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趣味を目的とした宇宙ロボットの可能性

~第8回ROBO-ONEテクニカルカンファレンス・レポート

 6月3日、「第8回ROBO-ONEテクニカルカンファレンス」が開催された。

 ROBO-ONEテクニカルカンファレンスとは、ホビーストによる二足歩行ロボット格闘大会「ROBO-ONE」の参加者たちが、お互いの技術を講演形式で公開するもの。第8回はこれまでのカンファレンスとは少し毛色が違い、2010年に開催を目指す「ROBO-ONE宇宙大会」に関する講演と、ホビーロボットの世界でモデルベース開発の発展を狙う「ROBO-ONE on PC」に関する講演が行なわれた。


ROBO-ONEの今後と、ROBO-ONE宇宙大会、ROBO-ONE

西村輝一ROBO-ONE委員会代表
 まず最初に、西村輝一ROBO-ONE委員会代表が、ROBO-ONEの歴史の概略、そしてROBO-ONE宇宙大会やROBO-ONEの今後について講演した。

 ROBO-ONEは2001年に始まった。同年1月に西村氏が主宰する「西村ロボットクラブ」にて小型ヒューマノイド製作が始められ、「Freedom」という試作ロボットが出来上がった。Freedom自体も販売され「300~400台くらい売れた」という。9月29日にはROBO-ONEプレイベントが開催された。そして第1回が日本科学未来館で開かれたのが2002年2月である。

 ROBO-ONEが他のロボコンと違う点は、参加者相互がお互いの技術情報をできるだけ公開している点である。そのため参加者のレベルがどんどん上がっていき、同時に、多くの協賛企業がユーザーと共同し、新しいサーボモーターやセンサーなどが開発され、継続的に発展が維持され、現在に至っている。実際にはラジコンサーボを使ったロボットの商品化そのものは韓国企業のほうが先行していたが、その後の技術発展や部品開発が日本ほど進まなかったことから、日本国内ほどには普及していないと西村氏は語る。

 今後は、より面白くするためにさらなる高トルク化と電源の発展が課題だ。大ざっぱに言って現在の倍くらいのパワーがあるサーボが登場すれば、ロボットをポンと投げ飛ばせるような格闘を見ることができるという。また、現在はサーボの位置データやコマンド送出が中心だが、今後は双方向通信を活用した新しい競技を追加したいという。

 その1つが宇宙大会である。ROBO-ONE宇宙大会とは、50cm四方程度の小型衛星にロボット4機を搭載した状態で軌道上に打ち上げ、地上からのコントロールで宇宙空間での格闘大会を行なうというもの。2010年を目処に実施を目指している(関連記事参照)。

 西村氏は、ROBO-ONEは「ロボットを進化させる」ための方策であり、「誰か大手企業がやってくれるからということではなかなかロボットが進化しない」と述べた。さらにモチベーションを上げ「ホビーの世界を越える」ためには、宇宙大会のようなチャレンジが必要だと語った。


ROBO-ONE誕生は2001年 ROBO-ONEの歴史。面白さを維持するためにルール改正が繰り返された

多くの企業がサポートすると同時にROBO-ONEから新しいロボットが誕生した 2002年に検討されたROBO-ONEの方向性。当時から宇宙大会が検討されていた

 現在ROBO-ONEには、ROBO-ONE本戦以外に、軽量クラスのJクラス、エンターテイメント性を追求し、主に「ROBO-ONE」そのものを知ってもらうためのイベント「ROBO-ONE GP」、そしてロボットのアスレチック競技である「ROBO-ONEスペシャル」がある。

 講演では、ROBO-ONEスペシャルの新リングも公開された。ロボットは水平の棒を何らかの方法で渡りきったあとに、階段や不整地を越えて、最後はジャンプして着地しなければならなくなった。

 また、今年9月16日、17日に山形県長井市にて開催が予定されている「第10回ROBO-ONE」のルール変更についても言及された。

 第10回大会ルールにおける一番の変更点は、ロボットは常に動き続けなくてはならないというルールになったこと。止まった段階からカウントが始まり、3秒以上静止していたらダウンをとられる。また規定演技は「ウサギ跳び」である。このルール変更は「歩行に真剣に取り組む」ことを促すものだという。技術だけではなく、アイデア、そして「デモンストレーションにおけるストーリー」、すなわちプレゼン技術も評価のポイントとなると西村氏は語った。

