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ロボットビジネスの勘どころ
~平成20年度 第1回神戸RT研究会レポート


 7月10日(木)、神戸市産業振興センターにおいて、平成20年度「第1回神戸RT研究会」が開催された。主催は財団法人新産業創造研究機構(NIRO)、神戸市。

 神戸市では「元気な産業のまち」の実現と、ロボット王国神戸をめざし「神戸RT構想」を推進している。神戸RT構想の中核機関として、2002年6月にNIRO「神戸ロボット研究所」が設置され、産官学民の連携により、医療、福祉・介護、レスキュー分野を中心としたロボット研究を続けている。

 それをうけて2002年7月に発足した神戸RT研究会は、研究者・企業等の講演や、RTの最新情報、活用事例のセミナーを定期的に行なっている。

 今年1回目のRT研究会は、2006年に「ロボット清掃システム」でロボット大賞、2007年は「連結式医薬品容器交換ロボット」が産業用ロボット部門の優秀賞を受賞した富士重工業株式会社 戦略本部 クリーンロボット部 部長の青山元氏を講師に招き、サービスロボット事業化について講演を行なった。


「エレベータ連動式清掃ロボットシステム」2006年ロボット大賞受賞 製薬工場向ロボット「容器搬送ロボット」と「スクラバロボット」

富士重工のサービスロボット事業化について

青山元氏(富士重工業株式会社 戦略本部 クリーンロボット部 部長)
 青山氏は、昭和54年に富士重工(スバル)に入社。その後、平成1年(1989年)にできたスバル研究所に移り、そこで無人機を真っ直ぐ走らせる研究をしていた。2年ぐらいで成果が出たので、当時、富士重工が駅構内の洗浄ロボットをやっていたことから、清掃ロボットの開発を始めたという。

 青山氏は、「清掃ロボットは開発を始めて2年くらいで形になったが、売れるようになったのは、ここ5年くらい」といい、事業が軌道に乗るまでどのようにしてプロジェクトを存続させてきたのか、またその間の事業化へ向けての準備について語った。

 「実用的な売れるロボットを作りたかった」と青山氏はいい、開発当時から一貫して“丈夫で安価、操作しやすい”をコンセプトにしている。

 この単機能特化路線を、今でも守っている。出来ることは限定されるが使い勝手のよいロボットを製作し、そのアプリケーション毎に必要最小限の機能をつける方針だ。基本設計は、可動部・センサー・アクチュエータを極力排除してシンプルにすること。誘導制御は、ロボットに全てを任せるのではなく、ビル内に磁気テープ、ICタグ等の外界センサーを設置してある程度利用するなどして、安価なシステムの実現を目指した。

 このように外界にセンサーを設置することは、今でこそ「環境の構造化」と言われて積極的に取り組まれるようになっているが、当時は「ロボット技術じゃない」と言われ、かなり批判を浴びていたという。それでも、青山氏は「費用を抑えるためには仕方がない」と採択した。

 ロボットを開発する際は、“清掃”という機能を念頭におき形状を設計したという。サイズも、片開きのエレベーターのドアは幅が800mmだから、左右50mmの余裕をとって700mmがロボットのサイズになると自ずと決定した。円形ならセンサーが前方だけですむ。ただ円形ではかっこわるいので、両脇をスパっと落とした。センサーは、ボディの中心から円になるように全体に網羅することで数を減らしたそうだ。

 まずこのようにサイズや外側の形状を決定してから、清掃装置がその中に入るように設計したという。こうした設計方法はスバル360のやり方を真似したそうだ。


クリーン事業部の事業方針 サービスロボット開発コンセプト 富士重工のビジネスモデル。キーワードは「単機能特化」

 富士重工が開発しているロボットは、大きく分けてサービスロボットと特殊用途ロボットに分類される。

 青山氏は、プロジェクト発足当初からサービスロボットの事業化を目指してきたが、すぐに事業を軌道に乗せることは難しかったという。プロジェクトは赤字になるとすぐにつぶされてしまうため、回転資金を得るために特殊用途ロボットを開発したり、RT(ロボットテクノロジー)を活用したシステム開発なども行なってきた。

