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日本未来学会ほか、「ロボット化」をテーマにしたパネルディスカッションを開催
~筑波大学・山海教授や作家・瀬名秀明氏らが対談


 7月24日、日本科学未来館にてシンポジウム「未来学ルネサンス」が開催された。主催は日本未来学会と財団法人未来工学研究所。協賛は財団法人新技術振興渡辺記念会。日本未来学会の総会のほか、「ロボット化社会」をテーマにしたパネルディスカッションも行なわれた。基調講演とパネルディスカッションのレポートをお届けする。


基調講演「人間が想像した未来・科学が創造した未来」

東京大学名誉教授 月尾嘉男氏
 東京大学名誉教授の月尾嘉男氏は「人間が想像した未来・科学が創造した未来」と題して基調講演を行った。

 月尾氏はまず日本の科学技術の現状についての話題から講演を始めた。2001年の時点で行なわれた調査によれば、日本は科学技術基礎概念理解度では平均を下回っている。しかしながら日本は研究者数も論文数も多いし、論文の被引用度も比較的高い。日本の科学技術は比較的高いレベルにあるといえる。

 だが将来を考えると不安な点もある。公的な教育投資が国際的に見ると少なく、大学教育評価も低い。そして若者の科学への関心は50カ国中23番目で、先進諸国のなかでは非常に低い。数学の好きな生徒の比率、理科が好きな生徒の比率、いずれも低い。特に若年世代の関心が低いのが特徴で、日本の今後を考えると不安材料である。月尾氏は、科学や研究、技術開発を修めた人間があまり社会的に評価されないことが問題だと述べた。

 科学(science)はもともとラテン語のscientia(好知)という言葉を語源とする。技術(technology)は、人の手を加えるというのがもともとの意味だ。いずれにしても好奇心がすべての源泉だという。

 月尾氏は宇宙科学に関する分野でもっとも好奇心にあふれている象徴的存在が「SETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence)」、すなわち地球外知的生命体探索だと考えているという。SETIは1959年のモリソンとコッコーニによる「星間通信の探索」という論文に端を発する。「SETI@home」が始まったのは1999年だ。500万人もの人々がこのプロジェクトに参加した。それだけの人が、いわば実利以外のことに好奇心を持っていることを示す。天文学ではなく顕微鏡の世界でもこれは同じである。

 月尾氏は、科学の真髄は好奇心であるとヘンリー・キャベンディッシュ(1731-1810)の生涯を引き合いに出して強調した。キャベンディッシュは引きこもって他人どころか家のなかの女中にすら会わないようにして、ひたすら研究ばかりをしていた人物である。彼は17編の論文を発表したが、ほとんどの成果はノートに記述しただけで論文としては書かなかった。のちにノートは寄贈され、マクスウェルがそれを読んだところ、水素や静電気の逆二乗則、オームの法則など多くの科学的な発見がすでに彼によって為されていたことがわかったという。

 またこれから本格的にやらなければならないのは「分類」だという。分類というと古臭く感じるが、生物学などは分類を基盤として発達してきた学問である。たとえばダーウィンが成果をあげたのも、それ以前の分類による蓄積があったからである。いま膨大な情報が発信し続けられているが、蓄積として利用されるように、これを分類し整理することが必要になるだろうという。


 月尾氏は「想像は創造」だと述べ、その能力をもっとも発揮したのが大陸移動説を唱えたアルフレッド・ウェゲナーだという。彼が大陸移動説を述べた当初は、荒唐無稽だと相手にされなかった。だがウェゲナーは、大陸の両端の地質や、化石など、大陸をまたがった繋がりを知っていたのである。いまでこそ大陸がかつてひとつであったことは常識だが、最初に思いつくのは並大抵の想像力ではない。

 技術からもいろいろな想像=創造が行なわれている。19世紀前半には非常に多くの種類の自転車が作られた。その結果、多くの人がいろいろな想像力をめぐらせた。たとえば自転車を使って、なんとか空を飛べないかと考えた人たちがいたという。蒸気機関が登場したときも同様である。鉄道のあとすぐに人々は蒸気機関を使って空を飛ぶ夢を思い描いた。当時の技術では無理だったわけだが、今日の飛行機があるのは、好奇心と想像力を集めた結果であるという。

 もうひとつ重要なのは需要と供給である。エジソンの最初の特許は、議会で用いる電気式の投票記録機だったという。だがそれには需要がなかった。少数党が牛歩戦術のような手段を使えなくなるからである。これ以降、エジソンは需要のあるものしか発明しようとしなかったそうだが、フォノグラムの普及にはかなり苦労している。技術が社会にどのように受け入れられるかは想像力が必要なのである。

