6月12日、株式会社ゼットエムピー(ZMP)は、自動車・家電メーカーのエンジニア、大学向けのロボット教材「e-nuvo BASIC」「e-nuvo WHELL」発売の記者発表とデモンストレーションを行なった。
価格は「e-nuvo BASIC ver.1.0 基本パッケージ」が54,600円。モーター1軸の「e-nuvo WHELL ver.1.0 基本パッケージ【A】」が134,400円。モーター2軸で、4輪走行実験も可能な「e-nuvo WHELL ver.1.0 基本パッケージ【B】」が172,200円。いずれも1~4台購入時の価格で、5台以上購入時には割引が適用される。
自動車業界、電機業界、重工業界を目指すエンジニアたちが、組込みプログラミング、ハードウェア記述言語、シミュレーション技術、計測技術、モータ制御といった基礎的な技術と、モデル化、シミュレーション、制御器設計といったモデルベースドデザイン(MBD)の考え方、そしてSimlinkを活用したソフトウェア仕様などの標準化、自動コード生成、チューニング工数の削減といった開発の効率化(MBD)の考え方を学ぶことができるという。
モーターやLEDなどの電子部品の制御の基礎を学ぶ基礎教材「e-nuvo BASIC」はCPUにルネサステクノロジーのH8/Tinyマイコンを用い、実装技術力の向上をねらいとした教材だ。
ブレッドボード(実験用基盤)やHブリッジ回路を使った各種実験、ポテンショメータやエンコーダなどのセンサを使ったモーター制御の基礎のほか、ルネサステクノロジーの総合開発環境「HEW」を使った開発や、オプションのジャイロセンサや加速度センサをつけた実験などを実習で学ぶことができる。
カリキュラムは現在準備中で、芝浦工業大学工学部電気工学科教授の水川真氏らと共同開発しているという。
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e-nuvo BASIC
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e-nuvo BASICで行なえる実習
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開発コンセプト
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電子回路、組込みプログラミング、HDLの力を身につけるための教材
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「e-nuvo WHEEL」は車輪型ロボットを用いた実験教材で、組込みプログラミングやモデルベースドデザイン(MBD:Model Based Design)の考え方を学ぶことができるというもの。組み換えにより、ライントレース、現代制御理論を活用した倒立振子制御実験、ジャイロセンサを使って姿勢安定化を行なう倒立2輪実験と、3種類の実験を行なえる。
倒立振子では棒の長さを変えることができ、倒立2輪においてもタイヤを交換したり電池の配置などを変えることで重心を変えた実験など、条件と制御しやすさの関係を学ぶことができるようになっている。なおCPU基板やジャイロセンサ、加速度センサなどのボードは「e-nuvo BASIC」と共通。モーターはどちらも模型用DCモーター(マブチモーター)が使われている。
特徴は、モデルベースドデザインの考え方を学ぶために必須である機構の高精度さ、そしてトルク指示をするための高精度な電流フィードバック回路を搭載したシステムとなっている点。同社技術開発室室長の坂井亮介氏によれば、理論どおりの実装が可能であり、また検証に必要なログ収集機能が充実していることなどから、モデルベースドデザインの基本を学習できる教材となっているという。
制御理論の有効性を実際のロボットで検証できる教材は限られているため、ここが他社の組込み教材との違いであり、高精度な学習キットを使って「不安定なロボットを安定化させるために適している現代制御理論を学ぶことができる」と述べた。
なお実際のシミュレーションやモデル化はMATLAB/Simlinkを使って行なう。会見では、実機によるデモのほか、MATLAB/Simlinkを使ったシミュレーションの様子なども示された。制御対象である倒立振子ロボットが、やや斜めに寝ている状態から復元しつつ前に動くといった動きなどがシミュレーションされた。錘をつけた場合の動きなどもシミュレーション可能だ。
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【動画】倒立2輪状態で動く「e-nuvo WHEEL」
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【動画】倒立2輪状態での斜面走行も可能
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【動画】倒立2輪でライントレース走行する「e-nuvo WHEEL」
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【動画】倒立振子実験のデモ。アルミの振り子を直立させて動く
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【動画】ちなみに人間がやろうとすると、ほとんど無理
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ライントレース用センサー
