3月3日、京都府けいはんな学研都市のけいはんなプラザにて、第3回けいはんな社会的知能発生学研究会公開シンポジウム「社会で育つ知能と心 II ~これがロボット学と脳科学の最前線!」が開催された。主催は、けいはんな社会的知能発生学研究会と、けいはんな新産業創出・交流センター(株式会社けいはんな)。
「けいはんな社会的知能発生学研究会」とは、社会的相互作用と不可分と考えられるダイナミックな知能と心の発達や働きを理解することを目指した研究会。もともとは13年前、「知能ロボット研究会」という形でスタートした。ロボットの研究開発を進めていく上で、人間の持つ知能がいかに優れているかが分かってきた一方、その優れた知能を具体的にどのように機械で実現すればいいのか、設計論を探ることが目的だった。6年前、さらにさまざまな知恵と多分野の研究者を集めるために「社会的知能発生学研究会」という名前へと改名。ロボットやシミュレーションなどを用いて構成論的・計算論的アプローチに基づいた議論を行なっているという。
今回のシンポジウムは研究会の活動の一端を周知するために開催したもの。心の脳科学、乳幼児の認知心理学、知能ロボット学、それらをふまえた科学技術政策の異なる視点から最前線の研究をわかりやすく紹介することを目的としている。
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「けいはんな社会的知能発生学研究会」代表幹事の奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報生命科学専攻論理生命学講座 助教授・柴田智広氏。当日は司会をつとめた
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休憩時間にはビデオとポスターパネルで、メンバーの研究紹介も行なわれた
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国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系・稲邑哲也研究室と東京大学・稲葉研究室の共同研究
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「けいはんな社会的知能発生学研究会」の関係書籍
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● 講演
シンポジウムでは講演が3つ、そしてパネルディスカッションが行なわれた。
まず最初に、慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室助教授の加藤元一郎氏が「視線と表情認知の社会認知神経科学」と題して講演した。
視線は、しぐさ、表情とともに社会交流に欠かせない信号である。視線には目の表情(まなざし)、注意が向けられた対象を示す視線方向情報が含まれている。脳損傷などや画像診断技術などを使ったこれまでの研究によって、視線認知を担う脳領域は、扁桃体と、右脳の上側頭溝領域だと考えられている。
扁桃体は目と目があった瞬間に活動し、右上側頭溝はバイオロジカル・モーションなどに反応を示すという。基本的に扁桃体までの処理は粗いが速度が速い。それが上側頭溝に送られてより精査され、その後に意図推定などの処理が行なわれると考えられるという。
加藤氏は、それぞれの領域が損傷されたときに、社会的認知にどのような影響が出るか、社会的認知にそれらの領域がどのような役割を果たすかを説明した。
右上側頭溝領域に障害が出ると、他人の視線が分からなくなるという。視線を合わせるためには、顔の中から目を検出し、目の方向や視線情報を処理して理解し、最終的に相手の心を理解しなければならない。人間は自動的にこのような処理をしている。
顔のなかで目をぱっと検出するためには扁桃体が非常に重要な役割を果たしていることが知られている。恐怖を感じている白目を見ただけでも扁桃体は反応する。また恐怖表情認知障害という症例研究から、恐怖を検出できない人は、目のなかの情報を検出することができないといったこともわかっている。また自閉症は、目を見たときに過剰な恐怖を感じるために視線を合わせないようにしているのだと考えられるという。
いっぽう健常者は他者の視線に強力につられる。たとえば目線あるいは矢印のシグナルを出したあとに、ターゲットとして×印を出す。すると、目線あるいは矢印方向に×印を出したときよりも、逆方向に出したときのほうが反応が遅くなる。そのとき脳ではどのような処理が行なわれているのか。また目線のような、もともとヒトが進化の過程で適応してきたと考えられるバイオロジカルなシグナルの場合と、矢印のような人工的なシグナルの場合とでどのような差が出るのか。
加藤氏が調べたところ、扁桃体が損傷された人の場合は、矢印方向には注意が向くものの、視線刺激の効果がなくなっていた。また上側頭溝損傷の場合も、矢印方向には注意が誘導されるものの、視線方向には注意が誘導されなかった。
そのほか、他人の目線を追う能力に関する研究の現状、目の位置とターゲットの一致不一致は上側頭溝で検知していると考えられること、側頭頭頂接合部は他人の心のなかを推定する上で非常に重要な領域だと考えられることなどを加藤氏は示した。
