6月26日(木)、27日(金)、28日(土)の3日間、北九州市小倉北区の西日本総合展示場新館において、ロボット産業マッチングフェア北九州が開催された。
ロボット産業マッチングフェアは、北九州市を中心としたロボットに関係した企業・研究機関が集まって開かれる展示会だ。
以前はロボット産業マッチングフェア単独で開催されていたが、前回からは西日本総合機械展の一部として行なわれるようになり、今回は「ふくおか産業技術振興展」「福岡ナノテクNOW2008」「アジア産業交流フェア2008」と共に「第48回西日本総合機械展」の一部として行なわれた。
今回のロボット産業マッチングフェアには北九州市を中心する25団体が出展していた。
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会場の西日本総合展示場新館
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西日本総合機械展のポスター
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会場内部
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● 部屋の片づけを行なうSmartPal
ロボット産業マッチングフェアで毎回注目を集めるのは、地元北九州市の安川電機だ。今回、安川電機はサービスロボット・SmartPal Vを使った、「部屋の中の片付け」デモを披露した。
デモには2台のSmartPal Vが登場。手がグローブ状のSmartPal V(女性の合成音声を使用)が案内役を務め、指を持つSmartPal V(こちらは男性の合成音声を使用)が部屋の片づけのデモを行なった。
散らかった部屋にSmartPal Vが登場し、人間からの「ぬいぐるみを片付けてよ」の言葉の後で、SmartPalは行動を開始。小さなぬいぐるみをつかんで棚に置き、台をモップで拭いてから、大きなぬいぐるみを台の上に置いた。最後に掃除機で床を掃除してデモは終わりとなった。
一般人がサービスロボットに期待する最大のことの1つは「命令するだけで家事を代わりにやってくれる」であり、部屋の片付けと掃除をロボットがやってくれる今回のデモは、ある意味でそれを実現したものだと言える。
ただし、安川電機の松熊研司氏に話をお聞きしたところ、展示会用のデモとしての演出の部分もあるようだ。
まずSmartPal自身は発話はしているが、人間の声は全く聞き取っておらず、人間の命令を聞いて動き出したわけではない(演出として、SmartPalが動き出す前にセリフを入れている)。
また画像機能は使っておらず、床に置かれたぬいぐるみをSmartPalは見ていない。ぬいぐるみはランダムに置かれているように見えて、あくまでも決まった位置に置かれている。
SmartPalは、予めぬいぐるみが置かれている場所とだいたいの大きさの情報を与えられており、距離センサーで壁や台との距離を測って自分がどこにいるのか判断し、ぬいぐるみの存在している場所を掴んでいる。なお、ぬいぐるみを掴んだかどうかは手のサーボモーターにかかる負荷の違いから判断しているそうだ。
4月1日、2日に北九州市八幡東区のイノベーションギャラリーで、SmartPalのデモを披露した時は「床の物を拾って台に置く」だけだったので、今回のデモはそれから相当の進化を遂げている。やはり人の間で働くサービスロボットとして、SmartPalは最先端を行っているロボットの1つであることは間違いない。
これからのSmartPal の計画についても話をお聞きしたが、次のSmartPal VIでは画像機能を使い、実際にぬいぐるみなどを自分で発見できるようにしたいとのこと。
ただ、人間の音声認識に関しては「難しい」ようで、一案として携帯電話からのメールでの指令も考えられるかもしれないと語っていた。
今後のSmartPalの発展が期待される。
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安川電機のブース
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床にランダムに置かれているように見えるが、実は決められた場所に置かれている。なお、絵本は人が拾っていた
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SmartPal V登場。右のSmartPalが部屋の片付けデモを担当
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腰を曲げてぬいぐるみを拾う
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もう片方の手でパンダを拾う。両手にぬいぐるみを持っていることに注目
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棚にぬいぐるみを置く
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モップを受け取るSmartPal
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棚を拭くSmartPal
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腰を曲げて低い棚も掃除する
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大きなパンダは両腕で
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平たい亀もつかんでいる
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亀の位置を直すSmartPal。ただし、SmartPalが自律的に判断しているのではなく、予めプログラミングされた動きだ
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掃除機をかけるSmartPal
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掃除機をつかんでいるのがわかる。掃除機は市販のものだが、つかむとスイッチが入るように改造してあるとのこと
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SmartPal Vのパネル
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● 価格100万円の下水道管検査ロボット
ロボットの実用化という点で注目すべきは、石川鉄工所が開発した下水道管検査ロボット「もぐりんこ200」だろう。
石川鉄工所は地元北九州市の会社で、1935年5月に創業した歴史のある機械メーカーだ。その石川鉄工所が開発したロボットが「もぐりんこ200」だ。
もぐりんこ200は下水道管内を自走して、その内部を撮影するロボットだ。自走するためのハの字型クローラー(実用新案出願中)、下水道管内を照らし出すライト、そして下水道管内を撮影する防水型ビデオカメラを搭載している。
だが、もぐりんこ200の最大の特徴は「それだけしかない」ということだろう。下水道管の検査といえば「超音波を使って下水道管の内部の損傷状態を調査する」みたいなことが想像されるが、それだと高額なロボットになってしまい、実用化からは遠ざかる。
もぐりんこ200は機能を徹底的に絞り、「堅牢さ・使いやすさ・安さ」を実現し、製品化にこぎつけたロボットなのだ。
価格は本体が約100万円で、リアルタイムで動画の見られるオプションパーツなどをつけた場合でも「合計で150万円まではいかない」とのことだった。
ロボットの実用化ということに関して、もぐりんこ200は1つの例を示しているように思われる。
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石川鉄工所のブース
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もぐりんこ軍団。末尾の数字は管径を表し、管の中央にカメラが来るようになっている