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組み替えにより3種の実験を行なえる
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e-nuvo WHEELを使った学習ステップ
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e-nuvo WHEELのシステム構成
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制御システム
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制御実験の例
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ロボットのモデルを作成し、MATLAB/Simlinkを使ってシミュレーションする
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Simlinkで書かれた倒立振子ロボットのモデル
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株式会社ゼットエムピー代表取締役社長の谷口恒氏は「e-nuvo」シリーズ開発の経緯を述べた。
同社は「ロボットを活用したエンジニア育成カリキュラム」を掲げ、学習用ロボット教材として「e-nuvo」を展開してきた。なかでも二足歩行を行なう「e-nuvo Walk」の価格は70万円弱だが、これまでに工業高校や高専、企業などを対象におよそ350台の販売実績があるという。
それに対し、エンジニアにとって二足歩行は興味を惹き学習効果が高いという評価があるいっぽう、非常に複雑であり、制御の初学者にはハードルが高いという反応があったという。また自動車業界、家電業界からは「組込み技術者用の教材が欲しい」という声があった。そこで同社は2005年から車輪型教材の開発を進めてきたという。
昨年7月にはe-nuvoシリーズも強化した(本誌記事参照)。プロトタイプを含むマーケティングの結果、安価なマブチモーターで倒立振子実験ができることに対する驚きと、MATLAB/Simlinkによる制御の基礎が学べるという好評価がユーザーから得られた。
自動車をはじめとした産業界の開発においては、一般に「V字プロセス」として知られる過程をたどる。まず最初にコンセプトをまとめ、仕様書を作る。それをもとに制御系設計担当者が仕様書を確認し、シミュレーションを行ない、ソフトウェアの仕様を決める。そのあと実装にいたる。
いったん実装まで至ったら、次は逆に製品検査やデバッグ、チューニングを仕様書と照らし合わせながら行なっていき、最終的に出荷判断となる。
メーカーへのヒアリングを通じ、このプロセスのなかで、3つのニーズがあると分かったという。1つ目は泥くさいコーディングなどの能力を養う実装技術力の向上。2つ目は経験と勘に頼らないモデルを使った設計、モデルベースドデザインの考え方を導入した設計手法の高度化である。3つ目がモデルベースドデベロップメント、すなわち開発の効率化である。
こんな制御をやりたいと考えたときに、これまでは試行錯誤が必要な制御技術が中心だったが、新しい現代制御理論を導入していくと試行錯誤過程を低減できるという。また、実際のモノを理解していない状態でシミュレーションばかりをやっていると的はずれなものになってしまう。これらのことを学ぶ上でさまざまな技術を必要とするロボットの制御は最適な教材だという。
販売目標は各々500台ずつで、初年度売り上げ目標は1億円。教材だけではなく講師派遣の要請も多いが、基本的には同社では指導者育成を目指してカリキュラム構築を行なっていくという。
なお、「e-nuvo」シリーズは他にも「e-nuvoアーム」を開発中で、こちらは古典制御の学習カリキュラムとして検討している。ZMPは今後も産業界で求められる人材育成をターゲットとした教材開発を行なっていくという。
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PINO以降のZMP社による開発の歴史
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産業界の要請とZMP製品ラインナップの関係
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V字の製品開発プロセスとニーズ
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開発にあたったZMP技術戦略室室長の坂井亮介氏(右)と川本智大氏(左)
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ZMP代表取締役社長の谷口恒氏
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■URL
ゼットエムピー
http://www.zmp.co.jp/
製品情報
http://www.zmp.co.jp/e-nuvo/jp/
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( 森山和道 )
2007/06/13 00:03
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