 エジソンはキネトグラフ(1889)、キネトスコープ(1891)という、絵を動くように見せる機械を発明した。だがこれは一人しか見られない。そこでもたもたしている間に、1895年、リュミエール兄弟がシネマトグラフという投影式の機械を発明した。これは大勢が見ることができるシステムであり、現代の映画誕生は、ここに端を発するとされている。

 技術については不屈の精神も重要だという。大西洋海底電線は1857年から敷設し始めたが電線が切れるというトラブルにみまわれた。だが9年かかって引くことに成功した。


 また、科学技術の普及においてはマイナスの評価、便利の代償に関するアセスメントも非常に重要であるという。たとえば初期の鉄道は多くの脱線事故があった。

 1928年、トーマス・ミッジリーがフロンを発明した。当時はこれは多くの賞を受賞した。ところが1974年、ローランドとモリーナという二人の研究者が、成層圏オゾン層破壊の仮説を提案。その後の流れは皆知っているとおりである。科学技術の評価は時として長い年月を必要とする。

 また、日本での温水洗浄便座が普及することによって、朝、人々がそれをいっせいに使うようになった。これまたかなりの電力が必要とされる。ブログも同様で、一人一人の労力はわずかでも、全部合わせるとかなりの時間損失になる。温水洗浄便座やブログには、もちろんプラスの面もある。だが迷惑メールにいたっては、その除去する時間の損失はもはや世界中の国民総生産の合計の1.4%に達するという。

 月尾氏は、偉大な発見を起こすことや無駄をなくすために、われわれは想像力をもっと使わなければならないと述べ、新たな技術革新、経済活動、社会秩序をつくるフロンティアを目指せと語った。フロンティアは情報通信、ゲノム、ナノ、脳科学、環境問題など多くの分野にあるという。「未来を開拓するために必要なものは想像力である」とまとめた。


日本における世代別科学技術への関心 キネトグラフとキネトスコープ 迷惑メールの代償

パネルディスカッション「ロボット化社会 ~ロボットの人間化 vs. 人間のロボット化」

 パネルディスカッションのタイトルは「ロボット化社会 ~ロボットの人間化 vs. 人間のロボット化」。コーディネーターはJR東日本フロンティアサービス研究所所長で日本未来学会常務理事の長谷川文雄氏。

 パネリストは、作家で東北大学機械系特任教授も務める瀬名秀明氏、ロボットスーツ「HAL」で知られる筑波大学大学院教授の山海嘉之氏、株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン取締役の渡部直也氏、毎日新聞科学環境部記者で「理系白書」キャップの元村有希子氏、財団法人未来工学研究所常務理事研究所長で日本未来学会事務局長の長谷川洋作氏の5名。


JR東日本フロンティアサービス研究所所長、日本未来学会常務理事 長谷川文雄氏
 長谷川氏は、25年ほど前の自動車製造ラインで、現場の作業員が産業用ロボットに当時のアイドルの写真を貼り、名前をつけていたのを目撃したことから話を始めた。それから四半世紀が経った。生産現場から入っていたロボットは、わずかではあるが、医療や家庭など、それ以外の社会領域にも入り込みつつある。

 ロボットの定義は未だ定まっていないが、単純なオートマトンではなく、センサーフィードバックをいかしつつ、複雑な作業もできるようになってきた。いっぽう、神経工学分野の発展にも伴い、新たなマン・マシン・システム、俗に言うサイボーグのようなシステムが登場し始めている。

 長谷川氏は、「今日、ロボットの人間化と人間のロボット化が同時進行しており、やがて人間とロボットが共存する時代になるのではないか」という。ではそこにはどんな課題が待ち受けているのか、ロボットと共存する上で重要なことは何か、というのがこのパネルのテーマだと述べた。

 まず皮切りとして長谷川氏は、人とロボットの共存社会に関して、よく引き合いに出される例としてアシモフのロボット三原則を出した。


浴衣姿で登場した作家の瀬名秀明氏
 それを受けた作家の瀬名秀明氏は、SFアニメーション作品「攻殻機動隊S.A.C.」脚本家の櫻井圭記氏が今月刊行した『フィロソフィア・ロボティカ』(毎日コミュニケーションズ)について、まず触れた。この本は櫻井氏の修士論文をベースにしたもので、サブタイトルは「人間に近づくロボットに近づく人間」。このパネルディスカッションのタイトルとも共通している点がある。

