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富野由悠季氏
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6月14日、東京大学駒場キャンパスにて、「機動戦士ガンダム」などで知られるアニメーション監督・原作者の富野由悠季氏と東京大学工学部教授のディスカッション企画「テクノドリームI:工学~それは夢を実現する体系」が行なわれた。前半は富野監督と東京大学情報理工学系研究科長で工学部・機械情報工学科の下山勲教授、東京大学工学部・航空宇宙工学科の中須賀真一教授とのディスカッション、後半は東京大学卒業生で実業界で活躍している2人を交えたパネルが行なわれた。
「テクノドリーム」とは、主に東京大学の若い学生たちに工学が持つ夢やロマンを伝えてエンカレッジしようという趣旨で企画されたシリーズ。当日は土曜日、しかも学外からも参加できたため会場は満員。大勢がディスカッションに耳を傾けた。なお内容は「東大TV」で配信され、今後も年に1回のペースで行なわれる予定だという。
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東京大学工学部・広報室 内田麻理香 特任教員
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司会をつとめた東京大学工学部・広報室の内田麻理香特任教員は「中学生時代に(ガンダムシリーズの映画)『逆襲のシャア』を見てスペースコロニーを作りたいと思い、工学に進んだ」という。それに対して満面の笑顔で登壇した富野監督は「最近はスペースコロニーは無理なんじゃないかと思っている」と答えた。
監督はこれまでスペースコロニーで暮らしている人を登場人物にした劇(ガンダムなどのアニメーション作品)を作ってきたが、それは「リアルなシミュレーションを繰り返しているようなもの」であり、だんだん、コロニーのような構造では1,000年、2,000年単位で人が住むことはできない、と考えるに至ったという。外壁には放射線の遮蔽が必要だし、それを回転させて、遠心力で1Gの擬似重力を作らなくてはならない。おまけに中は空洞だ。「工学的に作れるならば作ってみせてください」と述べ、また「現実的に工学が進むべき問題は他にも山ほどあるのではないか」と呼びかけて議論の口火を切った。
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東京大学工学部・航空宇宙工学科 中須賀真一 教授
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これに対し中須賀教授は「基本的に正しい」と答え、まずはコロニーよりも、宇宙へ物資を大量に運搬する技術が必要だと述べた。だが、人類が宇宙へ進出していくことには疑問を持っていないという。「行っても意味はないんですよ。宇宙ステーションも汚いし臭いしシャワーも浴びれない。でも、なぜか行きたい。それは本能的な欲求だと思う。南の島でも島から出て行く人がいる。出ていきたいという気持ちがある」と宇宙への情熱を語った。「大事なことは、どの段階で何をやるかということ。スペースコロニーは今のフェーズではない。まずは宇宙に容易に行ける道を作ること。我々は小さな衛星を作っている。それは将来、人類が宇宙へ行くためのシミュレーションをやってる段階だとも言える。どのフェーズで何をやるか考えないといけない」と述べた。
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東京大学情報理工学系研究科長 工学部・機械情報工学科 下山勲教授
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東京大学「IRT研究機構」の機構長でもある下山教授は、このディスカッションに臨むにあたって「機動戦士ガンダム」の劇場版三部作を見直してきたという。下山氏は「なぜ監督が否定して、我々が場外から参戦しないといけないのか分からない(笑)。普通は逆ですよね」と苦笑いしながら、スペースコロニーについて「3,000mのエレベーターで中心から地表に降りていくシーンは理にかなっている。また1Gを作ろうと思ったら100秒に一回くらい回さないといけないが、それは可能だろう。スペースコロニーが不可能だと証明されたら話は別だが、ニーズさえあれば作られるだろう。最近の材料だと自己修復材料も不可能ではない」と述べた。
司会の内田氏によれば、富野監督は「IRT研究機構」のことを知らなかったという。内田氏は、それは工学者が発信がうまくないことを示しているのではないかと述べた。
富野氏は今回のディスカッションの話を聞いて、IRT研究機構のウェブサイトを見たという。IRT研究機構の目的は「少子高齢社会への対応と基盤技術の創出」だ。これに対して富野監督は「若者が減るから高齢者が死にきるまでの介護はロボットにやらせようという趣旨。僕自身がそろそろそういう年齢だから、皆さんのような若い人の世話にならず、なんとかロボットを使って死んでいくように努力する」と語った。
富野監督に言わせれば「ロボット工学やってる奴はバカだ」。なぜかというと、いまのロボット工学が目指しているのは人間がやっていることを機械で代替できるようにするもので、それは、人間に対して性能劣化していいといっているような工学であり、主張、思想概念だとも言えるという。
