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ロボットと子供達が味勝負!?
未来館「味見ロボットと対決!」イベントレポート


LEGOを利用して、ユニークな味見ロボットをつくる!

【写真1】5月14日まで開催される「ランドセル・ミーティング」の垂れ幕
 4月14日、東京・江東区の日本科学未来館において、「味見ロボットと対決!」をテーマにしたイベントが開催された。設立6年にあたる同館は、人間にたとえると小学校に上がる年を迎える。そこで1階の企画展示ゾーンをグランドオープンし、これまでの歩みと、今後の活動予定などを一挙に紹介する「ランドセル・ミーティング ~ミュージアムの入学式へようこそ」が開催されている【写真1】【写真2】。

 今回の催しは、このランドセル・ミーティング関連イベントの一環として実施されたもので、日本科学未来館と九州大学が共同開発した新しい実験工房プログラムを実演形式で紹介。簡易型味覚センサを装備した教育用レゴ「マインドストームNXT」によって、コップの中の微妙な塩味の違いを検出し、ロボットと参加者の子供たちが「味の感覚」を競い合うという企画だ【写真3】。


【写真2】日本科学未来館 1階 企画展示ゾーンにて実施されたランドセル・ミーティング関連イベント「味見ロボットと対決!」。科学やロボットに興味を持つ親子連れが集まった 【写真3】教育用レゴ「マインドストームNXT」に簡易型味覚センサを搭載した味見ロボット。塩味の濃さを判別する

 この実演でユニークな点は、味覚センサを自作して、ロボットに取り付けるという点だろう。人間には、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚という5つの感覚があり、それぞれ光、音、温度・圧力、におい、味を識別できる。五感で受け取った感覚は、電気信号に変えられて、神経を通って脳に伝わる。ロボットのセンサ類は、これらの機能と同じように外界の情報を収集し、電気信号などに変換するデバイスだ。ただし、視覚、聴覚、触覚といったセンシングに比べて、味覚や嗅覚に関してはセンサの開発が遅れていた。

 というのも、前者の視覚・聴覚・触覚は、光、音波、圧力などの単一の物理量を選択的に受容する感覚であるのに対し、後者の味覚や嗅覚は多種類の化学物質を同時に受容して生じる感覚だからだ。味覚や嗅覚のセンシングのしくみは複雑で、とても難しい分野であるといえる。

 九州大学のシステム情報科学研究院では、単なる成分分析ではなく、ヒトの舌を模倣して味を測定するマルチチャネルの味覚センサを開発している。世界で初めて味の定量化に成功し、すでに製品化もされており、食品の味の定量的評価などに用いられている。今回のイベントでは、この味覚センサの原理をベースにしているという。

 さて、実際に使用された味見ロボットについて見ていこう。この味見ロボットはセンサアームに取り付けられた簡易型の味覚センサ、自作のセンサ回路、LEGOのドライブベースとNXTコントローラなどで構成されている【写真4】。味覚センサで検出した微小信号をセンサ回路へ送り、回路部のオペアンプで増幅し、それをNXTコントローラ側へ送る。そして、アナログ電圧を内蔵ADCでデジタル値に変換してから、コントローラのLCDに測定値を表示させる仕組みだ【写真5】。


【写真4】味見ロボットのアップ。センサアーム、味覚センサ、センサ回路、LEGOのドライブベース、NXTコントローラなどで構成 【写真5】NXTコントローラとセンサ回路。味覚センサで検出した信号をセンサ回路で増幅してから、それをNXTコントローラ側へ送ってAD変換し、コントローラのLCDに数値(濃さ)を表示する

簡易型味覚センサのポイントは電極づくりにあり!

