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大阪電気通信大学「ロボット相撲大会」レポート
~初心者にも配慮し裾野を広げる交流会


 3月15日、大阪電気通信大学寝屋川キャンパスの自由工房において、電通大杯「ロボット相撲大会」が開催された。主催は自由工房。後援は富士ソフト。

 大会を主催した大阪電気通信大学には、自由工房と呼ばれる組織がある。自由工房は、「ものづくり」に関心を持つ学生の課外活動を多面的に支援するために設けられた。学生達は、室長の高木明氏や校外から招聘している技術講師の指導の下で、ロボット製作を通じて、自律ロボットの原理を実践的に学んでいる。

 今年度は、オープンセミナーでロボット相撲やマイコンカーラリーを製作し、実戦演習として、コンテストにもチャレンジしてきたという。今回は自由工房のオープンセミナーの総会として電通大杯「ロボット相撲大会」を企画した。

 ロボット相撲は、富士ソフト株式会社が1990年に第1回全日本ロボット相撲大会を開催。第5回大会より文部科学省の後援と全国工業高等学校長協会の共催を得て、高校生大会も開催されるようになった。

 長い歴史があるロボット競技会だけに、競技人口も多い。だが、トップレベルの技術が高いために、初心者には敷居が高い大会になっている面も否めない。特に高校生部門は、校内に強いロボットが登場すると、そのロボットの技術を後輩が世襲していくため、強豪校がよりレベルアップしていく傾向がある。

 その一方で、ロボット相撲を始めたばかりの参加者は、大会に出場しても一勝をあげることが難しくなっている。高木氏のもとへ、ロボット相撲の指導する教諭から「1年間掛けて製作したロボットが、立ち会いの一瞬で土俵外に吹っ飛ばされてしまうと生徒の意欲がそがれてしまう」という相談があったという。

 富士ソフトも、そうした状況は以前から懸念しており、高木氏が、ロボット相撲の裾野を広げるために電通大杯「ロボット相撲大会」の企画を持ちかけた時、大会の後援を快諾したという。


第1回電通大杯「ロボット相撲大会」

 ロボット相撲は直径154cmの鉄板土俵で勝負する。相手ロボットを土俵から落せば1本取れる。試合時間は3分間3本勝負。時間内に2本先取した方が勝者となる。

 ロボット相撲に出場するロボットは、プログラムによってセンサで状況を感知して動く自立型と、操作員がラジコンプロポでロボットを操縦するラジコン型の2種類がある。部門は高校生の部と、誰でも参加できる全日本の部がある。

 本来は、自立型とラジコン型はそれぞれ別れてトーナメント戦を行なうが、今回は参加台数が少ないこともあって、混在トーナメントとなった。

 参加ロボットの規格は、本大会と同じく競技開始時のサイズが幅と奥行きが各20cm以内、重量は3kg以内。ラジコン型が自立型と対戦する場合は、仕切りのあと5秒カウントしてから操作員はロボットを操縦する。これは、自立型ロボットが、5秒経過してから動作するようにプログラミングされているからだ。

 大会には、一般の部、高校生の部それぞれに13台のエントリーがあった。関西圏だけでは和歌山県、島根県、大分県からもエントリーがあり、本戦さながらの高レベルな勝負もあった。

 というのも、大分県から参加している国東農工高等学校は、2007年に開催された第15回高校生ロボット相撲全国大会、第19回全日本ロボット相撲全国大会の2部門制覇を成し遂げているのだ。長い歴史を持つロボット相撲大会で、両大会で優勝したのは初の快挙だ。

 電通大杯の目的は、参加者同士の交流と対戦経験を積むことなので、なるべく同じ力量のロボット同士が対戦できるよう配慮し、全国大会経験者をAグループ、未経験者をBグループに分けてトーナメント戦を行なった。1回戦で敗退したロボットは、敗者復活戦に参加し、試合回数を増やした。