そして既にまだロボットが生活にはいってきてないのに、日本人も性能劣化しはじめているという。また、巨大ロボットアニメの演出をしていると、「あんな嫌な乗り物には乗りたくないよということが演出すればするほど分かってくる」のだそうだ。上下動が激しく、乗り物酔いどころではなくなることは自明だからだ。富野監督は「4輪車のほうがずっといい。ロボットの開発なんていうのはやめましょうよ」と語った。
これに対しIRT研究機構長の下山教授は、少子高齢社会の現実と、ロボットの可能性について語った。労働力が不足する時代には、役に立つロボットがいろいろな現場で使われるのではないかという。いっぽうアピールという面では、工学者の表現力不足の側面は非常に大きいとも認めた。たとえばアニメのクリエイターにも先端技術が理解できるような教育も必要だとした。
いっぽう、「若いうちに技術や考えを身に付けないと工学部へ行っても仕方ないという指摘もある」(司会の内田氏)。
中須賀教授によれば、必ずしもそうではない。中須賀教授の研究室では、小型の衛星を学生たちが手作りしている。最初は電子回路基板どころか、はんだごてを持ったこともない学生たちも、いったんやり始めると、ものの数カ月でモノづくりの技術が身に付くそうだ。つまり「素養はあるのだが機会を得てない」だけだという。もちろんそれぞれの年齢でやるべきことはあるが「経験することで工学者の基本的センスは身に付くので、大学に入ってからでも遅くはない。一度そういうフェーズを経ることで工学者のセンスを身につけられる」と語った。実際、学生たちに向き合っていると「驚きの連続」で、「いまの学生は」というありがちな認識は間違っているという。
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富野監督
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富野氏もモノを作ることの重要性を語った。秋葉原で部品を集めてそれを組むくらいでは「組み立てている」というレベルであって、それはものづくりではないという。「もっと原理的なところでものをつくってほしい」と力説した。ではやってないと工学部には行けないのかというと、やはりそうではないという。戦前戦中の人たちは「生きていることに対する切迫感」があったが、今の世代は既に父母からしてそのような生死の切迫感は持っていない。富野氏は「そういうメンタリティを持ってきた皆さんなんだから、東大に入ってからはんだごて持っても結構」だと語り、さらに日本の宇宙開発体制を批判した。「大人になってからの役目を認識できてない」ことが失敗の原因だという。
「自分の手に入れた技術をどのように統合するか」「我は何をしなければならないかと考えて技術を統合するセンスが必要」であり、社会におけるさまざまな問題を「工学の問題として認識していられる、工学者や経済人がどれだけいるか」と語った。そして少子化に対してもっと人口を増やそうという考え方を批判した。特に、新発明や新発見に比重がかかっているノーベル賞に代表されるような「人類文明は右肩あがりで進んでいく、ニュータイプになっていくぞという思想」が問題だという。特に「地球というシステム」をこれからも持続させていくためにはそれが問題だという。だが制御工学もシステム的なことではなく「目の前のことを一生懸命やっているだけ」だと批判し、「いまのままだと『みんなしんじゃえ』という話」だとトミノ節で語った。「システム工学は循環工学」であり、「政治経済も含めて、物事を循環させるところにもっていかなくてはいけない」という。
ガンダムに敬意を表して赤いシャツを着てきたという中須賀教授は「我々も切迫感を持たなくちゃいけない時代。今のままほっておくと、とんでもないことが起こる。地球というシステムは崩壊する。もっと危機感をもたなくちゃいけない」と同意した。
富野監督はさらに続けて「エネルギーと食糧問題と、人間の数の多さ。そのなかには『我』も入っている。石油の値上げを見ればわかるとおり、3年後の暮らしは見えてない。でも日本政府は備蓄米を持ち、食糧危機だといっている。『これはなに?』と思う感度が必要。100年単位で考えなければならない。たとえばYahoo!やGoogleも騒いでいるけどネットの電力の持続性をどこまで信じているのか。でもどちらもやめて欲しくない。そのためにどうすればいいか。そこに我々の感覚論や認識論が飛ばないといけない。経済ニュースにとどまっていてはいけない」と述べた。
下山教授は「日本には課題がたくさんある。解決方法はいろいろ提案できるだろう。その解決方法を世界に提案できれば、課題解決が日本の文化として発信できれば日本も尊敬される」と応えた。
富野氏は文化の話に応じて「西洋文明がこれだけきれいに入り込んだ文化はない。日本は仏教とキリスト文化圏を本能的にどぼっと理解して飲み込んでいる。今後はさらにイスラムも飲み込んでほしい。日本列島に住んでいる我々は稀有な人々だ」と述べた。「工学」というセンスで、地球システムをコントロールしなければならないところまできているのではないか、という。
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中須賀教授
