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2007先端ロボット技術産学連携フォーラムが開催

~先端ロボット技術を研究する3大学のシーズと中小企業のニーズをマッチング

ロボット技術のニーズとシーズをマッチングさせる

 3月1日、東京都立産業貿易センター浜松町館において、「2007先端ロボット技術産学連携フォーラム」が開催された【写真1】。主催は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構 関東支部、全国異業種交流協議会関東ブロック連合会、財団法人 中小企業異業種交流財団。

 このフォーラムは、大学研究者が先進的なロボット研究の成果を発表し、さらなる改良のため中小製造業者に対して共同開発の案件を公開することで、両者のニーズとシーズをマッチングできる機会を提供するもの【写真2】。本フォーラムでは、東京理科大学、電気通信大学、芝浦工業大学の3校から研究内容のプレゼンテーションとデモンストレーションが実施された。以下、3校が開発したロボットと、現在求めている技術について紹介する。


【写真1】今回のイベント会場となった東京都立産業貿易センター浜松町館。2階の展示場でフォーラムが開催された。3階では「2007全国異業種交流・新連携フェア」も開かれ、約70社が製品を展示していた 【写真2】「2007先端ロボット技術産学連携フォーラム」会場の模様。自社技術をロボットに応用したいと考えている企業が業界の枠を越えて集まった

人の役にたつ実用的な支援システムやロボットを開発

【写真3】東京理科大学 工学部 機械工学科 助教授の小林宏氏。ロボットに夢を求めるのではなく、あくまで実用的なものを開発するスタンスだという
 東京理科大学からは、小林 宏氏(工学部 機械工学科 助教授)が「人を動かし、生かす、人間支援ロボット技術」をテーマに、プレゼンテーションを行なった【写真3】。小林氏は「ロボットの目的には肉体的な負担からの解放だけでなく、精神的な開放もある。そのためには人間を物理的にサポートする装置が必要になる」とし、人間の運動機能を再現することで、人間の動作や自立を支援し、健康や運動機能を維持・促進できる機械システムを紹介。

 小林研で開発している人間支援ロボット技術は、情報提供・コミュニケーションから、分析・診断、機能の模倣・補助・維持・再生までと、多種にわたる。人間を支援するシステムは非接触型と接触型の2タイプに分けられ、非接触型ではロボット受付嬢、接触型ではマッスルスーツなどが代表的なものとして挙げられる。

 同研究室で有名なロボットといえば、メディアでも露出度の高いロボット受付嬢「SAYA」だろう【写真4】。「SAYA」は、シリコン樹脂を皮膚として採用し、人との応対の会話だけでなく、空気圧で収縮する駆動装置によって「喜怒哀楽」の豊かな表情を作り出せるアンドロイドだ。人間の表情をつかさどる筋肉は24種類あるが、その筋から44種類の表情が作りだされるという。

 「SAYA」ではこのうち顔の18箇所の制御点を皮膚の裏側から引っ張り、万国共通の6つの基本表情を再現できるようになっている。モーションセンサで来訪者を感知し、視線を制御してトラッキングも可能だ。胸部にはスピーカーが内蔵されており、約300単語、約700種類の返答ができる【写真5】。最新機種は人工筋肉を利用し、首なども動かせる。同大学の入試センターの受付として実際に稼働しているが、先月イスラエルのベングリオン大学にも納入されたという。


【写真4】メディアでもおなじみのロボット受付嬢「SAYA」。1993年から開発を開始。最新機種は人工筋肉を利用し、後ろから筋肉を引っ張って表情を作りだしている 【写真5】SAYAの構造。人工筋肉による表情の演出や首動作、視線制御、約300単語、約700種類の返答ができる。システム自体は分解するとダンボール箱に収まるほどコンパクトになる

 「肌の定量的評価システム」は、皮膚の移植場所の決定や改善状態、経年変化を検査したり、床ずれの状態などを調べることができる。マイクロスコープで皮膚の画像を取得し、特殊なアルゴリズムによって画像処理を施して、全身の皮溝の太さ・間隔・並行度などを定量的に解析している【写真6】【写真7】。すでに東京大学や慶応大学の医学部などで利用されているほか、今年から化粧品メーカーと共同で、皮膚の定量的な値と、見た目の感覚的な関係なども調べていくという。

