Robot Watch logo
記事検索
最新ニュース
【 2009/04/21 】
ロボットビジネス推進協議会、ロボ検を開始
~メカトロニクス・ロボット技術者の人材育成指標確立を目指す
[17:53]
グローバックス、名古屋にロボット専門店をオープン
~5月2日~5日にプレオープンイベントを開催
[17:05]
「ロボカップジュニア九州ブロック大会」開催
~ジャパンオープン大会の出場チームが決定
[14:32]
【 2009/04/20 】
研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる
~理研一般公開でのロボット
[15:15]
【やじうまRobot Watch】
巨大な機械の「クモ」2体が横浜市街をパレード!
~横浜開港150周年記念テーマイベント「開国博Y150」プレイベント
[14:20]
【 2009/04/17 】
第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
[19:46]
「第12回 ロボットグランプリ」レポート【大道芸コンテスト編】
~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
[14:57]
【 2009/04/16 】
北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発
[14:34]
ROBOSPOTで「第15回 KONDO CUP」が開催
~常勝・トリニティに最強のチャレンジャー現る
[13:17]
【 2009/04/15 】
「第15回ROBO-ONE」が5月4日に開催
~軽量級ロボットによる一発勝負のトーナメント戦
[18:50]
ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
[13:37]
【 2009/04/14 】
大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
[11:34]

東京都、「ロボットが支える未来の高齢者生活」シンポジウムを開催
~ロボット技術普及には将来技術と実用化技術の研究バランスが重要


 3月28日、東京都福祉保健局は東京商工会議所にて、ロボットシンポジウム「『ロボットが支える未来の高齢者生活』ロボットで暮らしが変わる? 生活の中に安心と安らぎのロボットがいる!!」を開催した。

 東京では2015年には300万人を超える人々が高齢者になると見られている。そこで高齢者が生き生きと暮らせる社会を目指すためにロボット関連技術を活かせないかという趣旨で開催された。講演者は早稲田大学教授の菅野重樹氏、名古屋大学教授の福田敏男氏、株式会社本田技術研究所上席研究員の広瀬真人氏、芝浦工業大学教授の水川真氏。コーディネーターは首都大学東京教授の山口亨氏で、講評者は東北大学教授の小菅一弘氏がつとめた。会場ではロボットのデモも簡単に行なわれた。レポートする。


首都大学東京 久保田研究室のパートナーロボット「Hubot」 【動画】デモの様子。ジェスチャ認識や音声認識機能を備えている 首都大学東京 久保田研究室のMOBiMac。人間とのインタラクション研究のために製作された

株式会社ZMPの「miuro」。久保田研究室ではZMP社と共同でインタラクション研究を行なっている 首都大学東京 山口研究室と新田研究室による「日常支援型知的電動車椅子ロボット」 レーザーレンジファインダやステレオカメラで対象者の足などを認識して引き起こしを助ける機能などを備える

シンポジウム

早稲田大学理工学部教授 菅野重樹氏
 早稲田大学の菅野教授は、ロボット化する空間と次世代ロボットについて講演した。「変化する居住空間の提案」と、「ライフスタイルの変化に適応する空間のRT化」が「WABOT-HOUSE」の研究テーマだという。RFIDタグを使った物品管理、RT化した家具、屋外屋内シームレスなGPSの活用などが重要となり、間取りはスケルトン・インフィルを使って昔の日本家屋のように可変にすること、ホームサーバによる一括管理などを意識した構造になっている。

 また「TWENDY-ONE」についても解説した。車輪のほうが安全で安定していると強調し、デモンストレーションのビデオでロボットを紹介した。話の概要は今年2月末に行なわれた「次世代ロボット共通プラットフォーム技術の確立」シンポジウムでの特別講演と重なっている点が多いので、そちらのレポート記事や2007年に行なわれた「TWENDY-ONE」デモ公開当時の記事を参照して頂きたい。


環境情報構造化された「WABOT-HOUSE」 「WABOT-HOUSE」内部もRT化されている 「WABOT-HOUSE」の情報システム

「TWENDY-ONE」 想定タスクからロボットの仕様を導いた 想定ユーザーはお年寄り

名古屋大学教授 福田敏男氏
 いつもカーナビの話からロボットの話を始めるという名古屋大学の福田敏男教授は、「カーナビをロボット技術だというと怪訝な顔をする人が多い。だが、A地点からB地点へ行くのは移動ロボット技術の基本だ」と述べた。また特定の音だけを聞くためのノイズキャンセラーや、マイクロセンサーとコンテンツを組み合わせた機器である「Wii Fit」もロボット技術の一つだと捉えられるのではないかという。マイクロ技術はプリンターのような身近なところにも使われている。