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中須賀教授は「システム論は大事。日ごろから、ローカルに見ないように考えるクセが必要。ローカルに見れば得になるけど、その結果余計なものが使われていることがある。リサイクルにもそういうものがる。ローカルがシステム全体にどういう影響を与えているのか考えなければならない。我々は地球を一つの閉鎖環境として考えるが、さらに大きなシステムで考えると解が見つかるかもしれない。宇宙というシステムです。世界だけではなく、宇宙で考える必要があるのではないか」と述べた。
富野監督はこれに対し「火星くらいまでの軌道上を人類の生活圏として考える必要がある。火星くらいから地球を見下ろして、青い地球をあと10億年くらい使い続けるにはどうすればいいのか考えなければならない」と応じた。
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下山勲教授
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下山教授は「エネルギー問題には正確な知識が必要。冬のある日、石油ストーブを使うのと、エアコンで25度にするのとどっちがエコロジーか? 答えはエアコン。石油ストーブは温度をあげるためにエネルギーを使うが、エアコンは熱の移動にエネルギーを使う。そのほうがエコだよと昔教えられた」と補足した。
ここで司会の内田氏から、富野監督が使ったシステムにおける「循環工学」という新しいキーワードが新鮮だが、工学だけではなくていろんな概念があるなかで、なぜ工学なのか、という質問が出た。
富野氏はこれに対し「たとえば国民という概念はローカル。国同士の戦いではこっちが正義でこっちが正義じゃないということが起こる。だが今や環境問題やエネルギー問題は、政治的なところにひっかかってしまうとコントロールが不可能になるかもしれないところにきている」と述べ「工学という、極めて客観的な視点を持って攻めていく視点を獲得しないといけないのではないか」と答えた。
「みなさんの世代が頑張って未来を見せていただきたい」と語った富野氏は以下のように続けた。「自分がもう死んでもいいなという年齢になったとき、死んでもいいなと思える具体的な形があります。『我』を継承してくれる次の『我』があると思ったら死んでいける。そうでなければ死ぬのはつらい」と述べた。
中須賀氏は富野氏の言葉に対して「工学者一同として受け止めていかなければならない。ローカルに見ないこと。非常に広い範囲で広げて考えていくことが必要」と述べた。
下山氏は「循環やエネルギーについては正しい考え方が必要。データに基づいた考え方と予測をイデオロギーに関係なく行う必要がある」と強調した。そして続けて富野監督に対し「将来の地球や日本はこうなる」といった姿をビジュアルに見せるためのコラボレーション・プロジェクトをお願いできないか、やれれば我々の表現力も付くし面白いのではないか、と問うた。
富野監督はこれに対し「身に余るご提案。お手伝いさせていただければと思います」と、あくまで講演会場という場ではあるが、同意を示した。
● 第2部 実業界と工学 ~金儲けを潔しとせよ
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三洋電機株式会社 常務執行役員、三洋半導体株式会社代表取締役社長 田端輝夫氏
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続けて第2部として、東京大学工学部出身で実業界で活躍する先輩として、三洋の田端輝夫氏と東洋エンジニアリングの内田正行氏の2人が加わって、議論が続けられた。
三洋電機株式会社 常務執行役員、三洋半導体株式会社代表取締役社長の田端輝夫氏は「今後の世界のキーワードは、エネルギー~地球は、しょせん、大きなスペースコロニー。未来の地球を救えるのは、科学技術しかない。かけ声だけでは炭酸ガスは減らせない」と題してプレゼンテーションした。
はじめに二酸化炭素による地球温暖化、気候変動の予測を示し、どうやってエネルギーを作るか、それを効率よく使う省エネなどについて語った。たとえばロボットのような「人体労働補完技術」は、どのように効率よく運動エネルギーを使うかという問題だという。一番大きなエネルギー問題は食糧問題だ。文化的な生活とは、すなわち大量のエネルギーを使うことだと見なせる。
田端氏は三洋の太陽光発電施設「ソーラーアーク」や電気自動車を示しながら、太陽光発電は日本が世界に誇る技術だと語った。もう1つは工学的な光合成だ。いまは半導体光触媒を使って水を光分解する段階には達しているが、そこまでだ。ともかく環境問題を解決するのは工学しかない、とした。
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省エネ技術が重要だという
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人工光合成の可能性
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田端氏のプレゼンの結論
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東洋エンジニアリング株式会社 内田正行氏
