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東北大学、「食器洗浄・収納パートナロボット」を発表
~業務用の食器洗浄作業代替ロボット


 3月24日、東北大学大学院工学研究科 小菅・平田研究室、同橋本・鏡研究室、そしてセイコーエプソン株式会社、野村ユニソン株式会社、株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ、ホシザキ電機株式会社らは、共同で片付け作業用マニピュレーションRTシステム「食器洗浄・収納パートナ」を開発したと発表し、報道陣に対してデモンストレーションを行なった。NEDO技術開発機構の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」の支援を受けて3年間かけて開発したロボットで、画像処理システムとマニピュレータを使って重なった食器を1枚ずつハンドリングし、洗浄機に入れて、洗浄が終了した食器を所定のかごに収納する一連の動作を実行する。

 レストラン、ホテル、結婚式場、病院、介護施設など人に食事を提供する現場のバックヤードでは、食器洗浄・殺菌、そして食器の収納作業が必須である。東北大学大学院工学研究科の小菅教授は「ロボットが活躍するべき場所はバックヤードにある」という。現在の作業はすべて人手で行なわれている。食器を下げてきたら、まずは残飯廃棄、粗洗いをしたあと、食器の大まかな分類をして洗浄・殺菌、収納という手順を辿る。

 開発したシステムは、食器洗浄器を中心とし、その脇にマニピュレータを2本とカメラとレーザーを使った3次元位置計測装置を付けたもの。食器洗浄そのものは食器洗浄器が行なう。食器洗浄器への投入側と出てくるところにマニピュレータが設置されている。

 手順としては、粗洗いと食器を種類別に積む作業までは人が行なう。システムはまずカメラとレーザーレンジファインダーで食器の種類・位置、枚数などを計測。そしてマニピュレーターが食器を1枚ずつ把持してラックに入れていき、そのラックを食器洗浄器にセットする。洗浄作業が終了したら、出口側のロボットアームがまだ食器を一枚一枚取り出して収納かごに入れていくというものだ。人間がやる作業は粗洗いと食器を積むまでで、あとはロボットに任せておけば保管庫にまで入れてくれるというシステムである。


小菅教授。今回開発されたロボットによる食器の把持を解説 現在の食器洗浄作業 作業工程の一部をロボット化

 課題は、食器の把持にあった。通常は指先で把持するか、包み込んで把持する。これらの持ち方は摩擦力を利用している。だが人間は指先で食器を引っ掛けて食器自体の自重を使って安定させることで食器を持つ。この「ラテラル・グラスプ」と呼ばれる持ち方を今回のロボットにも採用した。フックにひっかけて自重で安定させることにより、摩擦力を使った持ち方よりも安定させることができるようになったという。

 画像処理には橋本・鏡研究室が開発した手法が用いられており、画像を使って食器種類を識別し、把持する位置をレーザーでポイントして3次元位置を計測する。異なる食器をどこにおいても種類と位置を認識できるようになった。認識された食器のデータは食器のハンドリングを行なうために事前に構築された「マニピュレーション・スキル・データベース」と照合され、食器の種類によって変化する作業戦略に基づいてマニピュレータやエンドエフェクタのグラスピングシステムに指令が送られる。ロボットは食器の種類に応じて指の姿勢を変化させてグラスピングを実行。これらのソフトウェアは統合ソフトウェアによって管理され、作業内容はカスタマイズすることもできる。


「食器洗浄・収納パートナロボット」システム全体 画像認識結果を元に2台のマニピュレータが連携する 食器を引っ掛けて把持するロボットのハンド

茶碗をつかむ様子を連続写真で(1) 茶碗をつかむ様子を連続写真で(2) 茶碗をつかむ様子を連続写真で(3)

今回デモに使われた食器 画像認識の様子 2つの手法で食器を認識し統合センシングネットワークがまとめる

デモンストレーション

 デモンストレーションは、実際に病院で用いられているという食器を使って、ロボットが一連の動作を実行していった。なお今回は洗浄機は実際には動いていない。


【動画】まずは人間が食器を積む 【動画】食器洗浄器のフタが開く 【動画】マニピュレータが食器を1枚ずつトレイに入れていく

【動画】皿をグラスピングする様子 【動画】茶碗をつかむ様子 【動画】皿を一通り入れたら食器洗浄器にセット。そしてもう1本のマニピュレータも作業開始

【動画】茶碗をトレイに入れていく。後方ではもう1本のマニピュレータも作業中 【動画】洗浄が終わった皿を1枚ずつ収納かごに移していく 【動画】茶碗を収納かごに移していく様子

 なお粗洗いを人間が行なうままにした理由は、技術的に難しいからだという。家庭用の食器洗い機ではミストなどを使って食べ残しなど付着物を落としているが、業務用では高速に作業をこなす必要があるため、人力でかなりの部分をまず洗ったあとに食器洗い機に入れているのだそうだ。そのため今回のシステムではまず下流から攻めて行くことにし、洗浄器に出し入れする部分のロボット化を選んだ。

 具体的には100床くらいの病院を想定して開発したという。100人の食器は、食器のフタも含めておおよそ一人当たり10種類10個程度、つまり全体でおおよそ1,000個程度になる。それを食事終了後、次の配膳時間が来るまでに速やかに収納することを目指して開発した。今回のシステムではまだ人手に負けているが、将来、産業用ロボットと同じくらいに高速化できれば人に勝てるようになり、人件費削減が可能になる。

 このシステムを使うことで、技術的には摩擦力に頼らずに食器を安定に掴めるようになったことが一番のポイントだという。たとえば食器は洗うと濡れるわけだが、そうすると滑ってしまう可能性も高くなる。そのためにも摩擦力に頼らず把持することができるようになったことは大きいという。またこのロボットは将来は10倍速くらいにすることも可能だが、摩擦力に頼らずに機械的に食器を把持しているので高速に腕の先を動かしても食器がすっぽ抜けたりすることはあまりないと考えられるという。

 なおこのシステムはNEDO技術開発機構の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」の支援を受けて開発していたロボットだが、ステージゲート(中間評価)の審査を通過できなかった。だが小菅教授は「おそらく摩擦に頼らずに食器を把持するシステムはこれしかない」と語り、今後も時間はかかるだろうが実用化に向けて開発を進めていきたいと述べた。将来的には人件費削減や安全性・衛生面の向上を目指す。ハンド部分はハーモニックドライブ株式会社が作ったもので今後販売していく予定もあるという。


デモ中、失敗なく動き続けた 今後実用化を目指すという プレス発表には東北大学機械系特任教授を務める作家の瀬名秀明氏も姿を見せた

URL
  東北大学
  http://www.tohoku.ac.jp/
  東北大学小菅・平田研究室
  http://www.irs.mech.tohoku.ac.jp/
  橋本・鏡研究室
  http://www.ic.is.tohoku.ac.jp/ja/

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( 森山和道 )
2009/03/25 00:14

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