最後に視線処理のメカニズムを図示し、「このような処理が、瞬時かつ連続的に起こりながら、社会的対人関係が作られている」とまとめた。他者コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている視線や表情認知メカニズムの理解は、人の感情に優しいロボットを創出する上でも重要だと考えられるという。
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視線認知を担う脳の領域
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視線検出とその後の処理の過程
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視線方向とは違う方向にターゲットが出ると反応に時間がかかる
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東京大学大学院情報学環 助教授 開一夫氏
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東京大学大学院情報学環 助教授の開一夫氏は「『私』と『あなた』の発達科学」と題して、主に、自己と他者の区別・認知における時間的随伴性課題について講演した。
開氏は発達科学は「完成された対象ではなく、『発達』という点に着目している点が他の分野との違い」と話を始めた。「発達科学とは変化の科学」だという。
たとえば天気予報も変化の科学である。天気を捉えるためには単位(スケール)の設定、測度の設定、場所の設定が重要だ。同様に発達科学では神経活動、単一活動などさまざまなスケールでの脳活動、行動を測り、脳のどこの場所がどんな反応を示すか調べる。また天気には始まりを設定することが難しいが、発達科学には始まりがある。赤ちゃんである。赤ちゃん期は、もっとも変化の多いときでもある。それで開氏は赤ちゃんを対象に研究を行なっているという。
インタラクションにおいてはまず他者を区別し、コミュニケーション可能な対象であると捉えなければならない。乳児はコミュニケーション対象をどのように捉えているのか。開氏らは、事前研究を踏まえて、カーテンの陰に隠れている誰かが喋っている様子を見せたあと、カーテンをどけ、カーテンの陰から人間が現れた場合と、ロボット(ロボビー)が現れた場合の違いを調べた。
すると、事前に1分間ほどの長さの、ロボットとインタラクションするビデオを見ていた赤ちゃんは、人間が出てきた場合とロボビーが出てきた場合とを区別していないようだったという。
また赤ちゃんと母親を、ビデオ会議システムを介して話をさせると、赤ちゃんは注視時間の違いから、母親画像が実は録画である場合とライブ中継である場合の違いを区別できることが知られている。開氏らは画像に一定の遅延を設け、そのときの脳の活動をNIRS(近赤外分光法)とEEG(脳電図)計測を組み合わせて非侵襲計測することにより、赤ちゃんがどのように違いを処理しているのか調べている。成人でも遅延があると、右の側頭葉あたりが反応しており、このことは先に講演した加藤氏らの研究と合わせても興味深い。
また3歳児程度の幼児に2秒程度、反応の遅れる自分自身の遅延映像を見せる実験を行なうと、既に鏡を見て自己認知できることが分かっている子供であっても、いまの自己認知像との関連がやや分かりにくくなることが見受けられるという。開氏は「まだデータを蓄積している段階だが、徐々に相互随伴関係の検出メカニズムが分かってきた」と述べた。
最後に開研究室が行なっている取り組みの1つ「赤ちゃんラボ on the Web」を紹介した。「赤ちゃんラボon the Web」は0歳から2歳の終わりくらいまでの赤ちゃんの認知発達(赤ちゃん学)に興味のある方を対象としたコミュニティサイトで、赤ちゃん実験を体験したり、発達研究者に質問することができる。
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カーテン越しの相手と話す様子を見せたあと、カーテンの影から人間あるいはロボットが出てくる。これを赤ちゃんに見せて反応を計測する
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ロボットが出てきても事前にロボットと人がコミュニケーションするビデオを見ていた赤ちゃんの反応は、人が出てきた場合と変わらない
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文部科学省科学技術政策研究所 主任研究官 石井加代子氏
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3件目の講演「人間を理解するためのロボティクス」は、文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター ライフサイエンス・医療ユニット 主任研究官の石井加代子氏と、東京大学の國吉教授が分担して行なった。
文部科学省科学技術政策研究所とは、日本の科学技術政策について提案を行なう機関の1つである。石井氏は、科学技術は時代の精神から独立ではないと述べた。一般の人は科学技術の成果として、心の豊かさを求めるようになりつつあるという。
今後、ロボットが人間の側で活動するためには、そもそも人の意思とはどういうものなのか、どんなときに意思疎通できたといえるのか、ロボットに自由意志はあるのかといった、人間を理解するためのロボティクスが重要になるという。
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さまざまな学問を横断・融合した認知ロボティクス
