9月13日、14日に大阪・日本橋のジョーシンJ&Pテクノランドにて、「2008KYOSHOアスレチクスヒューマノイドCUP公式記録会」が開催された。
KYOSHOアスレチクスヒューマノイドCUPは2006年に始まった。京商株式会社が発売する二足歩行ロボット「MANOI」のワンメイクレースだ。1年を通じて各地方で公式記録会を開催し、12月に東京でファイナルが開催する。記録会で出したタイムは、公式タイムと認定され京商のサイトに記録される。
今回、初めて大阪で開催され、関東や名古屋のMANOIファンとともに、韓国からの初参加者もあり、さながら「アジアカップ」といった様子である。会場には15体のMANOIが集まり、秋晴れの大阪でロボットによる陸上競技会を楽しんだ。
今回は、無線操縦と自律型のMANOIが5m、10m、20mのコースを走るアスリート競技を中心に、MANOIの外装デコレーションを競うコンクールド・エレガンスの選定やモーションの表現力を競うパフォーマンスクラスを実施した。
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2008KYOSHOアスレチクスヒューマノイドCUP公式記録会「アジアカップ」の参加者達
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軽妙なトークで競技を進行する岡本正行氏 (京商ロボットグループマネージャー)
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2008年度アシスタントの龍崎サヨさん
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競技会は、2体のMANOI PF01がダンスを披露してスタートした。曲は2008年10月に行なわれるイベント「ROBO_JAPAN 2008」のイメージソングで、アイドリング!!!の新曲「トキメキDREAMィング!!!」(11月発売予定)だ。CMにもMANOIのダンスが流れるそうだ。
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【動画】アイドリング!!!の新曲「トキメキDREAMィング!!!」(11月発売予定)に合わせて踊るMANOI
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競技前に店内アナウンスが流れ、見学者が集まってきていた
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大きなMANOIのパネルも展示。子ども達が記念撮影していた
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● 初心者も参加可能なロボットアスリート競技
司会の岡本氏によると、3年前に初めてMANOIで5m走を実施した時は、2分間の制限時間内にゴールできないロボットも多かったという。それが今では、トップクラスは10秒台でタイムを争うようになり、優勝するには9秒台をたたき出すことが期待されるようになった。
という話をすると、初心者がこれから競技に参加するのは難しいと思われるかもしれない。だが、MANOIのユーザーは「マノイ・ファンクラブ」を組織しており、情報交換が盛んに行なわれている。また京商のサイトにも「達人レポート」というコーナーがあり、優秀なロボットのモーションデータやセッティング情報が公開されている。そのため、ロボット初心者でも購入したキットを組立後、センパイユーザーのデータを参照すれば、ある程度のレベルに達することができる。
その良い例が、大会初出場で無線クラスの全競技で2位に入賞した「かけるくん」だ。オーナーの横畠氏は、ロボット初心者で2008年7月にMANOIを購入したばかりだ。横畠氏も、公開されている情報をフル活用して競技に挑んだという。
初参加の韓国チーム3名も健闘した。彼らは韓国でMANOIを販売するため、2008年7月に会社を設立したばかりだという。今回、アスレチクスヒューマノイドCUPに参加した目的は、もっとMANOIを知り、日本のユーザーと交流して自分たちの技術力をアップすることだという。
競技中も、レコードホルダーのGIY氏から色々とアドバイスを受けてロボットを調整したり、硬い床用の歩行モーションをコピーさせてもらったりしていた。
また、2008KYOSHOアスレチクスヒューマノイドCUPアシスタントの龍崎サヨさんも、MANOI公式アドバイザーを務めるGIY氏から「ミャノイ」を借りて5mに出走していた。
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調整室でMANOIの最終調整に余念のない参加者達
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レコードホルダーでMANOI公式アドバイザーを務めるGIY氏から、韓国の参加者達が熱心にアドバイスを受けていた
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龍崎さんは、GIY氏からミャノイを借りて5mに出場。操縦テクニックのアドバイスを真剣に聞いていた
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アスリート競技は、まず予選を行なう。予選は3回走って1番いいタイムを記録とする。もし制限時間内にゴールできなかった場合は、走行距離が記録となる。予選の上位10名が決勝戦に出場できるが、今回は最大の参加者が12名だったため、全員決勝まで出場できた。
タイムの計測は、「ARCシステム」というRCカーレースなどで採用されているシステムを使用している。ロボットの両足にトランスポンダを取り付け、ゴールラインを踏んだ時点でのタイムが1/100秒の精度で計測される。
この予選はロボットにとっては最終調整の場であり、予選記録は決勝レースの出走順を決定するものになる。もし、予選記録が決勝よりもよかったとしても、公式記録としては採用されない。
