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“現在”のROBO-ONEロボット解剖講座
~第10回ROBO-ONEテクニカルカンファレンス開催


 2008年2月9日、神奈川県川崎市・川崎市産業振興会館にて、第10回ROBO-ONEテクニカルカンファレンスが開催された。

 二足歩行ロボット格闘競技会として定着している「ROBO-ONE」のルール前文には「ロボット技術の普及と健全な発展のため、技術情報はできるだけ公開する」という一節がある。その趣旨に沿って、大会で優秀な成績を収めたり、審査員から評価された機体の製作者自身が、その評価されたポイントについて講演するのが、この「テクニカルカンファレンス」だ。今回は、ここ最近のROBO-ONEで重要視されているセンシング技術を中心とした構成となっていた。


センサ関連の講演が目白押し

吉村浩一氏
 まず最初にマイクを持ったのは、ROBO-ONE初期からR-Blueシリーズで参加し、多くの参加者に影響を与えている“ROBO-ONEの神”こと吉村浩一氏。公式に発表されていたタイトルは「足裏距離センシングによる制御とその歩行技術等について」だったが、当日は「R-Blueの歩行技術」と題された、吉村氏自身の最新機「R-Blue Link」に搭載されているシームレス歩行と、足裏距離センサーについての講演となった。

 吉村氏は、現在のROBO-ONEや周辺のロボット競技において「シームレス移動」つまりモーションとモーションの間につなぎ目がない移動が有効だと、かねてから考えていたらしい。しかし、市販のモーションエディタなどでは、条件分岐を利用した擬似的なシームレス移動はできても、本当の意味でのシームレス移動はできなかった経験から、“逆キネ(逆運動学)”による動作を取り入れることになったのだという。

 吉村氏自身も「やるしかないか……」と、気が進まなかったという“逆キネ”。「今までのカンファレンスでも、こういう話をすると寝る人が続出すると聞いてました」と笑った吉村氏だが、今回紹介するのは「関数電卓さえあれば小学校高学年でできる“逆キネ”です」と紹介。計算のコツやポイント、その計算をどうやってロボットのコントロールに結びつければいいのかといった解説を吉村氏自身の例で紹介していた。

 また、足裏距離センサは感圧ゴム仕様のものや反射を利用したものなどでは、「足の裏が床から離れた」ことはわかっても、それが倒れる前兆なのか、たまたま浮いているだけなのかの判断ができないことから、ロータリーポジションセンサーを使った「どれだけ離れているか」を感知できるものを実装。そのデータを下に姿勢制御を行なっているが、サーボモーターの速度に比べて身長が低いために制御が間に合わないこともあるようで、今後はもう少し足を伸ばしていく方向に持っていき、重心を上にしていけばもっと倒れないようにできるのでは、と考えているという。講演の最後は、「倒れそうになって踏ん張るのはROBO-ONE的にカッコイイ。今後はそうなってほしいと思っています」と結んだ。


【動画】左が“シームレス移動”のR-Blue、右が“モーション移動”のKHR-2HV “逆キネ”とは、各関節の角度を決めた結果足先の位置が決まるのではなく、足先の位置を先に決定して、そこの足を運ぶための関節位置を逆に計算すること 4分割されたイメージ図は、左上が真正面から、右上が真横から、左下が真上から足を見たものだ。右下は斜め前方からの視点。それを計算するためのプログラムが右にある

吉村氏が「ポイント」としていた、足の運びを横から見た図。理想的には赤いラインだが、現在のところは青い五角形を描かせているという 足裏にある距離センサ。“羽根”がバネで常に床に押し付けられており、どれくらい離れているかを知ることができる

網野 梓氏
 続いてマイクを持ったのが、九州大学ヒューマノイドプロジェクト時代と合わせると、最多タイになる3回のROBO-ONE優勝経験を誇る網野 梓氏。センスを持って踊る「トコトコ丸」の作者と紹介したほうがわかりやすいかもしれない。「センサによる安定化とパラメータチューニングについて」という題で講演を行なった。