 福田教授はロボット技術(RT)とITを組み合わせることの利点を強調した。情報だけではなく、物理的な作用を組み合わせたサービスを提供できるからだ。だが人とロボットの能力は非対称である。そのために人とロボットをうまく組み合わせる共存、相補性の確保や、社会性、経済性を考慮しなければならない。人とマシンの共生といっても、細胞レベルからユニット単位、複数の人とロボットレベル、ネットワークレベルなどさまざまなレベルがありえる。産業用ロボットは人のできないことを実現できるレベルに達しており、またこれからは新世代のサービスロボットの活躍や、マイクロ技術を使った埋め込み技術なども期待されている。

 福田教授らは自分たちの研究として、医師が訓練するための精密ロボット「EVE」を紹介した。脳血管内手術におけるX線撮影環境をリアルに再現したロボットで、手術環境と同じ環境を再現することができる。医師はロボットを対象に技術を訓練することができる。またこのほかにも日常生活をモニターし、忘れ物をチェックしたり、いつもと違ったことがあると気づいてくれるロボットを開発しているという。

 教育面においても、ロボット開発はチーム作業や目上の人間を相手に仕事することになるので有用だとアピール。そしてロボットが社会に受け入れられるためには、ロボットの社会学、倫理、人間がどう判断するのかを探る「ヒューマンサイエンス」などがこれからますます重要になり、使用者・供給者を共に教育する人材教育も重要だと強調した。


ITとRTの組み合わせ 脳血管手術トレーニングロボット「EVE」 ロボットは教材としても有用性が高い

株式会社本田技術研究所上席研究員 広瀬真人氏
 ホンダの広瀬真人氏は「P2」から「ASIMO」に至るまでの開発の経緯を簡単に振り返り、「ASIMO」の名前の本当の由来は「足モビリティ」だったと紹介して講演を始めた。まず、2000年のNHK「紅白歌合戦」でのASIMOデモは非常に大変だったとエピソードを紹介した。「紅白」は生放送なので失敗は許されない。ところが前日のリハーサルで初めて舞台の上に60人のダンサーが飛び跳ねている真ん中をASIMOが歩かなければならないということを知ったそうだ。床は振動で揺れており「トランポリン状態」だったという。変えてくれといったところ、番組スタッフからはホンダの技術でなんとかしてくれないかと言われたそうだ。しかしそんなに簡単に技術をなんとかできるわけもない。このような経験から、ロボットはとにかくいろんな環境に持っていって実際に動かし、そうすることで技術レベルを大いに知る必要があるだろうと感じるようになったという。

 ホンダ本社では今も1日3回、ASIMOがデモンストレーションを行なっている。これまでに行なったデモは延べ約1万回以上にのぼる。日々、ロボットを実際に動かすことにいかに多くの課題があるか、実感しているそうだ。

 夢は何らかの「お手伝い」ができるようにすることだ。だが現状では、日本の家屋にASIMOが来ても邪魔になるだけだ。そこで取りあえずはオフィス内で人と同じ速度で移動し、ちょっとした仕事ができるようにすることを目指している。会社役員たちにもっともウケたのはASIMOと手をつないで歩く機能だったそうだ。ASIMOは手首の力センサーでどちらに引っ張られているのか分かるので、引かれるほうに歩くことができるのだ。将来的にはASIMOが逆に高齢者の手を引いて歩くことを実現したいという。


 広瀬氏は1986年7月にホンダに入社。入社後すぐに「アトムをつくれ!」と業務命令を下された話は有名だ。その後、ASIMOに至る前に実験モデルのEシリーズ、プロトタイプのPシリーズを開発してきた。当初は、自分が歩いている様子をそのままプログラミングすることを目指し、自分の足の寸法からロボットの足のリンク長を決め、さまざまな値を計測して、脚機構を決めていった。

 研究過程において「人が歩く」という機能の素晴らしさを痛感したという。その知見を活かしたのが「歩行アシスト」である。人間にとって二足歩行とは、ある一定の歩幅とリズムを重力のなかで生み出していくことだ。「体重をいかに支えるか」ということ、「歩幅と歩行のリズム」の2つに着目して、今は2タイプの歩行アシスト装置の開発を行なっている。それが「リズム歩行アシスト」と「体重支持型歩行アシスト」だ。