そのため予選で無茶をしてロボットを壊したり、サーボに負担を掛けすぎないようにすることや、バッテリの管理などもレースで好成績を残すために重要なポイントとなる。
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選手ロボットの両足にARCシステム用の発信機を取り付ける
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ゴールラインを踏むと1/100秒でタイムを計測。左右どちらの足がゴールしても大丈夫だ
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● 新記録更新が続く無線クラス
それでは、競技結果を報告しよう。13日の公式練習会から「全競技でレコードを塗り替える」と宣言していたGIY氏の「ミャノイ02」が、5m走の第1走行でいきなり9秒19を出した。自身が持っているワールドレコードの9秒01には僅かに及ばないが、素晴らしい走りで会場から感嘆の声が湧いた。
これがどのくらい速いかというと、第1走行に限って言えば2位の「かけるくん(横畠氏)」が22秒39で、2位のロボットがコースの1/3程のところにいる時、ミャノイ02はすでにゴールしているわけだ。他の参加者達も走る毎に記録を更新していくのだが、ミャノイ02の桁違いのスピードには及ばなかった。
ミャノイ02は決勝の3回目を9秒52で走り、これが今大会の記録となった。かけるくんはタイムにかなり波があったが、最終的に14秒18で2位になった。
なお、3位には龍崎サヨさんが操縦するミャノイが入賞した。予選はPSコントローラーで操縦していたが、途中でRCコントローラーに変えて16秒6という好記録を出した。
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【動画】5m走の予選第1回目。いきなり9秒19の記録をだしたミャノイ02(GIY氏、奥)。予選のため公式記録には残念ながらならなかった
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【動画】ミャノイ02は決勝3回目のチャレンジで9秒52を記録した
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【動画】龍崎サヨさんはミャノイ(右)を借りて5mに挑戦した
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10m走は、スタートから4.5m地点にあるコーンを回ってUターンし、ゴールまで5.5mを走り抜けなくてはならない。コーンの旋回をいかにスムースに行なうか、またUターン後はロボットと向き合って操縦しなければならないので、走りながら軌道を微調整したい時に左右を間違えやすいという点がポイントになる。
この競技もGIY氏のMANOI「ハッチャン」がダントツに速かった。予選では最速が27秒73でレコードタイムよりもコンマ2秒遅かったが、決勝の2回目で22秒14を叩きだし、文句なしで記録を塗り替えた。
他の参加者達も自分の予選記録を着実に更新していた。岩気裕司氏の「マノ美」は、スタートする前には「マノ美、ファイトぉ~!」と可愛い声で自分にカツを入れながら頑張った。予選の最高記録は2分1秒18だったが決勝では1分30秒93まで縮めた。
今大会でロボットの調整に1番苦労していたのは、「F325」のオーナー佐藤公彦氏だろう。佐藤氏は、歴代記録タイムのベスト10に名を連ねるユーザーだ。2008年4月26日に開催された2008年開幕戦では、歴代7位の記録となる5mで13秒25の記録を出している。10m、20mもそれぞれ歴代4位の記録を持っている実力者だ。
だが、今回は「何が悪いのか分からない」というほどの不調。走り出すと速いのだが、すぐに転んでしまい調子を掴めずにいた。しかし10mの決勝戦2回目の走行で、1分6秒42でゴールを決めると、コントロールを持った両手を大きく突き上げて喜びを表していた。
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【動画】10m走の決勝2回目。22秒14でレコードを更新するハッチャン(GIY氏)
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【動画】OLのコスプレをしたマノ美(岩気祐司氏)。走る前に可愛いモーションで気合いを入れ、レース中も自己紹介しながら走っていた
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20m走の予選ではハッチャンが1分6秒64で1位、かけるくんが2位の1分44秒20を記録した。GIY氏が20mのレコードを塗り替えるためには、予選タイムをあと8秒以上縮める必要があった。
そして決勝1回目の走行。ハッチャンは最初のコーンで転倒したものの10m地点まで24秒前後という好ペースで走ってきた。かなり好記録が期待される展開だったが、GIY氏はこのレースを10m走と勘違いしてそのままゴールしてしまった。このアクシデントにGIY氏はその場に崩れ落ち、場内からは落胆のため息が漏れた。それでも2回目の走行で、しっかり57秒59記録を出してレコードを更新するあたりがさすがGIY氏だ。
結局、GIY氏は3種目中2種目のレコードを塗り替えた。今回、更新できなかった5mは自身が現レコードホルダーなので、現時点では全種目をGIY氏が制覇していることになる。GIY氏はどれだけ速いタイムを出しても「次はもっと速く走ります。本当ならもっといい記録が出せるはず」と言い続けていた。競技の間も常に足裏が地面に着くタイミングや、上半身の姿勢などの微調整をして記録に挑んでいた。こうした貪欲とも言える姿勢が、彼の強さにつながっているのだろう。
