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予選を勝ち抜いた出場者たち
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9月15日、16日の日程で、自作小型ロボットの大会「第12回ROBO-ONE」が香川県高松市にある「香川県民ホール・アクトホール」にて開催された。全国からエントリーした112台の自作ロボットが予選と本戦を競った。
「ROBO-ONE」とは、ホビーストたちが自作した小型二足歩行ロボットの格闘イベントである。ロボット技術の普及や向上を目的としており、1年に2回大会が開かれ、最近はうち1回は東京で、もう1回は地方で行なわれている。競技は事前に大会を運営する「ROBO-ONE委員会」から提出される課題に挑む予選と、1ラウンド3ノックダウン制で行なわれるバトルの本戦とに分かれている。
「ROBO-ONE」が四国で開催されたのは初めて。大会を運営する「ROBO-ONE委員会」代表の西村輝一氏が高松出身だったことと、香川でロボット・イベント「RoboCoutry(ロボカントリー)」を主催している「香川ヒューマノイド研究会」の人たちがいたことで、高松での開催となったという。同代表を務める松田圭司氏は、はじめは「四国で『ROBO-ONE』を開催するにはまだ準備不足」と思ったそうだ。しかしながら周囲のロボットビルダーたちからの「協力するからやれ」と支持する声にも押され、思い切ってやってみることを決断した。
これまでの地方大会は別のイベントと一緒になって開催されていたROBO-ONEだが、今回は告知はあまり行なえなかったとのことで、会場には残念ながら看板もなし。それでも会場には多くの人々が観戦に訪れた。予選解説には全国高専ロボットコンテストで知られる詫間電波工業高等専門学校電子工学科教授の三崎幸典氏、本戦の解説には壁面に張り付いて窓を清掃するロボット開発で知られる香川大学知能機械システム工学科 知能機械設計工学 准教授の石原秀則氏がそれぞれ登場。また本戦決勝戦前には高松市長の大西ひでと氏も駆けつけて自作ロボットのバトルを楽しんだ。
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第12回ROBO-ONE大会ポスター
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香川ヒューマノイドロボット研究会の松田圭司氏。参加者懇親会にて
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ROBO-ONE委員会代表・西村輝一氏。高松出身
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高松市長・大西ひでと氏
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詫間電波工業高等専門学校電子工学科教授 三崎幸典氏
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香川大学知能機械システム工学科 知能機械設計工学 准教授 石原秀則氏
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● 予選
さて、今回の予選の規定演技は、「キャッチボール」と「すごく人の役に立つことをする」。ROBO-ONE委員会から投げられた難題に対して多くの参加者たちがPSD(光位置センサ)や加速度センサーなどを活用してロボットにタイミングよくボールを掴ませて投げさせたり、寸劇のような形でロボットが役に立つことを示した。もちろん、規定演技をきちんとこなせば高得点が獲得できる。
今回、予選に参加した78体のなかから1位で通過したのは、「第10回ROBO-ONE」で優勝した経験もある「マルファミリー」のロボット「キングカイザー」。片腕に仕込んだ1個のPSDを巧みに使いこなし、子供向けグローブとバットを使った演技、またサッカーのキーパーのような動きのデモを見せた。PSDをただ単に使ってもロボットはそれほど速く反応しないので、どこの何をセンサーで感知させるかが重要である。そこで丸さんは離れた位置にあるボールの動きを捉えさせた。腕の先にセンサーを仕込んだ理由は、動かせる範囲が広いからだ。せっかくヒューマノイドなのだから、その特性を生かすべきだという。
丸さんは、ボールもさまざまな種類を買い込んで、試したそうだ。センサーは数を使えばいいというものではなく、むしろ、特性をきちんと把握し、ロボット自体が持つ自由度や特性ともうまく組み合わせるインテグレーションの技術や使いこなしのスキルこそが重要であることを見事なデモで示した。
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子供用のグローブをはめたキングカイザー
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【動画】キングカイザーのボール投げ
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【動画】居合いのような構えからバットでボールを打つキングカイザー。ボールは添えた右腕で検知している
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そのほか特に印象に残ったのは大型ながら軽快な動きを実現し、さらには背中に羽根型の補助アームをつけて「4本腕」でボールを扱った「OmniZero.5」、ボールを巧みに操り、リングにバウンドさせたボールを再びキャッチする動きも見せた「GADGET2」などだ。
また、高松での大会ということで、「うどん作り」をデモの一環としたチームもいくつかあった。事前の練習を見ていると「キャッチボール」は比較的成功させられたチームが多かったようだが、多くのチームが人間がボールを投げており、肝心の予選本番ではステージ上での緊張のため、投げ損じているチームも少なくなかった。逆に緊張をカバーするためにロボット技術を使うことも必要だろう。
そのほかのチームによる主立ったデモを動画でお伝えする。
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【動画】羽根型のアームをバタバタさせるOmniZero.5
