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左前方から、高森年氏(IRS理事)、竸和巳氏(竸基弘賞委員会名誉委員長)、松野文俊氏(IRS副会長)右前方から土井智晴氏、山下淳氏
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1月15日、国際レスキューシステム研究機構が、神戸国際会議場にて「第四回竸基弘賞授賞式」を開催した。
「竸基弘賞」は、レスキューシステム開発に顕著な功績を示した若手研究者および技術者を対象としている。今年は、竸基弘賞学術業績賞を静岡大学准教授の山下淳氏、竸基弘賞技術業績賞を大阪府立工業高等専門学校準教授の土井智晴氏が受賞した。
同賞は、阪神・淡路大震災で犠牲になった竸基弘氏(当時23歳)にちなみ創設された。競氏は、当時、神戸大学大学院に在籍し「人を癒やし助けてくれるロボットを作りたい」と夢をもっていたそうだ。彼の指導教官だった松野文俊(電気通信大学教授)は、震災をきっかけにロボットによる災害救助活動の研究を始め、NPO法人「国際レスキューシステム研究機構」を立ち上げた。2005年に競氏の遺志を継ぎ、若手研究者を奨励することを目的とする「竸基弘賞」を創設した。
本稿では、競基弘賞技術業績賞を受賞した土井智晴氏の研究「レスキューロボット技術のシロアリ防除ロボットへの応用」をレポートする。
● 「レスキューロボット技術のシロアリ防除ロボットへの応用」
これまでのレスキューロボットは、非常時に役立つロボットシステムとして研究開発がすすめられており、平常時に活躍する場が乏しく、それが普及の妨げになっているという指摘があった。土井氏は、そうした問題点をクリアするために、レスキューロボット技術を平常時に適用する事例として、株式会社アサンテと共同で住宅の床下を点検する「シロアリ点検防除ロボットシステム開発」を行なった。この研究開発は、経済産業省のサービスロボット市場化創出支援事業でもある。
土井氏は、どんなロボットであれ、現場で実際に使用される技術であれば、まず使う人に受け入れてもらえるものではなくてはならないという思いから、「使える技術」を主眼にして開発をしているという。
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土井智晴氏(大阪府立工業高等専門学校準教授)
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産業化を視野に入れた「即戦力的なレスキュー機器開発」が目標
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そもそも土井氏は、大大特(大都市大震災軽減化プロジェクト)で簡易型探索機の研究開発を行なっていた。日頃は高専の教壇に立っている土井氏は、実践的な技術者を育成していくためのエンジニア教育を重視している。研究テーマ選定にも、産業界に寄与し社会で使用できるものを念頭においたそうだ。テーマは「産業化を視野に入れた社会システムに順応する普及型・簡易型、探索用レスキュー機器の研究開発」とした。
即戦力となる機器を作ろうとしたとき、土井氏が考えたのは「動力を得られない被災地で、ロボットをどうやって動かすんだ?」という根源的な問題だったという。そこで、電源・エネルギー源が乏しい状況下でも活動できる探索システムの研究を始めた。
最初に作ったものは、人力でハンドルを回すと動きまわる小型2輪ロボットだった。ハンドルをぐるぐる回すので名前を「くるくる」と付けたそうだ。自転車のブレーキワイヤーがハンドルから車輪につながっていて、ハンドルを回すとロボットが動くというシステムだ。しかしこれには問題点があり、ハンドルを回しても車輪が動かず、ワイヤーの中にねじった力がたまり、ばねのようにある時突然にはじけて、ダーっと走りだしたそうだ。これでは、思うような探索活動ができないため、2号機からはハンドルを回すと中に搭載した発電機が稼働し、ロボットのモーターを駆動するシステムに改良した。
「くるくる」には、カメラとマイクが搭載してあり、要救助者を発見し、コミュニケーションをとることができる。
3号機は、ロボットに棒をつけて瓦礫内に押し込められるようにした。単に棒の先にカメラを取り付けただけではそれ以上は動けないけれども、「くるくる3号」は棒を外せば、そこから先を自走して探索することができる。最終的には3号機をバージョンアップした4号機までを大大特の中で開発したという。
「くるくる」は、ハンドルを回せば両輪が動いて駆動する。前に回せば前進し、反対に回せば後退する。右左折したいときは、スイッチを右または左に回してから、ハンドルを回すというシンプルな操縦だ。くるくるが坂を上ったり障害物に当たると、ハンドルが重くなる。また、坂を下っているときは引っ張られるような感じでハンドルが勝手に回ろうとする。これは発電機とモーターの特性によっているという。瓦礫下に潜り視界が届かないところで動いているくるくるの状態が、ハンドルを通してフィードバックが得られるという点は、研究者から評価が高かったそうだ。
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簡易型探索機「くるくる」を1号から4号まで開発
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簡易型検索機「くるくる」の基本アイデア。エネルギー源を使わずに人力で動かすロボット
