今回のレポートは、前日のスプリント&ゴールラッシュ大会で上位に入った4チームがサッカーの総当りリーグ戦で優勝を目指す、8日の「ヒューマノイドカップ・サッカー大会」の様子を報告する。
● 勝ち残った4チーム
「スプリント&ゴールラッシュ大会」が行なわれた翌日の1月8日、前日と同じ博多リバレイン5Fアトリウムガーデンで、二足歩行ロボットによるサッカー大会が行なわれた。
参加したのは前日の大会で4位までに入った次の4チーム。
・九州三銃士
Super Digger(ひろのっち)・Automo01(holypong)・ワイルダー01(勝野宏史)
・ROBOSPOT選抜チーム
KHR-1HV TSUBASA(SHIBATA)・KHR-1HV HYUGA(HIKIMA)・メタリックファイター(森永英一郎)
・東西きわものオールスターズ
アフロ(菅原)・トコトコ丸(チームトコトコ)・マジンガア(光子力研究所)
・疾風零龍
成龍(きゃのん)・九共大ーZERO(メカエレ工房)・九共大ー疾風(メカエレ工房)
この4チームが、3対3のサッカー(うち1台はキーパー)の総当りリーグ戦6試合を行ない、勝ち点による優勝を目指す(勝ち=3点、引き分け=1点、負け=0点。延長やPK戦は行なわない)。
前日の大会の順位はサッカー大会には反映されない。これは「動ける機体のチーム」を4チーム選抜して、その4チームでサッカー大会を行なう意味合いが強い(正直、動けないロボットでは、サッカーの試合自体を成立させることが難しい)。
ルールはサッカーに準じるが、スローインをキックで行なうなど、実際のサッカーに比べればあまり厳しくはない(キーパー以外の選手が手を使ってボールを動かすとハンドの反則になるのはサッカーと変わらないが、意図せずにボールがロボットの腕に当たった程度ではハンドの反則は取られない、など)。
これは現在の二足歩行ロボットの性能の限界から来るもので、将来はルールも若干変わってくるものと思われる。
試合時間は前半5分、後半5分(ロスタイムもあるので、それより長くなる)で、その間に5分間のインターバルが取られていて、インターバルの間にバッテリの交換や簡単な修理などを行なえるようになっている。
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試合に使われるサッカーコート。パンチカーペットの上に白いラインが塗料で描いてある(中央のロボットはROBO-SPOT選抜チームのKHR-1HV HYUGA)
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開会式の様子
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試合の前にはパフォーマンスも行なわれた
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● 第1試合 東西きわものオールスターズ VS 疾風零龍~グレートウォールの脅威
オープニングの第1試合は、前日、悪条件の中で3位に入った東西きわものオールスターズと、ゴールラッシュで逆転4位に滑り込んだ、地元福岡県の疾風零龍との戦いとなった(東西きわものオールスターズのキーパーはマジンガア、疾風零龍のキーパーは疾風)。
東西きわものオールスターズのうち、アフロとトコトコ丸は2006年7月に開催された前回のヒューマノイドカップ・サッカー大会に参加しており、特にトコトコ丸のいたAチームは優勝している。
これに対して疾風零龍は、サッカーの公式試合の経験はないものの、九州練習会でサッカーの練習を積み重ねており、東西きわものオールスターズからの勝利を狙う。
試合が始まると、疾風零龍は文字通り巨大な壁に悩まされることになった。アフロ、トコトコ丸といえばROBO-ONEの中でも大きなロボットして知られている。その2台がチームを組み、しかもサッカーコート内を高速で移動する。2台並ばれると、まさしく敵の侵入を防ぐ「グレートウォール」になってしまう。
疾風零龍の成龍とZEROは、スピードを生かしてトコトコ丸とアフロに対抗するが、やはり当たられると体重差で押されて転倒してしまう(成龍とZEROのどちらもKHRの改造機)。パワーで勝るアフロとトコトコ丸は疾風零龍のコートに攻め込み、シュートを放つ。これをよく守ったのがキーパーの疾風だ。疾風は長身を生かした倒れこみモーションで、3回もシュートを防ぎ、ついに前半を0-0に押さえた。
前半が終わると、5分間のインターバルがあり、コートチェンジをして試合再開。前半を0-0で押さえたことで、疾風零龍も「いける!」という雰囲気になったようだが、やはりアフロとトコトコ丸の「グレートウォール」はなかなか崩せない。
そして疾風がゴールキックをミスして転倒した隙に、アフロが突っ込んでボールをそのままゴールに押し込んだ。その1点を守りきり、東西きわものオールスターズがまず1勝を上げ、勝ち点3を獲得した。
・東西きわものオールスターズ 1-0 疾風零龍
・得点獲得ロボット アフロ 1点
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第1試合の東西きわものオールスターズ VS 疾風零龍。アフロとトコトコ丸の2台が並ぶと、まさにグレートウォール
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トコトコ丸がよくやる戦術の1つ。相手の進行方向に立ちふさがり、動きを封じるもの
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疾風、必死のセービング