 また、小林研では解析・機能模倣機構についても研究している。人間が食物を飲み込むときの嚥下(えんげ)メカニズムの全容究明と「嚥下ロボット」に着手している。通常、人間は食物を舌を使って咽頭へ送り、嚥下する。その際に軟口蓋が上がり、口腔と鼻腔が遮断される。また、喉頭蓋で気管へフタをし、嚥下の瞬間だけ開く食道へと食物を送り込む動作をしているが、詳細のメカニズムはまだ解明されていない。

 そこでX線や超音波、シネMRI(MRIの動画版)などで画像を解析し、複雑な動きを再現するロボットを製作。まだ精度は低いが、精密な加工を進めているところだという【写真8】。さらにユニークな研究としては赤ちゃんに母乳を与えるときの「しごき機能付き搾乳器」がある。これは赤ちゃんの舌と顎の動きを模倣した機構を採用し、母体に優しく効率的な搾乳を可能にするもの【写真9】【動画01】。すでにこの搾乳器は臨床段階に入っているそうだ。

 人間の機能を補助するシステムとしては、食事支援ロボットを開発し、セコムが「マイスプーン」としてすでに発売している【写真10】。このロボットによって、上肢が不自由な人でも自分のペースで自立して食事することができるようになる。ただし現在は研究は中断し、自分で動いて食べられるシステムの開発にシフトしている。

 このほか、機能維持・機能再生・リハビリ用のシステムも紹介された。脳卒中などで部分的に麻痺した体を動かさないと、筋萎縮や関節固縮が起きる。したがって、これらを防止するために、外部からの力で部位を動かす仕組みが必要となる。そこで小林研では「装着型指駆動システム」を開発【写真11】。通常のロボットでは関節を作って動かせばよいが、人の場合は動作の中心点は骨の中にある。ロボットの関節となる機構を人間に装着して、そのまま動かそうとすると関節間距離が変わってしまい痛くなるという現象が起きる。人間の関節の中に回転中心が来るようにガイドを設けることによって、この問題を解決したという。


【写真6】肌の状態を解析する流れ。画像処理によって皮溝の状態を調べることで、定量的な解析を試みている 【写真7】皮溝は身体の部位によって変わってくる。スライドは、部位による皮溝の太さを解析しているところだ 【写真8】嚥下ロボットによるシミュレーション。嚥下障害が起きると誤飲が起き、食物が器官に入って肺炎を併発して、死亡するケースが多い。肺炎の68%が誤飲が原因だという

【写真9】しごき機能付き搾乳器。赤ちゃんの舌と顎の動きを模倣した機構を採用している。母体に優しく効率的な搾乳を可能にする 【動画1】しごき機能付き搾乳器のデモ。すでに臨床段階に入っているという

【写真10】アームとターンテーブルを協調動作させることで、利用者が食物を取りこぼさず最後まで食べられるシステム。セコムから「マイスプーン」として製品化されている 【写真11】装着型指駆動システム。関節の中に回転中心が来るようにガイドを設けることによって、快適に利用できるように工夫している。すでに5本指用のシステムも開発済み

 最近の研究開発において、最もモチベーションが高い対象としては「マッスルスーツ」が挙げられるという【写真12】【写真13】。小林氏は、「一般の人は日常生活を支えるロボット技術に大変期待をしている。とはいえ、現在のような洗練されたヒューマノイドロボットが家庭に入ってきても、人間の生活がどれほど豊かになるかは疑問が残る。高齢化社会に向けて、介護する人ではなく、介護される人を自立支援したかった」と語り、これが物理的に人を支援するロボット技術開発の原動力になっているという。開発は2001年から始まったが、いまのところ非健常者を対象にすると安全面でハードルが非常に高くなるため、健常者の筋力補助や姿勢補助をメインに進めている。将来的には非健常者の支援まで持っていく考えだ。