 Aグループのロボットは、さすがにレベルの高い対戦だった。ロボットが磁力で土俵に吸着しながら高速で移動し、相手を跳ねとばすようすは間近で見るとすごい迫力だ。なにしろ全国大会出場クラスのロボットになると、体重90kg以上ある男性が全力でロボットを押しても力負けするくらいのパワーがあるのだ。

 面白かった取り組みをいくつか動画で紹介しよう。


【動画】【高校生の部 A】黒胡麻団子X(大阪府立淀川工科高等学校) VS 黒津崎II(大分県立国東農工高等学校) 【動画】【高校生の部 A】黒津崎II(大分県立国東農工高等学校) VS Johnny(大阪府立淀川工科高等学校) 【動画】【一般の部 A】六次元K1(大阪電気通信大学自由工房協力者) VS 紀北VER4(和歌山県立紀北工業高等学校)

 黒津崎IV(大分県立国東農工高等学校) VS 大電通SDC(大阪電気通信大学)の試合みは、均衡した取り組みが続き、6回取り直しをした後に勝負がついた。KUMI号(NAKAOKA Familliy)VS 六次元D3(大阪電気通信大学)の取り組みを見ると、ロボットがセンサで白線と相手ロボットを検知して自律で相撲を取っているようすがよくわかる。


【動画】【一般の部 A】花火職人(島根県立松江工業高等学校) VS 黒津崎IV(大分県立国東農工高等学校) 【動画】【一般の部 A】虎穴(大分県立国東農工高等学校) VS 黒津崎IV(大分県立国東農工高等学校)

【動画】【一般の部 A】黒津崎?W(大分県立国東農工高等学校) VS 大電通SDC(大阪電気通信大学) 【動画】【一般の部B】KUMI号(NAKAOKA Familliy) VS 六次元D3(大阪電気通信大学)

 Bクラス出場者は、試合に慣れていないため、土俵に上がってもスイッチを入れ間違えたり、ロボットの羽を上に固定するのを忘れたりという基本的なミスもあった。だが、交流会という事もあり、応援している人が事前に注意を促すなどして、試合進行はスムーズに行なっていた。

 地区予選会などでは、こうしたミスでも1本取られてしまう。土俵にあがるというは、緊張するものなので、やはり試合経験は一度でも多い方がいい。

 各トーナメントで上位3台のロボットが決定すると、決勝は巴戦で実施した。巴戦の結果は以下の通りだ。


高校生の部 優勝決定戦 一般の部 優勝決定戦 大阪電気通信大学 寝屋川キャンパス

電通大杯 参加者一同 高木明氏(大阪電気通信大学 自由工房室長)

大分県立国東農工高等学校インタビュー

松永芳史教諭(大分県立国東農工高等学校 電子工業科)
 2007年に開催された第15回高校生ロボット相撲全国大会、第19回全日本ロボット相撲大会の自立型部門で連覇した大分県立国東農工高等学校の松永芳史教諭にインタビューした。

 ロボット製作には、設計、機械加工、プログラミングと幅広い技術が必要なため、一人で開発することは難しい。そこで同校では、1年生~3年生が4~5人のグループになりグループ内で得意分野を分担して1台のロボットを製作しているという。学年を縦割りにすることで、上級生が下級生にロボット製作のノウハウを伝授する目的もある。

 松永教諭は、電子工業科が専門のため、「機械加工は詳しくありません」という。生徒達は、マシニングセンタの扱い方を専門の先生に自発的に教わりに行き上達した。ギアボックスの加工なども生徒が中心になって作業を進めているという。「私より生徒の方が加工機械の使い方がうまいんですよ」と松永教諭は笑う。

 そのようにグループ内で協力し、グループ間でも情報交換をしてロボットを製作している。ロボットが完成すると、校内で練習試合をして、機構的に弱い部分やソフトの問題点をつぶし強いロボットに育てていく。すると、どうしても強いロボットがパターン化して最終的に似たようなロボットになってしまう。これは、国東だけではなくどこの学校でも抱えている問題だ。

 相撲のロボットには、軽量高速型やパワー重視の低速型、アーム型などいくつかの代表的タイプがあり、ソフトも同様にパターンがある。どのタイプのロボットに対してもオールマイティに強いロボットというのは、まずない。タイプによる相性というか、じゃんけんのように勝ちづらい相手がいる。

