さて、少し間が空きましたが、秋葉原で行なわれたロボットが主役のイベント「アキバロボット運動会」3日目に行なわれた、二足歩行ロボットによるサッカー「KONDO CUP」のレポートをお届けしましょう(1日目・2日目のレポートはこちら)。
この「KONDO CUP」には筆者自身が参加したんですが、そもそも参加することになったきっかけは、近藤科学株式会社が開設した「KONDO ROBOSPOT」の取材でした。(同施設についてはこちらのレポート参照)。
記者発表の終了後に「どうぞ遊んでください」という近藤科学広報さんの薦めに乗って常設されているサッカーフィールドでKHR-2HVを操作してみたんですが、これが面白いのですよ。格闘のリングよりも広く、どんどん動き回れますし、チームプレーを考えながら動くと面白そうですから、個人的にはバトルよりもこちらのほうが性にあっている気がします。取材を忘れて遊んでいたら、ばっちりRobot Watchライター・森山和道さんに写真を撮られていました。何を隠そうこの記事で取材を忘れてロボットサッカーに興じていたのはこの私です。
当日の発表の中で、11月に開催される「アキバロボット運動会」においてこのフィールドを使用したロボットのサッカー競技「第1回KONDO CUP」を開催するという話が出ていました。ロボットのサッカーといえばロボカップが有名ですが、あちらは「自律移動ロボット」研究の一環ですから、無線操作で動かすこちらとはちょっと違います。
出られるのは同社製の二足歩行ロボットキット「KHR-1」や「KHR-2HV」をベースにした機体か、全可動軸が同社製のサーボで構成された自作ロボット。私の手元にはKHR-2HVが1機あるので、出場する資格はあります。出たいなあ、どうしようかなと思っていたら、横ではライターの石井さんが同じようにハマってました。
石井さんはRobot WatchでKHR-2HVのレビューをやっているくらいなので、やっぱり機体は持ってらっしゃる。二人で遊びながら「面白いですよね」、「面白いっスねー」と話しているうちに「出ますか?」、「出ましょう!」と、その場の勢いで出場が決定。チームは3人1組なので、その場にいた別のフリーランスの大塚さん(この方もKHR-2HVを持っていた)も巻き込んで、突然ロボットサッカーチームが結成されたのです。
● ROBOSPOTでの“秘密の特訓”
チームは結成したものの、3人ともフリーランスなので、住んでいる場所も違えば同じ会社に勤めているわけでもなく、仕事のタイミングもばらばら。ということで、主にやりとりはweb(mixi)上で行ない、やり取りの中でチーム名の「RFCバンブーブリッジ」や、背番号がまとまりました。
じつは結成時点で機体が完成していたのは私だけで、あとの2人はまだ組み立て途中という状態でした。そんな状況だったので、お互いの機体完成後に一度練習する必要があるだろう、ということでROBOSPOTにお邪魔して、秘密の特訓をすることにしました。混んでそうな土日は避けて、平日の昼間から。ビバ・フリーランス。
近藤科学からリリースされたKHR-2HVのモーションと機体設定のマニュアル詰め合わせ「サッカー用サービスパック(KHR-2HV SP2)」を現場でいただき、さっそく全員で取り込みます。
その後、実際に機体をホンモノのフィールドで動かしながら、サービスパックのモーションを確認します。「このモーションなら大体これくらい動くんだな」といった感覚がわかるので、フィールド全体のスケール感と自分の感覚を一致させることができるんですな。
さらに、公式ボールを使った練習ができたので、モーションとボールの転がり具合まで把握できたのも大きかったです。公式ボールって完全な球じゃないんですよ。ぬいぐるみの12面体と言えばいいんでしょうか。転がりすぎず、止まりすぎず、適度な反発力もあって完全に自分の思うようにはいかない、絶妙の動きを見せてくれます。
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その場でモーションを作ってみて、すぐ試せるのがありがたいです
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キャプテン石井さんも背中に真剣さが漂う調整を続けていました
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大塚さんのシュート練習に、私のキーパー練習。ちなみにこのあと左右を間違えて
ゴールを決められます