 また、ROBO-ONE on PCは、まず3D設計や機構解析、そして制御設計をPCの中で全てやってしまったあとで実機への実装を行なう、いわゆるモデルベース開発をホビーストの世界でも推進するために始めたROBO-ONEシミュレーションリーグ(過去記事参照)。宇宙大会のように、真面目に制御しなければ対応できない状況でも動けるロボット開発を促進する狙いもある。

 on PCでは、これまでは「サバイバル・オン・ザ・ムーン」を課題とし「月面上」を設定に行なわれてきた。だが宇宙大会立ち上げを踏まえて、これからは無重量空間での運動制御を課題とする。今年の10月に募集を開始し、1月末に発表会を行なう予定だ。応募して審査を通過した者は、インベンターやMATLABなど、高額なソフトウェアを無償で使うことができる。


ROBO-ONEスペシャルの新リング。水平バー、ドア、階段が取り込まれた ROBO-ONE on PCの歴史

 宇宙大会については「本当の狙い」も語られた。ROBO-ONE宇宙大会については、サンライズによって作られたイメージアニメーションがある。だが、あれはあくまで「イメージビデオ」であり、物理法則は無視されている。だがそこにいかに近づくか、それが夢だという。

 また、宇宙で動けるロボットを開発することを目標にすることで、制御技術の発展や、安全性や信頼性の確保、技術の標準化を図る。よりインテリジェントなロボット用サーボやセンサーそのほかの部品も開発されるだろう。それが通常のROBO-ONE大会にフィードバックされることで、よりロボットを早く進化させ、ロボットビジネスと同時に宇宙ビジネスも発展させていきたいという。


宇宙大会の目的 宇宙大会の本当の狙い

ROBO-ONE衛星の案 宇宙大会の日程案

 記者から補足しておくと、たとえば宇宙空間で機体それ自体の動きによって機体の姿勢を制御するためには非ホロノミック制御と呼ばれる技術が必要だが、それは、ネコのように空中で姿勢を制御して着地する技術にそのまま使うことができる。

 また、宇宙にいるロボットを制御するためには限られたデータ通信量しかないので、細かく制御するよりは、ひとまとまりにしたコマンドを送って、あとはロボットそれ自体が自律で何とかするしかない。それが格闘技のROBO-ONEにもフィードバックされると、よりスピーディで人間が操作するよりも素早く敵の攻撃を避けて仕掛けるロボットなどが登場する可能性もあるだろう。

 そして、それらの技術を実機で1つ1つ確認するよりも、シミュレーションを使って、より早く開発を進めていこうというのが「on PC」なのだ。いわばROBO-ONEと宇宙大会の間に両者を繋ぐ存在として「on PC」があると考えると、ROBO-ONE全体が何を考えているかが把握しやすくなる。


超小型衛星開発で宇宙を身近に

東京大学 中須賀真一教授
 この後、東京大学教授の中須賀真一氏と宇宙航空研究開発機構(JAXA)総合技術研究本部主幹研究員 西田信一郎氏、そして実際の宇宙開発現場にも詳しい宇宙大会企画委員の馬場裕之氏から、それぞれ小型衛星、宇宙用ロボット技術、ROBO-ONE衛星の運用について、講演が行なわれた。

 学生達と10cm四方、重量1kg程度の「キューブサット(CubeSat)」と呼ばれる超小型衛星を開発して打ち上げている中須賀教授は、ROBO-ONE衛星の実現性について「やればできる」と語った。ただし、そのまえに「地球と宇宙は違うんだと認識をしなくてはならない」という。

 地上と宇宙との違いとは、真空環境による焼き付きや潤滑、素材変化や熱の集中、放射線の影響、通信、打ち上げ時の振動などのことだ。だがそれらに対してできる対策は限られており、逆にそこだけ注意してれば、ホビーストがロボットを宇宙に打ち上げて運用することは可能だという。