 それぞれ自分に優位な立会いパターンがあるため、対戦相手のタイプに応じて、ロボットを置く位置を決めたり、立ち会いパターンの選択をするのも重要な戦略だ。土俵の上に立った時、瞬時に相手のタイプを判断し、攻略方法を決定しなくてはならない。

 自立型ロボットは、あらかじめ組み込んだプログラムによって試合をしているのだが、全国大会でトーナメントを勝ち抜くためには、どんなタイプにも対応できるような判断が操作員に求められる。そうした能力はやはり実践経験を積むしかない。

 学校内だけ練習をしていると、同じパターンの取り組みばかりになってしまい、経験値を積むことができない。

 松永教諭は、「自由工房の生徒達は、一人一人が違うタイプのロボットを製作している。今回、いろいろなタイプのロボットと試合をした経験は、来年のロボット製作に活きてくる」と電通大杯に参加した意義を語った。

 参加した生徒達にも話を聞いた。黒津崎は車高を低くして、磁石が土俵に強く吸着するように設計されている。ロボット相撲はぶつかり合った時にブレードを相手の下に押し込んですくい上げるのが勝ちパターンだからだ。来年は、もっとスピードを上げて相手の死角に回り込むロボットに進化させたいという。

 松永教諭は「来年度は生徒達が基板設計もできるよう、指導していきたい」と語っていた。


ロボット相撲の交流の場を設け、裾野を広げたい

金井健氏(全日本ロボット相撲大会事務局事務局長)
 富士ソフト株式会社の金井健氏(全日本ロボット相撲大会事務局事務局長)は、最初に「今回、大阪で電通大杯のようなロボット相撲大会が企画されたことを歓迎している」と述べた。

 全日本ロボット相撲大会は、「学生ならびに社会人が、ロボット作りを通して、技術の基礎・基本を習得し、研究意欲の向上と創造性発揮の場を提供し、「ものづくり」の楽しさを知ること」を目的としている。

 前述のとおり、ロボット相撲は参加者レベルの格差が広がり、大会運営側としても、底辺を育てることが課題になっているという。また、高校時代によい成績を残した参加者が、高校卒業と同時にロボット相撲から離れてしまうことも多く、兼ねてから残念に思っていたという。

 学生は、学校内に機械工作設備や土俵があり、対戦相手もいるが、社会人になるとロボットを製作する環境だけでなく、練習場や対戦相手の確保が困難になる。そうした点が、ロボット相撲を継続するうえでネックになっているのだろう。

 今回の電通大杯のように、地区や学校で交流大会が開催されれば、社会人になってからもロボット相撲を継続することができるだろう。富士ソフトとしても、地区大会を開催したいという相談があれば、積極的にサポートしていきたいと金井氏はいう。

 また、全日本ロボット相撲大会事務局は、富士ソフト秋葉原ビル内にある。ここには、ロボット相撲の土俵が常設展示されているため、練習会や交流会を開催したいという希望者がいれば相談に応じるという。

 ロボット相撲はかなり高レベルな僅差で勝負が決まるため、これまで参加者達はあまり情報公開や交流をせずに開発をすすめる傾向があった。だが、第19回ロボット相撲大会に参加したロボットのデータを収めた「全日本ロボット相撲オフィシャルブック」(毎日コミュニケーションズ刊)が発行されるなど状況が変わりつつある。

 金井氏は、「ロボット相撲は戦う毎に、自機の弱点が露見し、創意工夫を重ねることで飛躍的に強くなる。積極的に技術交流をし、大会全体を盛り上げていく仕組みを構築したい」と今後のロボット相撲の発展について語った。


URL
  大阪電気通信大学
  http://www.osakac.ac.jp/oecu/index.html
  大阪電気通信大学 自由工房
  http://www.osakac.ac.jp/jiyukobo/
  全日本ロボット相撲大会
  http://www.fsi.co.jp/sumo/index.html

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