● 「サービスロボットの事業化について」
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富士重工業株式会社本社戦略本部クリーンロボット部部長 青山元氏
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基調講演のあとのビジネスセッションでは3件の講演が行なわれた。
最初に、富士重工業株式会社本社戦略本部クリーンロボット部部長の青山 元氏が「サービスロボットの事業化について」を講演した。実際に清掃ロボットでビジネスを行なっている立場から「ニーズはない。むしろ勝てるフィールドを見つけることが重要」、「マーケティングには意味がない」、「設計においては思想の統制が必要」といった、地に足のついた、迫力のある講演が行なわれた。
富士重工ではあくまでビル全体のメンテナンス・サービスの一環として事業を展開している。理由のひとつは、事業を始めた最初はロボット単体では売れなかったからだ。そのためにほかの製品開発を行なわざるを得なかったが、現在ではそちらの売り上げも大きくなっているという。
いっぽうロボットのほうも色々な方向に発展させている。たとえばICタグを使ったゴミ計量システムや、図書館での書籍管理用ロボットの開発を行なっていることを例に挙げた。青山氏は5,000平方メートル以上の面積がある建物であれば勝てるが、逆にそれだけの面積のフィールドをとれない20F以下のビルの場合は、たとえ依頼があってもうけないことにしているという。一度「使えない」という評判が立ってしまうと「一巻の終わり」だと思っていたからだそうだ。そのためロボットもできるだけシンプルに作り、その上に本当に必要な要素だけを付け加える構造になっている。
ロボットは単に移動するだけでは意味がない、機能がなければロボットとは言えないと述べ、清掃作業という機能を、より安価に実現するために富士重工でどのような努力が行なわれているか、青山氏はさまざまなノウハウを披露した。
たとえば清掃ロボットはモジュール別の艤装が実施されており、それぞれの部材は全部溶接でビスは使っていない。軽量化のためだ。そこにはスバルの自動車技術が転用されているという。
また設計手法だが、ソフトウェア開発は「いわば長編ミステリ小説を集団で書いているようなもの」なので「思想の統制」が必要であり、そのために「KT法(ケプナー・トリゴプロセス)」という手法を使っているという。ハードウェアについても、購買の権限を技術者に与え、行動規範を統一するためにスカンクワークスと呼ばれる手法で設計しているという。
またロボットは現場の運用技術やソフトウェア開発が重要だが、真似されると困るので出願することも難しいという側面があるそうだ。出願しないものは特許の褒賞も出ない。しかし技術はあるわけで、それをどうするかがこれからは問題になるだろうという。
最後に青山氏は、自身は「スバル360」を作った男としてよく知られる故・百瀬晋六氏による薫陶を受けた最後の世代の人間であると語り、図面一枚一枚について指導されたというエピソードを紹介した。カーペットの砂を吸い込むためのノズルの形状を指導されたという。
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富士重工のクリーン事業
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同社では「戦務」と呼ぶ営業や事務的業務が非常に重要だという
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ロボットの構造
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ロボットのフレーム
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「先行艤装」と呼ぶモジュール段階での組み立てを行う
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スバル360の開発技術が継承されている
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● 「JR東日本における鉄道事業へのサービスロボット適用に向けた取り組み」
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東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本研究開発センター 先端鉄道システム開発センター 企画・先端技術グループ長 井上敬治氏
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続けて東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本研究開発センター 先端鉄道システム開発センター 企画・先端技術グループ長の井上敬治氏から「JR東日本における鉄道事業へのサービスロボット適用に向けた取り組み」としてロボット技術のユーザーとしての立場からの講演が行なわれた。