 例えば、栃木県宇都宮市の図書館に貸出手続確認装置を作った。宇都宮は人口45万人で、1つの図書館に100万冊の本がある。そこでは年間8,000冊の本が盗まれていたそうだ。図書館は2館あるため、年間1万6,000冊、それも高い本から盗まれていたという。

 ビデオショップ等の盗難防止装置は電磁波を使っているが、電磁波はペースメーカーに影響があるため、ICタグを使って欲しいという要望があった。ICタグで検知率を上げるために、床にもアンテナを埋め込み、柱間と上下からクロスするように電波を飛ばしている。また、タグも3方向から検知するアンテナをつけて、電波を螺旋状に飛ばす円波形という技術を使い、遮蔽物の裏側まで検知できようにした。このシステムを導入することで盗難被害が年間1,000冊になり社会貢献ができたという。

 青山氏は、「この仕事は、タグのよい勉強になった」という。ICタグはよくロボットに使われているが、水分がちょっとあっただけでも使えなくなるなど扱いが難しい。屋外で稼働するロボットにICタグを使っても、無駄だろうと青山氏は指摘する。「使用環境を無視して技術を使っても実用化には届かないということを、各メーカーはもっと真剣に考えるべきだ」と強く主張していた。


特殊用途ロボット。サービスロボットプロジェクト継続のために受注したという ロボット技術と情報技術の応用「ゴミ交換ロボットICタグゴミ計量システム」 宇都宮市立図書館 ICタグ図書貸出手続確認装置

 事業を始めた頃は、ロボットの単体発売を考えていたが、単価が安いためビジネスとしては厳しかったという。そこで、ビル全体のメンテナンスシステムの開発と、メンテナンスサービス業までシステムを一環して行なうという事業方針に転換した。

 市場については、フィールドを確保すればなんとかなると考え、プロジェクト発足時の経営会議で「市場はないが、作ればいい」と青山氏が主張したそうだ。

 ちなみに、事前にマーケティング調査は行なわなかったという。

 テレビや冷蔵庫のように既存の機械ならばともかく、サービスロボットはユーザーにまだ明確なイメージがない。例えば、老人を抱きかかえてお風呂に入れてくれるサービスロボットがあればいいなとは誰もが考えるだろうが、どういう仕様だったら売れるのかはイメージがない限りわからならい。

 まだサービスロボットの市場がないのに、マーケティングを行なっても意味がないというのが青山氏の意見だ。

 青山氏は、マーケティング調査の代わりに、ビルの清掃作業に従事する人の年齢を全てチェックした。その結果、若年層が少なく高年齢層が多いことがわかった。調査結果を見て、「数年後にはどうするのだろう?」と思い、これなら市場はなんとか自分で作れると確信を得たそうだ。

 実際には、ロボットが効率よく稼働するだけの広さを持ったフィールドは、あまりなかった。そこで、面積を稼ぐためにエレベータでフロア間を移動する今の清掃ロボットになったという。


営業面では、コスト比較を明確化しメリットを数値で示すことが必要 人とロボットの協働に関するコンサルティングが重要となる ユーザーと共同で開発をすることで、実用的なサービスロボットが生まれる

 サービスロボットを事業化するため、重要になるのが生産管理だ。青山氏は、開発チーム内の情報伝達体制の整備を徹底することに時間を費やしてきたという。情報の伝達や原価管理は当然のこととして、特に重要な問題は制御ソフトの体系化や管理だったという。

 これを徹底するために、青山氏のグループは全ての情報を紙に出力し、ファイルを作っている。ファイルには、全て青山氏がチェックを入れる。これをやらないスタッフには厳しく叱責し、情報共有の意識を徹底周知するのには10年位かかったそうだ。

 ロボットの図面体系は、造船関係を参考に独自のものを考案したという。たとえば、機能別モジュールの図面体系には、「戦艦大和誕生〈上〉西島技術大佐の大仕事」(講談社)などを参照したそうだ。

 従来の機械系の図面は、メカのフレーム図、電気系の体系、艤装系の体系がそれぞれ別になっている。まずフレーム組み立てをやって、艤装部品を取り付けて、ハーネスをつけるという流れだった。