 では、肝心の味覚に関するセンシングはどのような原理なのであろうか? 日本科学未来館の佐藤雅一氏(科学コミュニケーション推進室 科学コミュニケーター)は、スライドを利用して、イベントの参加者に分かりやすく、味覚の原理について紹介した。

 まず、佐藤氏は人間の体とセンサの関係について解説。人が味を感じる部分は、味細胞が集まっている舌の「味蕾」と呼ばれるところにある【写真6】。ここで、酸味、塩味、甘味、苦味、うま味(出汁の中に入っている味など)といった基本的な味覚を認識する。今回の実験では、このうちの塩味について感じる味覚センサをつくり、ロボットに認識させることになる。

 人の体は細胞からできているが、細胞自体は「細胞膜」で覆われている。細胞膜の成分は「脂質」と「タンパク質」などだ【写真7】。細胞(味蕾)の内側と外側には、水溶液に溶けて電気を帯びたイオンがある。たとえば、食塩水の塩味を感じるときは、細胞(味蕾)の外にあるイオンと、膜を隔てた内側の細胞内のイオン濃度バランス(細胞内部と外部の溶液の浸透圧)が崩れ、電位差(膜電位)が生じて電気が流れる。そこで、これを測定して、塩味の濃さの指針とすればよい【写真8】。


【写真6】人が味を感じる部分の図。舌のぼつぼつしたところに味細胞が集まっており、「味蕾」と呼ばれている 【写真7】細胞のアップ。細胞は「細胞膜」で覆われている。細胞膜の成分は「脂質」と「タンパク質」などだ 【写真8】細胞の内側と外側。細胞の外にあるイオンと、膜を隔てた内側のイオン濃度のバランスが崩れると、膜電位が生じて電気が流れる

 自作する簡易味覚センサでは、これらの原理を基にしている。【写真9】のように、センサ電極と参照電極を作り、互いの電位差によって流れる電流を測定する。センサ電極には、液体洗剤を混ぜた寒天と、塩化カリウムの溶液を利用する【写真10】。ここで、センサ電極側の寒天には洗剤が入っていることがポイントだ。センサを作るために、先端に穴が開いているチップ【写真11】【写真12】を、解けた寒天に浸し、チップの先端に寒天の膜をつくる。寒天を冷やして固めれば出来上がり【写真13】【写真14】。もう一方の参照電極には寒天のみで膜をつくり、同様にして固まった膜の上に、塩化カリウム溶液を入れる【写真15】。あとは、それぞれのセンサに電極を挿せば、準備は完了だ【写真16】。

 前述の寒天は細胞膜に、塩化カリウム溶液は細胞の内液に見立てている。そしてセンサ電極側のみに入れた洗剤は、細胞膜を構成する脂質であるため、イオンが通りやすくなっている。そこで、この2つの電極チップを食塩水に浸すと、2つの電極に電位差が発生するため、イオン濃度が分かり、塩味の濃さも判別できる【写真17】。


【写真9】今回製作した簡易味覚センサ。センサ電極(写真の赤いリード線側)と参照電極(写真の黒いリード線側)を作る 【写真10】科学コミュニケーション推進室の科学コミュニケーター、佐藤雅一氏。センサの成分となる寒天、洗剤を混ぜているところ 【写真11】電極チップのアップ。先端に穴が空いており、ここに寒天の溶液を固める。これを測定時にロボットアームの先端に取り付ける

【写真12】センサ電極を作っているところ。容器の中には寒天が入っている。先ほどのセンサチップを浸し、先端を寒天で固める。この作業はけっこう難しそうだった 【写真13】寒天を固めるための冷凍ボックス。発砲スチロールの箱に氷が入れられていた。ここに容器を入れて、解けていた寒天を固める 【写真14】寒天が固まったところ。センサチップの先端に付いた寒天が取れないように、チップを慎重に引き抜いていく

【写真15】細胞膜に見立てた寒天の上に、細胞の内液にあたる塩化カリウム溶液を入れる。参照電極とセンサ電極のいずれも同じ作業をする 【写真16】それぞれのセンサチップに電極(リード線)を差し込む。これでセンサの製作は終了 【写真17】2つの電極の電位差が膜電位となる。これを測定すればイオン濃度も分かり、塩味の濃さも判別できる

いよいよ子供たちとロボットの対決!

