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「第2回感性価値創造シンポジウム ~ロボットに見る感性価値~」レポート


財団法人機械産業記念事業財団(TEPIA)会長 福川伸次氏
 1月27日、青山にあるTEPIA(機械産業記念館)にて「第2回感性価値創造シンポジウム~ロボットに見る感性価値~」が行なわれた。このシンポジウムは経済産業省と独立行政法人中小企業基盤整備機構が主催した「感性価値創造ミュージアム(会期1月23日~28日まで。会場はSPIRAL)」の一環として行なわれたもの。

 配布されたプログラム中のテキストによれば、感性価値とは「文化・伝統等に育まれて形成された『こだわり』『趣向』『遊び』『美意識』など、生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることにより顕在化する『ものづくり』における新しい価値軸として位置づけられる。」ものだとされている。平日にもかかわらず会場はほぼ満員で、この分野に対する興味の高さをうかがわせた。

 まずはじめに財団法人機械産業記念事業財団(TEPIA)会長の福川伸次氏が開会挨拶にて感性価値について紹介した。1人1人多様な価値観が共鳴して作り上げられていくものが感性価値であり、ロボットを通して感性価値がいかに創造されていくか見ることがこのシンポジウムの目的だと述べた。


ロボットと感性

東京大学先端科学技術研究センター教授 廣瀬通孝氏
 基調講演は東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏が行なった。技術はユニバーサルなものだが、感性は文化に依存するローカルなものだ。だが技術と文化の間には深い関係があるという。技術は文化に影響を与える。たとえばモータリゼーションが生み出した新しいライフスタイルはその一例だし、また、初詣の風習も昔からあったものではなく、明治時代以降に鉄道の普及によって神社に行くことが非常に容易になって生まれたものだという。逆ももある。文化は技術に影響を与える。機関車にしても飛行機にしても、どこの国のものなのかは知っている人にはすぐにわかる。つまり無国籍なはずの技術にもやはり文化が影響を与えているのである。日本に産業用ロボットが普及していることも、この一例ではないかという。

 「感性」という言葉が使われ始めたのは1990年代ごろからだ。当時言われていた感性情報とは、知識情報でないものであり、感覚的なもの、定量化が難しいものも技術に入れていこう、「もの」から「こころ」へという流れが、当時のブームのなかにはあったと広瀬氏は述べた。内閣府による調査によれば、昭和50年代(1975年)はもの派とこころ派が拮抗していたが、それが平成10年(1998年)くらいになると「こころ」が大事だという人が増えてくる。この流れは当分変わりそうにない。

 また近年、経済産業省は「コンテンツ」が大事だと言っている。これからのIT、インターネットはコンテンツ抜きには考えられない。繋がるだけで喜んだり、閲覧ソフトの競い合いの時代は終わりつつある。コンテンツとは意味論である、と廣瀬教授は語る。数字そのものには意味がない。たとえば「747」という数字には意味はない。だが飛行機マニアならただちに「ボーイング747」を連想する。


文化が技術に与える影響 こころの豊かさを求める時代へ これからのITはコンテンツ抜きには考えられない

 なかでもロボットは感性との接点が大きい技術である。ロボットは人型である必要はない。だが多くの人は人型を想像する。つまりロボットは感性を刺激する存在である。また知能ロボットは、ロボット自体が感性を持つことを要求される。もうひとつ、人間自体の能力をロボットは拡張するという側面もある。

 ロボットはどこまで人間に近づくのか。いわゆる「不気味の谷」問題だ。いっぽう産業用ロボットはまったく違う形で進化した。いまそれらは工場から家庭のなかや社会空間など日常空間に入り込みつつある。そのときに人間はどう反応するのか。これからは部屋全体がロボット化していくということもあるという。ロボットのなかに取り囲まれて暮らすことになると感性価値は重要になると考えられる。

 いっぽう、人が機械化していくというシナリオもある。目が悪い人がメガネをかけるように、機械は人間の能力を増強する。ウェアラブルコンピュータもある種のロボットだと見ることもできる。将来はそのようなロボットがライフログをずっと取ることも非現実的ではない。そうなったとときに我々の生活観はずいぶん変わるだろうという。これは鉄道が風習を変えたのと同じようなことで、鉄道が空間軸方向の技術であったのに対して時間軸方向の技術であると考えられると廣瀬氏は述べた。

 いま、いろいろなロボットが技術開発されて生活空間に入っていこうとしている。だがロボットが今後どう生活空間に入ってくるかはこれからだ。ロボット研究者は「数百万円であれば売れる」といったりするが、現在、数百万円で家庭に販売される製品は多くない。しかもテレビの場合には、「後ろ」に各放送局が作ったコンテンツがある。自動車も既にさまざまな旅や、そこに一緒に連れて行く人をどう誘うかなどなどが、楽しみとして文化になっている。これら「後ろ」にあるものがあって初めて製品は価値を持つ。そしてこれら「後ろ」にあるものは、明らかに感性に作用するものだ。ではロボットはどんなものを「後ろ」に備えることになるのか。これから、ロボットと感性はとても重要な話題になるとまとめた。


人に近づく機械としてのロボット 生活空間に入り込むロボット 能力拡張機械としてのロボット

ライフログ 時間軸方向の技術はライフスタイルを変えるか ロボットの後ろにはどんなコンテンツがありえるのか

パネルディスカッション

 続けて、パネルディスカッションが行なわれた。パネリストは、基調講演を行なった東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏、株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所代表取締役所長で科学ジャーナリスト赤池学氏、デザイナーで慶應義塾大学教授の山中俊治氏の3名。コーディネーターはジャーナリストで信州大学経営大学院 客員准教授の三神万里子氏。