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東洋エンジニアリング株式会社の内田正行氏は、サッカーの「ドーハの悲劇」で知られるカタールで進められている、大規模な天然ガス田開発事業について解説した。オーナーはシェルで、東洋エンジニアリングそのほかが受注して、総額2兆円で2011年の完成を目指している。天然ガスから石油類似製品を作るプラントだ。石油の供給安定性は各国にとって大きな問題となっている。
従来型のプラントは広いエリアを必要とした。ところが反応器を「マイクロチャネルリアクター」というものを使って小型化する計画が進められている。ここまで小さくすることができるのであれば陸上設備ではなく船の上にも載せられる。そうすれば海洋にある資源も利用可能になる。地球上では陸地は3割に過ぎず、7割が海だ。これまでは開発が容易な陸上の油田が掘り進められてきたが、海洋の油田はまだあまり開発が進んでいない。だがこれからは海洋の資源への挑戦が非常に重要になってくる。
巨大なプロジェクトを進めるためには工学系の人材が不可欠だが、二通りのタイプが必要だという。一つは精神的にもタフな人材。もう一つは、技術開発、解決策を提案できる課題解析力を備えた人材だ。「実業の世界では、工学系の人材が生きる部分は多数ある」と語った。
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カタールで進められている天然ガス田開発事業
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プラントの小型化
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船上で石油関連製品を作ることも
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精神的にもタフな人材と課題解析力を備えた人材が必要
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富野監督
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2人のプレゼンテーションのあと、再び5人でディスカッションが進められた。内田氏と田端氏はそれぞれの立場から、ざっくばらんに意見を述べた。
再び、最初に富野氏から話が始まった。「この発言をした途端、石つぶてがとんでくることも承知している」と断りつつ「かつては人が増えることが善、富国強兵だった。その覇権主義がまだ我々の中に息づいているいるのではないか。常識を我々の中で獲得していく術策が必要。実業に関与していく人は、ごく当たり前のことをきちんとしたところに進むべきだと思う」と述べた。
中須賀教授は「いま本当に企業で求められている人材」について、実業界の2人に質問した。
内田氏は「人口が減れば良いというのは我々は言っちゃいけないこと。『お前が死ねよ』ってことになるから(笑)」と答えて、以下のように続けた。「いまの日本の人口は世界人口60億のなかで2%のシェア。いっぽう日本の人口は、ある推計によれば、2100年になると4,500万人くらいになる。そのときの世界人口がもし90億だったら0.5%ということになる。今は100人いればそのうち2人は日本人だが2100年になると100人集まっても日本人がいないことになる。その中でも一定の地位を維持しなければいけない。
世界で今後、どういう国がステイタスを持ち得るかというと。資源大国、金融大国、ものづくり大国の3つしかない。日本は、ものづくりしかない。そのためには工学系の人材が必要だし最高学府にいる皆さんへの期待は大きい。サステナブルな社会を満たすために、将来の人たちの可能性を損なわないように、現在の人たちのニーズを満たしていくことが実業界の役割。将来の人たちによけいなハンデを与えてはいけない。将来の人の可能性にかけつつ、現代の人にニーズにこたえていくことが必要。工学系の人たちは日本の課題、世界の課題に挑戦しなくてはならない。同時に、世界のなかでの日本の地位を保てるようにしなければならない」。
田端氏は、「大学院に進学したのは実業界に出たくなかった、象牙の塔でぬくぬくとしていたかったから。しかし世の中に出たほうが楽しかった」と答えた。また「工学系の人間は、あまりお金儲けを潔しとしない。だいたい理系の人間はお金とか人間関係も嫌いで、こつこつと役にも立たないことをやるのが好き。しかし実際にはそうではない。お金儲けをすることに喜びを持ってほしい」と語った。
「みなさんが使ってもらわないとお金は儲けられない。役に立っていることがお金儲けの証拠。お金儲けすることを潔しとしてほしい。一生懸命良いものを作り、世界中からカネを持ってきてください。そうすればまた投資ができる。良いものを作って、世界に売って、お金儲けをしてください。それが良いことだと思ってほしい。お金をもうけて税金を払い、賃金を払って社会に貢献するのが私たちの使命です。象牙の塔から外へ出たほうがいいなと思って欲しい」と語った。