 これを上・中・下フレームと3分割構造にし、上フレームには艤装計やハーネスをつける。中間にはセンサーだけ、下回りには全荷重を受けるという構造にした。そうすると、各フレーム別に試験できるようになる。

 それをモジュール毎にブロックとして、電気も機械も関係ない図面を描いた。1枚の図面にプログラムの入出力、コネクタの工具名、配線、材料、種類、長さなど全ての情報を含む新たな図面体系だ。

 つまり基板もメカもモノとして捉え、セル生産のようなやり方で図面を見て、現場で組み立てられるようにしている。これも造船のブロック工法のやり方を真似ているという。

 このようにすると、上下それぞれ別にテストをすることができ、部品メーカーに発注ができる。将来の事業化を見込み、平成6年からこうした体系を整えてきたという。


ロボット生産では、戦略・戦術・戦務が重要 従来の艤装方式 富士重工が取り入れたモジュール方式

構造の説明図 フレームの概要 フレームの写真

 制御プログラムも、機械図面の管理方法を参考にしている。制御定義、フローチャート、プログラムリスト、関連資料まで文書管理をきちんとしないかぎり、コーディングは一切させないと青山氏は語気を強めた。

 機械の図面は、部品メーカーや機械工場など第三者が見て作ることを前提にしている。ところがプログラムは、考えた本人が自分でコーディングするため、ドキュメントがいい加減になりやすい。プログラムも機械図面と同じように、文書表を見て第三者が作れるような段階までもっていかないかぎり、絶対コーディングをやらせないという方針を徹底したという。

 これに反発して辞めた技術者も何人もいるそうだ。青山氏は「それでもいいと思っていた」という。「設計ができても、紙に書けないやつはいらない」とまでいう。そのくらいの意気込みでなくては、徹底した管理はできなかったのだろう。

 青山氏によると、“制御ソフトの開発は複数人で長編の推理小説を書くようなもの”で思考を統制するためには、思考の手順を体系化と視覚化する必要があった。その手段として、KT法(ケプナー・トリゴ・プロセス)という問題解決技法を活用している。KT法に沿って、状況分析 ・問題分析・決定分析など問題点を紙に書き出し、検討は必ずそれを見ながら行なうそうだ。

 ハードウェアについては、スカンクワークスという手法で、購買部の権限を技術者に全て移した。計画ができたら必要な部品まで全部分かるハズなので、その時点で発注し図面ができた時には部品が入るようにし、開発スピードをアップしている。


メカ設計の図面表に相当するソフトウェアの文書表 思考の統制化が重要 KT法に基づいて、問題点や解決方法を明確にする

 事業化のためには、知的財産の問題もクリアしなくてはならない。ソフトウエアに関しては特許侵害されているかどうか検証ができないため、特許出願をしていないという。その他、現場のノウハウ的な技術も特許になりにくく、また公開したくないため出願していないそうだ。

 となると、従業員のノウハウ等の対価や、職務発明をどうするかが問題になる。会社が特許出願しないと、従業員の職務発明に対する規定(特許法35条)が有効にならないため、報奨金などの査定で不利になるのだ。

 社内の問題に関しては、特許出願と同等の書類を作成すれば、職務発明として認めるよう取り決めたそうだ。

 社外への対策としては、特許出願する代わりに特許法79条(先使用による通常実施権)を適用し防衛しているという。これは、特許権の取得者よりも先に発明を完成したが、特許を出願しなかった者や出願が遅れた者を保護するための制度だ。特許の出願をしていなくても、発明時期を証明できれば、実施権を得られる。

 発明時期を証明するために、特許申請と同等の書類や資料を作成し、自分宛に書留郵便で送っておく。消印が有効なので、専用実施権や損害賠償権は得られないが、通常実施権(独占的ではなく単に実施するだけの権利)は確保できる。

 この方法は、ソフトウエア開発には有効なやり方であると青山氏は語った。

 青山氏は最後に、「メンバー全員が仕事の進捗、情報を共有するための伝達体制をとるために、モジュール化に合わせた図面やドキュメントの体系管理を徹底することに非常に苦労し時間を掛けた」ことを強調して講演を終えた。


