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【動画】メンタルコミットロボット「パロ」
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独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)は17日、映画「メカニカル・ラブ(Mechanical Love)」のプレス向け上映会を開催した。「メカニカル・ラブ」はロボットと人間のふれあいを描いたドキュメンタリー作品。産総研で開発されたアザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」が取り上げられている関係で、産総研での上映会が開催された。
この映画で取り上げられているロボットは2つ、「パロ」と、大阪大学・石黒教授のアンドロイド「ジェミノイド」である。パロはドイツ、イタリア、デンマークの老人ホームと日本の高齢者たちとのふれ合いの模様、そしてジェミノイドはATRの研究室での実験の様子と、石黒教授の家族と対面させる実験などが描かれている。
監督はデンマークのフィエ・アンボ(Phie Ambo)氏。「メカニカル・ラブ」はドキュメンタリー映画で最も権威のある「アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭」で、2007年11月に長編約2,600件の中から16件の優秀賞を受賞。23カ国、25の映画祭で招待上映された。今年2月21日、22日には米国ニューヨーク市の近代美術館(MOMA)にて「メカニカル・ラブ」のプレミア・ショウが開催され、21日には「パロ」のアメリカ向け仕様の最新型モデルも展示される。
パロのアメリカ向け仕様モデルは1月のInternational CESで公開されたもので、型番は「MCR-888」。日本国内でのお披露目はこれが初となる。ただし外見は従来モデルとほとんど変わらない。中身も機能的にはあまり変わっていないそうだが、欧米の安全基準をクリアしたモデルとなっており、たとえば電源コードが少し太くなっているなど一部安全面を改良した。またバッテリや電源まわりを改良し、電源オフにしたときの電力消費量を減らした。これによって、電源オフにして半年くらい放置したあとでも、電源オンにすればすぐにまた使えるようになった。またACアダプタは従来品に比べて1/3の大きさになった。音声認識機能においてもアメリカ向け仕様モデルは英語を認識する。
「パロ」は株式会社知能システムから販売されており、日本での価格は35万円。2005年3月からこれまでで1,000体以上が販売されているという。そのうち8割は個人名義で、残りが医療福祉施設で利用されている。米国向け仕様モデルの販売価格は6,000ドル。メンテナンスはシカゴに設立された「PARO Robots U.S., Inc.」が行なう。現在はまだFDAからの認可待ちだが、早ければ3月から4月に受注販売が可能になるという。
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左が新型。ACアダプタは1/3くらいのサイズに小型化された
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パロの開発者 産総研知能システム研究部門主任研究員 柴田崇徳氏
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充電ケーブルは口にくわえさせるおしゃぶり
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パロの箱
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この中に梱包されて送られてくる
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マニュアルも英語化された
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● 映画「メカニカル・ラブ」
以下、映画に対する筆者個人の感想を述べる。あくまで私見の1つとしてお読み頂きたい。
「メカニカル・ラブ」では、大阪大学の石黒教授のコピーロボット「ジェミノイド」の実験の模様と、パロを受け入れた老人たちの姿が交互に描かれている。冒頭シーン、エンディングともに「ジェミノイド」が扱われており、またクライマックス的なシーンはそのジェミノイドが石黒教授の娘さんから拒絶されるシーンだと思われるので、どちらかというと「ジェミノイド」、そしてその気持ち悪さが中心に描写されている印象だ。対して「パロ」については、一部拒絶されるシーンもあるものの、どちらかというと好意的な視点で描かれている。
「ジェミノイド」に対しては、石黒教授本人へのインタビューシーンも多く、実験過程などもかなり綿密に取材されているので、石黒氏の研究意図なども比較的つかみやすい。いっぽう「パロ」についての概略は柴田氏の講演シーンで語られる。そして主にドイツの老人ホームを舞台にして、そこに暮らす1人の老婆を主役にすえている。彼女は「パロ」をまさしくペットあるいは友人のように接して愛する。他にもパロを受け入れる高齢者たちは至って好意的に「パロ」を扱う。そのいっぽうで、「パロ」を非難する介護スタッフや周囲の人々の様子、そしてそのときのパロを可愛がっている女性の姿も描かれており、手放しでパロを絶賛しているわけでもない。
フィエ・アンボ監督は、「アムステルダム・ドキュメンタリー映画際」で、2001年に「Family」という作品で最優秀賞を受賞した女性監督。この映画ではナレーションなど説明的なコメント類はなく、あくまで情景を淡々と撮影して編集している作品なので、監督の意図が明快に伝わってくるとは言いがたい。なかには上映後、「監督は何が言いたかったんでしょうか」と問う記者もいた。曰く言い難い感覚的なものを映像言語に載せて語ることに映画の意味があるわけなので、言葉にしづらい点があるのは仕方がないことかもしれない。
敢えていえば、「ロボット」という異物に対する人々の反応を捉えた作品ということになるだろうか。まだ一般の人はロボットに接する機会は少なく、研究者たちも試行錯誤の最中である。そもそもロボット1つとっても多種多様な種類があり、人と精神的にコミットする上での外見デザイン、アプローチもロボットや開発者によって異なる。受け入れる人の反応もさまざまで、非常に好意的な人もいれば、拒絶する人もいる。ただ、その反応はロボットと人が接する時間や、触れ合い方そのものの変化によって、これからも変わっていくと思われる。また、「ロボットに対する愛情」のありようも、実にさまざまである――。そんなところではないかと思われた。
ロボットマニア的視点から見て面白い点は、ココロ社で調整中の「ジェミノイド」の様子や、手作りの「ものづくり」の伝統がある富山県南砺市で1体1体手作りされている「パロ」の製造工程の一部が撮影されているところだろう。監督のアンボ氏は以前、NHKのインタビューに対して、「このようにロボットが心を込めて手作りされることはヨーロッパでは考えられない」といった趣旨のことを述べている。また、電源を入れられてゆっくり起き上がってくるジェミノイドの様子そのほかは「Mechanical Love」公式サイトでも見ることができる。
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「Mechanical Love」の1シーン。老人ホームで可愛がられるパロ
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「Mechanical Love」の1シーン。手作りされるパロ
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「Mechanical Love」の1シーン。実験中のジェミノイド
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柴田崇徳氏
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なお「メカニカル・ラブ」が製作されたことで、「パロ」のデンマークでの知名度は高くなり、50以上の高齢者向け施設で使われているという。デンマークでは2007年から「Be-Safe」というプロジェクトにおいて、12体のパロを使った7カ月の実証実験を行ない、セラピー効果について高い評価を得たことから、デンマーク技術研究所(DTI)がパロの導入をサポートすることになった(本誌記事:アザラシ型ロボット「パロ」がデンマークで本格導入参照)。産総研はDTIからパロを使ったロボットセラピーの対象となった高齢者の属性や情報を収集し、ロボット・セラピーにおける手法の改良を行なっていく。
「パロ」の開発者である産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員の柴田崇徳氏は、まだロボットという存在がそれほど身近になっておらず、接する人が徐々にロボットに対して接し方を変えていく今の時期に撮影されたことについて「良い時期に取材してもらったのかなと思っている」と語った。なお「メカニカル・ラブ」の国内での上映予定などはないが、年内に日本語キャプションを入れたDVDを販売することも予定されているとのことだ。
■URL
メカニカル・ラブ
http://www.mechanicallove.com/
知能システム
http://intelligent-system.jp/
パロ
http://paro.jp/
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( 森山和道 )
2009/02/20 12:11
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