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日産の考える「カーロボティクスと通信が拓くクルマの未来」
~CEATEC JAPAN 2008基調講演


日産自動車株式会社常務 篠原稔氏
 10月1日(水)、幕張メッセにて開催中の「CEATEC JAPAN 2008」で、日産自動車株式会社常務の篠原稔氏が基調講演を行なった。演題は「カーロボティクスと通信が拓くクルマの未来」。篠原氏はカーエレクトロニクスの急速な進化によるクルマの進化と日産の技術開発の取り組み、そして次世代に向けた車技術について「カーロボティクス」というキーワードを使って講演した。


今のクルマはエレクトロニクス商品

 現在の社会において移動技術(モビリティ)の多くの部分はクルマが占めている。クルマは、生活と経済の基盤を支えてきた存在だ。いっぽう、公害や交通事故など、クルマによって起きる課題や改善すべき課題も多い。そのなかでカーエレクトロニクスは、環境技術、利便・快適性技術、安全技術、いずれにおいても重要な部分を支えるようになりつつある。

 クルマにおけるエレクトロニクスは、情報を取るセンシング、処理・判断、そして人あるいはクルマに対するアクチュエーション・出力の3つに分けられる。車内の通信量は、10年で100倍以上のペースで増加しており、いまやクルマの配線(ハーネス)は、それをみるだけでクルマの形が分かるほどになっているという。車載マイコンの性能は同じく10年で40倍、車載ディスプレイ面積は20年で10倍になっているという。クルマはより多くの情報をセンシングし、出力するようになっているのだ。

 その結果、エレクトロニクスの価格はクルマ全体の価格の3割を占めるまでにいたっていて、クルマはエレクトロニクス商品になっていると篠原氏は述べた。エレクトロニクス部品の価格の割合は、早晩、価格の半分を占めるようになるだろうと語った。


クルマにおけるエレクトロニクスの役割 エレクトロニクスの領域 クルマの価格の3割はエレクトロニクス商品

通信量は10年で100倍以上 車載マイコン性能は10年で約40倍 車載ディスプレイ面積は20年で約10倍

安全技術

 篠原氏は日産の安全技術の基準である「セーフティシールド」という考え方を紹介した。クルマの周囲にゾーンを想定し、そこにリスクが入り込んできたら、それぞれの段階に応じて階層構造のバリアを作って、安全を守ろうという考え方だ。クルマは外界を認識して、処理・判断し、そして最後にドライバーにインフォメーションを与えると同時にクルマ自体をコントロールする。

 ここで篠原氏はいくつかの安全技術を紹介した。1つ目は自車をまるで空から見たような映像を生成する「アラウンドビューモニター」である。クルマの周囲4カ所につけた広角のカメラで周囲の画像を撮影、それを変換して見やすい画像にして、ドライバーに伝える技術だ。

 2つ目は「ディスタンス・コントロール・アシスト」。ドライバーに対してアクセルペダルから力を返すことで、安全な車間距離を維持させる技術である。

 3つ目は「レーン・ディパーチャー・プリベンション」。車線逸脱防止をサポートする技術である。夜間や白昼などさまざまな状況でロバストに白線を検出し、音とブレーキ制御による車両のヨーモーメント発生によって、ステアリングに少し反力を与え、ドライバーに注意を促す。

 このように、クルマは色々なことができるようになりつつある。同時に日産ではドライバーへの情報伝達の手段の進化を進めてきたという。単にクルマが進化するだけではなく、それを人間に素早く自然に確実に伝える、インターフェイスの進化が必要だということだ。「クルマと人間の関係をセット」として捉えることが重要だと篠原氏は強調した。


セーフティシールドの考え方と日産の安全技術の位置づけ 安全技術とエレクトロニクスの役割 クルマの機能とインターフェイスの高度化

アラウンドビューモニター ディスタンス・コントロール・アシスト レーン・ディパーチャー・プリベンション

 さて、日産の「セーフティーシールド」では、リスクがだんだん中に入ってくると考え、各階層で距離に応じたアクションを取る。だが、本当にぶつからないクルマを目指すためにはもう一段階進んだ技術が必要になるという。いよいよぶつかりそうになったときには、究極的にはとっさの判断、いわば反射的な行動が重要だ。その1つの方向性が、今回発表されたロボットに見立てたクルマ「BR23C」で紹介したハチの回避行動のクルマへの適用だ。

 これは昆虫の脳神経系の研究で知られる東京大学の神埼教授と共同で研究しているもので、常に動いているハチはクルマの動きを連想させる、という。ハチは複眼で周囲の環境を認識しており、その映像は、障害物が近づくにつれて、多くの複眼が反応する形で実現していると考えられる。クルマも衝突しそうになったときにはとっさにリアクションする必要があるが、哺乳類のような大脳皮質を持たないハチは、非常にシンプルなセンシングとアルゴリズムでとっさの行動をとっているのではないかという。例えばハチは巣箱の周囲では集団になっているが、お互いにぶつかって落ちるといったことはない。