 現在、人工衛星はどんどん大型化している。大型の人工衛星では4トンから6トンにもなる。だが大きくなると新しい技術開発に挑戦できず、どうしても保守的になる。では小さな衛星は作れないのか。そうではないと中須賀教授はいう。ただし、大型衛星とは違う発想が必要になる。現在、中須賀教授らが取り組んでいるのは10kg以下の衛星だが、中には基板一枚で衛星にしようという「マイクロサット」構想もあるそうだ。


キューブサット「XI(サイ)」 「XI」のシステム 手作りクリーンルームで実装中

超小型衛星のメリット 「衛星の構造は人体に例えられる」という

 小型衛星の開発には、工学的チャレンジ、教育、そしてより速い宇宙開発という3つの目的がある。普通の大きさの衛星を開発するのは1基数百億円、そして5年~7年かかる。だが小型衛星ならば2年程度だ。プロジェクトを立ち上げ、最後に結果を見るところまで学生の間に行なうことができる。プロジェクトマネジメントについて実践を通して教えることができる点が大きなポイントだという。また新技術を大型衛星で使う前のテストベッドとして小型衛星を使うこともできる。

 キューブサットの衛星と打ち上げ費用は2,000~3,000万円程度、衛星1基だけなら「東大から自転車で行ける」秋葉原で販売されている部品で作ることができるので、1台200万円程度ですむそうだ。またそのコストの8割は太陽電池が占める。

 講演では、実際に軌道を周回しているキューブサットの構成その他だけではなく、ロケット実験や、より小さな空き缶サイズの「カンサット(CanSat)」と呼ばれる衛星を使ったダウンリンク(通信)の開発についても述べられた。

 カンサットはロケットで打ち上げられるが軌道までは上がらず、地上に落ちてくる。現在ではそれを正確に目標地点に着地させる大学対抗競技も行なわれているそうだ。基本的にはパラシュートをコントロールしてターゲット目指して着地するのだが、中には着陸したあとに足を出して歩行するロボットタイプの戦術を採用している大学もある。中須賀教授は「是非二足歩行ロボットにも参加してもらいたい」と冗談とも本気ともつかぬ調子で語った。


CanSat '99年に製作されたCanSat 着地点を競いあう競技も実施されている。左下の東北大のCanSatは足で歩行して目標地点に近づく戦略

 中須賀教授らが打ち上げた衛星「XI(サイ)」は今も軌道上を回っており、撮影した画像と衛星のステータスをPCや携帯電話に無料で配信している。アマチュア周波数帯を使っているためビジネスに使うことはできないが、実際にビジネス化への誘いは多くあったという。ROBO-ONE衛星も打ち上げたあとにビジネスに用いることが検討されているため、この点は重要なポイントとなる。


カメラが搭載されている XIが捉えた地球画像。さいめーるステーションで登録すると無料で送られてくる

 現在、中須賀教授らは「PRISM」という重量3~5kg、17×17×25cmの小型のリモートセンシング衛星や、パネルのような機能ブロックをまとめた多目的衛星「PETSAT」を開発しようとしている。

 また、将来の大型発電衛星を実現するための新方式として、風呂敷のような膜を娘衛星ロボットを使って展開するための技術開発も行なっており、講演ではそのための技術開発実験として行なわれた弾道軌道でのネット展開実験の様子もビデオで紹介された。ネットの素材に最適なものがファーストフードチェーンのストローだと分かり、学生達を日夜通わせてストローを集めたといったエピソードも合わせて披露された。このように、使える部品は何でも使うというのが小型衛星開発の特徴の1つだ。

 宇宙開発利用のアイデア枯渇は参加者の少なさが原因であると考えられることから、宇宙開発参入の敷居を小型衛星開発によってぐっと引き下げることが大学開発衛星の目標の1つだという。より高度な衛星は中須賀教授らが立ち上げ、現在はNPO法人となっている「大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)」のミッションとして行なっていく予定だが、ROBO-ONE衛星もUNISECなどとも協調して開発していくことになるという。