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相手がいないので、主な流れは2対1での練習。ROBOSPOTの体験操縦機を仮想敵としてスタッフの方に操縦していただいたりもしました。石井さんは趣味でフットサルをプレーしている人なので、「オフ・ザ・ボール(ボールを持っていない選手の動き)を意識していきましょう」と、本格的なコメントとともにリーダーシップを発揮。その後「もっと強いキックが欲しいですね」とか、「横に飛び込むキーパーモーションできないかなぁ」なんてやりとりをしながらモーションを作ったりしてました。
当日できたオリジナルモーションはひとつ。通称「早いシュート」です。元のサッカーパッケージに入っているシュートは足を後ろに振ってからシュートするんですが、その部分を省略して、「蹴り出す」ようなシュートです。「これは使えそうですね」ということで、RFCバンブーブリッジの標準採用シュートとなりました。
結局その日は5時間も練習していました。どうも近藤科学さんには練習のウワサが伝わっていたようで、KONDO CUP当日は「本気で練習してたみたいですね」と言われてしまいましたよ。そりゃそうです。「なんだ普段偉そうに記事かいてるのに」って思われたら悔しいじゃないですか。
● あれよあれよと順調に勝ち進み……!
さて、実際の試合はどうだったのかをレポートしていきましょう。
事前にわかっていたトーナメント表で、初戦の相手が「千葉工業大学Y」とわかっていたので、学生相手に負けるわけにはいかない、とメンバーは気合十分(すでに大人気ない)。千葉工大は2チーム出場していたので、学内で練習試合なんかもしているのではないか、という石井さんの読みもあり、年甲斐もなく緊張して臨みました。
試合が行なわれるのは、前日まで「運動会」や「ツクモロボットバトル」が行なわれていた「ツクモスタジアム」。いわばアキバロボット運動会のメインステージ。しかも当日の第一試合……ワールドカップなら前回の覇者が行なうオープニングゲームです。出番前に袖で待機していると、人だかりも前日までにひけを取らない十重二十重。
試合のフォーメーションは練習のときに決まったFWにNo.19の大塚さんとエースNo.10を背負った石井さん、そしてGKに私ことNo.22・梓という組み合わせでスタートしました。
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最前列の子供たちから背伸びして見ている大人まで、観客はどっさり
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【動画】対「千葉工業大学Y」試合動画前半
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【動画】対「千葉工業大学Y」試合動画後半
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・見所(1) 前半1分20秒あたりから、FWの二人がコンビネーションでゴール前に持ち込み、石井さんが記念すべき最初のゴール。
・見所(2) 2分55秒過ぎ、ゴール前のルーズボールを大塚さんがシュート。キーパー反応するも間に合わず! 早いシュートが役に立ったかも。
相手の起き上がりモーションが不安定だったこともあって終始押し気味で試合を進められ、前半2-0・後半3-0、計5-0で一回戦を突破しました。この日解説をしていらっしゃったfuRo室長の先川原氏には終始「大人気ないですね」と言われていた気がします。
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【動画】一回戦「千葉工業大学I」対「神奈川工科大学KRFC」
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もう一方の一回戦では「千葉工業大学I」と「神奈川工科大学KRFC」が対戦。見所は2分18秒あたりでボールに向かう「千葉工業大学I」のKHRを起き上がりモーションで諸手刈りしてしまった「神奈川工科大学KRFC」。一発レッドで退場となり、数的不利の状況になりながら、残ったFWが一人で相手ゴール前まで持ち込んで追加点を奪います。
「RFCバンブーブリッジ」準決勝の対戦相手は個人参加のKHRシリーズユーザーによるチーム「たのきんトリオ」。ROBO-ONEをはじめ、いろいろなイベントで見かける「か~る」と、某アニメに出てくる可変MSに似た「あしまーる」、ほぼノーマルのKHR-2HVに見える「PurpleStar」という3機です。特にか~るは初日の運動会で上位8機に残っているくらいの運動能力を誇ります。