 瀬名氏は当日午前中に行なわれた未来学会関係者の講演を聞いていて、「壮年・老年のほうがむしろ未来を豊かに語れるのかな、それぞれの世代による未来の考え方があるんだろうな」と思ったという。一言で「未来」といっても、タイムスケールによって脳の使い方はたぶん違う。そのような脳の使い方のクセと未来学が、将来は融合するのではないかと思ったと述べた。

 このような前置きのあと、話を振られた「ロボット三原則」については、瀬名氏は、アシモフはロボット三原則を自分自身で考えたのではなく、編集者のキャンベルに指摘されたものだと改めて指摘。後にアシモフは、ロボット自身が自分のルールを作っていく小説(「ロボットと帝国」)を書いていることについて触れた。「第0条、ロボットは人類に危害を加えてはならない」というルールをロボット自らが獲得するというストーリーだ。

 そして、現在の人間とロボットの関係の研究は、ほとんどが1:1の関係を主体として行なわれているが、これからは複数のロボットと複数の人間が共存する社会の登場と、それがどうなるのか考えていかなければならないのではないかと述べた。


筑波大学大学院教授 山海嘉之氏
 筑波大学山海教授は、自身が提唱する「サイバニクス」のためには、ロボットや脳科学だけではなく、生理学、心理学、方角、倫理学、感性学など幅広い学問の知識が必要になると語った。ロボットと人間が非常に近くなった技術におては、ただの技術だけを取り上げていては未来開拓はできないという。人間の外側の世界と内側の世界をつなぐ技術、人間の意志と人工物をシームレスにつなぐ技術は、倫理的な問題や法体系の整備も重要になるからだ。


 株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン取締役の渡部直也氏は、「以心伝心のインタフェイスを目指して」と題してATRとの共同研究について話題を提供した。非侵襲の脳活動計測を使ってロボットを動かすという研究だ。このリアルタイムfMRIデコーディングの研究に関しては2006年5月に報道発表も行なわれており、PC Watchでもレポートしているので、当時の記事をごらんいただきたい。数年以内には、ASIMOを「右へ行け」と考えただけで右へ曲がらせるといったことを目指したいという。


毎日新聞科学環境部記者 「理系白書」キャップ 元村有希子氏
 毎日新聞科学環境部記者の元村有希子氏は、愛・地球博(愛知万博)での実証実験について「一言でいうと違和感があった」と述べた。人と共存するというわりには、柵があってロボットのまわりに近づけないようになっていたり、受付ロボットが美人の女性の姿をしていており「なぜ女性の姿なのか」と思ったからだ。そして「鉄腕アトム」のころに人々が思い描いていた夢はまだまだ遠いということと、「ロボットを作っている人が自分自身の興味関心だけでやってるのでは」と疑問に感じたという。「よい悪いではなく、現状はこうなんだなという印象をもった」そうだ。

 元村氏らは毎日新聞紙「理系白書」のなかのシリーズ「科学技術は誰のもの」のなかで、ロボットの現状を取り上げている。産総研の比留川博久氏のインタビューなどが掲載されている記事だ。(6/20付け、「曲がり角、次世代ロボット」)

 その取材のなかで、人と共存する次世代型ロボットはいま曲がり角にあると感じたという。「アトム」の誕生にはまったく間に合わず、技術は未熟で、成果は滞り、研究費は出ない。なのに世間の期待やプレッシャーは過剰に大きい。そこに技術がとうてい追いついていない……。こんな現状にぶちあたっているのではないか、というのが元村氏の見方だ。

 また、「ひとつの象徴」として内閣府による2025年の日本社会の提案「イノベーション25」を「さびしくなるような2025年」として取り上げた。その提案に対して「いま人間がやっていることをロボットにやらせて夢いっぱいみたいな世界が描かれている。一言でいうとちょっとお節介で、私はいらないわと思った」という。

 元村氏は「こういう夢しか描けないことがちょっと心配。つまり20年後の夢も描けない人たちにロボット研究をお任せしていいのか。特にヒューマノイドの研究については危惧を感じている」と述べた。特に「『ロボットにおしめを代えてもらいたいか』といったことを研究者自身がまじめに考えているかどうかが問題だとし、「今日の立場はちょっと否定的」だと自らを位置づけた。


