9月11日(木)~13日(土)の日程で、自由が丘にある「Gallery Casa Tana」にて「時間展 ~空間から時間へ新しいデザインの発想~」が行なわれている。主催はインタラクションデザインの研究を行なっている慶應義塾大学 安村通晃研究室。毎年恒例の学生研究によるプロトタイプ展示会だ。
今年の「時間展」のテーマは「時間の使いやすさ」。「『製品としてよい』ということだけではなく、『その製品は、ユーザの生活時間をどう使うか』という視点から、新しい使いやすさを目指した」展示が行なわれている。
展示の一部を簡単に紹介する。なおここで触れたもの以外にもパネル展示などがあることを付け加えておく。
まずは「待ち時間」に関するものから。待ち時間は主観的なもので、状況によって、楽しかったりイライラしたり、逆に有効に使えたりする隙間時間だ。「Dancingo(ダンシンゴ)」は赤信号による待ち時間を楽しくすることを狙ったデバイス。人が待っているマークの赤信号のなかで人が踊っている。踊りは待っている間に踊りが好きな人が踊って、それをキャプチャすることで使用する、というもの。
「CastOven」は、扉に動画を提示する電子レンジ。実際に扉部分にディスプレイが内蔵されていて、電子レンジとしても使える。電子レンジで1分あたためを選択すると、1分間の動画を表示する。コンビニやスーパーなどで広告やチラシを提示するデバイスとして面白いかもしれない。あるいは、たとえば、まだ売り出し中の若手のお笑い芸人やアイドル動画を出す、といったものであれば、好きな人は見るかもしれないし、実際に提携することも可能かもしれない。
「CooClock」は、砂時計をイメージしたというデバイス。カメラで映像を撮影し、それを球状のオブジェクトに貼り付け、砂時計のメタファーで落としていく。残念ながら砂時計にはまだ見えない。
「HappyPrinter」は、写真を印刷する間の待ち時間を演出するプリンタ。特に高画質の写真を印刷するときに、「サンダーバード」風にプリンタの扉が開き、赤絨毯をイメージした紙受けが開き、灯りがついて、印刷されて出てくる写真そのものを演出する。そこまでやるなら、いっそのこと部屋全体の機器をコントロールして盛り上げてもらいたいような気もする。
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「Dancingo」
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【動画】赤信号が踊っている
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【動画】踊りのシルエットを使う
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【動画】「CastOven」
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「CooClock」
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「HappyPrinter」
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「金計り」は身の回りのもの、たとえば時給などを金と時間に置き換える。いまこの瞬間に使われている(計算になる)大学の学費や軍事費や、身近な人たちの時給や、移動する場所ごとの税金などが表示されたら面白いかもしれない。
「PhotoLoop」は、写真を見ている時間を他者と共有するためのデバイス。スライドショーされる写真を見ながら、あれこれ呟いた内容を、次に見た人がナレーションとして楽しむ。たとえば、家族写真を大勢で見て、その様子を単身赴任のお父さんに送る、といった使い方が考えられる。同じ時間・空間にいない人たちとの時間の共有を目指したものだ。
「AutoEnikki」は、日常空間に置かれた定点観測カメラから、面白いと思われるものや賑わっている雰囲気などを掴むためのもの。カメラ画像から差分を抜き出し、その差分から背景と人間の画像を生成。それをさらに重ねて合成画像を作ることで異なった時間に起きた出来事を1枚の画像にまとめる。そのとき、音量が大きかったものを前のほうに持ってくることで、盛り上がったイベントを見逃さないようにしているという。研究室のようなある程度閉じられたコミュニティで使われることを前提としている。
「みんなのズーミング年表」は、ズームアップしたりズームバックすることでタイムスケールを変えられる年表。年表にズーミングを入れたものは意外とないのだという。
「kaleido Calendar」は、文字の並び方や大きさを任意に変更できるカレンダー。1日の重み付けは人によって異なる。それを大きさを変えたりすることで視覚化するものだ。できれば自動的に変えてもらいたいようにも思う。
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「金計り」
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いろいろなものを表示すると面白いかもしれない
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「PhotoLoop」
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「AutoEnikki」
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みんなのズーミング年表
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「kaleido Calendar」
