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トヨタ「Winglet」記者会見レポート
~移動が楽しくなる新型移動支援ロボット


 トヨタ自動車株式会社は1日、トヨタ・パートナーロボットの最新モデル、立ち乗りスタイルの二輪型パーソナル移動支援ロボット「Winglet(ウィングレット)」を発表した。

 「小さな翼」の意を持つWingletは、「安心して自由に移動を楽しめる社会の実現」に貢献することを目的に開発されたトヨタ・パートナーロボットシリーズの新型。パートナーロボットの中でも、移動用途のモビリティシリーズに属する。近年、ショッピングモールや空港、病院など、敷地面積やフロア面積が拡大している建物・施設が大変増えているが、そうした建物や施設内での移動手段は、ほぼ徒歩のみ。そうした場所での移動を支援するために開発されたWingletというわけだ。

 Wingletの生い立ちは、パートナーロボットの中でも少々特殊で、同社が1から開発したロボットではない。ソニーが開発していた技術だ。しかし、ソニーが、AIBOなどのロボット事業から撤退したことから、トヨタが途中まで開発された技術を譲り受け、今回の完成に至ったという経緯がある。現在、10名の技術者が開発に関わっているそうだが、その内の7名がソニーの技術者。内2名はトヨタに転籍したが、5名はソニーからの出向ということで、実質的には、ソニーとトヨタのコラボレーションで誕生したともいえるロボットなのである。

 Wingletは、ステアリングユニットの長さによって操作感が異なる3種類のタイプを用意。最も軽量(それでも10kg弱はある)で、折り畳めてコンパクトにできるので持ち運びやすいのが、「Type S」。両手で握れるグリップのついた長いステアリングユニットがあり、一見するとセグウェイのコンパクト版といった印象があるのが、「Type L」。そして、ヒザ上ぐらいまでのグリップなしのステアリングユニット(両足の間にある)を備え、操作感が両者の中間的な「Type M」だ。スペックは、以下の通りだ。


Winglet Type Sを正面から Type Sを真横から Type Sを斜め後方から

Winglet Type Mを正面から Type Mを真横から Type Mを斜め後方から

Winglet Type Lを正面から Type Lを真横から Type Lを斜め後方から

二輪型パーソナル移動支援ロボット「Winglet」

トヨタ自動車株式会社 副社長 内山田竹志氏がWingletを操りながら登場
 記者発表では、同社副社長の内山田竹志氏が、Type Lに自ら乗ってスムーズに取材陣の前を通過し、フラッシュの砲列を浴びながらステージに上がった。ステージに上がる際も、スロープをなんなくWingletが登っていき、登坂能力の高さをアピール。約20度の坂を登れるとのことである。

 内山田氏は会見で、まず同社が昨年に創立70周年という節目の年を迎え、地球・社会との共生と、持続的な発展への貢献を進めていくため、「研究開発」「モノづくり」「社会貢献」の3つのサステイナビリティを追求していくとした。「人と共生できる」をコンセプトとするパートナーロボットに関しては、これまで多数発表してきているが、まずは製造支援からスタートして、順次福祉分野へと進出し、持続可能な未来の社会作りに貢献していくとする。また、同社はパートナーロボットに関して、今後の新しい柱として位置づけていることも強調した。

 パートナーロボットは、同社の生産ラインの産業用ロボット開発で培った技術を発展させ、クルマで培った技術を応用して開発を進めている。トヨタがパートナーロボットを開発している理由は、クルマのロボット化が近年、非常に進んでいることがひとつ。制御・システム、ヒューマンインターフェイス、機構・デバイス、自律移動、認識、知能化など、数多くのロボット開発で得られる技術が、クルマや産業用ロボットの開発にフィードバックできることから、進めているというわけである。内山田氏は、同社では、相互に活用しながら、パートナーロボット事業を中核事業のひとつに育てていきたいと語った。