財団法人未来工学研究所常務理事研究所長、日本未来学会事務局長 長谷川洋作氏
 財団法人未来工学研究所常務理事研究所長で日本未来学会事務局長の長谷川洋作氏は以上のような元村氏の話を受け「いまの現況は確かにちょっと心配だ」とこたえた。ASIMOのようなロボットが出てきて確かにロボットの「ブーム」は起きた。そして研究者たちは、それぞれの成果を強調している。だが「受け狙い」ばかりでは、しばらくしたら飽きてしまう。いまどうにか、プラットフォームのようなものも出始め、徐々に群雄割拠になりつつあるのではないかと現状に対する感想を述べた。

 また、学際研究は実際にはなかなか難しいという。いろいろな人が集まっても、各分野のことは話せるが、全体の分野のことを考えて研究を進めることは難しいからだ。

 さらに長谷川氏は上述の月尾氏の基調講演を受けた形で、「人間が想像したロボット」と、「技術が創造したロボット」を挙げた。想像の世界のロボットも、人間との関係の問題提起などそれなりの意義を持っているという。いっぽう技術が創造したロボットは、動作や外見を人などに「似せる」方向と、仕事を「やらせる」方向の二つがあるという。ロボットといっても一様ではなく多様な様相を示しているわけだ。世の中に受け入れられるためにはまだまだ技術開発が必要だ。いっぽう人間のロボット化技術は、機能の補完、増強、形態補強、再形成などがある。シンポジウムの主催者のひとつであり自身が所属する未来工学研究所のロボットに関する未来予測に対しては、長谷川氏自身は懐疑的だと述べた。

 各パネリストがこのようにプレゼンテーションしたあと、コーディネーターの長谷川文雄氏は、ロボットが身近になる時代、群になって登場する時代に関する懸念という形で各パネリストに話を振った。


瀬名秀明氏
 瀬名氏は、以前はよく「これからはヒューマニティコンシャスの時代になるだろう」と述べていたという。「ロボットらしさ、人間らしさ」を追求し、ロボットなり人間なりのアイデンティティを確立しなければならないという考えているからだ。

 ロボットが身近に入ってくる時代においては、人間もロボットに対してあるていど気遣いが必要であるという。だが、ロボット介護などで対象として想定されている老人は、自分自身の身体が自由に動かない。そうなるとロボットが自由に動かないと、さらにいらつくだろう。つまりロボットは常にもっと働いてもらわないといけなくなる。

 では誰がロボットに気遣いすればいいのか。それは若い人が担うことになる。つまりロボットを経由して、若者の気遣いを老人が受けるという社会構造になるのではないか、という。「ロボットは人間に、人間はロボットに気遣いをするんだけど、それが世代によって変わってくるのではないか」と述べた。

 また、ロボット技術が進んでくると「人間が、人間らしい行為をしたという満足感を得られるようにデザインする」ことなどもロボット研究の枠組みに入ってくるかもしれないが、それはものすごいストレスで人間には耐えられないかもしれず、もっとロボットに依存するようになるかもしれないと述べた。

 また、ロボットの安全性については言うまでもないが、いくら外からルールを決めてもロボットも人間も動く存在である限り、我々人間の側にもロボットと接する上のルールがないとだめで、そのためには人間への教育が必要だと語った。そういう意味で、元村氏が述べた「違和感」は重要で、枠がなければ危険だということを念頭に置いておく必要があるのではないかという。

 山海教授は、ロボットはインタラクティブであり、そこがほかの技術と違って、デリケートな問題を考えざるを得ない、と述べた。今日の問題は、ほとんど全て、9割くらいの研究者が自分たちの手法をなんとか使いたいがために目的を探していることにあるという。「本当はもっと目的重視で手段を選ばない研究者であってほしい」という。そのためには、初期の研究段階からユーザーを巻き込みながら、何が必要かと考えながらやらなければならないし、複眼的視野を持つ研究体制が必要だという。

 社会状況や文化背景を世界視野で見たリスクアセスメントも重要になる。ロボットが普及し始めると必ず出てくるであろう悪用の問題に対しては日本はかなりデリケートである。悪用に関しては技術的なプロテクトや運用制限、法的枠組みが必要だろうし、新しい哲学もまた重要だという。社会の受け入れ態勢ができていく過程では、メディアの役割も非常に大きいと述べた。


山海教授のアシモフ小説コレクション
 山海氏は「わたしの時代はケータイとレーザー光線はスーパーヒーローしか持っていないものだった。ところが現実はSF世界を超えていく。現実には人間が技術に適応していく仕掛けがあって、技術は意外とスッと受け入れられていく。人工内耳もしばらく前には大変だったがいまは受け入れられつつある。ロボットの人間化と人間のロボット化は対立軸ではなく、両者が得意な分野を分担して補っていくことが重要だ」と述べた。

 ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンの渡部直也氏は「私はASIMOのチームに直接ではなく、少し距離をおいていて、なおかつ近くから見ている立場にいる。そういう立場でいうと、元村さんが仰ったことはそのとおりです。ただ、ホームユースにおいては首から上がキーを握っているのは自覚している」と述べた。

 ロボットの実力は確かにまだまだで、人と関わっていく時代はそう簡単にはこない。だが「いずれ来る」と考えているという。来たときに何が起こるか。製造側の心配としては、安全面もあるが「情報端末」としての機能がロボットにはある。パソコンのセキュリティや犯罪の心配と同じ領域の課題が出てくることが当然予想される。

 また、ロボットが完全にプログラムされた領域でしか動けないのでは人との共存は難しい。家庭で使えるものを目指すのであれば、ある程度自律的に動かないといけないが、そうなると逆に製造側の責任がどこまでなのか線引きが難しくなる。たとえば、どこまで学習させた状態でお客に引き渡すのか。また家庭から外に出るとまたさらに別の問題で大変なことになる。こういったことも、本当に世のなかに出るときは重要になるという。

 なお、実用化については、ASIMOの既に21年にわたる開発経緯を見ていると「生半可ではない」とコメントした。


毎日新聞・元村有希子氏
 これらの話題を受け、毎日新聞の元村有希子氏は「まだ身近になる時期が遠いということなので安心になってきた」と冗談交じりに応え、ロボットの使われ方の問題、技術の倫理的な問題について続けた。技術そのものに善悪はなく、使う側がの問題だという話もあるが、たとえばエンハンスメント技術を使って暴力的事件があった場合、「ロボットがやったんだ、俺がやったんじゃない」となったら誰が責任をとるのか。BMI技術がはるかに進めば、「念じる」ことでロボットに誰かを殺すことも可能かもしれない。そうなった場合、どのように立証して立件するのか。

 また、ロボットの軍事利用の問題については、日本においても考えないといけないと述べた。アメリカではロボット研究の多くに軍事予算がついている。研究者は技術的に純粋な気持ちでやっているかもしれないが、その技術は実際には軍事兵器に転用される可能性が少なくない。それをどう防ぐか。一番簡単のは技術開発そのものをやめることだが、それは不可能だし、やめることには元村氏自身も反対だという。ただ、具体的にどうすればいいかは難しい問題で、答えがない。「技術の悪用を防ぐためには、法律や国際政治など人文社会学的アプローチが欠かせないが、今からはじめてもギリギリかなと思っている」と述べた。


 未来工学研究所所長の長谷川洋作氏は「私が期待するロボット技術の今後」として、まずは「賢いロボット」から「賢くなるロボット」という方向に進んでほしいと語った。学習する方法そのものを学習するメタ学習機能などを持つことによって、個性を持つロボットが登場し、それによって「飽き」から脱却するのではという。

 また機械的な側面では、頑強なロボットから、しなやかなロボット、外骨格型のロボットから、内骨格を持ったロボットへと発展してほしいと希望を述べた。さらにセンサー、アクチュエーター、パワーシステムなどの小型化、面的集合化、バイオの活用が求められる。またモジュール化やプラットフォーム化が進んだほうがいいのではないかと述べた。

 ロボット化社会の課題としては、天才ロボットや超人間、ロボット化人間の出現をどうとらえるのかという点をあげた。共存に関しては、たとえば宇宙へ行くのはロボットでもいいのではないかと語った。


総括

 この後、会場からの質問を経て、ロボット社会の今後について各自がまとめた。各自のコメントは下記のとおりである。

 長谷川洋作氏「これから技術が進むなかでいろんな問題が生じるだろうが、重要なことは、いかに共存するかだ。人間とモノの間にロボットが入ってきて関係が複雑になる。だんだんルール化をしていかなければならない。買い物ロボットができる時代であれば、万引きロボットもできるだろうし、それを妨害するロボットや人もまた出てくるかもしれない。関係は複雑になり、トラブルも出てくる。ルール化も難しいがそれをやっていかなければならないだろう。また、ロボットをいかに殺すかということも重要になるのではないか。一番重要なことは、本当の意味でシンボルを理解し、考え、学習できるロボットの登場だ。そういうものが出てくれば共存できるだろう」