 網野氏はその前の吉村氏の講演を受けて「僕のほうはそういった逆キネとかを全く使わない、別の方法で動かしています」と冒頭で紹介。脚の動きをX、Y、Zの3つのパラメータに分解して、それぞれのパラメータを変化させられるようにしているのだという。例えば、床の状況によって足を大きく上げたいときは、Z方向の成分を大きくすることで、歩行モーション全体がしっかり足を上げた歩行に変わることになる。

 そして応用編として、この歩行シーケンスに角度センサを組み合わせて、自律的にパラメータを変化させる方法も紹介した。これは第10回の長井大会予選でトコトコ丸が披露していた「押しても倒れない」デモで実現しているもので、動的な状態で傾いた姿勢を戻すために歩幅(X方向)にセンサの値を反映させているのだという。

 そして、更なる応用編として解説されたのが、歩行中にジャイロを利用して床の傾き具合を判定する方法である。床面の傾きによってジャイロの出力に見える差があったため、そのデータを元にして腕でバランスを取るようにしたという。ただ、実際に使ってみると、床面の傾きというよりは機体そのもののアンバランスに反応するので、左右のフレームの歪みや、モーターの損傷具合によるモーションのバランスの崩れなどを吸収できたという。

 「次回のROBO-ONEではスロープの上り下りがあるので、これをピッチ方向に使えないかとやっているところです」(網野氏)ということなので、予選は注目だ。


足裏を動かす方向を3つの成分に分けた図 トコトコ丸の歩行モーションは(1)~(4)のポーズでできている 【動画】XYZの成分を手動でチューニングする実演

ジャイロの出力をグラフにして、異なるピークを見つける。○が付いているのが異なるポイント 検知したデータは腕のロール軸にのみ反映させたている 【動画】傾いたテーブルを使った、実際のデモ。方向転換するだけで自動的に手が入れ替わる

大河原 和浩氏
 続いてサーボモーターのケースから自作している機体「繭」でROBO-ONEに参加している大河原 和浩氏が登場した。今回は、「加速度センサーとジャイロセンシングによる姿勢制御等について」と題して、その繭の姿勢制御がどうやって行なわれているかの解説を行なった。

 大河原氏はまず、加速度センサの値はなかなか安定せず、姿勢制御には使いにくいものだとバッサリ。しかし、この加速度センサをジャイロセンサと組み合わせて使い、姿勢制御に活かしている……というのが今回の趣旨である。

 繭の加速度センサは、数値が安定しない分、一度のデータで決めることをせずに、10msecごとに過去10回と過去30回の平均を取るようにしており、それぞれ別の使い方をしているのだという。過去10回のデータを平均したものは、すべてのデータを活かしており、加速度を検出しているのだが、30回平均のほうでは、前のデータから一定量離れたデータは捨ててしまうことで、機体そのものの傾きを検出している。

 ジャイロセンサのみでは「傾きを打ち消す」方向にしか働かないが、実際に傾斜のある面を動くときには機体の傾きを維持したままバランスを取る必要があるので、加速度センサの値を活用するというわけだ。これを活かす方法として、大河原氏は「例えば今度(第13回)のROBO-ONEの参加資格審査のような、スロープをゆっくりと上り下りするときに、機体の傾きを検知できると考えています」と述べ、実際に傾けたテーブルを上り下りするデモを行なった。


非常にスリムな機体として仕上げられている「繭」 【動画】このくらいの段差であれば一気に降りることができる制御を行なっている繭 機体のバランスについて

体を傾けたまま、腕や腰を使うことで重心を移動させ、バランスを取っている 【動画】傾斜のあるテーブルを自由に歩き回る繭

菅 敬介氏
 「センシングによる歩行制御等について」と題した講演を行なったのは、「マジンガア」で知られる光子力研九所の菅 敬介氏。

 制御の方法には、足裏が浮かないように行なう「ならい制御」、ならうだけでは倒れてしまうので、踏ん張らせる「倒立制御」、倒れないように足を着く位置を変える「着地位置制御」の3つがあると紹介。それらの制御を、どういったセンサを使用して組み合わせているかを解説した。

