2007年1月28日、川崎市・産業振興会館にてROBO-ONE技術講習会 第9回Technical Conferenceが開催された。
Technical Conferenceとは、表題にもあるようにROBO-ONE出場ロボットの技術公開を目的とした講習会だ。第2回ROBO-ONEが行なわれた後の2002年11月に第1回が開催され、年に1~2度のペースで開かれている。
● より“インテリ”なロボットのために
「ROBO-ONEで使われるサーボモータと無線について」というタイトルで講演したのは、ROBO-ONE事務局の上光隆義氏。
現在ROBO-ONEでRC用や微弱電波、無線LAN、Bluetoothなど複数の無線規格が混在している。上光氏は「RC用のプロポは二足歩行ロボットで格闘するROBO-ONEには向かない」、「TVゲームのコントローラーは使用者が少ないうちはいいが、増えてくると混信が問題になってくるはず」と問題点を挙げ、「もっとインテリジェンスになってほしい」と述べた。
サーボに関しては主に通信部分の仕様について語り、「全二重通信でもいいんだけども、半二重通信ならケーブルが半分の太さ(つまり今と同じ太さ)になるので、そのほうがいいのでは」(上光氏)と述べ、「シリアル(通信のサーボ)は、コレじゃないと使えないと言う人が使えばいい。今までのPWMで十分だと言う人はそのままでいいと思う。ただ、シリアルになっていくと、もっとインテリなロボットが出てくるのかなと期待しています」とまとめた。
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ROBO-ONE事務局・上光隆義氏
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【動画】エクセルでサーボを制御するマクロの実例もデモが行なわれた
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【動画】同じくエクセルを使い、サーボのキャプチャ機能を使ってマスタースレーブするデモ
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● 独学で学んだ経験からのアドバイス
有限会社浅草ギ研の石井孝佳氏による講演は、「次のステップに向けての独学方法と参考書籍紹介」。現在ロボット関連の部品を多数開発して販売している石井氏だが、もとからそういったマイコン畑で育ったわけではなく、独学で学んだのだという。
石井氏がまず強調していたのは「ロードマップを作ろう」ということ。いつまでに何をやるか、どうやって実行するかを決め、出来れば紙に書いて作業場に貼っておくことだという。「頭の中で描いているのはロードマップじゃないんです。紙に書いて客観的に見ることで、計画全体を冷静に判断できます」(石井氏)。
そして、一歩先に行くためにもマイコンメーカーから出されるデータシートを読めるようになっておくことがプラスだという話もあった。マイコンの使い方が書籍になるにはタイムラグがあるし、誰も使っていないマイコンは資料そのものが少ない。そういったマイコンを使うには、メーカーが出すドキュメントを取ってきて、自分で調べる必要がある。
また、英文のドキュメントを読めれば、日本だけでなく海外の奇抜なマイコンも使用できるので、さらに世界が広がると言う話も挙げていた。石井氏は「英文と言っても日本語だとカタカナになっているようなものも多いので、日本語と英語の両方が出ているドキュメントを使って対訳表を作り、検索できる“自分辞書”を作ればそれほど苦労しないと思う」と話していた。
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有限会社浅草ギ研 代表取締役・石井孝佳氏
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同社製CMOSイメージセンサモジュール CMOS-EYEと、その開発の参考にした書籍
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● 新たな試みとして行なわれた企業の製品紹介
今回は新たな試みとして、企業による製品紹介が大きく時間を占めていた。これによってテクニカルカンファレンスの参加費用が無料となったとのことなので、CMタイムという見方もできるのだが、広告では知ることのできない製品の突っ込んだ部分までの解説が聞けたり、参加者も質問や要望を直接投げかけていたので、貴重な機会だったのではないだろうか。
有限会社姫路ソフトワークスは、同社の製品であるロボットキット「VariBo」の解説と、技術協力しているエスケイパン製「ゴシックファイブ」の紹介を行なった。
同社の代表取締役である中村素弘氏は、同社で開発をする傍ら、地元の工業高校で非常勤講師をしている。「半田付けしたことない」、「マイコンわからない」という生徒を相手に「二足歩行ロボットを教えてくれ」という依頼だったそうで、最初は途方にくれたとか。
既存のキットはマイコンがブラックボックスなものがほとんどで、学校で使うには向かないと感じた中村氏は、それならと自社開発でマイコンボードから作る「VariBo」を製品化した。
「VariBo」は安価で確実に二足歩行するロボットだが、ブラックボックスが無いために学習レベルが上がっていけばどんどん高度なことが出来るようになり、いわゆる“パラパラマンガ”方式だけではなく、計算歩行をさせることもできる。サーボを付け足すこともできるし、キットの形も決まっていないのでユーザーの思い付きをどんどん形にできるのだという。
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有限会社姫路ソフトワークス 代表取締役・中村素弘氏
