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こつこつと着実に強くなっていく秘密は夫婦二人の一心2体!? ~ROBO-ONE軽量級優勝者「くぱぱ&くまま」さんインタビュー
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Reported by
森山和道
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「くぱぱ」さん(左)と「くまま」さん
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二足歩行ロボットの格闘大会「ROBO-ONE」。出場ロボットのなかで、総合優勝の経験こそないものの、軽量級で2度優勝と、めきめきと力をつけてきたロボットがいる。「クロムキッド」である。そして双子機の「ガルー」だ。2台とも機敏で積極的な動きを特徴としている。
製作者は「くぱぱ&くまま」さんこと、内海宏さん(39歳)と香さん(36歳)。夫妻での参加者だ。ゼネコンで設計の仕事をしているご主人が主に製作を担当し、お二人で操縦している。主として、くぱぱさんこと宏さんが「クロムキッド」、くままさんこと香さんが「ガルー」を操縦している。お二人は同じ職場で知り合い結婚した間柄で、いまも同じフロアで働いている。趣味も、傾向こそ若干違うようだが、かなり近いそうだ。くままさんは「24時間一緒でよくストレスたまらないね? たまらないならいいけど」と笑う。
「クロムキッド」も「ガルー」も、試合ではかなり積極的である。相手に躊躇なく近寄りパンチを繰り出し、攻めて攻めまくるタイプのファイティング・スタイルのロボットだ。素早く安定して動ける機体性能のおかげだけではない。くぱぱさんとくままさんの操縦もうまいからだ。くままさんは、相手のタイミングもちゃんと見て操縦している。「相手がパンチを出したあとに引っ込めるのが遅いなと思ったら、そのパンチに向かってカウンターを出したりしてます」。自分が戦ってないときも相手のロボットの動きを真剣に見ているそうだ。「私はものすごく攻めるんです。旦那は慎重派でゆっくりやるタイプです」。くぱぱさんは「もっと引いて相手を見ないと」と笑う。特にサッカーのときは、相手を見るために引くことは重要だ。
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「クロムキッド」は「第11回ROBO-ONE IN 後楽園ホール」軽量級トーナメントでの優勝経験があるロボットだ。外観の大きな特徴となっているハンドが付いたのは第12回大会から
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今年9月に高松で行なわれた「第12回ROBO-ONE大会」軽量級トーナメントで優勝した「ガルー」
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くぱぱさんが「クロムキッド」を操縦しているときはくままさんが、くままさんが「ガルー」を操縦しているときはくぱぱさんが、それぞれお互いセコンドについている。くままさんは、くぱぱさんがセコンドについてくれていることで安心するという。「セコンドの声を無視してるって言われるんですが、聞いてはいるんです。でも遠いところで聞いてる感じです。まわりの声はあまり聞こえない。集中してるのかなあ。でもレフェリーの声は聞こえるんですよね(笑)」。
くぱぱさんのほうも、「セコンドの声は聞いてますよ。離れてるほうが聞こえるんです。大会のときも、相手からいったん離れて下がったりしてるときは聞いてるときです。やっぱり自分一人だけだとパンチし続けたりすることもあるんです」という。やはり一人だけで闘っているよりも、誰かが横についてるほうがいいようだ。
ここに来て急激に力をつけてバトルでも確実に上位陣に食い込む存在となった「クロムキッド」と「ガルー」だが、機体はいたって素直な構成だ。もともと近藤科学のKHRがベースになっており、いまもそれが基本になっている。くぱぱさん自身も「特徴がない」という。
「一箇所ずつ、少しずつ改良を加えていって、速くしていってます。同じ機体でサーボが少しずつ変わっていってるような感じです。他の人たちみたいな新設計は時間的にも能力的にもできないんですよね。工作もあまり速くないし、電子系の人でもないので。でも例えばトリムがちょっと違うとだいぶ違うんで、微調整が必要なんです。足の上げ方もだいぶ変わってきます。最初の体重移動も、そのあとの足運びも変わる。本当に微妙な感じです」
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第11回ROBO-ONE出場当時のクロムキッド