中須賀研究室の衛星開発ロードマップ ふろしき衛星コンセプト
【動画】ストローでできた網を展開する実験の様子


宇宙用ロボット技術

JAXA・西田信一郎氏
 JAXAの西田信一郎氏は「宇宙用ロボット技術」と題して講演を行なった。JAXAの長期ビジョンに基づく宇宙開発へのロボティクスの貢献、世界の宇宙ロボットの動向、地上ロボットとの違いなど各種研究がざっと紹介された。

 人工衛星はもともと人間が行けないところに打ち上げて仕事をさせるロボットだと考えてもおかしくないものだ。もちろん小惑星の探査を行なって話題を呼んだ「はやぶさ」のような無人探査機もロボットと呼んで差し支えない。そのほか、スペースシャトルや国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されているマニピュレータや、火星や月面の探査を行なうローバーも宇宙ロボットである。

 日本では技術試験衛星7型(ETS-VII)が世界で初めて無人自動ランデブードッキング実験や宇宙ロボット画像フィードバック制御を行なうことに成功している。また2007年に打ち上げが予定されているISS用日本モジュール「きぼう」にはマニピュレータ他が搭載される予定だ。

 宇宙ロボットは、振動や高真空、温度変化、放射線に対する問題を抱えることになる。オイルやグリスは蒸発してしまうし、対流による熱伝導はない。そのため、密封してオイル潤滑したり、真空用グリースを使う必要がある。あるいは金メッキなどを施す固体潤滑という真空潤滑方法もある。

 いっぽう力学的には、軌道上は慣性力が支配する無重力の世界である。系は座標と時間を変数とする方程式としては記述できない、いわゆる「非ホロノミック」な力学的拘束を持つことになる。重力がないので、ものを固定するときには、置くだけではダメだ。そのときには閉リンクとなるので力制御技術も必要となる。また、アームを動かすとロボット本体も動いてしまう。逆にそれを利用して、ロボット自体が持つ自由度以上の動きをさせることも可能になる。

 地上との相違点としては、宇宙では破片を飛ばすと非常に困ったことになる可能性がある。デブリ(宇宙ゴミ)となってしまうばかりか、戻ってきて本体にぶつかる可能性もあるからだ。軌道上では、進行方向前方に初速を与えてモノを放出してしまうとより高い軌道に上がって後方へ、逆に後方に放出すると前方へ回り込むことになる。ROBO-ONEロボットは闘いを行なうことが想定されているわけだが、部品が外れて飛ばないように作る必要がある。

 通信伝送遅れの問題も大きい。ETS-VIIでは、信号の往復におよそ6秒かかっていた。そのためコマンド手順を電子化し、予め手順を動力学シミュレータで確認し、その結果をCGで見ながらオペレーションしていたそうだ。


技術試験衛星VII型 ロボットアーム先端部 各種精密作業実験を行なった

ターゲット衛星を自動追従・捕獲する実験も行なった 宇宙ロボットのシステム要件

 では宇宙ロボットにはどんなニーズがあるのか。衛星への補給やデブリの除去などの軌道上保守、大型衛星の自律組み立て、月や惑星などの探査や拠点の構築といったミッションが例として挙げられる。

 西田氏からは、シャクトリムシのような8関節の自律ロボットを使った、大型反射鏡の自律組み立てシステムの概念CGが示された。柱を掴みながら移動し、タスクを実行する様子は、ROBO-ONEのロボット同士の動きにも応用可能なのではないかという。


反射鏡組み立てシステム。白い棒状のものが組み立てロボット 足場を掴んで動き回りながら反射鏡を組み立てる 組み立て試験の様子

ROBO-ONE衛星の運用

馬場裕之氏
 続けて、業務用ソフトウェア産業に従事の傍ら、宇宙開発事情にも通じている馬場裕之氏からは、「打ち上げから人工衛星の運用~ROBO-ONE衛星を読み解く」と題して、運用という観点からROBO-ONE衛星を現実的に考えてみる講演が行なわれた。