富野監督はお金儲けを是とすべしという意見に同意を示し、「ガンダムのおかげで、この20年、番組作ってるときよりも今のほうが年収がいい。とってもうれしい(笑)」と会場の笑いを誘った。さらに続けて「お金儲けが、なぜ気持ちがいいか。安心を手に入れられるから。嬉しいという感情も、一人だけでうれしがっているよりもずっと大きい。お金が入ってくることは、背後に自分を支援してくれる人たちがいるということであり、社会的に自分がここにいていいという保証になる。自分だけで『やったぜ、うれしい』と思っているのと、第三者に誉められるのは桁が違う。決定的に自分の自信にも繋がります。また、マスターベーションの狭さを実感できるようになるし、生きていくための力になる。一人ぼっちで死ぬんじゃないんだと、安心する感覚に繋がる。ですからお金儲けを目指してください」と述べた。
また、少子化問題についても再び言及し、「人口3,000万人以下だったら文化がありえないのか。そんなことはない。人口が半分になるということを危機感ではなく緊張感なのだと思えば良いのではないか。その状況を素直にあるべき形として構築していかなければならない」と述べた。人類が「ニュータイプ」になるための課題だと思えばいいのだという。
中須賀教授は「便利になることがよりハッピーなんだということに汚染されているのではないか」と述べ、ネット検索も自分で考えるクセがなくなってしまう」と批判した。「自分で考えて答えを見つける、そういうハッピーさが無くなっていく」ことは問題だという。「いまの技術が便利という言葉だけが大事である、テーゼであるという評価軸で考えるのはやめたほうがいい。自分がやったことで喜んでもらえるハッピーさや、『アハ!』体験のようなハッピーさ、『技術のニュータイプ』を目指すことが、これからの工学者に課せられた課題だ」と述べた。自分はどういうことがあるとハッピーなのかと考えることが重要であり、世の中の人が便利だということに流される必要はないという。
田端氏は、日本の技術をグローバルスタンダードにするためには正確な、世界で通じるだけの英語力が必要だと強調した。富野氏はそれに対して「八木アンテナ」を例に出し、原理原則だけではなく実用を目指すことも重要だとした。
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東洋エンジニアリング株式会社 内田正行氏
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内田氏はこれに呼応して、「日本はものづくりで生きていくしかない。ものづくりには安く作るか、速く作るか、良いものを作るかの3つがある」と述べ、日本は「いいものを作るしかない」と語った。では「良いもの」とはどういうことか。それは「人々に受け入れられる」ことだという。受け入れられればお金を払ってくれるし、人に受け入れられることで技術はいいものであることが証明される。
ところが日本は、技術的に良くても、そこにとどまってしまうことが少なくないという。たとえば、技術的にアップルの「iPhone」が他社から抜きんでているかというと、必ずしもそうではない。しかしアップルは持っていて楽しい、つまり良いモノを作っており、儲けることに成功している。「少なくとも民間企業は金儲けを通じて、具体的には税金の形で社会に貢献するしかない」と述べ、さらに「中須賀先生や下山先生は企業に来たらまったく使い物にならないと思う」と語って会場をどっと笑いで湧かせた。
使い物にならないと言われた下山教授は「適材適所。大学も人がいなくなったら成り立っていかない」と苦笑した。「東京大学には、どんどん外に出て行って世界を体験する仕組みができています。なぜ世界に出て行くといいか。流暢に喋れることは必要ですが、言語以上に世界のカルチャーや生き方、友人を作っていくことができる。例えばロボットが産業になって出て行くためには世界でロボットがどう受け入れられるか知らなければならない。国際的に展開していくことも重要だと思う」と述べた。
富野監督は最後に「ハリウッド映画がグローバルスタンダードになった背景には資本以上に色んな民族が一つに集まって作らざるを得なかった映画産業というものがあると思う。グローバルスタンダードは基本的にいろんな民族のミックスのカルチャーから生まれる。日本は歴史的な融合論を持った上で循環系に対応できる技術やアート一般を提供できるのではないか」と語った。
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田端氏と内田氏
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終始和やかな雰囲気で議論が進められた
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■URL
東京大学工学部
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/
テクノドリームI:工学~それは夢を実現する体系
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/public/event/tech_dream01.html
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( 森山和道 )
2008/06/16 15:53
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