一方、横畠氏のかけるくんも20mで1分33秒62と歴代3位に入る好記録を出した。実は、横畠氏はジョーシンの社員で、MANOIは個人的に購入したそうだ。大会に出場を決めたら「ジョーシンオフィシャル」の肩書がついてしまい、かなり緊張した初出場になったようだ。
購入したMANOIは足を4013サーボに換装済みのキットで、購入後に足裏をPF01のオプションに変更し、ジャイロセンサーと加速度センサーを搭載している。前述のように、横畠氏も京商サイトで公開されている「達人レポート」を参照し、モーションを少しずつ速くして競技に挑んだという。
初出場で全種目2位入賞という快挙を成し遂げた横畠氏は、「初心者でもトップクラスの人と競えるというのを伝えたかったので、今回の結果に満足しています」と、嬉しそうだった。
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【動画】20m走、決勝1回目。ハッチャン(GIY氏)は、新記録が期待されるスピードで快走していたが、勘違いして10mでゴールしてしまった。1コースかけるくん(横畠氏)のコーナーリングが見事
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【動画】決勝2回目。カーペットの段差をものともせず走り続けるハッチャン
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【動画】2回目の後半。20mで57秒59を出し、レコードを更新したハッチャン(右)。初出場のかけるくんは1分33秒62で2位と大健闘
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【動画】F325(佐藤公彦氏)とマノ美(岩気祐司氏)の20m走
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無線クラス5m走入賞者。左から2位のかけるくん(横畠武氏)、1のミャノイ02(GIY氏)、3位のミャノイ(龍崎サヨ氏)
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無線クラス10m走入賞者。左から2位のかけるくん(横畠武氏)、1位のハッチャン(GIY氏)、3位のF325(佐藤公彦氏)
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無線クラス20m走入賞者。左から3位のマノ美(岩気裕司氏)、1位のハッチャン(GIY氏)、2位のかけるくん(横畠武氏)
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● 超音波センサーを使い、コーナーにも自律でチャレンジ
自律クラスに出走したのは、「クォータニオン(南上勝也氏)」1体のみだった。クォータニオンは5mのワールドレコードホルダーで、13秒14の記録を持っている。これまではオペレータを兵頭和人氏が務めていたが、今回、兵頭氏はサポートに回っていた。
前回は、ロボットに搭載したジャイロセンサーで軌道のズレを蓄積し、修正しながら走行していた。だが、この方式ではコーナーを曲がることができない。そこで、新たに地磁気センサーと超音波センサーを使ったシステムで全競技にチャレンジした。
旋回の必要がない5m走では、地磁気センサーがどのくらいズレているのかを確認するために、ロボットを単体で走らせていた。結果、予選1回目の28秒97が最速で、決勝では29秒92を出した。
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【動画】地磁気センサーで5mに挑戦するクォータニオン(南上勝也氏)。29秒92を出して学生記録を更新した
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クォータニオンは頭部に全方向から超音波を集めるアンテナを取り付けている
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3方向から超音波を発信してクォータニオンを誘導するビーコン
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クォータニオンのマイコン。秋葉原でMANOIのボディにぴったり入るケースを探し、MANOIのCPUボードと自律用ボードを納めている
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クォータニオンの頭部。自律用センサー関係はトータルで3万円ほどで揃えたという
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10mと20mでは、コース上に3つのビーコンを設置し、超音波を発してロボットを誘導した。ロボットの頭頂部には、銅板で作った全方位アンテナがセットされて、ビーコンからの信号をキャッチする。軌道がズレるとサイドステップで補正をしながら走っていた。
岡本氏によると、これまで自律クラス10m、20mに出走していたロボットは、オペレータがマーカを持ちロボットを誘導して走行していたという。クォータニオンのように周囲の環境を完全に自律で認識し、コーナーを曲がるというのは初チャレンジということで、ゴールへの期待が大きかった。
だが、やはり自律でコーナーを回るのは難しい。地磁気センサーは周囲の影響を受けやすく、例えば厚い鉄板があるだけでもセンサーが反応してしまうのだという。そもそも、ロボットに使われているサーボも磁場を発生しているのだから、誤動作が多いのも致し方ないのかもしれない。
クォータニオンもコーナーに辿りついてもそのまま直進してしまったり、半回転した後に迷走を始めたり、Uターンしたもののゴールへ向かう途中で客席方向に走りだしたりと苦労していた。
予選10mの1回目、20mの1回目、10mの2回目ではコーナーリングに苦戦し、20mの2回目はコーンを過ぎた地点でキレイに方向転回し、「いよいよUターンが成功するか!」と場内の期待を集めたところで、バッテリの充電切れで崩れ落ちてしまった。