 「リズム歩行アシスト」は今はリハビリ施設で協同試験を実施しており、「体重支持型歩行アシスト」は工場内での有効性を検証中だ。リズム歩行アシストとは、脚の振出を補助することで「歩幅と歩行のリズム」を調整する。楽に、より早く、遠くまで歩けることを目指したものだ。いっぽう「体重支持型歩行アシスト」は中腰での作業を助けるための機器だ。力が、人間の身体の重心に常に向くようにモータートルクを出力することで、中腰作業のほか、階段や坂道の移動や巡回・配達作業などに使えるのではないかと考えられている。2008年11月の「体重支持型歩行アシスト」発表後の意外な反響としては、長時間手術を行なう医師の負担を助けることに使えないかとか、やはり立ちっぱなしで作業する散髪屋からの問い合わせ等もあったという。安全面での技術をこれから進めることで、市場に出せるものにするように、今は努力中とのことだ。


デビュー後のASIMOの活躍 ASIMOの機能 二足歩行の研究の歴史

歩行研究を二つの歩行アシスト技術へと応用 リズム歩行アシスト 体重支持型歩行アシスト

芝浦工業大学工学部電気工学科教授の水川真氏
 芝浦工業大学教授の水川真氏は、2030年には日本だけではなく世界中のほとんどが高齢化社会を迎えると指摘。そのときに人が自分の尊厳を持って生きるために技術を使いたい、と講演を始めた。そのような背景で考えられたのが、経済産業省の「技術戦略マップ」である。ロボットサービスを家庭に入れるためには技術のコストダウンが必要だ。機器同士の連携や統合がそのための鍵となる。さまざまな機器が互いに乗り入れて使えることができるようになれば、全体のコストが安くなるからだ。こうした背景で開発されているのが「RTミドルウェア」である。分散オブジェクトとして書かれたソフトウェアが共通プラットフォーム上で動くというコンセプトだ。政策としてもさまざまなプロジェクトが走っているが、「生活支援ロボット実用化プロジェクト」がこの3月から公募が始まったばかりだ。さまざまな法整備や安全基準、保証の仕組みも重要となる。まずは公共空間に入れていき、最終的に家庭への導入を目指していると現状を紹介した。

 問題は市場だが、現状の技術では、役に立つものにしようとするとどうしても高価格になる。本当に身近なところでロボットが使われるようにするためには、技術や部品の共通化を進め、さまざまなところからの市場参入が可能になるようにしなければならない。水川教授はコンピュータの歴史を振り返った。コンピュータは最初は純粋な計算機だったが、いまやコミュニケーション装置として使われるようになっている。また道具の歴史を見ると、脳の中で考えたものを外に出して共有化してきたことで文明が発展してきたともいえる。では人の物理的な機能も外に出してやることはできないか、という考え方で、水川教授らはエージェントロボットの研究を行なっている。愛知万博で出展されたエージェントロボット「PAR04R」はその一つだ。ポインターで指示された物品をカメラで発見して取って来てくれるロボットである。人間相手にはちょっと頼みにくいことをかわりにやってくれるロボットとして研究しているという。

 そうするとシステムとして部屋のなかの他の機器とどのように連携させるかが重要になる。ロボット単品だけではなく、周囲の環境も賢くしなければならない。「RTミドルウェア」はそのような考え方で生まれたものだ。部品、ソフトウェア、サービスを部品化して共有できるようにすることで、多くの人がさまざまなレベルでビジネスに参入できるようにすることが重要だという。RTは、ITよりも大きな枠組みであり、ITよりも大きなインパクトを与えるものだと述べ、最後に芝浦工大におけるユビキタス環境下でのロボットサービス研究の例を紹介した。生活シーンのなかで空間と人がやりとりすることを中心に、タスクの実現を目指しているという。


万博に出展された物理エージェントロボット「PAR04R」 物理エージェントの概念 RTミドルウェアとモデルベース設計でロボット開発を効率化

芝浦工大でのユビキタス環境下ロボットサービス研究 ロボットは情報世界と物理世界のブリッジシステム

社会的・経済的にもロボット技術を役に立つものにするためには

パネルディスカッション
 このあとディスカッションでは、長年高度な研究が行なわれているのは分かったが一般人が欲しいと思うような商品として普及しないのはなぜかという問題提起が会場から行なわれ、それに対して各パネリストたちが、研究者達も努力していること、特に2001年以降は政策的にも動いていること、社会的な理解や支援が必要であることなどが述べられた。パネリストたちは、ロボット技術はサービスを提供する手段の一つであり、「ロボット」というシステムインテグレーションされた技術プラットフォーム的な存在から、今の世界で社会的・経済的な側面で見ても使える機能をいかに絞り込んで切り出すか、そのために技術をどのようにアレンジしていくかが重要だとする面では意見が一致していた。また、普及に関わるあらゆる面において人材教育・育成が重要だという。


