2月15日(金)~17(日)の日程で、インタラクションデザインの研究を行なっている慶應義塾大学 安村研究室による一般向け研究展示イベント「おしゃれ展 ~私をキレイにするユビキタス」が「ギャラリー・リスティ青山」にて行なわれた。2004年度の「家展」から始まり、「電車展」(2005年度)、「カフェ展」(2006年度)と続いた一連の研究発表で主に学生達によるインターフェイス、インタラクション・デザイン関連の提案がデモ展示されている。
今回のテーマは「おしゃれ」ということで、主に衣服をまとうことやショッピングなどアパレル関連の研究や、女性に対して実施したヒアリング調査の結果が展示されていた。簡単に写真と動画で展示物をご紹介する。
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会場の「ギャラリー・リスティ青山」
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女子学生62人に行なったおしゃれに関する調査の結果。ファッション代は月平均19,100円程度らしい
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「Graffi-T」は、普通はコンピュータ上で行なうTシャツデザインを、より直感的に自然な状態で行なおうとしたもの。トルソに着せてみないと実際に着てみたときにどんなふうに見えるか分からないからだという。ユーザーは赤外線の反射板になっている指輪を着用して空中で指を動かす。その様子を赤外線カメラで撮影・認識して、絵柄を投影させている。
指で絵の具を押し広げるような感覚で絵を描ける。一から絵を描くのは難しそうだが、ある程度できあがった写真や絵にエフェクトを加えたりするには面白いかもしれない。
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「Graffi-T」
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【動画】絵を描く様子
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指輪をつける
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「語ルアレイ」は、中にWiiリモコンを仕込んだトレーニング機器。上げ下ろしに応じて「もっと頑張れ」と声をかけてくれるというもの。残念ながら取材の折りには動いてなかったが、タイミングは意外と良く拾ってくれるという。ただ実際に使うときにどこにウェイトを仕込むかは今後の課題だそうだ。
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「語ルアレイ」
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中にWiiリモコンが仕込まれている
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「足うた」は、足取りや靴に応じて音楽を鳴らすもの。靴のなかにWiiリモコンが仕込まれていて、Bluetooth接続したPCから音が出る。子どもにうけそうだ。
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【動画】「足うた」
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「足うた」の靴の裏側
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「おねだリスト」はプレゼントを贈る人ともらう人との間のコミュニケーションツールがコンセプト。欲しいモノがある人は店頭で商品を選び、それをRFIDやカメラを使って登録・自動的にカタログ化することで、送り手がプレゼントを選びやすくする。Amazonの「ウィッシュリスト」のようなものだ。RFIDリーダーはSFC徳田研究室とガラスメーカーとの共同開発。
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「おねだリスト」
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選んだ商品をもとにカタログを作ってくれる
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RFIDリーダー
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「しゃべりカスβ」はウェアラブル関連、ライフログ関連研究の一つ。音声認識を使って、認識した言葉が、胸につけたディスプレイのなかで降り積もっていく。認識結果に応じて、話している内容・ジャンルなどを色分類できれば、降り積もった様を見るだけでどんなトークをしていたかだいたい分かるというもの。
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「しゃべりカスβ」
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【動画】音声認識した結果が降り積もっていく。認識精度そのものはまだ厳しい
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実際に着用した状態
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「suGATALOG」は、服選びを支援するアプリケーション。毎日出かける前に自分の姿を撮影し、カレンダーインターフェイスでその姿を一覧することができる。また、そのときに会う予定の人をタグ情報として追加することで、以前選んだ格好とあまりかぶらないようにしたり、高評価だった服装をリコメンドしてくれるというもの。
