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「カオス的遍歴」は気まぐれロボットを作れるか
~ZMPと人工生命研究の東大・池上研究室がコラボレーション開始


 5月31日、ロボットベンチャーの株式会社ゼットエムピーは、同社が開発・販売しているiPod用スピーカーロボット「miuro(ミューロ)」を、より自然に振舞わせることを目的とした人工生命体プログラムの開発に向けて、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系准教授の池上高志氏と共同研究を開始したと発表した。miuroが気まぐれな行動を取ることを可能とすることで飽きることのないロボットを実現できる可能性があるという。

 アップルストア銀座で行なわれた記者会見では、ZMP代表取締役社長の谷口恒氏、東大の池上高志氏らによる「サイエンス×ロボティクス 人工生命体miuroの可能性」と題されたトークセッションのほか、デモンストレーションが行なわれた。

 miuroは、iPodの外部スピーカーとして使えるほか、無線LANを搭載しておりネットワーク経由でPC上の音楽ファイルを再生したり、インターネットラジオ番組を楽しむことができる音楽家電ロボット。ジャイロ、加速度センサーによる2輪移動、ケンウッドと共同開発した高音質サウンドと、ZMP独自の音楽解析ソフトウェアによるダンス動作が特徴だ。

 オプションとして、自宅のパソコンから遠隔操作できる「PCコントローラ」、移動経路生成技術と画像処理技術を使ってあらかじめ登録したリスニングポイントに移動できる「自律移動パッケージ」が発売されている。6月には携帯電話を使った遠隔操作を可能にする遠隔コミュニケーションパッケージの発売が予定されている。


miuroのハードウェア構成 miuroのシステム構成

株式会社ゼットエムピー代表取締役社長 谷口恒氏
 両者のコラボレーションのきっかけは今年2月24日に、生存科学研究所主催「脳科学と芸術」第一回シンポジウムにて「複雑系音楽と脳」をZMP谷口氏が聴講し、興味を持ったこと。たまたま池上氏が人工生命体のシミュレーションを仮想2輪ロボットでシミュレーションしていたこともあって、共同研究が始まったという。谷口氏は「人工生命の研究を応用することで、予想のつかない動きをロボットが行なえるようになること、そしてロボットがペットのような生活に楽しさと潤いを与える存在になってもらいたいと期待している」と述べた。


東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系准教授 池上高志氏
 続けて池上氏が簡単に今回のコラボの内容について述べた。

 どんな複雑な機械でも人が命令を与えないと動かない。だが生命体はどんなものでも命令がなくても動く。池上氏によれば、自律性・自発性は生命の本質的な部分だという。では、自発性を人工的に構築することは可能だろうか。

 方法論は2つ。ひとつは「人工生命」。もうひとつはダイナミカルシステムズ、すなわち力学系である。決定論的な時間発展規則に従うシステムだ。この2つを合わせることで自発性に迫ろうというのが池上氏のアプローチである。仮想生命体を「芳醇な時間の構造」をもとに発想したダイナミカルシステムズによってデザインし、「身体化されたカオス的遍歴(Embodied Chaotic Ltinerancy : ECI)」が自律性について考え直すキーワードとなる。


カオス的遍歴 身体化されたカオス的遍歴(Embodied Chaotic Ltinerancy : ECI)

 「カオス」とは、決定論的な規則に従っていながら、予測不可能な振る舞いを示すシステムのことだ。初期値に非常に敏感であることも特徴の一つである。カオスは状態空間を遷移していくなかで、やがて「アトラクター」と呼ばれる状態に引き込まれていく。

 いっぽう、特定の状態に落ち込んでしまうのではなく、ある擬似アトラクターから別の擬似アトラクターへと遍歴していく状態が「カオス的遍歴」である。ひとつの擬似アトラクターから別のアトラクターへと移り変わっていく過程だ。そのなかに、生物との類似性を見出そうというのが1つ目のアプローチだ。

 池上氏は、ロボットが体を持っていることで、ボディに埋め込まれ「身体化されたカオス的遍歴」が生まれるのではないかと考えているという。身体性という制限あるいは入力をもとにして作られるカオス的遍歴、それが身体化されたカオス的遍歴現象だ。

 「FitzHugh -南雲方程式」と呼ばれる式を使うことで、2変数で表されるニューロンを表現することができる。完全には安定ではない、カオス的な不安定性を持ったニューロン素子だ。この素子を組み合わせることで、外からの入力が周期的、あるいはランダムなものであっても、逆にランダムあるいは周期的な出力を出すようなふるまいをもったネットワークを作ることが可能になる。

 さらに、生物にならってニューロン間を繋ぐ信号の伝達速度をばらつかせる。これにより、ある信号はすぐに次のニューロンに行くが、別の信号はゆっくりと次のニューロンへと渡されることになる。