 マッスルスーツの原理はシンプルだ。前述のロボット受付嬢SAYAでも利用されている人工筋肉を使って筋力の補助を行なう。人工筋肉はリハビリ用機器として開発されたもので、ゴムチューブの周りにナイロン性のスリーブが覆われている【写真14】。スリーブにはナイロンが巻き目型に編みこまれており、中のゴムチューブに空気を送り込んで、筋肉のような動作をさせることが可能だ。システム構成は【写真15】のようになっている。関節部の角度を検出するセンサ、制御装置、コンプレッサがあり、電空レギュレータによって空気圧を制御し、巻き目型人工筋肉を動作させる。

 マッスルスーツのメリットは、金属をほとんど使用していないため、軽量でコストが安い点、人間が着用できる構造物にして原理的にあらゆる動作を行なえる点などが挙げられる。着用型のため、非健常者用の装具のようにオーダーメイドで製作する必要がなく、S/L/Mサイズを用意すれば、誰でも服のように利用できることもポイントだ。現在、マッスルスーツは上半身のほかに、腰の保護もできるようになっている。溶接作業などで前傾姿勢を維持した場合は腰の補助も可能だ。


【写真12】マッスルスーツを装着したアンドロイド。オーダーメイドで製作する必要がなく、装着型のため、誰でも服のように利用できる 【写真13】2006年夏モデルのマッスルスーツ。アクチュエータの数を減らした簡易モデル。上半身のほかに、腰の保護もできるようになっている

【写真14】人工筋肉のアップ。ゴムチューブの周りにナイロン性のスリーブが覆われている。ゴムチューブに空気を送り込んで、筋肉のような動作をさせる。パワフルな動力となる 【写真15】マッスルスーツのシステム構成。制御装置は将来的にチップ化もできる。また、スーツに組み込めるようなコンパクトタイプのコンプレッサも開発中だという

 健康維持のために高齢者でも筋肉トレーニングは不可欠となっている。とはいえ、従来の歩行維持用の機能筋トレ装置は、単機能型で機材も大きく、動作させる負荷も大きいものが多かった。また価格も150万円ぐらいで高価だった。そのため、小林研では重りを使わずにブレーキによって負荷をかける電子制動式の小型多機能筋トレ装置を開発した【写真16】。この装置では足の蹴りだし、膝曲げ、股関節の開閉といった4種類のトレーニングができるようになっており、タッチパネルで簡単に操作が可能だ。

 歩行障害によりクルマ椅子を利用している人は現在150万人いるといわれている。小林研では、正しい立位と歩行を可能にするようにアクティブ歩行器も開発している。ベースモデルにイギリスで25年の実績を持つ「HartWalker」という製品を採用。これに人間の筋肉配置と同じように人工筋肉を取り付けて、歩行の自動化に成功した【写真17】。システムはコンプレッサ以外はスタンドアローンで動かせる。外車輪で移動できるため、転倒の心配もないという。また新しいモデルとして、HartWalkerよりも機能を簡単にして、すぐにリハビリができるアクティブ歩行器も開発している。

 このほかにも、2輪駆動自転車や世界で最も薄い折りたたみ自転車も開発・販売している【写真18】【写真19】。後輪に伝達させる動力をドライブシャフトによって前輪に伝え2輪駆動としている。前輪を駆動する際にはハンドルの軸の影響を受けてしまうが、最初のモデルでは差動歯車を使い、ハンドルの動きをキャンセルできるメカニズムを採用。現在は廉価版を開発しており、この部分はユニバーサルジョイントを用いている。通常では動けない砂地や雪道などにも対応できるという。

 このように多方面にわたり、人間支援型のシステムやロボットを開発している小林研であるが、この分野ではロボットを利用した技術開発例が少ないのが現状だ。この点について小林氏は「人間が関わる技術では、安全性、被験者の問題、仕様の多様性などの面で越えなければならないハードルが増えるからだと考えられる」と分析。とはいえ、近い将来には必要不可欠になる技術である。「我々は現在も複数の大学研究機関や企業と協力しながら製品を開発している。開発対象も多種多様なため、興味があれば、ぜひ技術提供をお願いしたい」と来場者に呼びかけた。


【写真16】ブレーキによって負荷をかける電子制動式の小型多機能筋トレ装置の例。足の蹴りだし、膝曲げ、股関節の開閉といった4種類のトレーニングが可能 【写真17】HartWalkerに人工筋肉を取り付けて、歩行の自動化に成功したアクティブ歩行器の例

【写真18】2輪駆動自転車の廉価モデル。後輪の動力はチェーンによって前輪に伝達される 【写真19】前輪の動力伝達部。ハンドルの動作反力の影響を受けないようにユニバーサルジョイントで連結されている(写真ではカバーでジョイント部は覆われている)

超微細加工ロボットで「ミクロの決死圏」のような世界も実現する!?