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市民の視点と科学技術の予測・政策の関係
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今日もとめられている科学技術の成果
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人間を理解するための学問としてのロボティクス
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東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 國吉康夫氏
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石井氏の講演を受け、東京大学大学院情報理工学系研究科 知能情報システム研究室 教授の國吉康夫氏は、そのようなコンテキストの中でロボティクスの研究を行なっていると話を始めた。國吉氏は創発・発達的構成論というアプローチをとっている。これは、知的行動の見かけをそのまま作るのではなく、知的行動の発生と変化の基本的原理を見極めてそれを環境中に構築し、行動発達する様子を実験し、原理にフィードバックしていく、というものだという。
國吉氏らは、制御だけではなく体そのものに賢さがあると考え、筋骨格系の外乱適応性をジャンプロボットなどを使って調べている。また体の反動を使った起き上がり動作をロボットにやらせると、姿勢が乱れてもいいところと、必ずある姿勢をとらなければならないところがある。動きのなかにある大事なポイントがあり、そこに集中してコントロールしているが、それ以外は体の動きにまかせて動いているという。そこに人が体に対して伝える、ならびに他人に対して伝えられる情報、「人間型」に共有される記号的情報があるのではないかという。
最近は全身1,500点に触覚センサをつけたロボットが、リアルタイムに触覚情報を把握しながらコツを掴もうとする実験を行なったり、人間に起き上がりの連続画像を見せることで、人が動きのどこを見ているのか調べようとしているという。
人間は、身体が与えてくれる情報を、自分が行動するときと他者の行動を理解するとき、重要な情報として活用しているというのが國吉氏らの考え方だ。
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【動画】2関節筋機構を採用したジャンプロボットの動き。身体そのものがバランスを取る
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完全なモデル化ができない環境でも身体を自由に動かせるのは、制御すべきポイントを重視して制御をかけているからだという
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ヒューマノイドに1,500点の触覚センサを付けて実験を進行中
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【動画】触覚センサを使った起きあがり実験の様子
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体は動かして初めて情報が得られる。ではどうやって動かすのか。動かし方が問題だ。これまでの学習では結局、即応性がなく、人間が決めた枠内(状態空間)での学習しかできない。國吉氏は、身体のダイナミクスを活用した動きは任意のプリミティブを組み合わせたからといって出来上がるものではないという。そこで今は、体が持っている情報構造を探し出すために、神経・筋骨格系・環境の力学的な相互作用を、全体としてカオス結合場として捉えるという考え方で研究を進めている。
具体的には、人間が与えた要素を組み合わせるのではなく身体の特性に合わせた動きができるのではないかと考え、円盤に12本の足をつけた虫型ロボットのシミュレーションなどを使って基礎的な実験を行なっている。非線形のダイナミクスをもつ要素からなる多自由度の体を動かしているだけなのに、体がある一貫した動きをし始める。体が可能性として持っているさまざまな運動パターンが創発するこの動きは、あたかも自分自身で、その体ができることを探索しているようにも見える。これが原初の意志なのかもしれないと國吉氏は述べた。
では人間型の身体ではどうなるのか。國吉氏は「身体が脳を形作る」という考えのもと、子宮内の発達を重視して身体が与える情報構造を発見するメカニズムの研究を進めている。具体的には脊髄神経系を持った胎児・新生児モデルを作って、子宮環境で動かして、その結果をもとに成長させる。すると子宮環境で動くことにより、首と足の交代性運動が生まれ、皮質もそれに応じて発達した。運動発達は認知発達に非常に大きな影響を与えているという。
國吉氏は、社会性とのつなぎとして、創発系は選択肢を発生させるが、意味を持っておらず、意味をもたせるために他者との相互作用が重要なのではないか、それがこれからの研究課題だと述べた。
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カオス結合場として身体・環境を捉える
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ムシ型ロボットの実験