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「時算機」は、自分のスケジュールを管理するための時間計算ソフトウェア。時間管理が苦手な人は必ずいるものだ。アナログ時計のメタファを用い、朝飯を食って家を出て学校に着くまでといった日常のルーチンワークにかかる時間などを順計算したり、逆計算させたりできる。あるタスクにどのくらいの時間がかかるかはユーザーが自分で設定し、それぞれのタスクも自分で設定する。それをドラッグアンドドロップして計算させる仕組みだ。iPhoneのような携帯デバイスに搭載されたら意外と面白いかもしれない。また幼児にスケジュール管理という概念を教えるための教育用ツールあるいはソフトウェアとしての可能性もあるように思えた。
「ブクマストリーム」は、はてなブックマークのデータを使って、一定期間に流行したウェブページを、年や月、日単位でランキングして見ることができる。タグの流行も追える。だが問題は、ソーシャルブックマークでの流行と、インターネットや社会全体の流行は異なっていることだ。またソーシャルブックマークごとに雰囲気も異なる。いっそのこと、それぞれの雰囲気の違いが可視化できると面白いかもしれない。
地図を見ながらあれこれ想像する時間は楽しい。「アシアト地図」は、三次元世界の二次元表現である地図に、さらに時間の概念を付け加えようとしたもの。ユーザーが、自分のしたい行動あるいはした行動の軌跡などを簡単に書き込むことで、地図を見る楽しさを広げたいという。
「時缶」は音が引き出す記憶や思い出の効果をねらった音楽プレーヤーである。ICタグのついた何か思い出の品を入れると、缶から当時の流行歌などが流れる。
「豊穣記」は巻物を広げてかざすと、ある時代からの映像が流れて思い出を振り返る手助けになるというもの。お年寄りから話を聞くときの手助けとしてだけではなく、たとえば披露宴の出し物ビデオの下準備などにも使えるかもしれない。将来的には明るいイベントだけを出したりと、出す映像をコントロールできるようにすることも狙っているという。また、見ているその日に関わる映像を選択的に映し出したり強調したりする機能も欲しいように思った。
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「ブクマストリーム」
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「時算機」
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タスク、それにかかる時間はユーザーが設定
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「suGATALOG」は服選びを助けるアプリケーション。服を選ぶときに姿見用ミラー横のカメラで姿を撮影。その後はタッチパネルでボトムスとトップスを選び、その組み合わせを楽しむことができる。服だけのコーディネートシステムとは違って、自分自身のシルエットを使って比較できることが特徴だ。またトップスの長さは調節ボタンで調節できるため、実際に着たときの様子をほぼ再現できる。服選びの時間短縮に使えるかもしれない。
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「suGATALOG」
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suGATALOGの使用イメージ
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ギャラリー内の様子
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「時間」の特徴は、流れるものであり、履歴があるということだ。Aという事象の前には必ずその前があり、後がある。大げさに言えばその前後による歴史性のようなものを捉えなければ、ある特定のイベントだけ抜き出しても「時間」をうまく捉えたことにはならない。そして、時間の「流れ」は人間の認識によって初めて生まれるものだということも忘れてはならないことだろう。
また、現代人には時間が不足していると言われているが、本当に足らないものは、実は「時間」ではなく、「ゆとり」というべきものではなかろうか。ある製品を送り出すことは、人の時間を奪うことになる。だがたとえ「時間」を奪っても、逆に「ゆとり」を与えられるプロダクトもあるはずだ。これはロボットのようなまだカテゴリーも用途も定かではない、これから生み出される全く新しいプロダクトの場合は特に意識すべきことではないかと思われる。
「時間展」の開場時間は11:00~18:00(12日のみ19:00まで)。入場無料。また既に終わっているものもあるが、展示だけではなく下記の日程でトークショーも行なわれている。
9月11日 (木)14:00 ~ 15:30
ゲスト: 貴山 敬 (NPO 田舎時間代表)
ゲスト: 山本 貴代 (博報堂生活総合研究所)
ホスト: 安村 通晃 (慶應義塾大学環境情報学部)
9月12日 (金)14:00 ~ 15:30
ゲスト: 織田 一朗 (時の研究家)
ホスト: 安村 通晃 (慶應義塾大学環境情報学部)
9月13日 (土)14:00 ~ 15:30
ゲスト: 佐藤 雅彦 (東京芸術大学 & 慶應大学客員教授)
ホスト: 安村 通晃 (慶應義塾大学環境情報学部)
■URL
時間展
http://jikan-ten.jp/
安村研究室
http://ylab.sfc.keio.ac.jp/
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( 森山和道 )
2008/09/12 13:26
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