内山田竹志副社長 【動画】すいーっとWingletで登壇した内山田副社長

 同社のパートナーロボット開発の方向性としては、大きく製造モノづくり支援と福祉支援に分かれる。さらに福祉支援は、家事、介護・医療、近距離・パーソナル移動の3つに分かれる。Wingletは福祉のパーソナル移動支援の中に入り、昨年12月に発表された腰掛け型「Mobiro」もその仲間だ。同社は、近距離・パーソナル移動支援ロボットを提供することで、人と社会に優しく、誰もが安心して自由に移動を楽しめる社会にしたいと考えているという。人々の気持ちがアクティブになり、誰もが安心・気軽に移動でき、その結果として人との出会いを育み、心を豊かにし、地域社会のコミュニティーの活性化につながるとする。

 パーソナル移動支援ロボットの位置づけは、Mobiroが高齢者など歩行の困難な人向け。WingletのType Lが実用的で使いやすさを重視し、Type MとSがスポーティなモデルとされている。おおざっぱに年齢でわけてみると、小中学生ぐらいの子供たちがスポーティに遊べる感覚なのがType S、10代半ばぐらいから20代ぐらいならスポーティ過ぎずかつ実用的すぎない移動手段としてType M、30代ぐらいから上なら実用的で操作性の簡便さや安定感のあるType L、足腰が弱ってきていて移動が困難なお年寄りなら座れるMobiroとなるわけだ。あくまでもおおよそであって、元気なお年寄りがお孫さんと一緒にType Sで連れだって乗り回したっていいのである。

 なお、同社では2010年代の早い段階での実用化を目指し、産官学の連携を一層強化して、パートナーロボットの開発に積極的に取り組んでいくとしている。


クルマ、産業ロボット、そしてパートナーロボットはお互いがフィードバックできる関係 パートナーロボットは福祉支援が3系統、製造モノづくり支援が1系統

Type SからL、そしてMobiroを加えた4タイプであらゆる年齢層をカバー 腰掛け(座り乗り)型の移動支援ロボット「Mobiro」

Wingletの開発について

開発担当の川原崎由博氏
 内山田氏の後を受け、Winglet開発担当の川原崎由博氏による解説が行なわれた。川原崎氏は赤のType Mで登場し、小脇に資料を抱え、将来のWingletを近場の移動手段として愛用するビジネスマンの先取り的なイメージ。かなり乗り慣れているようで、直接つかめるステアリングユニットがなく、操作にType Lよりもコツを必要とするといわれるType Mで、スラローム走行や8の字走行などもすいすいと行なっていた。

 まず開発コンセプトだが、人と共存する空間で利用できるようにし、なおかつ移動の阻害要因を低減して行動意欲を拡大するというもの。それに基づいて開発されたのが、Wingletというわけだ。Wingletに、持ち運べるほどの重量とコンパクト性(クルマに積んだり、電車に持ち込んだりが可能)、誰にでも簡単に操れる運動・走行性、環境や周囲の人にも優しく安全という3つの性能要件を与えたことで、コンセプトを実現。実際にメガウェブを舞台にして、駐車場でクルマからWingletを降ろし、屋外から屋内へシームレスに移動し、施設内を見て回るイメージも動画で紹介された。なお、最高時速の6km/hは、歩行者の中に混じって移動する際の安全性などを考慮した速度だそうで、人の小走り程度の速度だ。


【動画】川原崎氏は、Type Mを颯爽と操って見せた Wingletによって移動を楽しめる社会のイメージ

【動画】Wingletを実際に使用したイメージムービー Type S、M、Lの乗車スタイルの違い

 開発技術に関しては、まずパッケージングから。足を置くステップの下にタイヤとインホイール小型駆動ユニットが配置されており、360mmというトレッド(左右のタイヤの間隔)は肩幅並みとなっている。駆動ユニットは、サーボモータに新開発の遊星減速機という構成。タイヤ径は、バリアフリー段差の20mmを走破できることを条件とし、150mmとなっている。幅は60mmだ。

 車体フレームは、左右のタイヤとインホイール小型駆動ユニットを独自開発の平行リンクバー前後各2本ずつで連結している。Wingletは重心移動で行きたい方向をコントロールするのだが、タイヤが斜めになった際に、平行リンクバーが作動して、前から観たときにタイヤと平行四辺形を形作る仕組みである。