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どちらかが出場する時は必ずセコンドに
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こちらは第12回ROBO-ONE出場時のガルー
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こつこつと少しずつ、だが着実に力をつけてきたくぱぱさんらしい返事が返ってきた。しかし、勝てる人と勝てない人の差はどこにあるのだろうか。
「運かなあ。なんだろう。練習? でも他人が思っているほど練習はやってないんです。うるさいですから家ではあまりやらないし。やっぱりイベントに出るサイクルじゃないかな。イベントごとに少しずつ何かやっていくので。あとは経験ですね。いろんなロボットと当たるだけでも、それが一つの経験になるし」(くままさん)
「うん。ロボットの機構や動きでも、一台ずつみんな違って個性があります。色んな人のを見ると、こうしなくちゃいけないとか、こうしたほうがいいとかこうしないといけないとか思うことがありますから。他の人のを見ると、このくらいの速さにはできるんだなと思って調整してみたりします」(くぱぱさん)
結局のところは、やはり練習の量と、バトル用のモーションを、一つでもいいからきちんと作っておくことではないかという。多くのモーションを作るよりは、例えば「突き」だけでも、ちゃんとタイミングを読んで出せれば、チャンスは掴める。だが間合いを掴むためには練習が必要だ。くぱぱさんとくままさんの場合は、ロボットのサッカーをやることもバトルにプラスに働いたという。移動能力が鍛えられたことと、相手とボールとの距離、そしてロボットの操縦に馴れてきたからだ。「でもまさかバトルに勝つとは思わなかった」という。
「やっぱり、作ってそれで終わりじゃなくて、ある程度動かして、接触しているほうがいいのかもしれない。それに動かしているほうが楽しいし(笑)」
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クロムキッドを操縦する「くぱぱ」さん
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ガルーを操縦する「くまま」さん
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「クロムキッド」(左)と「ガルー」(右)
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● 最初は「AIBO」から
もともと「動くものやメカが好き」で、ロボットアニメも好きだったというお二人。くぱぱさんのほうは小学生の頃にラジコンを趣味としていた。一方くままさんは、漫画やアニメ、SF小説が好きで、パワードスーツが活躍するハインラインの「宇宙の戦士」(早川書房)などの影響でロボットに対して憧れがあり、ガンプラをいっぱい作ったそうだ。といっても、ロボットマニアだったわけではなく、あくまで憧れの範囲だったという。
お二人は、ソニーが発売していたロボット「AIBO」のオーナーでもある。1999年6月に国内限定3,000台でネット発売され、20分で完売した初代の「ERS-110」から始まり、2005年の「ERS-7MS」まで、全てのAIBOを所有している。
最初にAIBOが発売されたとき、どちらからということはなく二人とも「欲しい」と思ったという。「ちょっと先をいった技術に触れてみたかったんです。ちょっと手を伸ばすと届く感じでしたし。衝撃的でした」。今でこそ事情はだいぶ変わっているが、当時は、本物のロボットが購入できる形で世に出るとは思っていなかったという。
二人にとってAIBOは、あくまで4足歩行のロボットだった。「ペットのようには思っていませんでした。デザインが優れていて、機構が優れている機械です。かわいいのはかわいいんですけどね。でも、どうして機械に『かわいい』って言うんだろうな」。
おもちゃではない、センサーを搭載し画像認識もする本物の動く「ロボット」が家にいる――。それだけでも幸せだった。ちなみに最近発売されたソニーの「Rolly」も購入している。いま家庭用として一番欲しいのは、NECの「PaPeRo」のようなロボットだ。自律機能、どこか賢い印象を感じられる動きを見せる、知能を持った機械の動きが楽しい、という。
AIBO購入以前は「メカっぽいものは好きだったけど、自分で何かやろうということもなかったし、イベントにも参加していなかった」そうだ。だがAIBOを購入後、お二人はAIBOオーナーのオフ会に始まり、各種ロボットのイベントや展示会に積極的に足を運ぶようになっていった。そのなかの一つに、2002年2月に日本科学未来館で開催された第1回「ROBO-ONE」があった。ただ、ROBO-ONE会場に足を運んだ理由は、当時ラウンドガール役として使われていた「PaPeRo」を見ようとしたのが理由だった。
