慶應義塾大学安村通晃研究室が主催、お茶の水女子大学椎尾一郎研究室が共催する、インタラクションデザイン研究の展示「カフェ展」が、3月14日~17日までの日程で開催されている。会場は渋谷の「Gallery LE DE´CO」(東京都渋谷区渋谷3-16-3 ルデコビル)。入場は無料。
これまで安村研究室では、「家展」、「電車展」というかたちで、同研究室によるインタラクションデザイン研究を一般公開してきた。「家」はパーソナルスペース、「電車」は公共空間である。そこで今回は、両者の中間に存在する半公共的な空間「カフェ」を、研究展示のテーマ/スペースとした。
展示は9点。主に若い学生たちによる研究展示が多いことが特徴だ。それぞれ紹介する。
4年生の里見佑太氏による「Light Separator(ライトセパレーター)」は、テーブルの縁にライトチューブを配したデバイス。静かにお茶を飲みたいとき、あるいは友達と楽しく話をしたいとき、人がカフェを訪れる目的はさまざまだ。ライトセパレーターは、ライトの色でその時々に応じたゾーン分けを提供する。
ユーザーにRFIDを入れたカードを持たせてタッチさせることで、そのテーブルの色を変えることもできる。こうして、話をしたい人たちがいるゾーンと、静かに過ごしたい人たちのゾーンが自然に別れることを期待したアプリケーションである。喫煙席と禁煙席のようなものだが、固定された形ではなく、時々に応じて変わっていく形にしたかったのだという。大学の学生食堂など大きな食事スペース向きアプリケーションかもしれない。
修士課程1年の高石悦史氏による「Caffe MacchiARTo(カフェ・マキ“アート”)」は、お絵かきツール。薄いコーヒーを筆に吸い込ませた筆で絵を描くような感覚で、落書きする。落書きは保存してメールしたり印刷もできる。待ち合わせのちょっとした時間や暇つぶしのアプリケーションだ。
「コーヒーで書く」というコンセプトなので、一度書いた絵を部分的を消すことはできないが、それがなかなか良い味を出す。
修士課程1年の久保美奈子氏による「Fashion Editor」は、カフェに来るお洒落な人たちの服装を参考にするためのアプリケーション。ミラーに仕込まれたカメラで来客の画像を撮影し、その写真をブラウズ。気に入ったものをピックアップしてテンプレートにあてはめることで雑誌のようなものを作る、というもの。
特定地域のストリートでお洒落な人の立ち姿を撮影したページが掲載されたファッション雑誌があるが、あれを特定のカフェのような場所でできないかと考えたものだという。
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「Light Separator(ライトセパレーター)」。色でしたいことに近いテーブルを示す。カードをかざすとライトチューブの色が変わる
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【動画】「Caffe MacchiARTo(カフェ・マキ“アート”)」落書きツール
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「Fashion Editor」
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修士課程1年の杉野碧氏、4年生の岩渕絵里子氏による「歌うカフェ」は、カフェグッズを動かすことでさまざまなBGMや効果音が鳴るというもの。たとえば砂糖を入れようとすると、効果音が鳴る。容器の傾きを、中に仕込んだスイッチで検知して音を鳴らしている。また机を叩くと振動を検知してやはりまた効果音が鳴る。
容器を置き場所から外すとBGMが鳴り始めるので、これを使っていると容器を決まった場所に戻すクセができるかもしれない。そういう意味では、カフェよりはむしろ、子どもにおもちゃを片づけさせるためのアプリケーションとして応用ができるかもしれない。
修士課程1年の辻田眸氏による「SyncCafe」は、テーブル間のゆるやかなコミュニケーションを目指したツール。ランプの明るさがテーブル間同士で同期する。
もともとは遠距離恋愛を支援する目的で開発したアプリケーションを、カフェでのテーブル間コミュニケーションにあてはめたものだ。しかし、よく知り合った間柄で使うものを、多少の繋がりはあるにしても、赤の他人同士を繋ぐアプリケーションとするのは無理がありすぎるようにも思う。お互いに他人同士なのだが、強制的に知り合いにさせる、たとえば新歓パーティやお見合いパーティのような場であれば、話のネタとして有効かもしれない。
安村研研究員の境賢太郎氏による「ニュースSaucer」は、RFIDを裏面に貼り付けたソーサーをテーブルに仕込んだリーダーに置くことで、情報を提示するアプリケーション。ソーサーはそれぞれ、スポーツやビジネス、あるいは地域情報などの種類があらかじめ割り振られている。例えば、スポーツのソーサーでコーヒーを注文すると、スポーツ情報が提示されるというわけだ。似たようなRFIDの使い方は多いが、やはり分かりやすいアプリケーションではある。