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ロボットキット「VariBo」(大日本技研による試作の外装付き)
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組み替え自由なので、レベルアップに応じて買い足していける
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ロボットキットとしては珍しい鉄製フレームの「ゴシックファイブ」
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双葉電子工業株式会社による製品紹介は、同社がロボット用として発売しているサーボとプロセッシングユニットに加え、同社製品が組み込まれた二足歩行ロボットキット「GR-001」(発売元:株式会社エイチ.ピー.アイ.ジャパン)の紹介だった。
同社が発売している「コマンド方式」サーボは、一般的なPWM信号方式と違い、サーボに内蔵されたセンサ情報を取得することが出来るため、ポーズをキャプチャすることができる。「温度を感知してサーボがオーバーロードする前に止めたりもできます」(双葉電子工業株式会社・植村千尋氏)。
そんな同社のサーボをアクチュエータとして使用している「GR-001」は、汎用のプロセッシングユニット「RPU-10」を専用にカスタマイズした「RPU-11」を使用しており、実機を使わなくても、画面内の3Dモデルを動かすことでポーズやモーションを組むことができるという。デモでは実際に画面上でポーズをつくり、再生するところまでが行なわれた。
発売前のキットであり、休憩時間にも同社関係者の席には人だかりができていたことからも、注目度の高さがうかがわれた。
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双葉電子工業株式会社・植村千尋氏
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株式会社エイチ.ピー.アイ.ジャパン 新規事業部開発課マネージャー・安井貴彦氏
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樹脂と言ってもポリカーボネート製のフレームなので、「これくらいやっても折れません」と強調
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【動画】RPU-11による、ソフト上でのモーション作成。実機を使わないので場所もとらないし、モーターが消耗することもない
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近藤科学株式会社の製品紹介は、なぜ40xx系のサーボが開発されたのかという経緯や、HV化の理由についての解説がメイン。注目されるシリアルサーボの展開については「現在はPWM方式も市場の支持を得ているので併売していく。そもそもPWMはRCサーボの流れなので、今後はシリアルに移っていくのかもしれない」(近藤科学株式会社 常務・中園勝久氏)と述べるにとどまった。
新製品の発表こそなかったが、KHR-1HVやマノイに搭載されている「RCB-3」にモーションコール(1つのモーションから別のモーションを呼び出す機能)や、条件分岐の高速化などを行なうアップグレードサービスを2月中旬に予定していると言う発表があった。現在のところRCB-3J(KHR-2HV標準装備)はサービスの日程が立っていないが、サービスを行なう可能性はあるとのことだった。
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近藤科学株式会社 常務・中園勝久氏
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初代KHR-1の試作モデル。トルク3kg・cm程度の弱いサーボで組み上げたこのモデルが動いたことで「いける」と感じたそうだ
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【動画】足部の12軸をハイパワー&ハイスピードのKRS-2350HVに換装したKHR-1HVの動き。先日ヒューマノイドカップにて優勝したROBOSPOT選抜チームの“HYUGA”らしい
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京商株式会社の製品紹介は、同社の二足歩行ロボットキット「マノイ」についてのもの。同社のロボットグループ4人全員が登壇し、ポリカーボネート製の外装のカットの実演や、“ラジオ体操”のデモなど、製品や製品を取り巻くサービスについて紹介。もともとROBO-ONEに出場していた高橋智隆氏の「CHROINO」がきっかけで生まれたのがマノイ(PF01)であり、現在発売されているAT01はユーザーから挙がった「いろいろ改造していきたい」という声に応えた形で生まれたものだと明かした。
発表をまとめた京商株式会社 ロボットグループマネージャー・岡本正行氏は「京商という会社は製品も作るんですが、製品を買ってもらって、どれだけ遊んでもらえるかがポイントなんです」と強調し、今後の展開に期待して欲しいと述べた。
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京商株式会社 ロボットグループマネージャー・岡本正行氏
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マノイAT01。ラジオ体操のデモは“第2”まであるという
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ポリカーボネート製外装のカット実演
