5月3日~5日の3日間にわたり、静岡県沼津市にて「ロボカップジャパンオープン2008沼津」が開催された。主催はロボカップジャパンオープン2008沼津開催委員会、共催は社団法人 日本ロボット学会、社団法人 人工知能学会、社団法人 計測自動制御学会システムインテグレーション部門。
本稿では、メイン会場のキラメッセぬまづで併催された「福祉・介護ロボティクス展」をレポートする。
● 東京理科大学工学部の「マッスルスーツ」を体験
東京理科大学工学部小林研究室のブースでは、「マッスルスーツ」と「アクティブ歩行器 ハートステップ」の展示が行なわれていた。
マッスルスーツは、空気圧式人工筋肉の装置を着用して、人の動きをサポートする補助ウエアだ。人工筋肉には細長い円柱状のゴムチューブを使用している。チューブに高圧空気を送ると直径方向に膨張し、長さが収縮する。この収縮する力がパワーとなって、人の動作を補助するわけだ。このチューブは入力する気圧に応じて、力を制御することができる。現在はパワーのオンオフを外部PCで行なっているが、今後音声入力や圧力センサによって体の動きを検知して、パワーが入るように改良していくという。
ブースではマッスルスーツの装着体験ができたが、残念ながら筆者は身長が低くてサイズが合わなかった。しかしちょうど本誌記者の梓みきお氏が居合わせてくれたので、氏に体験してもらった。
まず腰にベルトを巻き、背中にある鉄板でマッスルスーツを支える。パワーを入れると、自分の意志とは関係なしに腕が上がり、梓氏は「操られているような感じ」とコメントした。パワーが入った状態でも、腕を左右に動かしたり肘を捻ったりはできる。
実際にトランクを持ってもらったところ「重いことは重い」と梓氏は語るが、マッスルスーツを着用していると、腕にかかる負担はかなり減るそうだ。マッスルスーツを脱いでスーツケースを持つと、少し背中を反らせた状態で重さを逃がすような姿勢をとろうとするが、着用時は純粋に腕の力だけで持っていることが姿勢でわかる。その分、腰に巻いたベルトの方へ負担が掛かっているそうだ。今後は介護用途以外にも、工場などで重い荷物を扱う作業者への用途も考えて開発をしていくという。
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マッスルスーツを着用したところ
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空気圧が入っていない状態
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空気圧を入れるとチューブが縦方向に伸縮し、腕が持ち上がる
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本誌ライターの梓みきお氏が、装着体験した
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【動画】空気圧で人工筋肉を収縮させると、腕が勝手に持ち上がる
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【動画】梓氏にスーツケースを持ってもらった。重さは感じるという
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マッスルスーツを脱いでスーツケースを持つと背中を反らせて重さを逃がす姿勢になる
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背中の鉄板でマッスルスーツを支えている
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マッスルスーツのサポートで、4~50kgを持ち上げることができるようになるという
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一方「アクティブ歩行器 ハートステップ」は、英国で開発された歩行器「ハートウォーカー」にマッスルスーツに使われている人工筋肉を搭載したものだ。
「ハートウォーカー」は、体に装着する体幹装具と下肢装具、4輪の台車で構成される歩行器。3歳前後から装着可能で、歩行障害等があるために立つことができない方が、正しい姿勢を保持できるようサポートをしてくれる。この「ハートウォーカー」に人工筋肉を搭載し、能動的に動くことができるようにしたのが「アクティブ歩行器 ハートステップ」だ。
「ハートウォーカー」は、脳性まひなどで立位を取ることができない子どもの歩行を補助するが、頸椎損傷や脊髄損傷、筋ジストロフィーなどで筋力が弱い場合は、自分で足を動かすことができないため歩行ができない。そのような歩行困難な症例であっても、外からコントローラーで人工筋肉を操作し「ハートステップ」を動かすことで、歩行が可能となる。歩行経験がない場合は、「足を動かす」という感覚が分からないため能動的に足を動かすことで、その感覚を身につけることができるという。
ステージでは「ハートウォーカー」では歩行ができなかった女児が、「アクティブ歩行器 ハートステップ」を使い2日間の歩行訓練を行なったところ、3日目には「ハートウォーカー」で自分で歩行できるようになったという報告があった。
子ども用のハートステップは、ハートウォーカージャパンより発売されている。大人用に関しては、この春から長期臨床試験を開始している。
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アクティブ歩行器 ハートステップ
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背面から見たところ
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【動画】コントローラーで人工筋肉を動かし、歩行を補助してくれる
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● ウェアラブルパワーアシストスーツのデモンストレーション
神奈川工科大学は、ロボット・メカトロニクス学科 山本研究室が開発した「ウェアラブルパワーアシストスーツ」を展示した。
パワーアシストスーツは、動きやすく安全に使用できるように設計されている。マスターとなる使用者が、スレーブである機械を身につけて自在に操作できるようになっている。
使用者の筋肉に貼った新開発の筋肉硬さセンサで、必要となる関節トルクを検知。各筋肉が発揮している筋力を検出し、その値と身体力学計算モデルによって、各関節トルクの算出値を組み合わせて、機械のアシスト力を決定しているという。これにより安全性を確保しつつ、各関節が必要とするアシスト力をリアルタイムに発生することが可能となった。
肩と腕ユニットは、前後左右の動きに対応。二重関節機構で、人の動作に対してなめらかに追従して動く。アクチュエーターにはエアバックを利用し、エアバックの柔軟性と空気の圧縮性で柔らかさを維持しながら強力なアシスト力で関節の動きを助けている。小型エアポンプでエアバッグに圧縮空気を送り、肘・腰・膝関節をアシストする。
スーツの重量は30kgあるが、スーツ自体が自重を支えているため、使用者には負担が掛からない。使用者は、肩先から足裏まですっぽりスーツを着込む状態になる。ステージでデモを行なう前には、パワーアシストスーツを着用して会場内を歩き、デモのアピールをしていた。
要介護者と使用者のスキンシップを妨げないように、機械は使用者の背面に設置してある。ステージでは、60kgの男性を抱え上げてぐるりと一周した後、そのままスクワットをしてみせた。アシスト力は、安全性のために使用者が必要とする約半分に制御されている。今後は、もっと動きやすくなるようにモーターやエアバッグを小型化し、自由度を上げていくという。
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パワーアシストスーツを着用して、会場内を歩き周りデモンストレーションをしていた
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前面には機械がなく、使用者と要介護者のコミュニケーションを妨げないように配慮されている