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「suGATALOG」
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カレンダー上で着ていた服を一覧表示
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友達リストから会った人を登録して記録していく
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今日会う人に着ていた服のリストや評価が高かった服を表示
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「iDrobe」は、RFIDを使ったアプリケーションの一つで、選んだ商品をベースに、別の関連商品をリコメンドしてくれるもの。取材時には残念ながら動いていなかった。
「ミラフィット」は撮影した画像からシルエットを切り出し比較することで、体型変化を気づかせるというもの。風呂上がりなどに撮影することを想定しているそうだ。
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「iDrobe」
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「ミラフィット」
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会場ではトークショーも実施された。初日には博報堂生活総合研究所生活発見グループ上席研究員 山本貴代氏と慶應義塾大学 安村通晃教授との対談が行なわれた。
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慶應義塾大学 安村通晃教授
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博報堂生活総合研究所生活発見グループ上席研究員 山本貴代氏
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安村教授は、「日本が世界に誇れるものといえば料理、ゲーム、アニメ、長寿、温泉、自然環境、そしておしゃれだ」と述べ、いっぽう、もっとがんばる必要があるのは政治、外交、住環境、コンピュータ、大学、地方経済、女性の地位だと挙げた。
栄養状態と健康の大幅な向上、化粧品やアパレルの技術向上、美意識、品質に対するこだわり、などによって日本の女性は非常に美しくなった。いまの女性たちは平均でもファッションモデルに近い体型をしているという。
安村教授は、おしゃれに対して7つの疑問を持ったという。おしゃれな人ほどおしゃれになるのか、それと可処分所得や時間の関係、おしゃれはセンスや才能なのか、それとも学習や訓練で得られるものなのか、おしゃれは誰のためにしているのか(異性、同性、仲間、自分)、性的アピールとの関連、衣服のスタイルと人の性格は一致するのか、ブランド品がもてはやされる理由、ファッションジャンルの体系的分類や座標軸はありえるのか、といったことだ。
山本貴代氏は、東京都内で大手企業に勤めている女性300人ほどとメールを使って情報をやりとりしており、そのなかでおしゃれに関して色々議論をしているそうだ。これまでの女性のライフプランはパックツアー的人生から、フリープランのような人生になったという。女性は人生を楽しむようになり、生涯現役願望を持つようになった。いまや(2005年)、30代前半未婚率は男性47.5%、女性32.6%になっている。
「おばさん」のイメージも変化しつつある。昔「オバタリアン」と呼ばれていたような女性は相対的に減り、女性は年齢にこだわらずさまざまな服装を身にまとうようになり、長寿化に伴い女性たちは「美」に脅迫されている、そうだ。
このほか山本氏は女性は年齢によって欲望が変化するといった話題や、実際の女性のライフスタイルの模様などを室内を撮影した写真などを使って具体的に紹介した。現代の20代、30代は非常にブランドに興味があり、バブル世代の人たちよりも高いブランド意識があるという。また、バブル崩壊後も、女性は欲しいと思うものは結局買っていると見られるそうだ。
いまの女性は「過去の自分」や「隣の人よりもちょっとだけ良い」という「比較級の幸せ」を目指し始めている、という。そのためファッションといってもアパレルだけではなく、テーブルマナーや立ち振る舞いなど、内面のおしゃれを目指していると述べた。「現代人は肉体や頭を使う機会が減った反動に手ごたえがある生活を求めている」と述べ「手ごたえある消費が幸福感を呼ぶ」と語った。また山本氏は今回の研究展示のなかにはツメを使ったものはなかったが「ツメの先には情報が集まっている」と述べ、ツメを使ったアプリケーションの可能性を探ることを提案した。
「おしゃれ」と「IT」が今後どのように発展するのかよく分からないが、ITが人間により密接に近づくことを志向するならば、より深いレベルのアプリケーションが必要とされるだろう。一言で「おしゃれ」といってもアパレルだけではなく、嗅覚に訴える香水や、肌触りに訴えるものもある。もっと曖昧な居心地の良さも「おしゃれ」という言葉は包含している。人の琴線に触れるようなアプリケーションとは、どんなものになるのだろうか。
将来は「おしゃれなロボット」も生まれるのだろうか?
■URL
おしゃれ展 ~私をキレイにするユビキタス
http://oshare-ten.jp/
慶應義塾大学安村研究室
http://ylab.sfc.keio.ac.jp/
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・ インタラクションデザイン研究の展示会「カフェ展」開催中(2007/03/16)
( 森山和道 )
2008/02/19 17:51
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