メンタルコミットロボット「パロ」
 また会場でメンタルコミットロボット「パロ」のデモを行なっていた首都大学東京システムデザイン研究科 准教授の和田一義氏からは、日本国内での導入の苦労が語られた。パロは病院等で使うことを想定し、抗菌加工されており、またバッテリやモーター周りは電磁シールドされている。ハードウェア面での安全性は高いという。だが日本国内では物理的サポートを行なわない機器は福祉機器としての認定は受けられない。しかしながら、福祉が充実しているデンマークでは予備的な研究の結果が良かったことから、高齢者ケアを行なうデンマーク国内1,000以上の施設ほぼ全部にパロが導入されることになったという。日本人は「パロ」に対しても、薄型テレビなどと同じ感覚で「来年になれば価格は下がりますよね」と聞くことが多いそうだが、国や行政の支援があれば、一気に普及する可能性はあるという。


東北大学工学研究科教授 小菅一宏氏(左)とコーディネータをつとめた首都大学東京教授 山口亨氏
 最後に東北大学工学研究科教授の小菅一宏氏が講演全体を振り返り、講評を行なった。まず小菅教授は平成11年4月にまとめられた日本学術会議の「新たなる研究理念を求めて」と題されたレポートを紹介した。そのなかで東北大学の岩崎俊一名誉教授は、技術の研究から実用化には、仮説の提唱と実証からなる1) 創造モデル研究、一次モデルの標準化や普及過程からなる2) 展開モデル研究、そして二次モデルの実社会への融合からなる3) 統合モデル研究の3段階が必要だと提唱しているという。つまり技術を普及させるためには、「実社会への融合」が不可欠であるということだ。

 なお岩崎氏は、1977年にハードディスクドライブの垂直磁気記録方式と記録原理を開発したことで知られている。垂直磁気記録の実用化には実に30年以上の年月がかかっているが、原理的には1977年に提唱されていたものがそのまま使われている。

 また少子高齢化社会を迎えるので、社会コストを低減していかなければならない。つまりロボット技術が実際に社会で使われるようにするためには、技術で社会コストを低減できる形にして、実際に社会に適用・統合しなければならない。ただロボットは産業用ロボットが使われはじめてまだ50年程度の若い技術であり、そのため社会全体の受け入れ態勢もまだ整っていないのが現状である。小菅教授は最後に「皆さんと一緒に生活支援ロボットを実際に使って、社会コストを下げて、その分のエネルギーを有意義なところに使っていけるようにしたい。ロボットはまだまだこれから。これからもご支援を頂きたい」と会場に呼びかけて、シンポジウムを締めくくった。


「新たなる研究理念を求めて」 技術の普及のためには「実社会への融合」が不可欠 ロボットは要素技術を組み合わせることで問題解決するための手段

 なお会場は、記者が見渡した範囲では学生と思しき若い人たちと高齢者の姿が目立ち、中間年齢層は比較的少なかったように見えた。土曜日開催だったので所用の多い家族層が少ないのはやむをえないところだが、やや寂しい実情を反映しているようにも思えた。ただ逆の見方をすれば、これからロボットを開発する若い年齢層と、実際にロボットを必要としている年齢層が聴講していたとも言えるのかもしれない。人がいる場所でロボットを使うことはまだまだ難しく、またビジネスと研究の間には大きな落差がある。シンポジウム中で指摘されていたように将来技術と直近の実用化技術の研究バランスも重要だ。今後の発展に期待する。


URL
  東京都
  http://www.metro.tokyo.jp/
  ロボットが支える未来の高齢者生活
  http://www.metro.tokyo.jp/INET/BOSHU/2009/02/22j23200.htm

関連記事
東北大学、「食器洗浄・収納パートナロボット」を発表
~業務用の食器洗浄作業代替ロボット(2009/03/25)

ZMP、miuroを利用した次世代音楽配信サービスを首都大学東京と共同で研究開始
~miuroの新たな使い方を提案するSDKも受注開始(2008/12/24)

ホンダ、「体重支持型歩行アシスト」の記者会見を開催
~まずは業務支援用として検証を開始(2008/11/07)

早大菅野研、人間共存ロボット「TWENDY-ONE」を発表
~受動的な人間追従能力を持ち、家庭内での介助補助等を目標(2007/11/28)

『ロボット創造教育』シンポジウム・レポート(2007/03/07)
2007先端ロボット技術産学連携フォーラムが開催(2007/03/06)


( 森山和道 )
2009/03/31 14:56

- ページの先頭へ-

Robot Watch ホームページ
Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.