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機械部分は全て背面に集めてある
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【動画】体重60kgの男性を抱き上げるデモンストレーション
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【動画】人を抱いたままスクワットもできてしまう
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サポータ式筋肉センサ。小型ロードセルの感圧面にアクリル製の土台を取り付けている
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【動画】アシストがある状態での屈伸動作
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アシストがない状態での屈伸
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後ろからみたところ。エアバッグがクッションになっているので、しゃがんでいるのが楽だという
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足裏までパワーアシストスーツに覆われている
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一人で着脱が可能
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ブースではハンガーに掛けて展示されていた
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沖電気工業株式会社のブースには、理学療法士向けのリハビリ支援トレーニング用「足型ロボット」が展示されていた。
リハビリ介助のレッスンで、要介護者の足の動かし方を、関節の角度やサポートの力のいれ具合を言葉だけで療法士実習生に伝えることは困難だ。そのためこのロボットは、足の動きをモニタで確認することができる。講師が実演した後に、実習生が同じように動かした時、モニタを見れば正しくリハビリサポートができているか、視覚的にチェックが可能だ。
また、足の機構モデルも展示されていた。このモデルは、筋肉に相当するバネの強弱だけでバランスを取り自立する。32mmの高さから落としても、反動で跳ねた後にちゃんと静止することができる。
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【動画】リハビリ支援のトレーニング用足型ロボット。足を動かす角度などの情報がモニタに表示される
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【動画】筋肉をバネで再現した足の機構モデル。バネの強弱だけでバランスを取り自立する
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【動画】腿にあたる筋肉を動かすと、下肢も連動して動く
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東静電子制御は、尿量・尿比重測定システムの展示をした。
入院患者の治療効果を測る目安として、尿量・尿比重の管理観察が必要である。このシステムは、病室単位で入院患者が自分自身で尿量や尿比重の測定を行なうことができる。データは自動的にスタッフステーションに転送され、コンピュータによって管理される。
患者の行なう操作は簡単で、タッチパネルまたはバーコードにより自分の名前を選択し、コップを取りだして採尿後にコップを装置へセットして扉を閉めるだけでよい。操作は全て音声ガイダンスで指示がでるため、初めてでも操作にとまどうことはないという。扉を閉めた後は、測定、サンプリング、コップ洗浄をシステムが自動で行ない、終了後に測定結果を表示する。患者自身が測定をすることで、看護士の業務負担が低減されるわけだ。
車椅子を展示しているブースもいくつかあった。関東自動車工業株式会社の「Patrafour(パトラフォー)」は、四輪駆動の電動車椅子だ。従来の車椅子は、前輪が自在キャスターだが、Patrafourは同社が開発したオムニホイール型のWESN(ウエスン)車輪を採用し、急な傾斜だけでなく、砂浜や雪道も移動が可能となった。
WESN車輪は、車輪の向きを変えずに全方向に動くことができるのが特長。WESNとは東西南北の頭文字から命名した造語で、直進時には車輪全体が縦回転し、その場で旋回する時には駒が横回転する。曲がる時には、車輪全体の回転と駒の横回転が複合して、最小回転半径で旋回が可能となる。
走行システムを開発する会社や研究機関に向けて、WESN車輪単独の販売もしている。
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東静電子制御の「尿量・尿比重測定システム」
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【動画】Patrafourの傾斜走行デモンストレーション。狭いところでも旋回が可能
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WESN車輪。地面に接している駒が横回転することで、全方向に自在に動くことができる
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【動画】WESN車輪。実際の動き
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有限会社エヌティーエルは、既存の車椅子に取り付ける補助具を展示していた。
「だんあっぷ」は、踏切内の線路や段差を安全に乗り越えるためのリフトフォーム型補助具。前輪の間に「だんあっぷ」を取り付けると、進行中に段差に差し掛かった時、リフトアームが段差の角に当たって車椅子を前方に持ち上げる働きをする。前輪が段差の上面に接すると、リフトアームは接地面から解放され通常の走行に戻る。自操の場合は50~60mm、介助者がいる場合は100~120mmの段差を乗り越えられるようになるという。
エヌティーエルでは、「だんあっぷ」と逆転防止ブレーキ「R・S・B」が搭載された車椅子「Fairy」を商品化している。
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有限会社エヌティーエルの車椅子
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中央のリフトアームが「だんあっぷ」。既存の車椅子に取り付け可能
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長いスロープを登坂する時の補助になる逆転防止ブレーキ「R・S・B」
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メンタルヘルスケアロボット「PARO」はいつも人気がある
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トヨタのi-REALが静展示されていた
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i-REALのサイド
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■URL
ロボカップジャパンオープン2008
http://robocup-numazu.com/
福祉・介護ロボティクス展
http://robocup-numazu.com/modules/exhibi/index.php?content_id=1
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