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成龍のキックイン。しかし、グレートウォールはなかなか破れない
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アフロがボールを押し込んだ瞬間。これが決勝点となった
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● 第2試合 九州三銃士 VS ROBO-SPOT選抜チーム~高速VS新戦術
続く第2試合は、前日の大会1位と2位の対決となった。前日に続いて連覇を狙う九州三銃士。対するのは「このサッカー大会で優勝するために結成された」ROBO-SPOT選抜チーム。どちらもスピードのあるチームだ(九州三銃士のキーパーは「九州の守護神」と異名を取るワイルダー01、ROBO-SPOT選抜チームのキーパーは、直前までキーパーのモーションを作っていたメタリックファイター)。
ところで、前回のヒューマノイドカップ・サッカー大会で、編み出された1つの守備戦術があった。それは「ボールを持った相手の前方に素早く移動し、シュートコースを塞ぐと同時にドリブルで上がることも阻止する。場合によっては2台で壁を作り、相手の動きを封じる」というものだ(それ以前の二足歩行ロボットサッカーでは、機体の性能の限界もあって、まず守備的なことができなかった。最初に編み出された守備戦術といえる)。
九州三銃士だけでなく、同じ九州練習会で練習していた疾風零龍、それに前回のヒューマノイドカップ・サッカー大会に参加していたアフロとトコトコ丸のいる東西きわものオールスターズも、基本的にはこの守備戦術を使い、その上でチャンスがあればゴールを狙うという戦術を取っている。
今回、この戦術とは違う戦術を使ったのが、ROBO-SPOT選抜チームだ。2台のFWを両サイドに展開させ、パスを通して攻撃につなげ、1台が抜かれそうになった場合、逆サイドに居るもう1台がカバーに行く、というものだ。これだと直接ゴールをシュートで狙われる危険性が高くなるが、それはキーパーのメタリックファイターがカバーするようだ。
実はこの試合は、2つの違う戦術がぶつかりあった初めての戦いだったのである(実際はそれほど目立たなかったが……)。
高速移動を誇る九州三銃士に対して、とにかく安定したサッカーモーションで戦うROBO-SPOT選抜チーム。双方とも高い運動性能を持つチームだけに試合は白熱したものとなった。安定した動きでROBO-SPOT選抜チームのHYUGAとTSUBASAが攻め込めば、九州三銃士のSuper Diggerが素早く戻って、チェックをかける。その中でROBO-SPOT選抜チームは、センタリングを見せるが、シュートがなかなか決まらない。逆に九州三銃士のSuper DiggerとAutomo01が攻め込めば、メタリックファイターが驚異のX字セービングで得点を許さない。
両者ゆずらず、前半は0-0で終わった。
インターバルで九州三銃士には、疾風零龍の水井氏がセコンドについた。同じ九州練習会のメンバーとして助言を与えに来たようである(水井氏は九州練習会のリーダー)。
その甲斐あってか、後半に入り先に点を取ったのは九州三銃士だった。Super Diggerがゴール前からシュートし、ゴールを奪った。しかし、ROBO-SPOT選抜チームも負けてはいない。一瞬の隙をついて、HYUGAがゴールにボールを押し込み、イーブンに戻した。
ここで九州三銃士のSuper Diggerが故障(足首と股間のサーホが故障したらしい)。Super Diggerは後方に下がるしかなく、ROBO-SPOT選抜チームが猛攻をかけてきた。しかし、Automo01とワイルダー01が踏ん張り、ようやく引き分けに持ち込んだ。両者痛み分けの勝ち点1を獲得した。
・九州三銃士 1-1 ROBO-SPOT選抜チーム
・得点獲得ロボット Super Digger 1点 KHR-1HV HYUGA 1点
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ROBO-SPOT選抜チーム VS 九州三銃士のキックオフ
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敵コートに攻め込むKHR-1HV HYUGAと、その前に立ちふさがるSuper Digger。青い外装のTSUBASAがHYUGAの斜め後方にいることに注目(斜めに位置するというのがROBO-SPOT選抜チームの基本ポジションらしい)
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TSUBASAのキックインを三枚の壁で阻止する九州三銃士
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Super Diggerのシュートを防ぐ、ROBO-SPOT選抜チームの鉄壁の陣
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九州三銃士のセコンドに駆けつけた、疾風零龍の水井氏
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またもやメタリックファイターの、驚異のX字セービング。足裏以外はコートに設置していないので、この体勢を保持していても反則にはならない
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鉄壁の陣をかいくぐり、Super Diggerのシュートが決まった直後。ただし、Super Diggerは哀れにも青い外装のTSUBASAの下敷きになっている……(あるいはこれが故障の原因?)