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【動画】ムシ型ロボットのシミュレーション
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胎児・新生児身体モデル
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このモデルを子宮環境と平らな床で動かすシミュレーションを行なう
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【動画】新生児モデルの運動。ハイハイのような動きが創発する
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ここで講演は再び石井氏に戻った。石井氏は人間のコミュニケーションを「ヒトの始めた不思議なゲーム」だと呼んだ。ヒトは他者の表情やしぐさを読むことで、逆に自分自身の内部のことも分かるような気がしてきたのではないかという。また、いままではパラダイムに乗って科学技術は進んできたが、情報化社会という新しい時代に入ろうとしている今日は、それぞれの分野の人がパラダイムをつき合わせて、既存のパラダイムを突き崩すことがますます重要になると述べた。
政治や経済にも科学技術が不可分に入り込み、これが社会でこれが科学という区別がつけにくくなっていくことで、社会と科学者の関係も変わってくるという。
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作家/東北大学機械系 特任教授 瀬名秀明氏
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続けてパネルディスカッションが行なわれた。コーディネータは、作家で東北大学機械系 特任教授の瀬名秀明氏。瀬名氏は、けいはんな社会的知能発生学研究会のメンバーでもある。
パネリストは加藤元一郎氏、開 一夫氏、石井加代子氏、國吉康夫氏ら講演講師のほか、同じくけいはんな社会的知能発生学研究会のメンバーである名古屋大学大学院情報科学研究科助教授の川合伸幸氏。
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名古屋大学大学院情報科学研究科助教授の川合伸幸氏
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川合氏は今回のテーマ・共通点は「変化」であると述べた。人間も進化の産物だが、人間は環境そのものを変えてしまう。川井氏は人間の進化の淘汰圧は社会あるいは人間そのものだと続け、「体を似せていったときに心は似るのか。見た目の行動と体が似ているというところだけでどこまでいけるのか考えたい」と始めた。
國吉氏は「いまのロボティクスの延長上で行ける部分はまだある。でもそれ以上に行くためには既存路線以外のものも考えておかなければならない」とコメントし、いまは情動・認識モデル、身体像と身体図式獲得の問題に取り組んでいる、と講演内容を補足した。
國吉氏は、いまはカオス結合系として身体を考えて捉えて研究を進めている。身体を動かすと脳にマップが形成されていく。特に、それがどうやって視覚と結びついていくのかについて重視し、身体図式から身体像に入っていくところへ繋げようとしているという。ただ、いまのアプローチで「全てができますよというつもりはまったくない。遠くを目指して新しいことをやるために、いくつかあるなかの一つとしてやっておかないといけない基盤の一つとして捉えている」と強調した。
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東京大学大学院情報理工学系研究科 知能情報システム研究室 國吉康夫教授
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エンドエフェクタを使って決められたことしかできないロボットと違い、生物や人間は体の各所を使って多様なタスクをこなしているが、それがどのように実現されているのか、カオス結合系として身体を捉えることで実装できると思うか、という質問に対しては國吉氏は、「難しい質問ですが、私の予想はできます、というものです」と述べた。
國吉氏の赤ちゃんの身体の行動の発生モデルにはカオス結合系のモデルが使われている。不均一性をもった身体構造を動かすことで、意味のありそうな動きが出るところまでは到達しているわけだ。あれは体の各部を違うように動かして機能にコントリビュートしているということでもある。ハイハイの前駆動作にしても身体の各所を違うように使ってタスクをしていると捉えることもでき、それは違うパターンも出る可能性があることを示唆しているという。
たとえば手の指を使って物体を掴むという運動は、手の身体的な構造が物体との位置関係をとりやすいこと、いろんな動きをしたときに協調性を持ちやすいことなどが重要だと考えられる。そういう状態を、身体がひとつの安定状態として持っているのではないかという。
ただ、このような方法だけでは限界があるのも確かで、さまざまな反射運動や、例えば物体の方向に腕を動かすような、ある程度随意的な運動、それと創発的な動きとの相乗効果で、さまざまな動きもできるようになるのではないか、と述べた。
会場からは、脳領域内での処理や、各領域の連合がどのようになっているのか分かっているのかという質問も出た。