チームとしては特に作戦を立てることもなく、自分たちのサッカーをすることに徹し、ポジションも1回戦と同じです。
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【動画】対「たのきんトリオ」試合動画前半
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【動画】対「たのきんトリオ」試合動画後半
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さすがに個人参加してくる人たちだけに単体での運動能力が高く、ボールとの間に体を入れられてしまう場面が多くなります。そこでバンブーブリッジの強みは練習で培ったチームワーク。2分40秒近辺での、大塚さんのセンタリングから石井さんが押し込む1点目などは、完璧といっていいでしょう(私は何もしてませんが)。最終的には4-0で勝利を収めました。
決勝は個人参加のもう一個のチーム「キャンディーズ」を破って上がってきた「神奈川工科大学KRFC」との対戦。FW2体は旋回軸を追加していたり、キーパーはサーボ1つぶん腕が長くなっている改造KHR-2HV軍団です。
もともと多かった観客に加えて、後から入ってきたお客さんがさらに人垣になって、ROBO-ONEもかくや、と思うような人の入りに。気合が入ります。
この試合はこれまでGKだった私がFWに上がって、ゴール前に詰めたりもしたんですが、キーパーの好セーブによって阻まれたり、モーションを間違えたり。なかなかうまくいきません。チームとしても得点は0だったんですが、最終的には2-0で勝利。得点はなんと相手チームのGKによるオウンゴールでした(相手GKの名誉のために補足しておくと、近藤科学のサッカーパッケージに入っていた起き上がりモーションの構造上、オウンゴールは仕方のないことでした)。
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【動画】決勝戦、対「神奈川工科大学KRFC」前半
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【動画】決勝戦、対「神奈川工科大学KRFC」後半
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● ボールのスピードが違ったオープンクラスのサッカー
当日は私が出場した「KHRクラス」のほかに、全アクチュエータが近藤科学製の自作ロボットが中心となった「オープンクラス」が開催されました。こちらのほうはKHRクラスと力が違うので、動きのすばやさもキックの力もかなりのもの。いろいろ語るよりも、まずは試合の動画を見ていただきましょう。
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【動画】準決勝の赤いリボン「ロボット野郎Aチーム」対「チームジオン」の一戦、前半
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・見所(1) 開始40秒過ぎに「ロボット野郎Aチーム」のT-Stormが放った強烈なフリーキックはフィールドを一気に縦断。詰めた旋風丸が押し込んで、20秒で1点になります。
・見所(2) 2分10秒あたりの「チームジオン」のPK。ゴール前が大きく空いた状態で配置された「ロボット野郎Aチーム」ですが、左右から一気に寄せてシュートをブロック。そのまま旋風丸がセンターライン付近まで大きくクリア。
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【動画】オープンクラス決勝「ロボット野郎Aチーム」対「関東九州連合」の前半
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【動画】オープンクラス決勝「ロボット野郎Aチーム」対「関東九州連合」の後半
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・見所(1) 前半1分20秒からの、旋風丸キックイン→T-Stormシュート。いいところに転がったのを差し引いても、見事なコンビネーション。その後の混戦から蹴り込まれるシュートもすごい。
・見所(2) 1分50秒あたり、キックインからの主導権争いで、こぼれたボールをうまく奪う「関東九州連合」のクロムキッド。この後終始同チームが押し込む起点となったプレー。