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HYUGAが押し込みゴールを決めた直後の画像
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● 第3試合 ROBO-SPOT選抜チーム VS 疾風零龍~TSUBASA覚醒
この試合は、ROBO-SPOT選抜チームのサッカー大会用に作られてきたKHR-1HVカスタムの凄さを見せ付けられた試合になった。
前半、疾風零龍の成龍が故障し、戦列離脱(ロボットが故障してコートの外に出されても、試合はそのまま続行される)。その間に、今までHYUGAの影に隠れて目立たなかったTSUBASAがコーナーキックから直接ゴールにボールを入れた。
後半、成龍が戻ってきても、TSUBASAの勢いは止まらない。正面からの2本のシュートはいずれも疾風の横を抜けてゴール。今大会唯一のハットトリックを成し遂げた(公募制になってからのヒューマノイドカップ・サッカー大会では、アリウス・ありまろ・Super Diggerに続く4台目のハットトリック達成ロボット)。
試合もROBO-SPOT選抜チームが3-0で初勝利を挙げ、勝ち点を4に伸ばした。一方、疾風零龍はここまで勝ち点0で優勝戦線からの脱落が決定。
・ROBO-SPOT選抜チーム 3-0 疾風零龍
・得点獲得ロボット KHR-1HV TSUBASA 3点
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ボールを持ったTSUBASA。なお、ボールは市販されている固めのスポンジボール
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コーナーキックをするTSUBASA。なお、このキックがそのまま疾風零龍のゴールに入り、それからTSUBASAの快進撃が始まった
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シュートを狙うTSUBASA。疾風零龍側は右にいるHYUGAを気にして、壁を作りきれていない
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● 第4試合 東西きわものオールスターズ VS 九州三銃士~不調の三銃士
勝ち点3を挙げて勢いに乗る東西きわものオールスターズと、優勝戦線に残るためには何としても勝利がほしい九州三銃士との戦いとなった。
しかし九州三銃士は、前の試合で故障したSuper Diggerだけでなく、実はキーパーのワイルダー01も故障を抱えていた(ギアが欠けていたとのこと)。前半、その影響が出てしまった。正面から蹴ったトコトコ丸のシュートを、キーパーのワイルダー01は反応できずに見送り。前回の大会でワイルダー01の名キーパーぶりを見ていたMCからは、「どうした!? ワイルダー!」の声も上がったほどだった(後で聞いたところ、操作を誤ったらしいが、当然故障の影響もあっただろう)。
これで東西きわものオールスターズは勢いに乗り、後半には今度はアフロがボールを押し込んでゴールし、試合を決めた。終盤、九州三銃士は全員攻撃に出たが、ボールはゴールラインの上に止まったままで得点ならず、ここでタイムアップ。
東西きわものオールスターズは2連勝で勝ち点6。次の試合で、ROBO-SPOT選抜チームと優勝をかけて激突することになった。
一方、九州三銃士は優勝戦線からの脱落が決定。
・東西きわものオールスターズ 2-0 九州三銃士
・得点獲得ロボット トコトコ丸 1点 アフロ 1点
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壁対壁。左のSuper Diggerのコードには、よく別の機体が引っかかっていた。これも今後のロボットサッカーではクリアしていかなくてはならない問題だろう
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これはSuper Diggerの戦法の1つで、横歩きでボールと敵の機体の間に体を入れ、敵のボールコントロールを断ち切るもの
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ゴール前で固まるロボットたち。このような状態を作らせないために、どうすべきか考えていく必要があると思われる
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アフロの押し込みゴール
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● 第5試合 東西きわものオールスターズ VS ROBO-SPOT選抜チーム~優勝を決める戦い
この試合で優勝が決まる。東西きわものオールスターズは勝ちか引き分けで優勝が決まり、ROBO-SPOT選抜チームは勝利すれば優勝となる。
ポイント的には東西きわものオールスターズが有利で、観客の声援も東西きわものオールスターズに集中した(ロボスクエアでもトコトコ丸とアフロの人気はとにかく高い)。
しかし、前の試合で覚醒したTSUBASAがこの試合でも活躍。前半、正面からのシュートで先取点を挙げた。これでROBO-SPOT選抜チームが勢いづき、東西きわものオールスターズのコートに攻め込む。TSUBASAがキックしたボールはゴールライン付近で止まり、これをキーパーのマジンガアがクリアしようとした。しかし、HYUGAが詰めてきたため、処理を焦り、痛恨のオウンゴール。前半を終わった時点で、2-0でROBO-SPOT選抜チームが有利に立った。
だが、歴戦の強者がそろった東西きわものオールスターズもこれでは終わらない。後半、混戦状態からアフロが放ったシュートは、キーパーのメタリックファイターの横を抜けてゴールへ。あと1点取って引き分けに持ち込めば優勝が決まる。終盤にはキーパーのマジンガアも攻撃に参加し、あと1点を狙ったが、タイムアップ。
ROBO-SPOT選抜チームが2-1で勝利し、勝ち点7で優勝が決定した。
・ROBO-SPOT選抜チーム 2-1 東西きわものオールスターズ
・得点獲得ロボット KHR-1HV TSUBASA 1点 アフロ 1点
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優勝を決める一戦のキックオフ!