 ROBO-ONE衛星のミッションは、地球周回軌道上でロボットを動かして戦わせるだけである。大きさは50×50×50cm四方、50kg以下で、2割がロボット、残りはカメラや、熱制御、姿勢制御、電源、通信、データ処理など「バス部」と呼ばれる部分になる。ロボットの重量は現時点では2kg以下、搭載数は4機、電源は衛星側と単一で12V5A、通信は有線で行なうことが想定されている。衛星はおそらくホイールを使って3軸の姿勢制御を行ない、電力は50W、通信回線は2~4GHzのSバンドを使う予定だ。通信速度は動画用に1Mbps程度、コマンド制御用に9.6kbps程度を確保できると望ましいという。

 打ち上げ方式は他の衛星に便乗するピギーバック(おんぶ、肩車という意味)を使うため、投入軌道は極軌道が前提とされている。軌道の高度はおよそ400~1,000km程度で、仮に800kmとすると、可視時間はおよそ14分となる。追跡管制局を海外にも置ければ日本近くを通らない場合でも追跡できることになるし、JAXAのもつ「JAXAグランドネットワーク」以外に独自追跡管制局を2~3局持つことが望ましいが、そのためにはかなりの費用と、ボランティアベースではない運用組織が必要になるのではないかと馬場氏は語った。


ピギーバック方式で打ち上げられた衛星の例 海外にも追跡局を設置する必要がある

 また、衛星は地球の影に入ってしまう食の状態がある。食の間は地球の影になってしまうので太陽電池は使えない。バッテリは充電と放電を絶えずくり返すことになる。そのことを考えた電源設計が必要だ。バッテリは熱的にクリティカルなので、あまり大きな温度変化をしないように設計する必要もある。なおJAXAの「れいめい」などに搭載されている宇宙用太陽電池は発電効率が27%あり、衛星の一面を太陽に真っ直ぐ向けることができれば、一面だけで十分消費電力である50Wを満たすことができることから、現時点ではパドルを展開するような方式は考えていないという。

 最大の問題はロボット同士をいかに戦わせるかにある。馬場氏はROBO-ONE宇宙大会のイメージビデオを何度も見て、これを実現するためにはどうすればいいかと考えた結果、ロボット相互の片腕を、通電することで縮む形状記憶合金製のバネで繋いだチェーンデスマッチ方式とし、機体内部に姿勢制御用のリアクションホイールを積むことで回転攻撃ができるようにすればいいのではないかと考えたと述べた。そうすれば、機体が飛ばされてもバネに通電することで再びお互いが接敵でき、その反動を使った攻撃も可能になるのではないかというわけだ。

 また、ROBO-ONE衛星は実際に打ち上げに成功したら「民間が手に入れた『遊び』のための衛星」となるので、単に戦うだけではなく、より裾野の広い遊びが提案できるのではないかという。軌道上修理衛星の技術実証衛星としても使えるし、また大学に宇宙ロボットの実験機会も提供できるし、一般人を対象に、ロボット操作機会を提供したら、ヴァーチャルリアリティ技術を使ってロボット操縦を体験させることもできる。

 馬場氏は、小惑星探査衛星「はやぶさ」が愛された理由について「高度な自律機能を備えた衛星が、ヒトの手の届かない深宇宙で孤軍奮闘する姿に感動しているのではないか」と述べる一方で、ロボットへの感情移入を高めるためにも「足は必要」だと語った。

 なお、ROBO-ONE衛星にはまだまだ決まっていないことが多いので、幅広くアイデアを募集しているという。


ROBO-ONE

杉浦登氏。ROBO-ONE on PCで2回連続優勝している
 この後、「ROBO-ONE on PC」についての講演が、2本行なわれた。

 まずは第2回と第3回の「ROBO-ONE on PC」で連続優勝している杉浦登氏から、ROBO-ONE on PCの魅力や面白さ、そして高得点を得るためのノウハウなどが「ROBO-ONE on PCの優勝の制御」と題されて語られた。

 繰り返しになるが、「ROBO-ONE on PC」とはROBO-ONEのシミュレーション版である。「Autodesk Inventor」という3次元CADソフトを使ってロボットの形状設計を行ない、「Visual Nastran 4D」を使って強度などの構造解析を行なう。そしてVisual Nastran 4Dと、汎用数値解析ソフトウェアとして知られる「MATLAB/Simulink」をリンクさせてシミュレーションを行なう、というのが基本手順である。ソフトウェアは参加者審査の上、各ベンダーから無償で提供されている。以前も紹介しているので、関連記事をご覧いただきたい。