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● キングカイザーの強さはモーションの解像度にあり
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マルファミリー・丸直樹氏
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一日の最後を締めくくったのは、2006年に大旋風を巻き起こしたキングカイザーの製作者、マルファミリー・丸直樹氏による「キングカイザーのジャンプ制御のすべて~ギヤを壊さないためのジャンプとは」と題された講演。朝の時点でもほぼ満員だった会場は、この時点で立ち見が出るほどの盛況となっていた。
丸氏は「ジャンプはサーボのゲインコントロールが重要です。ずっと力みかえっている必要はないし、力を抜きすぎてもいけない」と始め、自身が競技者だったと言うパワーリフティングの話に移った。
人間は鍛えれば自分の体重の倍までは持ち上げられると言われているのだが、競技者として世界で戦うためには3倍を持ち上げる必要があるらしい。3倍のためには人間が無意識に持っている筋肉の防御作用を一瞬切る必要があるが、常に保護意識が切れていては筋肉が壊れてしまう。この関係に代表される、人間の筋肉の使い方がサーボコントロールに通じると考えたのだという。
サーボが常に全力を出している状態は、つまり人間で言えば保護意識が切れている状態だ。力が必要なのは機体を空中に浮かせる一瞬だけなので、そのときだけゲインを最大にし、その後はゲインを小さくしてサーボを保護するのだ。
だが、丸氏は「ここまでは上級者ならたぶん誰でもやってます」という。キングカイザーは、さらに着地でつんのめらないためにジャンプしてから着地するまでに、さらに細かいゲインコントロールを行なっている。実機を動かしながら解説されても微妙すぎてわからないほどの「一瞬」を、解像度をあげてつきつめていく、こだわりが強く感じられた講演だった。
また、丸氏の以前のインタビューでも触れられていた「マネジメント」についても触れ、今回はリスクマネジメントの実例として、自身が第10回大会のときに行なったプランを紹介した。
会場で無線の調子が悪くなる可能性を考慮して、予備のBluetoothユニットを1組用意。それもだめだったときのことを考え、微弱無線を使った別デバイスも用意した。デバイスが別になればプログラムもまったく変わってくるので、あらためて作り直す必要があったのだが、予選が終わった後、決勝まで一晩をかけて作業を行なった。
本番では無事にBluetoothが通信できたのでこれらの準備は無駄に終わったのだが、丸氏は「やっていることの99%は無駄なんです。それでもやるのがリスクマネジメントなんです」、「例えば100万円あったらもう1機これ(キングカイザー)を作ります。10万円ならサーボを買います。1万円ならサーボは無理だけどギヤを買うでしょう。1,000円ではギヤも難しいですが、アルミの板だったら300円なので、それを買ってブラケットの予備を作ります。そうやって“やれることは全部やる”んです」と述べ、会場からは大きな拍手が上がっていた。
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インストラクターの資格を取る際に勉強したことが、モーション作りの際にいろいろと思い出されてきたという
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人間の筋肉のコントロールと、サーボコントロールの共通点
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ギヤを壊す(可能性が高い)ジャンプのモーション構造。ゲインコントロールを知らなければこうなってしまう
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【動画】ギヤを壊す(可能性が高い)ジャンプの実例。壊れないようにマットを敷いている
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ゲインコントロールを行なっているビルダーが作っている(と思われる)モーション構造
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【動画】その実例。非常に微妙なレベルで上体が揺れている
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キングカイザーのモーション構造。数値が書かれていないのは、それぞれの機体に固有のものだからとのこと
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ゲイン制御の詳細
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【動画】その実例。着地した後、ヒザが「クッ」と動くのがはっきりわかるが、それ以外はやはり“一瞬”
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■URL
ROBO-ONE
http://www.robo-one.com/
Technical Conference
http://www.robo-one.com/technical_conference/index.html
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( 梓みきお )
2007/01/31 00:22
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