JR東日本は中期経営構想「ニューフロンティア2008」で新たな顧客価値創造に取り組んでいる。ロボット技術活用はその一環として検討されている。多様化した顧客のニーズや高度なサービスの創造を目指しているという。特に技術デバイドを埋める存在としてサービスロボット技術に期待しているようだ。
2004年度にニーズ、シーズの調査、2005年度から適用研究会を社内で設けてビジョンを作成、今年からフィールド実験を開始している。社外ニーズ、駅だけではなくホテル部門を含む各部門への社内ニーズ調査を実施。ニーズの拾い上げのあと、「TRIZ」という手法で技術進化予測を行なった。社会の変化、生活様式、鉄道事業の変遷、ロボット技術の変遷、そして要素技術の進化予測を行ない、2025年においてサービスロボットがどのように鉄道事業で活用されているかの検討を行ない、ロボット技術適用シナリオの作成を行なった。
駅、列車、ホテルに対して具体的なサービスのイメージを描いた結果、付加価値を拡大させる潜在的可能性が高いと判断された。日本にはロボットに対して親近感を持ちやすい風土あるため、企業価値向上にも役立つと考えられたという。
サービスロボットのフィールド実験においては、ロボットの基本機能とサービス提供に必要な付帯機能の2つを分けて機能検討が行なわれた。
実際のロボット実験は富士通株式会社の「enon」をベースに受付案内ロボットを試作した。Suica認識による来訪受付・案内、連携、担当者呼び出し、地図データをベースにした巡回機能を持つロボットで、今年7月からJR社内で実験を行なった。来訪者の情報を受付にてSuicaゲストカードに書き込んで、ロボットに認識させるというアプリケーションだ。ロボットがSuicaカードを認識したあと、ロボットが担当者を内線電話とメールで呼び出しを行なう。不在の場合は人間のいるところにお客を案内する。
トライアルはいまも継続中だが、現状での結果も講演で発表された。現状で対応できることとそうではないこととが明確になったという。段階的にサービスロボットを活用できる可能性を確認することができたという。今後、駅ビル「ecute」や駅構内での巡回警備に活用していく予定だ。
いっぽう、事業適用を考えるユーザーとしての要望も述べられた。安全性確保、自律走行の安定性、騒音環境での確実な音声認識ができるようになれば事業適用の可能性が1歩も2歩も進むと述べた。
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サービスロボットへの取り組み状況
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ロボット技術へのニーズを調べたという。よく読むと面白い
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技術予測も行なった
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進化予測
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駅構内ロボット、添乗ロボット、ホテルでの添乗ロボットなどが予測された
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サービスロボットのトライアル
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● RSiによるロボットサービスの実証と仕様策定の取り組み
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富士通株式会社 ソフトウェア事業本部 開発企画統括部 プロジェクト部長 RSi仕様策定WG主査 成田雅彦氏
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富士通株式会社 ソフトウェア事業本部 開発企画統括部 プロジェクト部長 RSi仕様策定WG主査の成田雅彦氏から、「ロボットサービスイニシアチブ(RSi)によるロボットサービスの実証と仕様策定の取り組み」と題してロボットとネットワークサービスを結びつけることを狙ったRSiの活動が紹介された。
ネットワークは10年の間に1,000倍の速度にっている。このような動きはビジネスならびにロボットにも大きな影響を与える。ロボットは情報産業の中では珍しく動きをもつものだ。それをネットワークに繋ぐとどんなことができるのか。
成田氏は全自動ロボットは簡単にできない、人とロボットを協調させることで新しいサービスやアプリケーションが考えられると述べた。だがロボットサービスをつくるのはコストが高い。ロボットそれ自体が複雑であるだけではなく、ロボット個別のアプリケーション・ソフトウェア開発となるためだ。
そのため現在、OMGでロボット用ミドルウェアの国際標準仕様が策定されつつあったり、またマイクロソフトなど大手ソフトウェアベンダの参入などの動きもある。韓国などアジア各国もかなりの勢いで日本に迫っている。
いずれにせよ、ロボットサービスを提供するためには共通プラットフォームが必要だということだ。またロボットメーカーだけでアプリケーションを開発する時代も終わりつつある。現在はハードとファームに集中された形で投資が行なわれているが、そこも変わる必要があるという。