【写真20】電気通信大学 電気通信学部 知能機械工学科 教授の青山尚之氏。電通大発ベンチャー、アプライド・マイクロシステムの取締役でもある
 次に電気通信大学の青山尚之氏(電気通信学部 知能機械工学科 教授)【写真20】が、同校の超小型精密ロボットシステムについて紹介した。

 青山氏の研究は大変ユニークだ。平面内の並進X・Y方向と回転θの3自由度を独立かつ超精密に動作できる超小型ロボットを利用し、従来の汎用工作機械や産業用ロボットではハンドリングが難しかった微細加工の分野に切り込んでいる【写真21】。

 この超小型精密ロボットは3cm角のサイズで、圧電素子と電磁石だけで構成されるシンプルな構造。電磁石×2を脚として備え、4カ所の電磁石の脚先から磁力を発生し、金属面ならば壁や天井でも吸着して固定することが可能だ。また、同時に電磁石の間に入れた圧電素子×4を伸縮させることで、あたかも「尺取り虫」のような動作で精密に脚を動かせる。そのためガイドラインなしで広範囲にわたり、精密な位置決めができるようになる【動画2】。

 このロボットを利用した具体的な加工例も紹介された【写真22】【写真23】。3μmの直径の圧痕を直線的につけたり、100μmの大きさの文字を点描で加工した例がスライドが紹介された。また、目的とする作業によって、このロボットを複数台分使用すれば、柔軟性、コンパクト、低コスト、省エネルギーといった特徴を備えた精密生産システムを構築できる。いわばマイクロロボットによる微細な分業作業である。たとえば、マイクロツールを装着した3台のロボットを連携させ、顕微鏡下でロボット群を制御して作業をする実例も示された【動画3】。

 ロボットの制御方式は、ステッピングモータと同じようにオープンループで、従来の精密機械のような絶対精度の概念はない。しかし、ロボット自体に熱膨張や振動の影響がないため、分解能10nm以下のオーダで位置決めが可能だ。その一方で、変位センサを取り付けたり【写真24】、画像処理技術などを組み合わせて、クローズドループ制御にも対応できるという。運動誤差補正システムもコンピュータからの制御信号で実現され、トータルな超小型ロボットシステムとしての完成度も高まってきている【写真25】【写真26】【写真27】。


【写真21】写真左がXYθの超小型精密ロボット。写真右は微小連続移動が可能な尺取り虫式の超小型精密ロボット。いずれも圧電素子と電磁石で構成される 【動画2】尺取り虫式の超小型精密ロボットの動き。電磁吸着によって、曲面や天井面でもスイスイと動く 【写真22】超小型精密ロボットの作業例その1。3μmの直径の圧痕を直線的につける

【写真23】超小型精密ロボットの作業例その2。お米に文字を書くように、100μmの大きさの文字を点描で加工 【動画3】複数の超小型精密ロボットを連携させて、効率よく作業を実施。0.3mmほどのビーズをハンドリングする。ロボットの操作はゲームパッドで行なう 【写真24】ロボットの制御はオープンループ式だが、変位センサを取り付けたりして、クローズドループ制御にすることも可能だ

【写真25】ロボットの制御システムの全景(デモ機)。ここではPCの専用ソフトウェアからロボットを動かしていた 【写真26】デモ用の超小型精密ロボット。顕微鏡の下で微小動作させて作業を行なう 【写真27】制御用のソフトウェア。オープンループ制御なので、矢印方向のアイコンをクリックするとステッピングモータのようにワンステップほど動作する。誤差補正をする機能もある

 青山氏は「現在、ものづくりの拠点は、コストの問題などで中国や東南アジアにシフトしている。日本に残された道はあまりない。そのような中で、マイクロ・ナノレベルの微細加工は直接人手ではできない領域であるため、発展の可能性が高い」と指摘する。実際に青山氏らは、国立大学の独立法人化を機に、同研究室で15年にわたり積み重ねてきた基礎研究の成果を事業化。2005年1月に、電通大発ベンチャーとして株式会社アプライド・マイクロシステムを設立している。