情報は現在はRSSを表示しているが、地図やカレンダー、タグ付けられた写真など、いろいろ考えられそうではある。しかしあまり多くの情報を提示するよりは、限られた情報量のほうがぼんやりと眺めるぶんには良いのかもしれない。
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「歌うカフェ」。テーブル上のものを動かすと楽しい音楽が鳴る
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「SyncCafe」
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「ニュースSaucer」
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4年生の吉田諒氏による「紙らんぷろ」は、紙に印刷された情報と、プロジェクターから投影される動画情報とを融合したランプ。手軽な電子ペーパーといったところだろうか。
紙だけではなく動画が投影されているとそちらに視線が引きつけられるし、同時に紙に印字された文字も読んでしまう。展示のようにカウンター上で何となく眺めるのには適しているかもしれない。もっとも、プロジェクターの設置スペースが問題だが。
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紙らんぷろ
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印刷メディアとプロジェクションを融合したもの
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このほか、カフェにて即興でプレゼンを行なう「サロンでギロン」と、店員がマウスを引きずって歩くことで位置情報を取得する「しっぽマウス」の展示が行なわれているのだが、前者はシステムが動いておらず、後者は同じ日程で開催されている情報処理学会の「インタラクション2007」に出品されていて見ることができなかった。
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カフェ展の様子
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カフェに来る目的は人によってさまざまではある。だが全体的に今回は、カフェという場所にあまり寄り添っていない研究展示が多く、筆者個人は正直言って、ややとまどいを感じた。情報を提示するような形の展示はあまり多くなく、何かを共有しようとするタイプのアプリケーションのほうが多かったのは、最近の流行なのだろうか。
カフェは、一定の興味関心ベクトルを共有する人々が集うサロンのような役割も果たすし、ビジネスの打ち合わせの場所でもある。いっぽう、もちろん、ごくごく親しい人と和む場所でもあり、1人でゆったりとくつろぐ場所でもある。行きつけの店もあれば、ふらっとたまたまドアをくぐった店もあるだろう。ランチを食べるためだけに入ることもある。店員や店そのものとの距離感も、人によって異なる。
いっぽう、企業内の休憩スペースを、これまでの喫煙スペースから、カフェのような喫茶スペースへと変える試みも進みつつある。たとえばコクヨの「ナレッジダイナ」シリーズは、「食」をテーマにしたコミュニケーション空間の提案である。ゆるやかに人が交差する場所を作るこのような試みは、今後も広がっていくものと思われる。
そのような「場」を、どのように快適かつ居心地の良い空間にするか。IT、RTともに、これまでとは違うアプローチや考え方を必要としているのかもしれない。そう感じた。
■URL
カフェ展
http://cafe-ten.net/
慶應義塾大学 安村通晃研究室
http://www.hi.sfc.keio.ac.jp/
お茶の水女子大学 椎尾一郎研究室
http://lab.siio.jp/
【2003年12月25日】ポストGUIの可能性を探る~慶應義塾大学安村研究室探訪記(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1225/kyokai19.htm
【2003年2月7日】空気ペン? 紙リモコン? 技術と知恵が必要な「日用品コンピューティング」への道(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0207/kyokai02.htm
( 森山和道 )
2007/03/16 20:40
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