 味覚対決では、濃度の異なる食塩水を作り、それを3人の子供たちが実際に自分の舌で味見して、濃さの順番を判別してもらう【写真18】【写真19】【写真20】【写真21】。それぞれ3%(海水とほぼ同じ濃さ)、0.3%、0.03%の食塩水と、真水の4種類が用意され、濃度の高い順番を当てていく。その後に、味見ロボットがそれぞれの容器の食塩水の濃さを調べていく。ロボットで計測を始める前に、濃度の計測レンジの上下限をキャリブレーション(校正)して、前準備をする【写真22】。実際に食塩水にどのくらい電気が流れるのか調べる作業だ。

 校正が終わったら、スタートボタンを押し、いざ計測開始! LEGOで作られた味見ロボットは、光センサによって容器の置かれた地点にあるマークを検出し、そこで自動的にセンサアームを傾ける。そして容器の食塩水に味覚センサを触針させ、溶液の濃度を計測していく【写真23】【動画1】。計測値はNXTコントローラのLCDに表示されるので、それを子供が読み取っていく。これを4つの溶液で繰り返す。


【写真18】試料となる食塩水と真水。食塩水は3%、0.3%、0.03%。真水もあるので、全部で4種類の試料をを味見することになる 【写真19】科学コミュニケーション推進室の科学コミュニケーター、橋本裕子氏。試料となる食塩水を作っているところ 【写真20】ロボットと対決する3人の子供たち。コップに入った食塩水を味見して、濃度の順番を判別しているところ

【写真21】さてさて、食塩水の濃さの順番は合っているかな? 人間の感覚は意外と鋭いのだ 【写真22】味見ロボットで濃度を測定する前に、センサのキャリブレーションを行なう。3%の食塩水と真水で校正する

【写真23】味見ロボットで濃度を計測中。ロボットのベース部には光センサが付いており、緑のマークの地点でいったん停止して、容器の前で停止するようにプログラミングされている。次ぎにロボットのアームが傾き、食塩水にセンサを浸す 【動画1】味見ロボットが濃度を計測しているところ。参加者の女の子が、NTXコントローラの表示部の数値を読み取っている

 午前中の実演では、初めてのイベントということもあり、電極センサの寒天が抜け落ちるというハプニングがあったものの、食塩水の濃さの計測に成功。午後に行なわれた実演では、4種類すべての食塩水の濃さの順番を見事に判別できた。もちろんロボットだけでなく、ほとんどの子供たちも濃さの順番を当てていた。こうやってみると、人間の感覚がいかに素晴らしいものであるのか、あらためて再認識させられる。今回のイベントの目的について、佐藤氏は次のように語る。

 「ロボットと生物のしくみは基本的には同じ。ロボットは生物を見習って作られているので、生物のしくみをしっかりと解明すれば、それを機械分野にも応用できるようになる。今回は簡易型の味覚センサを搭載したロボットを作って実験してみたが、センサでものを感じるといっても、子供たちにはなかなか分かりづらい面もある。このような味覚センサを通じて、科学技術の発展にとって大切なことを子供たちに学んでもらいたい」

 人間の体は味覚のみならず、あらゆるセンサが複合的に集約されたものであり、しかもそれがリアルタイムで認知される。巧みの技と呼ばれる技術も、人間の「勘」と呼ばれるものも、案外こういった複雑な体内センサの働きによって「ビ・ビ・ビ」とくるのかもしれない。ぜひ今度は、ロボットで人間の「第六感」にあたる感覚も実現してほしいと感じた。


【写真24】ランドセルミーティングでは、会期中にさまざまなイベントが開催される。4月21日には今回と同じ味覚センサの実験教室のほか、九州大学で開発された本格的な味覚センサも披露される
 今回の味覚センサの実験教室は、4月21日(土)にも開催される予定だ。同日の午後には、サイエンスカフェ「味の世界を旅しよう」も開かれる。ここでは、九州大学で開発された本格的な味覚センサも披露されるという。当日は科学技術週間のため、大人も子供も入館料が無料になっている【写真24】。

 また、もし当日の実験を見に行けない場合でも、同館の実験工房では、この味見センサの実験を今年の夏をめどに通常コースとして開始する予定だ。その際には、LEGOのロボット作りから、電極センサの製作、味見の実験まで、すべてを参加者に実施してもらうことになるそうだ。


URL
  日本科学未来館 ランドセル・ミーティング
  http://www.miraikan.jst.go.jp
  九州大学システム情報科学研究院 都甲・林研究室
  http://ultrabio.ed.kyushu-u.ac.jp/index.html

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「6歳」になった日本科学未来館、「ランドセル・ミーティング」開催(2007/04/09)


( 井上猛雄 )
2007/04/18 00:01

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