 旋回はクルマなどのようにタイヤを左右に向けるのではなく、曲がりたい方向に傾けて行なう。1輪車がふたつ連結しているようなイメージといえば、伝わるだろうか。足を載せているステップは左右で独立して動くので、それぞれが斜めに傾く。よって、片側だけが大きく持ち上がってしまうといったことはない。


Type Sの実機 真横から 正面から見るとリンク機構がよくわかる。タイヤは足下に隠れる状態

上からみるとこんな感じ タイヤはバリアフリー段差20mmを走破できるよう設計 乗降しやすいようステップは低く抑えられている

折りたたんだところ 折りたたんだ状態を裏側から この状態で持ち運びが可能

モデルによる走行デモ 右に左に軽々とステップを踏むように移動する

駆動ユニットはインホイール式で、サーボモータと新開発の遊星減速機という構成 平行リンクバーが両方の駆動ユニットをつなぐ機構 【動画】平行リンクバーの動作する様子

 また、電源、制御、姿勢センサなどの電装ユニットも中央部に集約されており、上方から見た際の投影面積をかなり抑えることに成功に成功している。人のシルエットに隠れるA3用紙ほどだ。実際に、歩行者の専有スペースと、Winglet乗車時の専有スペースを、上方と側方から比較した写真が紹介されたが、手足が前後に振り出される歩行時の方が大きいぐらいである。また、ステップの高さが165mmと非常に低く、ユーザーの身長が降車時と比較して見上げるほど一気に高くなる、といったこともない。よって、人混みでも周囲の歩行者に威圧感を与えることはあまりないというわけだ。

 乗降はとても簡単で、乗るときは電源を入れた後、片足から順に載せるだけ。普通に台にのるような感じである。降りるときは、降車ボタンを押す。すると、後方に傾くので、足を一歩後ろに下げればすぐ地面というわけである。ステップの外側や前後には何もなく、後ろに踏み出すときも足を引っかける心配がない。いざというときも、すぐに後ろに降りることができる。


電装ユニットは中央に集約されている Winglet乗車時と歩行時の専有スペースの比較

【動画】乗車の様子 【動画】降車の様子。降車ボタンを押してから降りる

 センサで常時姿勢をチェックして制御している倒立二輪制御なので、前進・後退は先ほども少し触れたが、重心移動で行なう。前のめりになれば前進し、後ろにのけぞれば後退するというわけだ。ブレーキはないので、進行方向に対して反対の重心移動をして制動をかける。要するに、前進時に止まりたい場合は、少しのけぞればいいわけだ。坂道を登る際も、角度に合わせてステップが水平になるので、後ろに落っこちやすいといった心配はない。また、左右への旋回も重心移動で行ない、慣れてくるとスラローム走行なども簡単に行なえる。その場旋回が可能なので、最小回転半径は0だ。


【動画】前後の移動の様子 【動画】坂を登る様子。常にステップは地面と平行となっている 【動画】左右への旋回の様子。慣れるとスラローム走行も余裕

 人との衝突の危険性についてもしっかりと研究されている。倒立二輪制御のためテコの原理が働き、搭乗者が女性でも片手で止められるほど少ない力で制動がかけられる。たとえば、乗っている人が歩行者の身体を支えにして自分の身体を後方に傾ければそれで制動力が働くし、歩行者が乗っている人の肩の辺りなどできるだけ上の方を押さえて後方に重心をかけてあげればやはり制動力が働くので、比較的軽い力で止められるというわけだ。

 また、タイヤを平行に配する構造上、斜めからの段差越えは姿勢を乱しやすい。そこで、左右のタイヤの駆動力の制御を行なうことで、安定して越えていけるようにしてある。同じように駆動輪の制御としては、空転時も行なう。片方のタイヤが浮いてしまった場合、高速で空回りしないようにし、再び接地した瞬間に一気に駆動力がかかるようなことが無いようにしてある。

