として自分の行きたいところに行く。家庭のなかで弱い存在なのだが、一番パワフルな存在でもある。自分は何1つできないのだが、他者のアシストをうまく引き出してしまう。社会的知性としてみると、これは面白い。

 母親との関係のなかで能力を発揮するわけだが、では能力はどこにあるのか。どちらかに帰属させることはできない。母親と子供の間に分かち持たれていると考えられる。そのような「能力」を持ったロボットを関係論的なロボットと呼んで、岡田氏らは研究してきた。


 1人で何でもできるロボットではなく、誰かのアシストの中で行為が実現できて、将来は自分ひとりでもできるようなロボットの研究はなかなか行なわれてこなかった。岡田氏は逆に何もできない、手のかかるロボットを作ってきた。

 最初は画面で動くエージェントを作ってみたが、それではなかなか心が動かされないと考え、実体を持ったロボットを作った。人間は相手がどちらを向いて何をしようとしているかという「志向性」に非常に敏感である。そこで、ロボットの志向性を表現しつつ、何も役には立たないが、居ないとさびしいようなロボットを目指した。

 代表が「Muu」である。名前は中国語で目という意味で、外見は目が大きく体が丸い、という赤ちゃんの特性を持たせようとしたものだという。外見は京都造形美術大学の学生などとのコラボレーションも行ない、さまざまな取り組みをした。ロボットというより仮想的な生き物のようなものである。最近はゴミ箱ロボットなども作っているという。自分ではごみを拾えないが、他人にごみを拾ってもらって喜ぶ、というロボットである。

 岡田氏は、実体ではなく関係としての同型性、引き算としてのデザインを重視してロボットデザインを行なってきた。実体としての意味をそぎ落としていくと関係のなかからたち現れる意味にシフトしていく、という。すると、周囲との関係に敏感になっていく。目玉だけのMuuが壁から顔を出していると、こっちをこっそりのぞきこんでいるように見える。

 ロボットの形をデザインするのではなく周囲の関係をデザインしていくと面白いコミュニケーションロボットができるという。単体が無表情であっても、かかわりの中から表情が現れる。きっかけになっているのは「ピングー」のアニメで、このアニメでは意味のある言葉は言わない。だが子供たちはアニメの動きだけから意味を抽出していく。声のやりとりも意味をなさない音で構成されていても、会話のやりとりとして着地する。この研究はソニーのAIBOの発話にも取り入れられたという。

 企業キャラクターのなかには唇をつけないなど、無表情であることを敢えて選んでいるものもある。ミニマルなデザインのなかから意味が逆に立ち上がることを選んでいるからだ。

 岡田氏は、個体能力主義から抜け出して関係論的なロボットを作れないかと考えているという。自分で動けなくても誰かに動かしてもらえればいいし、ものをとれないのであれば他者にとってもらえればいい。表情が乏しくても解釈してもらえればいい。これが関係論的なロボットである。人とのかかわりを積極的に引き出す「弱さ」を持ったロボットだ。

 また自閉症児は人間を避けてしまう傾向があるが、Muuとの親和性は非常に高いという。いまはロボットによって社会的葛藤が生まれた場合、自閉症児がどうふるまうかといった検討を行なっている。


お互いに生かされる互恵性 現在のロボットとは相互作用が成立していない 【動画】Talking Eye。岡田氏の初期の研究の1つ

コムソウ君。穴のなかにはカメラがある 【動画】外装を変えたMuuの1つ 関係の中から立ち現れる意味

Muuを使って自閉症児の研究も行なっている 関係論的ロボティクスとは

URL
  日本ロボット学会
  http://www.rsj.or.jp/
  ロボット・インタラクション・テクノロジー
  http://www.rsj.or.jp/events/Seminar/2007/RSJ_Sympo_39.htm

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研究者自身のコピーロボット「ジェミノイド」公開(2006/07/21)


( 森山和道 )
2007/03/15 01:31

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