 篠原氏は「BR23C」のデモを動画で示しながら講演した。その中でBR23Cは首を動かしているのだが、実際には腹部のレーザーレンジファインダーで物体を検出している。今後、この技術を磨いていき、究極的にはぶつからない車を目指すという。


ぶつからないクルマを目指すためには ハチの回避行動をクルマにも適用

通信技術のポテンシャル

日産の「トリプルレイヤードアプローチ」と環境・安全技術、そしてそれを支える通信技術の位置づけ
 通信技術も大きなポテンシャルを持っているという。特に人と社会の関わりで安全や安心を追求するには、通信技術が非常に大きな役割を果たすと述べた。

 例えば、直接は見えないクルマをインフラに埋め込んだセンサーで検知させるとなると、単独のクルマでは絶対に実現できない。また、燃費の良いエコ運転は人に対するアプローチであり、社会に対しては、渋滞を防いで全体としての燃費をどうやってあげるかといったことになるが、ここでも通信技術が重要な役割を果たす。

 これから個々のクルマが持つ情報量はますます増大する。その情報を車両同士でやりとりしたり、人とやりとりすることで、例えば交通流コントロールやよりきめ細かなクルマサービスが可能になるという。便利で快適、安心な移動を実現し、クルマの価値だけではなく、社会全体の価値を広げるポテンシャルを通信技術は持っていると語る。

 「エコ運転アドバイス」は日産のカーナビサービス「CARWINGS」を使って、より燃費のよい運転を促すものだが、日産では特に継続して利用してもらうことを狙っている。たとえば、自分の燃費をパソコンを使って他の人の燃費と比べ、ゲーム感覚で他者と比較することができたり、運転に応じた改善アドバイスを受けることで、モチベーション維持を図っているという。このサービスを1年半続けたところ、ざっと18%燃費がよくなったという結果が出たそうだ。


通信技術が新しいクルマの価値をもたらす エコ運転アドバイス 18%の燃費改善効果があるという

 また、最速ルート探索技術「ダイナミック・ルート・ガイダンス・システム(DRGS)」もあわせて紹介された。これはクルマからの交通情報、つまりプローブデータを使って、リアルタイムで現場に近い正確な情報を得て、より正確なナビを行なおうというものだ。これにより交通情報なしのナビに対して、約20%の時間短縮、約17%の二酸化炭素削減を実現しているという。

 篠原氏は「通信をどのように駆使して環境に取り組むかが大きなテーマになっている」と語る。日産では中国の北京で13,000台以上のタクシーを使って、同様のサービスを始めている。シミュレーションによれば、平均車速が向上し、さらに普及率が3割を超えるとサービス利用車だけではなく、交通流全体の効果が見込めるという。

 さらに篠原氏は、通信が非常に大きな役割を果たしている例として2つの技術を示した。1つ目はGPS携帯を使った歩行者事故の低減技術である。クルマと歩行者(携帯電話)の間で通信を行ない、2008年の秋から大規模な実証実験を開始予定だ。もう1つは北海道で昨年から開始している「スリップ発生情報配信サービス」だ。プローブカーからのリアルタイムのスリップ情報を蓄積してユーザーに提供するサービスである。このように、現在はさまざまなデータを蓄積している段階だという。


最速ルート探索技術「ダイナミック・ルート・ガイダンス・システム(DRGS)」 DRGSの効果 北京では13,000台のタクシーをプローブとして使う

GPS携帯を使った歩行者事故の低減 スリップ情報提供サービス 実証実験結果

次世代に向けたクルマ技術「カーロボティクス」

 最後に篠原氏は、クルマの進化をロボットになぞらえて紹介した。次世代のクルマはロボットと多くの共通技術を持つようになりつつあるという。クルマの運動制御とインターフェイスが足並みを揃えて高度化しているからだ。センシング、処理、アウトプットという3ステップはクルマとロボット、どちらも変わらない。

 クルマはドライバー自身によるマニュアル運転から、さまざまなエレクトロニクスによって運転をサポートできるようになってきた。さらに「BR23C」のようにどんどん制御を高速化し、あるいはモーターショーで日産が示した「pivo」のように動きの自由度を拡大できるようになってきた。また、ナビゲーションシステムは、身振り手振りのような非言語情報、個人認証、文脈共有と、より複雑になってきている。両者は同時に進化していく。

 その進化の例として「ロボティック・エージェント」を示した。クルマと人間がやりとりするための知能化インターフェイスだ。ドライバーを事前の顔情報登録によって認識し、クルマの運転状態に適応した情報を提供する。究極的には文脈を共有し、対話によるコミュニケーションを行ない、より直感的に情報が分かるようになっていくことを目指す。外見もパートナーを意識し、親近感、愛着が持ちやすいものになっている。

 最後に篠原氏は「クルマはエレクトロニクス商品。エレクトロニクスに基づいてクルマそのものの価値はもっと広がる。クルマを社会の1つの要素として、社会にもっと価値を提供していきたい」とまとめた。


カーロボティクス クルマの進化 ロボティック・エージェント

URL
  日産自動車
  http://www.nissan.co.jp/

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( 森山和道 )
2008/10/01 18:54

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