サービスロボット出願特許の問題点 特許出願をせずに、特許法79条を適用している 特許法79条に関連する条項

男性用便器洗浄ロボット「ダスベエ」開発状況報告

下土井康晴氏(明興産業株式会社代表取締役)
 続いて、2008年4月に神戸空港ターミナルで発表された男性用便器清掃ロボット「ダスベエ」の開発状況を、明興産業株式会社代表取締役の下土井康晴氏が報告した。

 ダスベエは、社団法人神戸市機械金属工業会のロボット開発委員会に参加する明興産業株式会社、マーテック株式会社、日本エコロ株式会社の3社が、NIRO神戸ロボット研究所の技術支援を受けて共同開発した。このプロジェクトは、平成19年度の神戸ロボット研究開発費補助制度の採択を受けている。

 男性用小便器は形状が複雑なため、人がブラシで洗うと作業クオリティのばらつきが発生しやすい。ロボットの導入により作業の均一化と、メンテナンスコストの削減、衛生環境の向上を目指すとともに、3K作業に従事する作業者の負担を緩和するのが狙い。作業者によって水の使用量が増減するため、高圧洗浄により少量の水で効率よく便器を洗浄するため、清掃コストの低減も期待できる。

 便器が汚れ悪臭を放つのは、表面に水垢が付着し、その谷間に尿や汚物が溜まるのが原因だという。一旦、付着した汚物が尿石として固まると、紙ヤスリ等でこそげ落とさなくてはならなくなる。

 こうした汚れが溜まりやすいのは、ブラシなどでは洗い難い便器の端の返り部奧や排水口である。絵の具を塗って洗浄実験したところ、高圧の洗浄システムを使っても、水の勢いだけでは汚れは落とせないことが分かったという。

 そのため、尿石を落とすために自然環境に優しい専用洗剤を開発し、水圧+洗剤の効果で洗浄力をアップする方法をとっている。

 洗浄は、洗浄剤を塗布して30秒ほど置いてから、ノズルが下から上に12秒間水を噴射する方式。水の使用量は1便器あたり1.8リットル。タンク容量が40リットルのため、1回の給水でおよそ20便器の洗浄が可能。今はノズルが1つだが、6方向に水を出して便器返り部など水圧が届きづらいところもカバーできるよう改良中だという。


男性用便器洗浄ロボット「ダスベエ」 便器の悪臭原因 ブラシで洗いにくいところに汚れが蓄積しやすい

 ダスベエの販売には、導入時に付着している尿石を徹底的に除去し、便器に汚れが付着しづらいようにコーティングを施すシステムが必要ではないかという意見がでており、検討中だという。


メーカーの一般的な対策 ダスベエ導入の流れ ダスベエの操作方法

ダスベエの機構 噴射テストの状況

 顧客ターゲットは、高速道路のSA/PAなどを考えている。先日、三木のSAでテストを実施した時には、道路公団各社と清掃作業員の方が見学し、活発な質問や要望を得たという。

 ダスベエのサイズは、本体が幅870×奥行き946×高さ1,247mmだ。大きなハンドル(両耳)を押すとキャスターが転がるため、見た目ほどの重量感はないが、女性作業員からはもっと小型化してほしいという意見が多かったそうだ。

 便器にはさまざまな形状やサイズがあるが、幅40cmくらいが主流であるため、ダスベエの幅を50cmくらいまでコンパクトにしていきたいという。

 また、ダスベエ本体をカバーで覆っているため、洗浄の様子を外から見ることができない。中が見えるようにしてほしいという要望があり、これも検討していくという。バッテリ化や、ブラシで擦ってほしい、トイレの前にこぼれた汚れの対策などの要望に関しては、今後の実験をふまえて道路公団と相談していくという。

 価格はまだ未定だが、現時点では100万円前後と考えている。


高速道路SAで実証実験 今後の課題

URL
  神戸RT構想
  http://www.kobe-rt.jp/
  新産業創造研究機構
  http://www.niro.or.jp/index.php
  富士重工業
  http://www.subaru.jp/
  明興産業
  http://www.meikos.co.jp/

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「ロボットビジネスシンポジウム~今後のビジネス潮流を読む~」レポート(後編)(2006/10/30)


( 三月兎 )
2008/08/08 18:11

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