 同社では、前述のような圧電素子と電磁石を備えた磁気駆動マイクロロボットのほか、圧電素子のみの慣性駆動マイクロロボットシステムなどを開発している。前者は電磁石でしっかりと固定されるため、レーザー干渉計のミラー位置決めなどに利用できる。一方、後者は圧電素子のみで自由に動かせるため、カーボンナノチューブや半導体デバイスなどをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察しながら微細加工する用途などに向くという。

 また、pl(ピコリットル)の微小液体を塗布できる微少液滴塗布システムや細胞マニピュレータシステムなども開発している。これらは、タンパク質やDNAの分注、液晶パネルの断線リペアなどに応用が利く。

 とはいえ、青山氏によればこれらの技術は、まだ大学の研究室で培われてきたシーズ技術であり、学術工芸品的な意味合いが大きいという。「実用化・製品化するためにベンチャーを設立しているが、工業製品として必要な精密部品加工や電子回路製作、ソフト開発実装の部門は有していない。現場の使用に耐えうる信頼性の高い技術を必要としている」とし、関連企業に協力を求めた。


プロセッサの分散制御とRTミドルウェアによるコンポーネント化がキーポイント

【写真28】芝浦工業大学 工学部 電気工学科 教授の水川真氏。あの有名な二足歩行ロボット「WABOT」を手がけた研究者だ
 最後にプレゼンを実施したのは、芝浦工業大学の水川 真氏(工学部 電気工学科 教授)【写真28】。水川氏は早稲田時代に加藤研究室で、初代の「WABOT」を手がけた研究者だ。今回のプレゼンのテーマは、「日常生活支援用物理エージェントモデル」。高齢化社会に向けて、人間の代理人として身の周りのちょっとした作業をこなし、支援してくれる遠隔操作ロボットを実現させることを目的としている。

 具体的なロボットとして、水川氏は愛知万博ロボット週間などのイベントにも出展した物理エージェントロボット「PAR04R」(Pysical Agent Robot)のデモンストレーションを実施した。デモ内容はレーザーポインタを箱に照射し、それをロボットが判断して、物体をハンドで拾って箱に入れるというもの【動画4】。もちろん、このような日常生活の支援だけでなく、災害支援や遠隔地とのコミュニケーションなどにも利用できる。

 このロボットは、クローラ移動機構機体、レーザポインタとCCDカメラ、および方向制御用のジンバル機構、5自由度+開閉ハンドアーム機構などで構成されている【写真29】【写真30】。制御や画像処理用のプロセッサなどのサブシステムは、複数のCPUで分散して処理される。内部ネットワークには自動車内で用いられているCAN(Controller Area Network)を採用しており、高信頼と省配線を実現している【写真31】。CANは速度は遅いがノイズ耐性面や配線面でのメリットがある。

 また、ロボットコントローラと操作用PC間には、主要ロボットメーカーが集結して開発した「ORiN Ver2」(Open Resource interface for the Network/Open Robot interface for the Network)というミドルウェアを用いている。これにより、アプリケーション開発が容易になり、ネットワークインターフェイスの標準化やプログラムの再利用も可能になった【写真32】。


【写真29】物理エージェントロボット「PAR04R」。最新モデルは、より小型化されている 【動画4】レーザーポインタを箱に照射し、それをロボットが判断して、物体をハンドで拾って箱の中に入れる。動画は最後まで映っていないが、箱に入れるところまでしっかり成功した 【写真30】PARの機構部の構成図。クローラ移動機構機体、レーザポインタ、CCDカメラ、および方向制御用のジンバル機構、5自由度+開閉ハンドアーム機構から成る