 議論は残念ながらあまり噛み合っているとは言えなかった。各人の問題提起や意見を大きくまとめると、コーディネーターの三神万里子氏は「『感性工学』は日本がもともと持っている良いものを見直す良いきっかけになるのではないか。だが日本には自覚がない」と問題を提起し、もっとうまく日本の技術を売り出すべきだと述べた。

 廣瀬通孝氏は「単純な機能に意味をつけることで価値を上げること」に日本はようやく気がついた段階になったとし、さらにそれが物理的ハードウェアを失ってイメージだけの存在になると「ブランド」になるが、それだけで成り立つのか、これから壮大な実験が始まろうとしていると述べた。

 赤池学氏は「デザインの仕事は、ものづくりを構想すること、構築すること、演出していくこと。このそれぞれに感性価値がこもっている」と述べ、NEDO技術開発機構がまとめた次世代ロボットのロードマップを示した。次世代産業用ロボットだけではなく、レスキューロボットや農業用ロボットなど「フィールドロボット」分野に日本は注力して、これからの世界の課題――たとえば温暖化問題や生物多様性問題にチャレンジしていくべきなのではないか、そのような新規の機能を発揮することがロボットに期待される感性価値なのではないかと語った。特に「新しい感動や価値をもたらす」ものでなければならないという。逆にメディアで注目されることの多い「サービスロボット」の可能性については、ないかもしれないとし、特に介護福祉領域については「ロボットではなく人間がやることが自己実現ではないか、その時間を生み出すのがロボットなのではないか」と述べた。

 山中俊治氏は、まず「感性価値という言葉には違和感がある」とテーマに異論を示しつつも、日産時代の車のデザイン画や、そのほか工業製品、そして「morph3」や「Halluc 2」などロボットを含めたこれまでのデザインの仕事を紹介した。デザインはビジョンを呈示する行為であり、必ず先にスケッチがある、「こういうものがあるといいと思いませんか」というものを見せる作業から始まるという。

 設計においては単なるガワではなく機能から自然に生み出される機能美を追求している。一方で、いま家庭にロボットが入ってきてどう役に立つのと問われているが、そこに敢えて役に立たないものを作ってみることで、ロボットに対して人間が自分たちの心を投影していくことになる様子を先取りしてきて考える行為を続けてきたという。


ジャーナリスト、信州大学経営大学院 客員准教授 三神万里子氏 東京大学先端科学技術研究センター教授 廣瀬通孝氏

株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所代表取締役所長 科学ジャーナリスト赤池学氏 デザイナーで慶應義塾大学教授 山中俊治氏

 取りあえずパネル登壇の4者が合意していたところは、単なる外見のスタイリングだけでは無意味であり、また、機能や外見など、特定製品の特定の部分だけを切り出して考えるのは無価値であるということのようだった。ロボットといってもさまざまな定義があり、人によって考えているものが異なるが、少なくとも未来においてはスタンドアローンの単なる個体だけがポンといまの日常空間に置かれることはまずありえない。

 パネリストの1人、赤池氏は「粋」なものが残ると考えているという。粋とは何かというと、多様な世界観を簡明に表現したものだと述べた。「いま構想されているロボットは野暮な作り方をしている。粋な感性価値とロボットみたいなものを精査してくると、残るロボットはよりリアルに見えてくるのではないか」と語った。

 山中氏はさまざまなところにさりげなく、違和感なく溶け込むロボット技術が使われるようになるのではないかといった考え方を述べた。ただ、ロボットが個体である必要があるかどうかは分からないという。ロボットでなくてはならない部分といえば、身体的なやりとりやモノの移動、ボディタッチ、直接の行為を感覚を込めたインタラクションとして行なうものだ。それらがあちこちに存在するようなものがロボットの未来なのではないかと考えているという。

 そのほかパネルディスカッションでは、それらがグローバリゼーションのなかで普遍的価値を持つかといったテーマも多少議論されたが、ここでは割愛する。


感性価値創造ミュージアム

展示会場(SPIRAL)の様子
 なお表参道の「SPIRAL」にて1月23日~28日まで行なわれていた展示のほうでは、株式会社ゼットエムピーの自律移動するロボット音楽プレイヤー「miuro」、山中俊治氏がデザイナーとして関わった「Hallucigenia01」のほか、ルームシステム株式会社のチタン製カワラ、町田ひろ子アカデミーのOnglass(温ガラステーブル)、塩安漆器工房の「Something to Touch」、テルモ株式会社のインスリン注射用針「ナノパス33」、横浜ゴム株式会社と東大医学系研究科が共同開発した床ずれ防止車椅子用エアーセルクッション「Medi-Air」、株式会社ミクニの「ミスティガーデン」など、日本の優れた各種プロダクトが展示されていた。

 多くの展示物には直接触って感触を確かめることもでき、多くの来場者が手にとったり興味深そうに眺めていた。場所柄もあって来場者は比較的若い人たちが多かったようだ。


株式会社ゼットエムピー「miuro」 株式会社中野科学のステンレス酸化発色製品群(手前)と「Hallucigenia01」 塩安漆器工房の「Something to Touch」

ルームシステム株式会社のチタン製カワラ。超軽量 株式会社ミクニの「ミスティガーデン」。フィルターを立てて水を入れるだけで加湿ができる 横浜ゴム株式会社と東大医学系研究科が共同開発した床ずれ防止車椅子用エアーセルクッション「Medi-Air」

URL
  感性価値創造シンポジウム
  http://www.tepia.jp/kansei-sy08/
  感性価値創造ミュージアム
  http://www.kansei-kachi.com/
  【2005年12月10日】リーディング・エッジ・デザイン、プロトタイプ展“MOVE”を開催(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1210/led.htm

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( 森山和道 )
2009/01/28 16:27

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