三次元CADで設計する 構造解析。強度などを調べる シミュレーションの様子

 なお「Visual Nastran 4D」は「ROBO-ONE on PC」へのサポートを打ち切ったので次回からはMATLABのツール「SimMechanics」を使って、構造解析とシミュレーションを行なうことになるそうだ。

 杉浦氏は、on PCの魅力として「最先端の豪華なソフトウェア」を無料で使え、実機と違って金銭的コスト負担がないこと、ロボットの制御アルゴリズムに集中することができ、なおかつ、3D CAD設計、構造解析、MATLAB/simulink/Stateflowにプロ並みに習熟することで自分自身のスキルアップにもなると述べた。これまでは機構解析を行なっている参加者が少なかったが、高得点をとるためには当然のことながら全てのツールを使うことが必須であると強調した。

 また「設計日記」を公開することを強くすすめた。ROBO-ONE参加者の間にはお互いの情報を公開して教え合う文化があるが、それはon PC参加者の間でも共通しており、「分からないことがあったら誰かが必ず教えてくれる」と述べた。


津藤智氏
 続けて津藤智氏は、「MATLABでロボットの制御」と題して、MATLABの自動コード生成ツール「Real-Time Workshop」の1つ「Embedded Corder」を使って、ロボットを制御するための方法について講演した。

 Embedded Corderを使うと、MATLAB/Simlinkで作成したシステム制御モデルを、自動的にC言語として吐き出すことができる。あとはそれをコンパイルすれば、そのまま実機のロボット制御に使うことができるのだ。

 津藤氏は簡単なプログラムのビルドができることを実際にデモンストレーションすると同時にMATLABのさまざまな機能をレクチャーした。MATLABを使う理由は、「ロボットを宇宙で正しく動かしたい、ついでに難しいことを楽に実装したい」からだという。


デモの構成 実際に自動生成するための手順が細かく実演された
【動画】Embedded Corderを使ってC言語を自動生成してロボットを動かす


 「ROBO-ONE on PC」は、シミュレーション環境を使って要求分析(モデリング)と仕様設計(プロトタイピング)を行なって開発工数を削減する「モデルベース開発」の考え方を、どちらかというと機械を直接いじって試行錯誤することで発展してきたROBO-ONEの世界に持ち込もうとする試みだ。

 「Embedded Corder」を使った実機の制御も、以前から西村ROBO-ONE実行委員長自身が、「on PC」その他の大会会場でデモンストレーションしていたことなのだが、実際にはなかなか活用している人がいないのが現状だ。

 ROBO-ONE on PCは、最初から月面を設定していることから分かるとおり、宇宙大会を強く意識している競技でもある。

 では、実際に宇宙大会に出るにはどうすればいいのだろうか。西村氏は、まずは2,000万円以上の参加費を払って実際にそのスペースを買うという方法が1つあると飛ばしたあとに、「1kg以下」のロボットの大会を企画しており、その優勝者に作ってもらうつもりであると語った。

 その他に、ROBO-ONE委員会が自身が作るロボットも考えているそうだ。現在、委員会では宇宙大会用の宇宙ロボットシミュレータも考えているそうで、そのシミュレータを使ったロボット操作の優秀者に宇宙ロボットの操作/制御を任せるつもりだという。そしてもう1台は、コストは1億円程度と想定されている宇宙大会を支えるスポンサー企業のロボットの搭載を想定しているという。

 取りあえず、宇宙大会に参加したければ、小型軽量ロボットを作る腕を磨くか、制御の腕をシミュレーションで磨くか、どちらかの道があるということになりそうだ。


URL
  ROBO-ONE
  http://www.robo-one.com/
  ROBO-ONE Technical Conference
  http://www.robo-one.com/technical_conference/index.html
  【2006年3月20日】【森山】2010年、ROBO-ONEは宇宙へ(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0320/kyokai44.htm
  【2006年3月20日】第9回ROBO-ONEレポート(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0320/roboone.htm


( 森山和道 )
2006/06/05 18:14

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