 元村有希子氏「人間とはなんだろう、生きているってなんだろう、人間と機械の境界はなんだろう。このような哲学的な命題をもう一度背負い込む時代がやってくる。これまで人文科学系はそこに入ろうとしていなかった。ここはもう一度文系がしっかりして参画するべき。理系と文系が未来を作るいい機会だ。先ほどは好奇心駆動型研究を批判したが、何か役に立つものを生むものでもあると思っている。研究者たちは『いまのロボット研究は基礎研究なんだ』と発言すべき。ロボットと応用が結びついていることが研究の隘路となっているのではないか。いろんな人が正直に情報開示することで文理融合がうまく進めばいい」

 渡部直也氏「研究者は、ロボット発表の前はずっと寝ずに頑張っている。体育会系の頑張りも非常に重要。だが確かに15分のデモをやっても子供の目はごまかせない。デモを見て将来の夢を膨らませているのは大人だけ。本当に子供たちの目を輝かせる仕事をしよう。パートナーやホームユースとして入ってくるロボットの大前提はコミュニケーション能力だが、いまのところ技術レベルは低い。目もほとんど見えないし、耳もほとんど聞こえない。広告代理店の演出がすばらしいだけ。それをクリアしないといけない。世の中に出るためには読み書きと一人歩きができるようにしなければならない。コミュニケーション能力は今後の技術の主戦場になる。また、ASIMOもかなり電力を食う。環境負荷も大きい。バッテリ技術などリアルな技術課題のハードルも高い。そのあたりを何とかしようとしている」


 山海嘉之氏「私はアトム世代だが、アトムのようなものを作りたいとは思わない。あれはドラマ、人間模様。あれを本当に実現すると大問題。ロボットの良い点は一瞬でコピーできるところ。もし、アトムのようなロボットができてしまったら、一瞬にして、自分のまわりにいるどんな人よりも高度な知能を持ち、倫理観に富んだ存在が周囲にあふれることになる。ロボット研究でやることで大事なのは、そういう種族を作り出すことではない。自分たちの生活をどういうふうに豊かにしていけばいいか考えなければならない。皆さんにもおそらくアシスタントがいるだろう。優秀なアシスタントは依頼者の要求水準を少し超えている。アシスタントロボットが欲しいと言っても、そういう存在でないと満足しないというなら、それは人間そのものだ。ロボット開発において、夢や情熱は大事だと思っている。だが、それに付随して重要なのは、人を思いやる心だ。そのことがロボットと人間が共存していく時代には重要なのかなと思う。最近ようやくSFに対して恩返しできるようになってきた。SFの面白いところはフィロソフィ。いまは牽引されていくところの情報発信が重要。人材育成につなげていいってほしい」

 瀬名秀明氏「ロボットは、ものづくりと物語がスパイラルを組んであがってきた稀有な分野。そういう情報発信ができるといい。先日、故・加藤一郎氏の伝記の絵本を執筆するために岐阜にある早稲田大学の『ワボットハウス』を取材した。施設は素晴らしかったが、都市型発想のワボットハウスは最初地元とうまく交流できなかった。そこに民俗学の研究者である小笠原伸氏が地元の人々にいろいろな説明をした。それでようやく地元と連携できるようになったらしい。日本のほとんどは地方なのに、ロボットの多くは都市型の発想。ロボットが入っていくのに民俗学者が必要だったという話は、非常に示唆的だと思う。


 もうひとつ、私は今日は浴衣を着ているが、浴衣だと歩幅もせまくなるし、背筋も伸びる。立ち居振る舞いが変わる。あるファッション関連の学芸員の方に身体性以前に、もっと中身をやったほうがいいんじゃないかと言われた。浴衣を着られる、着慣れたロボットは面白いかもしれない。もしかしたら浴衣が似合うロボットができたときに、いい社会が営めるのではないかと考えている。私も参加している社会学知能発生学研究会で、今度そんなこともやってみたいなと思っている」


新日本未来学会会長 公文俊平氏
 最後に、当日の総会で新日本未来学会会長となった公文俊平氏が、1960年代に小松左京氏がバラ色未来論を批判した話や、バブル時代の前後など、時代のうねりを振り返った。日本はいま3度目の上昇局面に入ったという。これからの時代のために政策体系を考えたい、たとえ世の中にそういう期待がなくても考えなければならないと述べた。


URL
  新日本未来学会
  http://www.iftech.or.jp/miraisite/
  未来工学研究所
  http://www.iftech.or.jp/
  未来学ルネサンス
  http://www.iftech.or.jp/mirai-sympo.htm


( 森山和道 )
2007/07/25 19:59

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