 そうすると、内部神経発火パターンの時間発展に、「カオス的遍歴」が見られたという。つまり、発火があるパターンへと引き込まれていき、しばらくはそのまま維持されるが、やがて自然にそれが崩れ、別のパターンへと移っていくようになった。すると、内部状態は常に時々刻々異なることになるので、仮に同じ刺激を受けたとしても、それぞれの履歴に応じて、違う出力を出すことになる。

 池上氏はこの考え方をもとにした30個の素子(入力10、介在ニューロン16、出力4)からなるニューラルネットワークの構造と、シミュレーション結果を示した。シミュレーションでは床からの接触情報をインプットとしたという。


ニューロン間をつなぐ信号の伝達速度をばらつかせると、内部神経発火パターンの時間発展に「カオス的遍歴」が見られる シミュレーションの様子。緑のラインが床からの接触情報

 いっぽう、miuroでの実験は、刺激として「音楽」を使った。「音楽」は時間構造を持ったパターンだ。時間構造もった刺激である音楽を入力したときに、このネットワークがどのような構造を出すかがポイントとなる。

 池上氏は「音楽インプットが作り出す『身体化されたカオス的遍歴』は、自発性というある種の遊びを、かたちづくっている」と述べた。「自発性は遊び」だという。外部入力に対して機械的に反応しているわけではないし、特にはっきりした目的があるわけではないからだ。自発性の問題は、生物から、どのようにして遊びが出てくるのかという問題でもあるという。

 具体的には音楽のビートをインプットとし、モーターの出力をアウトプットとした。実際のロボットは身体性、すなわちモーターの速度に縛られるので、入力と出力を同じタイムスケールで回すことはできない。数ミリ秒単位の入力に対して出力のタイムスケールは数百ミリ秒、その間を中間段階のタイムスケールのニューロンがなめらかに繋ぐという、3段階のタイムスケールを持った各4つずつ合計12個の素子からなるニューラルネットワークを構築し、miuroを動かした。


【動画】デモの様子。音楽に合わせてmiuroが動く
 デモではmiuroが、ニューラルネットワークのニューロンのふるまいに応じた「運動プリミティブ」を音楽に合わせて自律的に作り出し、プリミティブを組み合わせて踊る様子がデモされた。ここでいう運動プリミティブとは擬似アトラクターである。永続するものではなく、絶えず作り出されては壊れていくものだという。

 実際の様子を見ていると、音楽に合わせて行ったり来たりしたり、ひたすら動き回っているだけではなく、障害物もないのにピタッと止まっているときがあったかと思うと、またふっと動き始めたりする様子が見られた。まだあまり解析していないそうだが、履歴にかなりひきずられるシステムなので、同じ楽曲を聞かせた場合でも初期状態に依存して違う構造を持つことはあるという。またそのあたりはニューラルネットワークの規模や、どのくらい「疎」であるかといった素子同士の結合の構造にもよるという。なお曲は池上氏と親交のあるATAKの渋谷慶一郎氏によるもの。

 miuro にはカメラや赤外線など各種センサーも搭載されているが、現在は、まだセンサー情報は使っていない。デモにおいても、通常販売されているmiuroならぶつからないような壁にぶつかってしまう様子が見られた。しかし今後はそれらセンサーからの空間情報も取り込んで情報表現し、運動構造を作り上げていく予定だという。感覚の種類すなわちモダリティの違う情報がまとめて表現されることになるので、この考え方は各モダリティを超えた冗長性の構築にも示唆を与えることが期待される。


miuroプロジェクトマネージャー・西村明浩氏
 ZMPのmiuroプロジェクトマネージャー・西村明浩氏によれば、音楽に合わせて動くだけではなく、デモで見せた「気まぐれな動き」は西村氏らも見たことがないものだという。西村氏はmiuroの今後の展開について述べた。

 miuro は、移動するオーディオ機器であり、キーワードは「アクティブエレクトロニクス」だという。受身型の機械ではなく、音楽を運んできてくれる能動的な機械という意味だ。西村氏は、「アクティブ型」の機械であるmiuroに人工生命体研究の成果を組み合わせることで、さらに親しみやすく飽きない、ペットのような機械へと進化させられるのではないかと述べた。

 今後は、再生している音楽だけではなく、これまでの履歴、外部センサー入力などを組み合わせると同時に、人工生命体プログラム処理を本格的に適用する。そして音楽だけではなくさまざまな入力を使うことにより、人間には予想できないような自律行動をさせていきたいという。たとえば音楽を再生しているときに、人が近づいたり触ったりすることにより、再生している楽曲が(miuroの内部状態に応じて)変化するといった商品の開発を目指す、と述べた。

 同社では今後、今回の開発環境および、それをソフトウェア開発キット(SDK)として整理したものを、法人や教育機関へ販売することを検討している。価格は20万円程度で、発売時期は9月頃を予定している。


人工生命体miuroが目指すイメージ 池上氏に提供したAPI

URL
  ZMP
  http://www.zmp.co.jp/
  製品情報
  http://miuro.com/
  東京大学大学院 池上研究室
  http://sacral.c.u-tokyo.ac.jp/

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( 森山和道 )
2007/06/01 16:38

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