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正面から見たところ。下水道管内部を移動するためにクローラーが「ハの字」型についている
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ライトが光るとこんな感じ
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こんな風に下水道管内の撮影をする
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管内のもぐりんこ。カメラは中央に来ている
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もぐりんこのコントローラー。とにかくシンプル
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最後部にはワイヤーをひっかけるリングがある。ここを引っ張ると、動力が停止すると同時にクローラーのロックが外れる。緊急時にはこれを使って、人力でもぐりんこを引っ張り出すことができる
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もぐりんこの内部のビデオカメラ。基本的には後でビデオカメラのSDカードを回収して下水道管内の映像を再生する
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● 意外なところからの参入
ロボット産業マッチングフェアでは意外な会社が出展していることがある。今回、気になったのはネオフレックスという会社だ。
ネオフレックスは、電線を中に入れて保護するケーブル保護管や、物体に穴を開けて電線を通す場所に取り付けて電線を保護するグロメットなど、電線を保護するための部品を製造している会社だ。
一見、ロボット自体と関係はないように見えるが、早稲田大学のWABIANやテムザックのT-53援竜にネオフレックスのケーブル保護管が使われているそうだ。
今回、ネオフレックスのブースには、ケーブル保護管のついた小型二足歩行ロボットが飾られていた。そのケーブル保護管は今回のマッチングフェア用に試験的に作ってみたのだそうで、「できればホビー用や教育用ロボットの電線保護に使ってもらいたい」と語っていた。
意外なところからの参入で、ロボット産業マッチングフェアならではの出展と言えるだろう。
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ネオフレックスのケーブル保護管。真ん中の黒い保護管がT-53援竜に使われたものと同型なのだそうだ
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ネオフレックスのブースに飾られていた二足歩行ロボット「NEO」。ただし、あまり歩けないらしい
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今回、試験的に製作されたホビーロボット用のケーブル保護管。NEOに使われているものと同じもの
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● ロボットコンテストの勇者たち
今回のマッチングフェアは、特別企画としてロボットコンテストで優秀な成績を収めた地元チームのデモンストレーションも行なわれた。
NHKロボコンで見事に優勝した北九州高専「あばうたぁ~ず」は、優勝機体を会場で披露。そのスピードで観客を驚かせていた。
ROBO-CUPジャパンオープン2008大会中型リーグで優勝したHibikino-Musashiは、北九州市若松区の学術研究都市「ひびきの」の合同チームだ。ただ、中国・蘇州で開催される世界大会に向けて機体を搬送してしまったため、ビデオと旧型機体でのチーム紹介を行なっていた。
九州共立大学と九州ロボット練習会は、第13回ROBO-ONEで重量級ベスト8位に入ったHAUSERと決勝トーナメントに進んだ九共大ーZEROが参加。サッカーボールのパス回しと、レーザー光線銃シューティングゲーム「Blaser」のデモを披露した。
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九州工業大学大学院石井研究室の蛇型ロボット「サーペント」
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北九州市立大学ゴドレール研究室のアクチュエーターモデル。ワイヤーをねじることで動力を発生させ、歯車を使っていないのでスイッチを切ると、手で自由に動かせるようになる
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北九州市立大学山本研究室の飛行観測ロボット。奥のラジコンヘリとビデオ撮影システムを組み合わせて使う
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九州共立大学製作のBlaser専用二足歩行ロボット。ただし、受光部の位置が低すぎると相手のレーザーが当たらないため、試行錯誤中のようだ
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木原鉄工所の金属製ロボットハンド。現在は手の開閉ができるだけのようだ。将来に期待
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特別な技能を持つ「北九州マイスター」に関する展示会も行われていた
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北九州高専「あばうたぁ~ず」のNHKロボコン優勝ロボット。猛スピードで暴れまくっていた
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ROBO-CUPジャパンオープン大会で優勝したHibikino-Musashiは、新型機体を世界大会に向けて搬送してしまったため、旧機体を使っての説明となった
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サッカーボールのパスを行っていた九州共立大学と九州ロボット練習会のデモ
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オマケ。1年ぶりに福岡県工業技術センターの「くるめっとくん」が九州ロボット練習会ブースに襲来! 今度の相手はHAUSERだ!
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オマケ。HAUSERは短時間ながら、後ろ向きでくるめっとくんを押し返すことに成功
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オマケ。マッチングフェアならではの2ショットだろう
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ロボット産業マッチングフェア北九州は、北九州市最大のロボット展示会であると同時に、異なる企業・研究者が一同に集まって刺激を与えていく場でもある。続けられていけば、確実に北部九州のロボットのレベルは上がっていくだろう。
■URL
西日本総合機械展
http://www.convention-a.jp/kikai/
西日本産業貿易コンベンション協会
http://www.convention-a.jp/
北九州ロボットフォーラム
http://robotics.ksrp.or.jp/robotforum/
北九州産業学術推進機構
http://www.ksrp.or.jp/fais/
安川電機
http://www.yaskawa.co.jp/
石川鉄工所
http://www.iiw.co.jp/
ネオフレックス
http://www.neoflex.co.jp/
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( 大林憲司 )
2008/07/10 00:15
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