それもあって、ROBO-ONEを見ていきなり「よし自分も作ろう」と思ったわけではなかったという。「こういう世界があるんだ。面白いな」とは思った。しかし自分でロボットを自作するのはいかにも難しそうだし、自分でやってみようとは思わなかった。
自作への道を歩むことになったきっかけは、近藤科学の2足歩行ロボットキット「KHR-1」だった。「KHR-1」を購入したのは、近藤科学が発売一周年記念イベント「KHRファースト・アニバーサリー」を開催する少し前。買った理由は大日本技研が出していた、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」に出てくるロボットの外装をつけたいと思ったからだった。
結局、アニバーサリーへの出場は間に合わなかったが、「ROBO-ONE」Jクラスに、いまと同じ「クロムキッド」という名前のロボットで出場した。名前の由来はAIBOに「クロム」と「キッド」という名前をつけていたからだった。このときは、予選は通ったが一回戦負けだった。KHRを買った理由だった「ボトムズ」の外装は、ROBO-ONEに出場することで逆に付けるきっかけがなくなり、いまも箱の中に入ったままだ。
現在、AIBOは棚のガラスケースの中におさまっており、オフ会に持って行ったときに動かすくらいだという。「いまは床に工具がいっぱいあって、動かせないんです。昔はなかったんですけど、急に増えちゃって……。バンドソーとかドリルとかが家に転がってるんですよ。邪魔なんですけど(笑)」(くままさん)。
● 初心者はイベントに足を運んで
前述のように「クロムキッド」も「ガルー」もシンプルな構成のロボットであり、板金は「あまり難しいことはしていない」という。だが、それでも今はすっかりハマってしまっているようだ。
ロボットキットや各種パーツが色々と充実してきて、ロボットを改造しやすくなったこともあるが、何より大きな理由は、「ROBO-ONE」以外の小さなイベントが増えてきたことだ。以前はROBO-ONEや、ROBO-ONEJクラスが年に2、3回あるくらいだった。くぱぱさんたちも、1カ月くらい前に、少し触って調整するくらいだったという。連続してロボットを触るようになったのは2006年夏に池袋のアムラックスで開催された「アムラックス・カップ」の頃からだという。「そのへんから改造が始まったんです。特に足回りを強くしていきました。調整で少しずつ少しずつ、ぎりぎりまで速く上げていってるんです」。
イベントが増えると忙しくなる。だがイベントに出ると色々な人にも会えるし刺激にもなる。「ああ、こういうこともやってるんだ、すごいなあと。それだけでも満足するんです」。練習会にも出るようになると、それがさらに刺激となりさらに色々なところに行くようになっていった。おまけにロボットサッカーも始まった。KONDO CUPは2カ月に1回行なわれる。そうするとサイクルがますます速くなった。「みんな必死なんです(笑)。最初はスローインもできなかったけど、今はみんなできる。1年前に比べるとぜんぜん違う」。
初心者にとっても、イベントは良い刺激やきっかけになるので、近くにイベントがあったら取りあえず見に行ってみることをすすめる。「ちょっと触ったりするだけでもぜんぜん違うし、教えてもらえるし。ビルダーの人も、いやだとはそんなに言わないと思いますので。お子さんの場合は、お父さんのがんばり次第ですね(笑)。いかにお父さんの気をひくかどうか」。
● 練習であぶりだされる欠点
ROBO-ONE関係者たちの間では、くぱぱ&くまま夫妻は練習熱心というイメージがある。だが、本人たちは「毎週土日は必ず(近藤科学のロボット練習場所の)ROBOSPOTということはない」と笑う。「試合前に長距離走ったりしたり、リングのサイズを確認したりがメインです。モーションをあそこで作ったりはしない。あくまで最後の調整と練習です。たくさんロボットが来るんで、いい練習になるんです」。
強くなるにはやはり「いろんなロボットとやるのが一番」だという。夫婦で練習していても「お互いの攻撃パターンが変わらないのでつまらない」そうだ。一番いい練習相手は「ヨコヅナグレート不知火」のGIYさんだ。また、最近は掴み技と投げ技を組み合わせた技を出すロボットもいくつか登場し始めたので、これからの試合は面白くなるかもしれない。
「これからはうちもセンサーも組み合わせていかないと。少なくとも予選はセンサーを使ったほうがいいですね」。第10回ROBO-ONEの予選では大きなハンドをつけて登場し、規定演技だったキャッチボールのほか、ハンドルを回したりしてみせた。だが動きはモーション再生だった。そのためデモ中にくぱぱさんは少し焦ってしまった。横で見ていたくままさんも「やばい、テンパってると思いました」と笑う。ロボットの自律性を高めておけば、モーション再生のような意味では焦る必要はなくなる。ちなみに手はガンダムの「ザク」の手がモデルになっている。