 紹介されたマジンガアの制御の中で特徴的といえるのが、足裏に設けられた接地センサである。2枚の足裏によってタクトスイッチを挟んだような構造になっており、このスイッチから「どこが接地しているか」という信号を取り込むことで、足裏と床の関係を把握できる。

 ロボットが軽く、また重心が低いために倒れるのが早いROBO-ONEのロボットは、大きなロボットと異なり、反応の早いセンサが活きるのだという。例えば前から攻撃されて足裏が離れたことを感知すると、離れた足首が床に“ならう”ように足首を回す。それだけでは倒れてしまうので、同じ足の股ピッチ軸のサーボで踏ん張らせて、さらに反対側の足に同じだけの変化量を与える。すると、自然と足が後ろに出て、文字通り“踏ん張る”ことができるのだ。

 「制御をしていないとあっさり倒れたんで、それがいちばんビックリしました」(菅氏)

 今後は力センサを利用した、より繊細な制御を行なったり、足踏みをしたままマスタースレーブで攻撃するよう方向に成長させていければと語っていた。


揺れを減衰するダンパーがついたような、やわらかい制御を用いているマジンガア 青い部品の四点にある黒い丸がタクトスイッチ。透明の部品が実際に接地する足裏 設置センサの反応模式図

【動画】制御を入れないときと、入れたときの違いのデモ 【動画】足の裏で何か踏んだときにも“ならい制御”を行なうことでサーボの負担を減らす。後方画面左下でチラチラと動いているのが、接地センサのモニタ デジタルのことが良くわからなかったので、どうしてもアナログを使いたかった、という菅氏が工夫をこらした回路

杉浦富夫氏
 「ロボットの大型化とその課題等について」というテーマで語ったのは、「ダイナマイザー」シリーズで知られる杉浦富夫氏。冒頭にROBO-ONEにおける大型ロボットの歴史を紹介し、ROBO-ONEにおける大型化の意義として「エンターテインメントとしての舞台栄え」と「実生活にヒューマノイドが入る予備実験」という2つのポイントを挙げ、講演をスタートした。

 ダイナマイザーシリーズの最新機である「メガダイナマイザー」は身長50cm、5kgという大型機体だが、その大きさを実現するために必要な高トルクサーボが高価なため、まず1個購入して試作などを行ない、性能を確かめてから揃えたのだという。また、それを支えるフレーム部分の設計は、大型化によって部品への負担も増えるので、全パーツとは言わないが一部のパーツでも強度計算を行なって、部品の厚みや形状を決めるべきだとも。といっても、シミュレーションだけではなく、これまでに積み重ねた経験から得られる構造と比較して作るべきだと述べた。

 そして、ダイナミクセル社のサーボを使用したことで、ほぼ共通のインターフェイスであるバイオロイドのソフトを使うことができたのが大きな利点だったと紹介。安価なバイオロイドを使用して制御などのプログラム部分を、実機を使わずに行なうことができ、消耗を防ぐことができたという。

 「安いロボットを使いながら大きいロボットを作るってことが言いたかったんです」(杉浦氏)

 大きな(重い)ロボットの運用は費用が掛かったりするので、何台も作るわけにはいかない。学校などのチームでロボットを開発するときに、下位のシステムで作ったものが上位のシステムで活かせるのは有効だとも語っていた。


右が「ダイナマイザー」。左が「メガダイナマイザー」。「メガ」はしゃがんでいてもかなりの大きさ ROBO-ONEに登場した大型機の中でも印象深い2機。この時期を境に韓国では大型化が進行したのではと杉浦氏 強度計算の図

モーションはすべてターミナルで、マウスなどは一切使わないという 大型化への課題。メガダイナマイザーはとりあえずボディに緩衝材をつけているという 【動画】5kgあるとは思えない、メガダイナマイザーの軽快なデモ。やっと最近動くようになってきた、と杉浦氏

西村輝一氏
 講演の最後を締めたのは、「ROBO-ONEの現状と今後」という題を掲げた、ROBO-ONE委員会代表の西村輝一氏。

 「3歩歩くのがやっとだった2002年から5年経って、よりダイナミックに動くことができるようになった」(西村氏)と振り返るところから始まった講演は、今後のROBO-ONEの展開を考える上でポイントになるイベントについて現状と展望が語られた。