このときは直線の走行もズレが少なくスムースだったため、記録的にも期待できただけに残念度がかなり高かった。それでも、次はターンが成功するという感触に司会の岡本氏をはじめ、観客が盛り上がった。
そしていよいよ10m予選の3回目。コーンを通り過ぎたクォータニオンは、フィールド内ギリギリで旋回して方向を変えると、Uターンしてゴールを目指した。少し回り過ぎてしまった分を、コース上でサイドステップを踏んで調整するとイッキにゴールした。
その後、10m決勝の1回目で自己記録を更新し、最終的に1分15秒47でワールドレコードを更新した。
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【動画】ビーコンに誘導されながら自律で10m走に挑戦するクォータニオン(南上勝也氏)
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【動画】ビーコンから送られてくる信号を検知できずに、コーンに気づかずに直進してしまった
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【動画】かなり大回りしたもののUターンできたのだが、コース途中で客席の方へ歩きだしてしまった
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【動画】初めてのターン成功!! と思いきや、バッテリ切れでダウン……
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【動画】10m予選3回目、クォータニオンが初めて自律でターンに成功した
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【動画】クォータニオン(南上勝也氏)は、10m決勝1回目で1分15秒47を記録した
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今後は、ビーコンの台数を4台に増やし、超音波センサーの精度をアップして確実にターンできるように改良していくという。ロボットの足にもPSDセンサーを搭載し、コーンを左右どちらから回り込んだのか判断できるようにするなど、自律性を強化していくという。
クォータニオンの歩行はかなり安定しており、カーペットの段差も問題なく歩いている。センサー環境を整えれば、記録をもっと縮めることはもちろん、20mの完走も可能だという。次回のチャレンジにも期待したい。
● がんばれ!! 阪神タイガース「パフォーマンスクラス」
競技開始前に行なわれたMANOIの外装を競うコンクールド・エレガンスは、審査員を龍崎サヨさんが務めた。彼女が選んだのは阪神ファンのコスプレをした「銀角type T(津崎幸廣氏)」だった。「T」はもちろんタイガースの頭文字だ。
銀角type Tはパフォーマンスクラスにも出場。マジックが点灯している阪神を応援するというテーマで、三三七拍子を行なった。銀角type Tの隣ではアスリートに出場していた「ラッキースター」がエールを送った。
また、会場では2008年9月末発売予定のMANOI AT01用アルミ・フレーム「YOSHIMURAアルミ脚」が公開された。既存のボディマウントがそのまま取り付けられるようになっているため、改造をせずに換装できる。サーボホーン/フリーホーンを使うようになっており、KRS-4013やKRS-4014といったハイトルクのサーボ用にアルミ製のホーンを取り付けることも可能だという。限定商品のため、購入希望者は早めにショップへ問い合わせした方がよさそうだ。
また、MANOI AT用の新しい外装、女性タイプボディ「タイプF」も公開されていた。
今年の「KYOSHOアスレチクスヒューマノイドCUP 2008ファイナル」は、12月6日(土)、7日(日)にお台場のTOYOTAのテーマパーク「メガウェブ」で開催が決定した。それまでの間に公式記録会も開かれるという。まだまだ記録が更新されそうで楽しみである。
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龍崎さんがコンクールド・エレガンスを決定。阪神のコスプレをした銀角type T(津崎幸廣氏)が選ばれた
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【動画】パフォーマンスクラス。阪神の帽子をかぶり3・3・7拍子でエールを送る銀角type T(津崎幸廣氏)
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MANOIの原型は上半身フレームに僅かに残るのみのマノイオー(柳琢也氏)。ここまで改造しているMANOIも珍しい
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MANOI AT01用アルミ・フレーム「YOSHIMURAアルミ脚」。イトーレイネツ社の吉村氏の設計
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新発売のMANOI AT用女性タイプボディ「タイプF」
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競技の合間には体験コーナーを実施し、見学者がMANOIシリーズの操縦を楽しんだ
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■URL
京商株式会社
http://www.kyosho.com/jpn/
MANOI公式ページ
http://www.kyosho.com/jpn/products/robot/index.html
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( 三月兎 )
2008/09/17 17:02
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