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【動画】OmniZero.5によるボール投げ
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【動画】OmniZero.5によるデモ
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【動画】おもちゃのスコップで砂遊びのような動作をする「GADGET2」
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【動画】ボールを巧みに操る「GADGET2」
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【動画】リングにバウンドさせたボールもキャッチする
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【動画】人間のようなポーズでボールを投げる「GADGET F」
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【動画】「GADGET F」はお盆運びも行なった
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【動画】ボールを片手から別の手に投げ移して拍手をもらう「Captain.PEKO」
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【動画】加速度センサーを利用して速いボールをキャッチする「メタリックファイター」。予選前の練習風景
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【動画】地元・中川デンキさんによる「振武」の巴投げ
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【動画】ボール当ての的を演じた「ivre-VIN」
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【動画】車輪を付けたロボット「ケルビム」による「新聞配達」
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【動画】大きな手で蛇口をひねる「クロムキッド」。このあとさらにハンドルを回した
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【動画】匂いセンサーを使ったデモを見せた「トコトコ丸」
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【動画】「洗濯物」を取り込んで折りたたむ「BABEL」
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【動画】コウモリの羽根のような不思議な機構の腕をつけた「黒かじろう」
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【動画】平らな頭を使ってボールを持ち替え、色によって投げ分ける「青かじろう」
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【動画】木製製品をイメージさせるデザイン「Kinopy」
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【動画】ボールのキャッチも見事成功
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【動画】うどんをこねる「ダイナマイザー」
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【動画】うどんを伸ばす「フレイヤ」
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【動画】うどんを伸ばす「リティ」
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【動画】「リティ」は包丁でカットするところまで見せた
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【動画】ロボットによるロボット操縦をさせた「GAT」
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【動画】時間外ではあったがラップを切った「フィアス'LL」
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【動画】「Neutrino-RX」による爪切り
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【動画】靴磨きする「Asura-Tiny」
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【動画】車椅子を押す「くまたろう」
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【動画】ボールを掴んで投げようとするが転倒して笑いを取る「KUMACO」
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【動画】軽快な動作で踊る「繭」。動く人形がコンセプト
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【動画】風船でできた自分の頭を飛ばしてキャッチする「タマ(A-Do Type11)」
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【動画】最後は拍手の大きさに応じて向きを変え、特製ストラップをお客さんに射出
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● 本戦