 さらに東京大学生産技術研究所との共同研究で、歩行者が多数存在する場所での走行実験も行なわれた。繁華街の歩道のような人混みを再現している中を、2台のWingletが走行していくのだが、威圧感や危険性などは感じられない。すいーっという滑らかな動きなので、一定のリズムがある徒歩とは異なるのですぐわかるのだが、思った以上に溶け込んでいるようだった。


【動画】人との衝突の危険性があるときも、手で簡単に止められる 【動画】斜めからの段差越えをする際の駆動輪の制御無しとありの差異

【動画】タイヤの空転を抑制する仕組みも搭載している 【動画】東京大学生産技術研究所での人混みでの移動実験の様子

 さらなる機能強化の点についても紹介。まず、情報・通信技術との融合ということで、店内情報、ナビ機能、認証システム、課金システムなどの機能を追加していくことを検討しているという。Wingletから降りずに店内・施設情報を得られたり、ナビ機能を使えたりすれば、より利便性が上がるというわけだ。認証システムや課金システムなど、Wingletに乗ったまま買い物や手続きが済ませやすくなるという機能なので、より利便性が高くなるといえよう。

 また、認識・知能化技術との融合も検討中だ。何段階かの技術があり、最初は、障害物検知および警告、そして自律移動や自動回避といったところが搭載される。さらにその先の機能として、呼べば来る、ユーザーに追従、自動充電といったものも考えられるそうだ。

 実証実験も予定されており、今秋から開始される。最初は中部国際空港セントレアで、移動距離の長い大型施設内での実用性を評価。利用者の多い施設なので、多くの感想を集められるだろうと期待しているという。それから少し遅れて同じく今秋に、屋内外を想定した評価を複合型マリンリゾート施設のラグーナ蒲郡(愛知県蒲郡市)でも行なう。さらに2009年には、ショッピングモールでの評価として、オートモール複合型商業施設トレッサ横浜でも実施。人混みなどでの使用性や、買い物客との親和性、また歩行者に与える心理的な影響を検証したりする予定だ。

 最後に川原崎氏は、Wingletのような新しいロボットを実際に導入するには、社会的なコンセンサスを得る必要があるとする。また、あくまでも今回のWingletはそのまま市販されるというわけではなく、実証評価を通じてより多くの意見を集約し、それらをフィードバックしていくことも重要とした。さらに、現在はWingletのような乗り物は一般道での使用は不可。そのため、商業施設、空港、大型病院など一般道ではない場所での使用を第一に検討しているわけだが、関係行政などの協力を仰ぎ、環境整備も推進していくとしている。将来的には、ぜひとも街中で乗れるようになってほしいところだ。

 なお、メガウェブおよび池袋のトヨタの無料自動車アミューズメント施設・アムラックス東京では、8月と9月にWingletのモニター体験試乗会を開催する。試乗できるのは、Type Lだ。メガウェブは、今月9日(土)と10日(日)。14:30からと16:00からの1日2回。トヨタ ユニバーサル デザインショウケースが会場で、開始30分前から受付開始だ。

 アムラックス東京は、9月13日(土)、14日(日)、15日(月・祝日)の3連休に行なわれる。会場は地下1階。15分前より抽選の受付を開始する。試乗条件は、普通自動車運転免許証を所持している方で、身長が145~185cm以内、体重35~100kg以内。日本語で意思疎通できることなども条件となっている。

 なお、8月2日にメガウェブで行なわれた一般向けWingletモニター体験試乗会の様子を取材するとともに、記者も実際に体験試乗させてもらったので、こちらも別途報告させていただく。


URL
  トヨタ自動車
  http://www.toyota.co.jp/
  ニュースリリース
  http://www.toyota.co.jp/jp/news/08/Aug/nt08_045.html
  メガウェブ
  http://www.megaweb.gr.jp/
  アムラックス東京
  http://www.amlux.jp/

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トヨタ、パーソナル移動支援ロボット「Winglet」を発表(2008/08/01)


( デイビー日高 )
2008/08/04 18:23

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