強烈なシュートを何度も見せている「T-Storm」のtom-iさんに聞いてみたところ、やはりROBOSPOTで事前に練習して、公式球の中心をきちんと蹴ることができるモーションを作っていたとのこと。チームそのものは当日の組み合わせだったのですが、「旋風丸」のDr.GIYさんがリーダーシップを発揮してまとまっていたそうです。やはりチームプレーが命なんですな。
オープンクラスの戦いは、やはりパワーから来る一キックで状況の激変が見所です。バトルこそしないものの、機体をぶつけながら体を入れるあたりはボディコンタクトの激しい海外サッカーを思わせます。また、それぞれのロボットがオリジナルのモーションを持っているので、そういったバラエティ豊かな面はうらやましいところです。
● “誰でも楽しめる”競技の可能性
「大人気ない」とか、他のライターさんなどから「やりにくい」とか言われながらも優勝を果たしたRFCバンブーブリッジですが、私はKONDO CUPに参加を決めてから自分なりに考えていて、実際に競技に参加して確かめられたことがありました。
今のロボット競技会の中心をなしている、いわゆる「格闘系」の競技は、自分の機体が強いかどうかが勝負を決めます。もちろん格闘の面白さもわかるんですが、挑戦する以前に力の差がありすぎて入り込めない層もいるんじゃないでしょうか。
たとえば今回オープンクラスで優勝したロボット野郎Aチームのキャプテン「旋風丸」と、私のKHR-2HVがROBO-ONEルールで戦ったとしたら、9割9分、勝ち目はないでしょう。しかし、ロボットサッカーのチーム戦であれば、とりあえずボールが相手なので、ボール(今回のKONDO CUPなら約50g)を蹴り出せる力があれば競技ができます。何度倒れたところでボールさえゴールに入れられなければいいわけですから、五分とは言いませんが、勝ち目もあるはずです。ついでに言えば、格闘競技では当たり前のように聞かれる「サーボが焼けた」、「ギヤが欠けた」なんてことも、派手な接触がないこういったチーム競技なら起こりにくいでしょう。
そして何より、どうしても転びやすい二足歩行ロボットにとって「何度転んでも競技が終わらない」のはとてもありがたいことです。どんな初心者でも、今回なら5分ハーフの10分間、ロボット競技を楽しむことができるわけですから。こういった、機体をバランス良く仕上げていれば、誰にでも勝ち目がある競技というのは、これからロボットを楽しむ人が増えていく過程で絶対に必要だと思います。見る人にとっても、格闘よりはルールがわかりやすいですしね。
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優勝を記念して写真撮影。前列左側からバンブーブリッジの梓、石井、大塚の3名。後列は準優勝の「神奈川工科大学KRFC」のみなさん
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「RFCバンブーブリッジ」は、石井さんこそ色々な二足歩行ロボットイベントに出場していますが、得点王の大塚さんは今回がイベント初出場(というか練習の直前に機体が完成)。私もROBO-ONEの予選に出たことはありますが、出ただけで終了でした。
そんな3人で、機体がノーマルのKHR-2HV。サッカーオプションのモーション再生のために推奨されていた、ジャイロ(KRG-3)を2つとバスタブソールを取り付けただけです。オリジナルのモーションは先に挙げた「早いシュート」と、結局実戦では活きなかったパスを止める動きの2つ。それでもあれだけ「サッカーっぽい」試合ができるんですから、「誰でも楽しめますよ」っていうまたとない証明になったんじゃないでしょうか。
今回の優勝は運もあったのですが、やはりたった1回でも、ROBOSPOTの本番コートで事前にチーム練習ができたのが大きかったと思います。キャプテン石井さんも「やっぱりチームワークが勝因だと思います」とコメントしてましたし。
ですから、個人参加もいいんですが、ROBOSPOTに行けば公式コートが常設で開放されていますから、練習もかねて遊びに行って、そこに集まった人同士で仲良くなってチームとして活動する、というのが理想なんじゃないでしょうか(まあ、「先生! お願いします!」みたいに大会ごとにチームを渡り歩いて助っ人稼業をするのも楽しそうですが)。
RFCバンブーブリッジも、今回だけにとどまらず、活動を続けていくことになりそうです。初代KONDO CUPチャンピオンとして、私たちは誰の挑戦でも受けますよ、原稿の〆切が許す限り!
2006/11/14 19:17
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