 ROBO-ONE委員会が考えている今後の方向としては、底辺拡大と技術力の向上、そして宇宙大会をどうやって実現していくかの3点にポイントがあるという。

 まず、底辺拡大を担うイベントとしては、昨年初めて開催したROBO-ONE Soccerを続けていくが、地方などでも開催できるように、床面をカーペット素材にすることを検討しており、将来的にはフットサルコートで試合ができればと思っているようだ。2008年大会は7月5日~6日を予定しているが、会場その他は未定とのこと。今後の公式サイトの情報に注意したい。

 技術力の向上という点では新たなイベントを立ち上げようと検討されているようだ。そもそもROBO-ONEに重量級を作った意図は「もう少し役に立ってほしい」というところで、本大会の規定演技に「人の役に立つこと」を盛り込んだこともその一端だと明かした。

 そして予選でさまざまな動きをするロボットが出てきたことで、以前ROBO-ONE Specialで行なっていたようなドアを開けたり、階段を上ったりというような要素を織り込んだ競技が成立するのでは、と考えたのだという。

 現在は自治体などと協議しながら「お手伝いロボットプロジェクト」として企画進行しているところで、詳細な時期は未定ながら、「やることはやる」(西村氏)ということなので、こちらもリリースに注目しよう。

 ROBO-ONE宇宙大会に関しては、さまざまな面から難航している模様だ。しかし、ロボットの進化という点では滞っているわけではなく、第一歩としての「投げて立つ」ミッション。その次にはトランポリンの上とか、さらに制御が難しい状況での超軽量級をやってみたいという展望もあるという。このカンファレンスの翌日に開催された「ROBO-ONE on PC/Sat. 2nd」のレポートも参照してほしい。


エントリー数は上下しているが、参加者や予選出場者は最近あまり増減していないという 現状のROBO-ONEロードマップ まず最初の「お手伝いロボットプロジェクト」は商業施設での“買い物”にしてみたいと考えているそうだ

「お手伝いロボットプロジェクト」の大会イメージ 【動画】宇宙大会を想定したロボット搭載カメラの映像。通信回線はどうしても貧弱になってしまうために、映像ではなく地上に座標だけ落として地上で再生する方法も考えているとのこと 【動画】「ARRC」と名づけられた、西村氏製作の大型機もデモを行なった。リアルタイムでモニターしているデータがスクリーンに映し出されている

久々の「カンファレンスらしいカンファレンス」

 近年のテクニカルカンファレンスは、宇宙大会に向けての技術発表(第8回)や、ROBO-ONEスポンサー企業による製品のPRがメイン(第9回)といった、“ROBO-ONE参加者による、ROBO-ONE参加者のためのカンファレンス”とは少々違った内容が続いていた。しかし、今回は発表者の顔ぶれがおよそ2年ぶりにROBO-ONE参加者主体となり、内容も「そろそろ導入しないと上位にはいけないけど、どうやったら……」と考える参加者が多いであろうセンサ関連のものが主体となった。これは参加者にも好評だったようで、関東のみならず、東北、中部、九州などから全国的に集まった参加者から、口々に「今日は本当に来てよかった」というような感想を聞くことができた。

 ROBO-ONE委員会としては、急速に技術レベルが上がらない限り、テクニカルカンファレンスは年1回でいいと考えているという。ROBO-ONEの“現在”の技術や“これから”を知りたい「参加者」や「参加者予備軍」にとっては貴重な機会となるテクニカルカンファレンス。次回も楽しみにしたい。


URL
  ROBO-ONE
  http://www.robo-one.com/

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マジンガアBパーツ、自由落下中の姿勢制御と着地に成功
~「ROBO-ONEonPC/Sat. 2nd」レポート(2008/02/22)

「ROBO-ONE技術講習会 第9回Technical Conference」レポート(2007/01/31)


( 梓みきお )
2008/02/28 19:09

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