いっぽう、主にくままさんが操縦する「ガルー」は、ヒール(悪役)をイメージしており、ツメのような手をつけたい、という。今後は「クロムキッド」は、足を長くして少し大型化させていく予定だ。「足を長くすると3kg超えてしまうと思うんです。そうなると重量級を目指すしかない。
今は、本番で動かないという事態が起きそうで怖い、と語る。「きついところもあります。やはり準備で失敗して、本番で動かないとかそういうことになるといやなんで、準備はしっかりしないと。ぎりぎりじゃなくても、リスクマネージメントをやらないと、本番のときにどきどきしますし」
機体が大型になってくると、これまでにはないリスクも発生する。ROBO-ONEの試合中にも転倒したときにコネクタが抜けてそのまま負けてしまった機体もあった。「大型機になれば引っ張る力も強いですし。練習のときに電源ケーブルが外れて切れちゃったりすることもけっこうあるんです。練習をいっぱいやっていると、練習のときにそういうのが出て、本番のときにはそんなに極端なことにはならないんです」
やはり練習は重要なのだ。自分たちの失敗だけではなく、色々な人の失敗からも学べることは多い。そのためにはイベントや試合に出て経験を積むしかない。
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もともと悪役メカが好きなくままさんの「ガルー」
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いっぽうクロムキッドは正義の味方を意識したキャラ。頭部パーツは機動戦士ガンダム00のメカニックデザインも務める寺岡賢司氏によるもので、大日本技研が製作した。第11回ROBO-ONEの賞品として獲得したものだ (C)寺岡賢司, (C)大日本技研
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● まだまだロボットの動きはもどかしい?
いまはロボットも転ばないようになり、機体は、かなり思うとおりに動くようになってきた。ただ、機体の安定性を優先するために、攻撃が基本的に横への突きしかなく単調な点と、攻撃をより重たくパワーがあるようにすることが、今後の改善ポイントになる。
現在のROBO-ONEルールでは、ジャブのようなパンチではいくらあててもポイントにはならないし、単調な動きだと相手に間合いを読まれやすくなるからだ。いまは素早い動きと操縦テクニックで逃げている。もっと遠距離から突っ込んでいって勢いよくあてられるようにするか、足にグリップをつけて踏ん張れるようにするか。どうするかは今後の検討課題だ。
ROBO-ONEをやっていて一番面白いのは、「目標が少しずつ上がっていくところ」だという。「最初は予選通過が目標でした。試合に出ると、なるべく1回でも多く勝ちたいと思うようになる。一つずつチャレンジしていくのが一番楽しいですね。試合に出れば、自分の思った通りに機体を動かして、何とかして勝ちたいと思いますし」。
「ROBO-ONEの要求が高くなれば、それに合わせて頑張る。要求があるからみんな良くなっていく。(ROBO-ONE委員会の要求は)ギリギリかもしれないけど、なんとかいけるんじゃないかなーというところだから(笑)」
お二人はロボットサッカーとバトルの両方にチャレンジしている。「どちらも楽しい」そうだ。くままさんによれば「バトルは、1対1のぶつかりあいや緊張感が堪らない」という。「勝っても負けても、なんだか気持ちはすっきりするんです。負けてもあまり気にしないですね。『いい汗かいた』みたいな感じです」。スポーツと同じような感覚だという。サッカーのほうは、いつでも「チームメイト募集中」だそうだ。
ロボット作りと操縦とだと、くままさんは、操縦が断然楽しいという。「くぱぱさんは?」と聞くと、くぱぱさんが答えるよりも先に、くままさんが「(くぱぱさんは)操縦のとき、いつもすごい渋い顔してやってるよね」と突っ込んだ。確かに観戦していると、くぱぱさんはかなり真剣な顔で操縦していることが少なくない。だいぶ動くようになったとはいっても、まだ、思い通り動かせるような動かせないような、もどかしい気持ちがあるのかもしれない。本当に自分と一体化した、思うとおりに動かせるロボットが実現するまで、くぱぱさんとくままさんの挑戦は続くのだろう。
お互いにまるで掛け合いをしているかのようなお二人のやりとりを見ていると、おそらく「実行」とその結果の「反省」のフィードバックが、絶えず二人の間で繰り返されているような感じなのではないかと思われた。絶えず一緒にいる二人の間で回り続けるそのサイクルが、お二人の本当の強さの秘密なのかもしれない――。
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