加藤氏は、特に計算論的な立場の人や時間観念も入れた実験を行なっている人からそういう質問が良く出る、と答え、実際に何が行なわれているのかという方面に対して研究が進む方向にあると展望を述べた。
また、瀬名氏から「認知発達ロボティクスに対して、どう思うか」と質問された加藤氏は、あるシミュレーションをしたりして内部構造が分かったりすることは面白い、と述べた。しかしいっぽう「ロボットが心を持つことはいくらやっても無理です。そんなことを起こることは期待してはいけない。人間の心は長い進化のなかで一回だけ誕生したもの。心らしきものはできても、ロボットが人間の心を持つようなことは100%ない」と述べ、会場にいた阪大・浅田教授らも交え、議論は盛り上がった。
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会場からコメントする大阪大学の浅田教授
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浅田氏は「加藤先生が言うことはあたっているかもしれない」と述べつつ、でも、心の「ような」ものを持つ可能性はあると強調。人間は、人間の心のこと自体をよく分かっていない。人間の心のようなものができたとき、では人の心と何が違うかと突き詰めることで、何が人の心かを突き詰めて考えることができる。そのような多様な理解を求める中で融合的な研究を進めることが重要だという。
加藤氏は、「人間がどうなっているかは分かってくるだろう。同じようにふるまっているロボットもできる。しかし、人間が持っている『主観としての心』の理解は無理」と答えた。
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東京大学大学院情報学環 助教授 開一夫氏
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國吉氏の新生児の身体性の研究には、新生児の意志が入ってないのではないか、それについてどう思うか、とコメントを求められた開氏は、「これこそ飲み会のときに議論したほうがいいのではないか」と述べつつも、「本当のことをいうと無理なんじゃないかと僕も思っている。でもいまの段階で言っていても仕方ない。國吉先生の前向きな態度は賛成だし、絶対無理だといわれるとやる気がなくなる(笑)」と答えた。
國吉氏は「本音を言えば僕もそんなに簡単にできるとは思っていない」と答え、「人間そのものをつくりたいわけではない。違うからこそ解明にも役立つし、仕事をやらせることもできる」と述べた。
右脳の上側頭溝領域は進化のいつごろから社会的コミュニケーションにとって重要な領域となったと考えられるかといった質問も出た。加藤氏は「いいかげんなことを思い切って言う」と断ったあとに、以下のような説を述べた。
言語が出てくる前は社会的コミュニケーションだけだったと考えられる。そこに言語というサイン、シンボルが出てくる。そこで、理由は分からないが主に左脳に言語領域が宿った。もともと両半球にあった機能が言語が出てくることによって、両側に合ったソーシャル・コミュニケーション能力が、右脳に極限していったのではないか。ソーシャルとアテンションの機能が右半球に移って行かざるを得なかったのではないかと考えている、という。
また構成論的手法についてどう捉えているかという質問を瀬名氏からふられた石井氏は「同じロボットの研究の進め方でも欧米と日本は違う」と指摘した。「日本は構成論的。つくりながらわかっていこうという姿勢。ヨーロッパは『とりあえず』という進め方は嫌いで、最終的にそれがどういうものになるかとか、社会的意義があるかという抽象的なところを押さえてから進めようとする。欧州と日本が協力してやろうとするのはお互いに苦手なところを押さえようとしているのでは」と述べた。
それに対し國吉氏は「分からないから作っちゃえというのも本音だけど」と苦笑いしながら捕捉を述べた。「構成論的方法を取っているのは、人間の知能のような問題を探るにはこの方法しかないだろうと考えているから。分解していく方法では理解できない。なぜなら、分解した瞬間にシステムは機能しなくなるから。知能は適応的なもの。観測者もそこに入って、相互作用を起こし、自分自身も知的なことをやりながら進めていくしかない。そのためには作って動かし発達させる方法しかない」。
これに対し加藤氏も「身体の運動が脳を作るというのはまったくそのとおり。そのやり方には感銘を受けた。そういうふうにやらないと人間の意図みたいなところにいけない。ぶつ切りにしていってもぜんぜんだめ。還元主義的、分析的にやってもだめ。動かして作ってゆくは大賛成。でも主観は難しい」と述べた。
全体的に発散しがちなテーマを、司会の瀬名氏が巧みにまとながら進めていく手際が印象的なパネルディスカッションだった。
最後に司会の柴田氏が「また次の区切りに向けて頑張っていきたい。3年後にまた公開シンポジウムをしたい。我々の活動を見守ってもらいたい」とまとめた。
■URL
けいはんな社会的知能発生学研究会
http://www.keihanna-plaza.co.jp/04research_ic/ic_inf/intelli/index.html
シンポジウムのホームページ
http://keihanna.biz/socio/
( 森山和道 )
2007/03/08 00:31
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