本戦はトーナメント形式のバトルである。出場ロボット台数は全部で32体。バトルとは相反することも少なくないスペックを機体に要球する予選で上位の成績をおさめたロボット24体と、各地方で行なわれているローカル大会のうち「ROBO-ONE決勝出場権認定制度」に登録された8大会で勝利をおさめたロボット8体によるトーナメントだ。
バトルは1ラウンド3ノックダウン先取制。ROBO-ONE独自のルールが、ロボットが自分で転倒してしまったときの転倒を指す「スリップダウン」だ。2スリップで1ダウン取られる。バトル中には常に動き続けていることが求められるため、バトル出場ロボットには安定した歩行能力が求められる。
ロボットは、参加する32体の機体重量によって「軽量級」と「重量級」に半分ずつ分けられる。結果は、「kupakuma」さんの「ガルー」が軽量級で優勝。重量級では韓国からの「GADGET TEAM」による「GADGET 2」が優勝した。その後、両者による対戦が行なわれ、総合優勝は、よりパワーと安定性に優れる「GADGET 2」となった。
なおkupakumaさんは「くぱぱ」さんと「くまま」さんの夫婦での参加。今回は奥さんの「くまま」さんが操縦して勝利をおさめた。前回「くぱぱ」さんが軽量級で優勝しているので、これで夫婦揃って軽量級優勝を決めたことになる。くままさんは「ロボットを作ってくれた旦那に感謝したい」と喜びのコメントを語った。一方、「ありまろ7」は本来の製作者の「スミイファミリー」が参加できなかったため、代わりにHitec社の社員が操縦したが、巧みな操縦で見事準優勝となった。
学校でもひたすらロボットに打ち込んでいるという韓国の韓国技術教育大学の学生による「GADGET TEAM」は、優勝を決めた「GADGET 2」と「GADGET F」、2体を参加させた。両者は先輩後輩の関係だという。金色のボディ、全身のアクチュエーターに高トルクのDynamixel製モーターを採用したパワーと、足裏に配置したバッテリによる低い重心が特徴で、攻撃は基本的に横方向へのパンチ一発だが一撃必殺である。
また予選での動画を見れば分かるとおり、バトルだけではなく、デモの設計も含めて、極めて優れたロボットだ。重量級の決勝は両者の対決となり、後輩が作成した「GADGET 2」が、先輩の「GADGET F」を破った。
総合優勝決定戦では、軽量級らしく軽快に動く「ガルー」が「GADGET 2」を攻撃するが倒せない、という展開になった。「ガルー」は実際に何度も攻撃を当てるが、腕をぶんぶん振るだけのパンチでは「GADGET 2」はビクともしない。「ガルー」の攻撃も激しくはあるが、やや単調な面がある。結局、「GADGET 2」の横パンチの前に惜しくも敗れ、チャンピオンベルトは韓国に渡った。
これからのロボットには押されても倒れないだけではなく、間合いを読まれにくい動きのバリエーションや、十分な運動量で相手を押し倒すだけの踏ん張りなども必要とされそうだ。
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重量級、そして総合優勝した韓国チーム「GADGETチーム」
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GADGETチームのロボット2体。左が優勝ロボット「GADGET 2」。右のつめが大きく鉄仮面っぽい顔のロボットが「GADGET-F」
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軽量級優勝ロボット「ガルー」
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「ガルー」のkupakumaさんは夫婦での参加
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● 各決勝戦・総合優勝決勝戦の様子
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【動画】軽量級決勝戦:ガルー VS. ありまろ7
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【動画】重量級決勝戦:GADGET 2 VS. GADGET-F
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【動画】総合優勝決定戦:GADGET 2 VS. ガルー
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● 宇宙大会予選
ROBO-ONE本戦当日には、「ROBO-ONE宇宙大会」予選として、50cm以上の高さからロボットを手で放り投げて立たせる競技も再び行なわれた。「ロボット壊し大会」とも言われるこのチャレンジに今回果敢に挑戦したのは「CHERRY BOMBER」と「KOSO-Bot」の2体。「KOSO-Bot」はモーメンタムホイール、「CHERRY BOMBER」は猫のように体をひねることで、それぞれ姿勢制御を試みた。
ビデオを見ると、どちらも足からの着地には成功している。だがどちらも片足からの着地となっている。結果、着地の衝撃を吸収しきれず、バランスを崩して転倒してしまった。放り投げられた状態から立つためには、着地のあとの反発を再びうまく吸収するか、あるいは再度自らジャンプするなどしてバランスを取り戻すといった能力が必要になりそうだ。
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CHERRY BOMBER
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KOSO-Bot
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【動画】「CHERRY BOMBER」の挑戦一回目
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【動画】「CHERRY BOMBER」の挑戦2回目
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【動画】「KOSO-Bot」の挑戦
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● 初の四国でのROBO-ONE、その結果は?