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「くるくる2号機」。発電機搭載で安定した移動を実現
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無電源・簡単な操縦で、いつでも誰でも操縦可能。反力がハンドルへフィードバックされる
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【動画】くるくる2号の動画。スイッチを捻るだけで右左折も可能
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技術者は、つい機能中心に考えて研究開発を進めがちだが、社会に順応し産業化を考えるにあたっては、実際に使う人にとって使いやすく、また使える機能をもったロボットを作らなくてはいけないと、土井氏はいう。
そのためにも積極的に産学連携で開発を進める必要がある。自分だけで開発していると視野が狭くなりがちだが、研究パートナーがいると「もう一段グレードを上げてほしい」や「動かなかったら意味がない」等、いろいろ厳しい意見もいただきながら、非常にいい勉強をする機会が得られる。
そのためにも現場で活動する方々の意見や観点を取り入れていかなくてはいけないというのは、「くるくる」開発時に得た経験だという。
地域との連携でいえば、土井氏は「くるくる」を入れるケースを地元企業からの申し出で作ってもらった。これがデモンストレーション先などで、研究者から評判がよく他の大学の先生方もその企業にケース製作を依頼することがあったそうだ。土井氏自身は、技術・研究開発を専門としているが、このように多方面との連携で大きな輪が広がり、産業化につながるという。
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現場との連携。実際に使用する消防隊員からの意見を設計に取り入れた
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産官学の連携の必要性
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実用化のためには、地元企業・産業へ寄与するシステムが必要
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レスキューロボットの技術を、RT技術を必要とする企業へマッチングして市場を創出する
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株式会社アサンテと共同開発した「シロアリ防除ロボット」は、当初は「屋根裏、床下、壁の中をロボットシステムで点検したい」という話だったそうだ。今後のための資料を作成してほしいと言われ、「くるくる」を2台連結し不整地を走りやすくし、障害物を乗り越えられるようなロボットにすれば床下でも動くのではないかと考え「床下点検ロボット」として提案したという。
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床下検査用四輪移動ロボットのコンセプト。「くるくる」を2台連携している
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操縦ユニットは、各ロボットで共通化。サイズを大きくして手袋着用のままでも使えるようにしている
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この時、以前消防隊員の方から「ごちゃごちゃしたシステムは使いにくい。手袋をしたまま作業したり、雨天で機材を広げることもある。頑丈でシンプルな操作性のものがいい」と言われたことを思い出し、設計に活かしたという。
「くるくる」から大きく変更した点は、電源をコンセントから取る方式に変更したことだ。床下点検ロボットは、建物内で稼働するため、コンセントは必ずあるからだ。安全性確保のための非常停止ボタンは必須で、写真のような操作が簡単なコントローラになったという。
最終的に3種類のロボットを製作するが、それぞれのロボットでコントローラが異なり操縦方法を覚えるのでは、オペレータの負担が大きい。そこで、床下点検も天井も、壁の中もこのコントローラにロボットを接続すれば動くように、ユニット化をした。
システム全体のイメージ図は、有限会社RTソリューションが制作したという。RTソリューションがプロジェクトのトータルプロデューサーとしてクライアントであるアサンテと、研究開発を担当する土井氏の間に立って連絡を密にとりコミュニケーションがスムースに運ぶように取りはからっていた。研究者とクライアントは違う視点を持っていることが多いので、RTソリューションのように両者を結びつける仲人的企業の存在は、研究者として大変助かると土井氏はいう。
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床下点検だけではなく、壁内点検ロボット、屋根裏点検ロボット等を開発。RTソリューションが描いた図
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ロボットが撮影した床下映像は、センタ管理PCに転送され保存する。経年データの比較が可能となる