RSiは2004年5月17日に発足した団体だ。ロボットが提供する情報サービス、物理サービスを共通仕様で共有してビジネスに結び付けようというものだ。ハードウェア企業だけではなく、ソフトウェア企業も入って、共通プラットフォームの仕様作成公開、実証実験、普及促進活動などを行なっている。
RSiのサービスモデルの基本は、ロボットのバックエンドにネットワークを持ち、各種サービスプロバイダーによるビジネスを可能にし、ロボットサービス自体の多様化をはかろうというものだ。
今年3月にはキッズプラザ大阪でデモを行ない、10月23日に、RSiプロトコル仕様書v1.0を作成して公開した。同時に、この仕様を使ったロボットサービスを24時間提供しており、会員企業はサービスを使って実証実験やデモを行なうことができるという。
今後は、「ロボットらしい」サービスを提供していきたいという。たとえば監視カメラには拒否感を抱くが、ロボットやキャラクターに対しては比較的そういう違和感が少ない。感覚的なものではあるが、実際の運用においては重要だという。機械としてではなく、うまく環境に溶け込むためのものとしてロボットをデザインしていくようなアプローチだ。
いっぽう、定常配信するサービスを増やし、認証・暗号化・課金システムもつめていく。各社のプロジェクトで策定した仕様も取りまとめていきたいと語った。
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RSiサービスのモデル
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これまでの活動
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サービスのアーキテクチャ
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● 特別講演「安全に関するサービスロボット開発者の責任」
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長岡技術科学大学大学院システム安全系教授 杉本 旭氏
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最後に特別講演として「安全に関するサービスロボット開発者の責任」と題して、長岡技術科学大学大学院システム安全系教授の杉本 旭氏が講演した。杉本氏は早稲田大学理工学部機会工学科の出身だが、日本のモノつくりには「責任」が教えられていないと述べた。
日本は「安全は管理による」という責任体制となっているが、国際規格では事前に危険の範囲、安全の範囲を説明し、危険源の管理を行なうという事前責任体系となっているという。サービスロボット産業を創生したいのであれば、事後処理的な安全のありかた、ものづくりでは駄目で、設計者がきちんと事前に危険の範囲や使い方を設計して準備するための方法が重要だと述べた。一般設計原則であるISO 12100を学び、きちんと「設計者倫理」を学ばなければならないと強調した。
日本では事前責任の考え方がなかなか入っておらず、事前にどういう準備をしなければならないかという考え方にしていかなければならないという。つまり事故が起こるまえに、十分な準備や予見が重要であり、それを事前に尽くしておくことが必要だという。
安全は、事故が発生する前は確率論だが、事故が起こると責任者を探す確定論となる。事後責任のごたごたを防ぎたければ、事前責任を尽くすしかない。そのためのものづくりの国際規格がISO 12100なのである。
12100では合理的に予見できる事故は徹底的に予想し、可能な限り除去し、それでも除去できない危険性については作業者にきちんと指示しなければならないとされている。事前責任が明確になっていれば、責任追及と原因追求は別物としてきちんと分離できる。
設計者ができるリスク低減には限界がある。だが自分が設計する機械のリスクの大きさの把握、廃棄までの安全シナリオが必要になる。どこに危険があるか、その大きさはどんなものかということを見積もり、少なくともそれを社会が許容できるレベルまで落とさなければならない。
いっぽう、国による許認可という制度は「安全は管理による」ということになってしまい、事故がおきたときには管理の追及になる。その考え方を変えなければならないと述べた。「想定外である」ということを言いたければ、事前にどこまで想定していたのかというドキュメントを用意しておかなければならないという。
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ISO 12100
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設計者倫理の重要性を強く主張した
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危険源の同定とリスク見積もりが重要
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■URL
ロボットビジネスシンポジウム
http://robotweek.jp/
( 森山和道 )
2006/10/30 14:48
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