今回のトーナメントバトルは全体に低調だった感は否めない。対戦全体を通して、あまり「驚き」がなかったからだ。
今回、前回優勝ロボットの「ヨコヅナグレート不知火」は出場していない。製作者のGIYさんは別のロボット「YGIII.旋風丸EvolutionE」で出場したが、トーナメントがランダムに組まれた結果、一回戦で前々回優勝の「キングカイザー」とあたって消えた。前回優勝者と前々回優勝者がいきなり第一回戦でぶつかり、どちらかが消えてしまう組み合わせは、一人の観戦者として見て、非常に残念だった。なお「キングカイザー」はその後、今回優勝の「GADGET2」に敗れた。
ここのところ地方での各大会でのバトルで好成績を残している「レグホーン」は、ROBO-ONEでは珍しい「投げ技」を得意としたロボットである。アロハを着たニワトリ型の姿もインパクトがある。ROBO-ONEでの活躍も期待されたが、今回は自分より大きな機体である「Aerobattler MON☆(モンスター)」にあたり、その間合いを読み切れず呆気なく一回戦で消えた。
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【動画】一回戦:キングカイザー VS YGIII.旋風丸EvolutionE
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【動画】準決勝:GADGET 2 VS キングカイザー
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【動画】一回戦:タマ VS. ivre-VIN
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【動画】一回戦:OmniZero.5 VS. ケルビム
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【動画】一回戦:Aerobattler MON☆ VS レグホーン
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【動画】一回戦:トコトコ丸 VS ダイナマイザー
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【動画】一回戦:Kinopy VS. YOGOROZA-V.5
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なお、「役に立つ」ことを考えさせる予選競技と、バトルとがそれぞれ両立しなくなりつつあるのでは、という意見もある。これには素直に頷けない。今回、基本に忠実なスタイルでパンチを繰り出し、手堅くバトルで優勝した「GADGET TEAM」は、予選でも素晴らしいデモを見せたからだ。
また、ROBO-ONEのロボットたちも、センサーや「手」を持つことで、よりロボットらしいロボットへと変化しつつある。この流れは製作者たちにはきついだろうし、エントリーユーザーのROBO-ONEへの参入の障壁を高くしているが、ROBO-ONEがロボット技術の発展やアプリケーション開発を促すことを目標として掲げている以上、基本的には正しいと思う。
今回は、初めての四国での開催となったが、その影響はどうだっただろうか。残念ながら四国でのロボット関連の活動は、それほど目立っているとは言えない。今回のROBO-ONEでも四国出場チームの活躍はあまり目立たなかったものの、予選、本戦当日とも、午後にはホールの座席はほぼ埋まった状態が続いた。今回初めてROBO-ONEを見た一般の人たちの中から、新たに参加してみようと思う人たちが出てくることを願おう。
ROBO-ONE参加者には20歳台後半~40歳台が多い。二足歩行ロボットを趣味として続けていくには費用もかかるので、ある程度の可処分所得や時間が必要になるからだろう。いっぽう、今回も遠方から参加して優秀な成績をおさめた飛騨神岡高校のメンバーや大学生たちのチームである「ナベ☆ケン」チーム、そのほか予選落ちはしたものの、千葉工業大学、法政大学、大同工業大学、九州共立大学、芝浦工大、早稲田大学宇宙航空研究会などの各大学生チーム、そして高知東工業高等学校チームなど若い人たちの参加も徐々に増えつつある。彼らの参加は希望を抱かせる。
今後、趣味としての二足歩行ロボットが持続して広がっていくかどうかはオジサン世代だけではなく、若い世代がどのくらい入ってくるか、入ってきやすいか、そして続けていきやすいかによる。西村実行委員長によれば、今後、ROBO-ONEではまた別の競技も新設するかもしれないという。それが二足歩行ロボット人口を増やすようなベクトルのものであることを期待したい。
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「YGIII.旋風丸EvolutionE」と製作者のGIYさん
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「レグホーン」と製作者のNAKAYANさん。左は「Aerobattler MON☆」
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「黒かじろう(左)」と「青かじろう(右)」の「ナベ☆ケン」チーム
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■URL
ROBO-ONE
http://www.robo-one.com/
大会結果
http://www.robo-one.com/roboone/roboone12result.html
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( 森山和道 )
2007/09/25 20:11
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