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本システムでは、ロボットが床下点検した映像をアサンテのセンターへ、インターネットを使って転送し、データサーバに蓄積する。定期点検で過去の映像と比較し、経過の確認ができるようにし、顧客のサービスに対する信頼を高めることを目的にしているという。
壁内を監視するカメラは、コンセントの蓋を外しその中から入れられる程度のものということで、ファイバースコープを採用した。天井の中は、人が目視できるところは目視でいいが、奧の方や壁の向こう側を見たい時のために、棒の先に首を振るカメラを搭載したシステムを製作した。
各ロボットのカメラユニットも共通化してあるという。また、シロアリの防除をするための薬剤散布機能を搭載したいという要望があったため、カメラユニットに薬剤や泥、水滴が付着した場合、丸洗いができるように取り外し可能になっている。
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コントローラ。大きめのジョイスティックを採用している
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これらのロボットを操縦するコントローラは、手袋をはめたまま操作できるように、大きなジョイスティックを使っている。この大きさは研究者から見ると機能的には見えないが、使用者からはこの形は受け入れられているという。特に消防隊員の方からは、写真を一瞥しただけで「このコントローラはいいよ」と評価されたそうだ。サイズが大きいために運ぶのが大変という点はあるが、やはり現場ではシンプルで使いやすいサイズのコントローラが喜ばれるらしい。アサンテの社員にも使用してもらったが、半日の講習でロボット操縦ができるそうだ。
できあがったロボットシステムは、まずアサンテの三ケ日総合研修センターで実証実験を行なった。この時は、アサンテのオペレータに使ってもらったそうだ。その後、公開実験を鎌倉宮拝殿で実施した。この時には、作業員がロボットを持って床下に潜り、作業員が侵入できないところをロボットが探査するという、人と協働するコンセプトだった。
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アサンテが公募案を元に描いたロボットの活用イメージ
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シロアリ防除ロボット「ミルボ」。前面に照明、カメラ、薬剤散布口が縦に並んでいる。右下の写真は、薬剤散布をしているところ
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シロアリ駆除の見積もりのために間取り計測用システムを開発
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ロボットが撮影した映像データを管理センターや、顧客宅で閲覧できるシステム
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開発当初は、このコンセプトで2年間研究開発をする予定だったが、実証実験の結果、人が一緒に床下に潜らなくても、画像を見れば状況を判断できることが分かったため、「ロボット単体で、点検・薬剤散布できるシステムの研究を進めて欲しい」という要望が新たに提案されたという。
そこで平成19年度は、次世代ロボットを意識して安全性に配慮した設計で制作した。その結果、ミルボIIは30kg近くある重いロボットになってしまったそうだ。これでは、現場に運ぶのが大変で現実的ではないということで、3号機は15kgまで軽量化した。
このミルボIIIは、大阪の四天王寺の聖霊院で実証実験を行なった。床下の画像を外で操縦しているオペレータの元へ送ったり、薬剤散布のデモンストレーション等を実施した。ちなみに、ミルボ1号機の時は画像を有線で取得していたが、2・3号機は無線で行なっているという。
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平成19年、鎌倉宮にて、シロアリ防除ロボット「ミルボ」の実証実験
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平成19年、ミルボIIの開発。走行性能の向上、安全性に配慮した結果、重量が30kgになった
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平成19年、ミルボIII。軽量化と障害物走破の性能向上。大阪四天王寺で実証実験を実施
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土井氏は、シロアリ防除ロボットの研究開発の経験を活かし、今後は実際に消防署など現場で使える機材、商品化できるようなレスキュー資材の研究をしていきたいと抱負を語った。
■URL
レスキューシステム研究機構(IRS)
http://www.rescuesystem.org/
アサンテ
http://www.asante.co.jp/
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( 三月兎 )
2009/02/04 19:45
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