【写真31】RTC-CAN Systemの構成。PAR04Rでは、新しいボードを採用している。他の異なる機器とのやりとりは、CORBA(Common Object Request Broker Architecture)によって分散環境上のオブジェクト間でメッセージ交換をする仕組みだ 【写真32】主要ロボットメーカーが集結して基盤を開発したORiNの利用例。現在のバージョンは2.0。このRTミドルウェアを利用することにより、アプリケーション間とデバイス間の差異を吸収し、機器に依存しないアプリケーション開発ができるようになる 【写真33】RTミドルウェアを利用した場合のアーキテクチャ。共通APIを利用してアプリケーションを容易に開発できる。芝浦工業大学の物理エージェントロボットのように、クローラ(モータ)、センサ(レーザーポインタ)、カメラ、アームなどのデバイスを搭載しているロボットを他のメーカーが利用することも容易になる

 水川氏は、「我々はそれなりの技術があればロボット自体は作れることがわかった。これからはロボットを作るという目的から、使うという手段に変える必要がある。どうやってサービスをするか、作り手の論理からユーザーの論理へ変えていかなければいけない」とし、サービス、システムインテグレーション、ソリューション、社会インフラとして役立てるロボットを作る必要性を説いた。

 RT(Robot Technology)を誰でも使えるようにするために、開発コストの削減や、オープン化を図らなければならない。経済産業省のロボット政策のロードマップでは、まずはロボット基盤技術をしっかり構築し、ソフトもハードもモジュール化して、サービスシステムを使えるような方向が打ち出されている。

 今後は、個々の開発グループが持っていた技術やノウハウをうまく活用して、必要とされるサービスを提供する時代になってくる。その際に、いかに手をかけずにシステムを作れるかという点が鍵になるという。

 「たとえば家を建てるときに、建築屋さん、水道屋さん、電気屋さんなどに仕事を頼むように、ロボットでもパーツを購入し、ある規約に則って技術をつなげ合わせれば注文品ができることが重要。多くの人がレベルに応じてロボット事業に参入できる機会を与えたい」(水川氏)と考えている。

 このような点を踏まえ、水川氏が注力している事案は、ロボット用ミドルウェア(RTミドルウェア)の標準化と、ITとロボットの融合であり、ネットワークロボットや他の機器との連携などであるという。特に前者のRTミドルウェア標準化は最重要事項だと強調した。RTミドルウエアは、ロボットシステムの機能要素(センサ、制御、モータなど)の通信インターフェイスを標準化して、ユーザニーズに合わせた新しいシステムを容易に構築するための基盤技術として機能する。


 「従来までの日本のアプローチは、標準化が決定された後でも、実装面で早く良いものを作れば良いという考えだった。一方、海外ではISO9000や14000のように先に自分たちのルールを作ってしまう。もともと日本は技術力があるのだから、最も効果が発揮できるような規格を自らリードしていかなければいけない。この作業はロボットを作る前段階のため利益を生まないものだが、いまのうちから手を打っておかないと、後手後手にまわってしまう恐れがある」と述べた。

 実際に、芝浦工業大学の物理エージェントロボット・PAR04Rは、前述のようにRTミドルウェアとして、ORiN Ver2を採用している。ロボットのアーキテクチャを詳しく知らなくてもORiNインターフェイスでコマンドのやりとりをして、アプリケーションも共通化できる。

 従来であれば、PAR04Rのようにクローラ(モータ)、センサ(レーザーポインタ)、カメラ、アームなどの多数のデバイスを搭載しているロボットを他のメーカーが利用することは難しかった。RTミドルウェアによって標準化することで、アプリケーション間とデバイス間の差異を吸収し、機器に依存しないアプリケーション開発が可能になる。愛知万博の出展を短期間で実現できたのはRTミドルウェアに負うところが大きかったという。

 このようにさまざまな技術が盛り込まれた統合プラットフォームとしての物理エージェントロボット・PAR04Rであるが、センサや機能部品、回路などは手作りであり、適用分野への要求に応じたカスタマイズと高信頼の部品設計技術を必要としている。今回のプレゼンテーションでは、組み込み系設計から、回路設計、基盤実装、機構部品、センシングデバイス、分散オブジェクトソフトウェア、ネットワークといった技術の要請を求めた。


URL
  東京理科大学 小林研究室
  http://kobalab.com/
  電気通信大学 青山研究室
  http://www.aolab.mce.uec.ac.jp/
  ORiN(オライン)協議会
  http://www.orin.jp/
  財団法人 中小企業異業種交流財団
  http://www.igyoshu-fdn.or.jp/


( 井上猛雄 )
2007/03/06 01:18

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