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アフロの横を抜こうとするTSUBASA。すでにHYUGAは逆サイドの先で待っている
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やはりグレートウォールは簡単には抜けない……
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TSUBASAが前方にボールを上げ、それを追いかけるHYUGA
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マジンガア、痛恨のオウンゴール(マジンガアの向こうにいるロボットはHYUGA)
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メタリックファイターの横を抜けてのゴール
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東西きわものオールスターズ最後の攻撃
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優勝が決まって喜ぶROBO-SPOT選抜チーム
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● 第6試合 九州三銃士 VS 疾風零龍~九州勢同士の戦い
最終戦はどちらも勝利のないチーム同士の戦いとなった。「とにかく1勝!」を目指して戦った。お互い手の内を知っているので激しい試合となったが、どちらも得点できず、0-0の引き分けに終わった。
・九州三銃士 0-0 疾風零龍
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Super Diggerのシュートを三枚の壁で防ぐ疾風零龍
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弾むような横歩きを見せていた青い髪の成龍
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● 優勝はROBO-SPOT選抜チーム
今回のサッカー大会を制したのは、「サッカー大会で優勝するためにやってきた」ROBO-SPOT選抜チームだった。とにかく2台のKHR-1HVカスタムのモーションの安定度は抜群だったし、秋葉原にあるROBO-SPOTではサッカーの練習が毎日のように繰り広げられているという。まさしく優勝に相応しいチームだったといえる。
実はロボスクエアでは、2003年7月から二足歩行ロボットによるサッカー試合を行なってきた。その流れが今度はROBO-SPOTを通じて全国的なものになっていくのかもしれない。その意味でも今回のROBO-SPOT選抜チームの優勝は、1つの転機になりそうな気がする。
ただ、試合全体を見ていて課題もあった。ボールを巡って、ロボットが壁を作って押し合う場面が多く見られた。その結果として、ロボットの転倒や絡み合いも多発し、スムーズなゲーム展開をさまたげていた。またボールがロボットの影に隠れて、操縦者や観客から見えなくなることもあった。
その点、優勝したROBO-SPOT選抜チームは左右に分散してのサイドパスを多用。成功率は決して高くなかったが(すぐにボールがサイドラインを割る)、新たなサッカーの形を予感させてくれた。
またこちらも成功率は高くなかったのだが、九州三銃士のAutomo01がバックキック(ヒールキック?)モーションを多用していた。
正面だけでなく、左右や後ろにボールを転がし、できるだけロボットを分散させてゲームを進めること。これができるようになると、二足歩行ロボットサッカーは新たな展開を見せるだろう。
・優勝 ROBOSPOT選抜チーム 2勝1分0敗 勝ち点7
・2位 東西きわものオールスターズ 2勝0分1敗 勝ち点6
・3位 九州三銃士 0勝2分1敗 勝ち点2
・4位 疾風零龍 0勝1分2敗 勝ち点1
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表彰式でインタビューを受けるROBO-SPOT選抜チーム。ちなみにインタビューを受けた森永氏のコメントは「いやー、勝つと気持ちいいですねー」だった
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観戦に来ていた子供たちも混じっての記念撮影。しかし、ほとんど全員の視線が左下のアフロに向いているのに対し、アフロの操縦者だけ逆方向を向いている
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喜びのポーズで写真に収まるROBO-SPOT選抜チーム
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実はROBO-SPOT選抜チームの司令塔だったSHIBATA氏。試合中、積極的に指示を出していた。もしかすると他のチームは彼の頭脳にやられたのかもしれない……
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ふと見かけた面白い光景。題して「マスタースレイブと正月座席」
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■URL
ロボスクエア
http://www.robosquare.org/
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( 大林憲司 )
2007/01/15 00:17
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