11月27日、早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科 菅野重樹研究室は、人間共存ロボット「TWENDY-ONE」を開発したと発表し、報道関係者に対してデモンストレーションを行なった。
「TWENDY-ONE」は身長146.7cm、重量111kg。台車型の全方向移動機構を持つ、上半身型ヒューマノイドだ。13自由度からなる片手4本の手指を持ち、全自由度は47(腕7×2、ハンド13×2、首3、胴体屈曲3、胴体旋回1)。頭部にはスピーカと2眼CCDカメラ、状態表示LEDを備える。また全身に分布型圧力センサを搭載し、外力に適応した作業が可能。大学の研究用ロボットだがワイヤーハーネスはすべて内蔵され、外装に覆われている。
腕部には肩と肘の4自由度に軽量でコンパクトな機械的なバネ(トーションバー、ねじり棒バネ)を用いた「受動柔軟関節機構」を採用している。これによって環境と接触する動作において、認識誤差が生じても機械的受動性で誤差を吸収できる柔らかな動作が可能となっている。
腕部全体には合計53点の分布型圧力センサーを搭載。さらに手の甲、前腕、肘の表面には「衝突安全被覆」を搭載し、人間と接触した場合の安全性を高めている。また圧力センサーを用いて、人間の介助支援など腕全体を用いた重量物の運搬も可能だという。両方の腕先だけで約22kg、前腕とあわせれば最大約34kg程度の力で人間を支えることができるという。全体の関節をコンパクトにしつつ、高出力のアクチュエータを内蔵した。
肘部外形は球面状に設計されている。これは人間と同様に机に肘を接触させることで手先での精密な作業を可能にするため。
胴体部分は屈曲3、旋回1の自由度を持ち、たとえば「上体をかがめて物体を拾う」といった、床上作業ができる。
バックパックには計測制御用小型コントローラー7台を内蔵。胴体中央のLEDは内部状態に応じて発光パターンが変化する。胸や背面にも分布型圧力センサが埋め込まれており、人とのふれあいや接触を検知し、適応的に振舞うことが可能となっている。
台車部分には超音波センサーを搭載し障害物検知機能を持つ。また6軸力覚センサーによる接触検知機能を備えている。
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背面
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背面下方から
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愛嬌のある顔には画像認識用のCCDとスピーカ
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かなり筋肉質な印象の腕
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人間と同等の自由度配置・関節構造を採用した手
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親指の付け根には人間同様、母指丘がある
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ボディ中央には状態表示に使えるLEDを装備
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胴体の旋回と屈曲軸
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両手を広げた状態。この状態で人間の体重を一時的にサポートする
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人間型の手指は人間と同等の自由度配置・関節構造を採用。全体は人間の手のように柔軟材に覆われており、片手全体で241点の分布型圧力センサを備える。各指の指先には小型6軸力覚センサーが取り付けられている。指の先端部は圧力調整が可能な曲面形状で、爪がつけられている。これらにより、やわらかいプラスチックコップの安定把持のような、高度なセンサフュージョンが可能だ。
DIP関節(遠位指節間関節、指の先)とMP関節(中手指節間関節、指の付け根部分)には、なじみのための受動関節機構が搭載されており、複雑な対象物にもなじみ動作を行なうことで誤差を吸収、安定した把持動作を実現している。人間とほぼ同じ把持動作が可能で、把持動作と把持動作との間をつなぐことで操り動作も可能となっている。
頭部は旋回と屈曲の2自由度で、首をかしげる動作が可能。ステレオカメラによる視覚認識、スピーカによる発話、カメラ周辺のLEDを使った内部状態表出、頭頂部に搭載した6軸力覚センサを使った接触検知など、人間との多彩なコミュニケーションができるという。
デザインは株式会社インクスと共同で行なった。人間がロボットに対面したときにどういうイメージを受けるか考え、温かい感じがするように、表面の素材まで含めて検討を行なったという。
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TWENY-ONEの特徴
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胴体部分の屈曲軸を使うことで床の上のものを拾い上げることも可能
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全身に力覚センサーと圧力センサーを使った触覚機能を持つ
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さまざまな把持姿勢をとれる
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頭部にも6軸力覚センサーを内蔵
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台車はオムニホイールを用いた全方向移動機構
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デモは、お年寄りが朝ベッドから起きて朝食を作る過程を支援する、という設定で行なわれた。被介助者はロボットをまず杖のように使ってロボットに体重を預けつつ起き上がり、車椅子に移動。その後、朝食のためにロボットに命令して冷蔵庫からケチャップを取り出させ、トーストをトングでつまんでお皿に載せ、配膳のためにお盆を運搬するといったシナリオ。
なおロボットはバッテリは搭載しているが、10分から15分程度しかもたないとのことで、デモは電源ケーブルをつけた状態で行なわれた。被介助者はBluetoothのヘッドセットを使って音声で命令を出している。
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【動画】挨拶し、被介助者を助けつつ起きあがらせ、車椅子へ移乗
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【動画】別角度から。まず手を認識し、起きあがりのために力を入れやすい位置まで手を移動
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【動画】自己位置を確認しながら全方向台車で台所へ移動
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【動画】別角度から。食パンもトングも普通の道具
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【動画】アップで
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使用したトングはごく普通の市販品
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また、器用さを示すためのデモも行なわれた。テーブルに置かれたストローを指先でつまみ、持ち替えたあと、右腕でプラスチックのコップを持ち上げ、そのなかにストローをさし、差し出す。なおコップのなかに入っているのは液体ではない。
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ストローをつかんだところ
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指先で器用に持ち替える
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安全性を示すためのデモ。作業中に外乱を与えてもそれに対応する。
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菅野重樹教授
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TWENDY-ONEという名前は、「21世紀(Twenty One)」と、早稲田大学菅野研究室が1999年に発表し、これまで開発を続けてきた人間共存型ロボット「WENDY (Waseda ENgineerign Designed sYmbiont)」とを組み合わせたもの。菅野研究室ではWendyをベースにしたロボットの開発を2000年から行なっており、7年目の研究の成果として今回の発表にいたった。
ロボットが本当に役に立つためには、人間と共存するための安全性やコミュニケーション能力、それと、作業ができるだけの巧みさ、それなりの力、移動能力が必要となる。最新技術を統合化し、パワーと巧みさなどの作業能力と、ふれあいなどコミュニケーション能力を両方搭載したのが今回のTWENDY-ONEだという。
「これだけの機能を搭載しなければ、人間共存はできない。ここまでシステムインテグレーションしているロボットは世界でも例がないと思う」と菅野教授は自信を見せた。今後、菅野研究室では、各部の調整と評価実験を行なった上で、人間支援作業を知的に行なうためのシステム作りを進めていく。目標は2015年に1,000万円~2,000万円程度の価格で実用ロボットを開発することだという。
なお開発協力企業のうち発表資料に掲載されたものは以下のとおり(五十音順)。株式会社インクス、インターフェース株式会社、大阪富士工業株式会社、関東自動車工業株式会社、共栄エンジニアリング株式会社、株式会社キョウデン、株式会社ジェルテック、電化皮膜工業株式会社、東京特殊電線株式会社、株式会社豊田中央研究所、株式会社ナテック、株式会社ハーモニックドライブシステムズ、株式会社PFU、ビー・エル・オートテック株式会社、Pressure Profile Systems,Inc.、不二ラテックス株式会社、富士通株式会社、富士通オートメーション株式会社、矢崎総業株式会社、株式会社安川電機。
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早稲田大学のロボット開発の歴史
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TWENDYにいたる道
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TWENDYは、21世紀の「WENDY」
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開発メンバーの一人・早稲田大学高等研究所准教授の岩田浩康氏
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■URL
早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科 菅野重樹研究室
http://www.sugano.mech.waseda.ac.jp/index-j.html
TWENDY-ONE.com
http://www.twendy-one.com/
( 森山和道 )
2007/11/28 01:03
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