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公開フォーラム「ヒューマトロニクス ― 安心感の獲得をめざして、人工物と人間の関わりかたを探る―」レポート
~自動車技術展 人とくるまのテクノロジー2008にて


 5月23日、パシフィコ横浜にて開催されていた「自動車技術展 人とくるまのテクノロジー2008」内にて公開フォーラム「ヒューマトロニクス ―安心感の獲得をめざして、人工物と人間の関わりかたを探る―」が開催された。企画は社団法人自動車技術会エレクトロニクス部門委員会とマルチメディア部門委員会。日本知能情報ファジイ学会、計測自動制御学会、ヒューマンインターフェイス学会が協賛している。


本田技術研究所 主任研究員 川合誠氏
 自動車技術会によれば「ヒューマトロニクス」とは、「人と自動車のよりよい相互作用を実現する電子技術」。ハードウェアの安全度向上だけでは実現できない「安心感を獲得する技術」のことだとされている。いわゆる「安全」と「安心」が別物であることは、昨今さまざまな側面で言われるようになってきたが、自動車やロボットにおいてもそれは同様で、単なる技術だけでは実現しにくい「安心感」や、「機械、人間、場の望ましい関係性」の実現を、トヨタ「i-REAL」や日産「PIVO2」を具現化の題材としながら議論する場として、この講演会は企画されたという。講演会にはトヨタ「i-REAL」の実車も登場した。

 はじめに本田技術研究所 主任研究員の川合誠氏は、開会の挨拶として「安全と安心感はちょっと違う。安心感について、人と機械の関係性を考えられるようにしてみたい。人と機械が安心感を持てる場とはどういうものか。人とクルマのインタラクションを考えるお手本は、人と人のインタラクション。講師と会場のインタラクションを期待する」と挨拶を述べた。


「アクチュアル・インターフェイス・デザイン」とは

 まず始めに「場の工学技術」の研究を行なっている早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻教授の三輪敬之氏、同じく共創インターフェイスを専門とする専任講師の上杉繁氏が講演した。

 安心の場を生み出すためには場のデザインが必要となる。では場とは何か。場とは、無意識のうちに体が現場のなかに身をおくことで直接感じてしまう何かのことで、その過程を外から表現するのは難しく、自分自身が場の形成過程のなかに身をおく必要がある。これが「場」の問題を工学技術に持っていくことを難しくしている。

 少なくとも「安心」は、自分自身が存在する場における心の問題である。逆に不安感は、自分を場のなかに位置づけられないことによって生じ、自身の存在を場に位置づけ、表現することが安心に繋がるのではないかという。

 モノの技術の設計論はあるが、「コト」の世界、存在論的な技術の設計論は未確立である。「安全」というと技術のロジックを人間に持ち込むことになるが、「安心」は逆に人間のロジックを、技術に持ち込んで考える必要がある。「安心」には、「こうあってほしいなあ」という人間の願いが込められているという。

 では、「安心」のシナリオが描けるような車とはどうあるべきか。いまの自動車は機能あるいは性能を向上させることで安全の実用化が進められている。だがなかなか安心の十分条件には至らない。ではどうすればいいのか。三輪教授は、「包まれ包む」、主客(自他)非分離技術が必要だという。


 主客あるいは自他非分離とはなんだろうか。人間とコミュニケーションシステムは、意味を共有するシステムにはなっていないという。自分と切り離された記号を送りあっているからだ。だからお互いに意味を読み取れないことがある。また遠隔地間のコミュニケーションでは、お互いが共通の場に存在しているインタラクションがないため、意味の取り違えが起きる。

 三輪教授は、清水博氏の「自己の2領域モデル」が有効なのではないかという。生卵を割ると黄身と白身がある。黄身が「自己中心的領域」で、白身が「場所的領域」だ。この二つを組み合わせることで、新しいコミュニケーション・システムが実現できるのではないかという。

 離れた場所間で人々の存在を共通の場に位置づける技術、コンテクストの共創出の例として、三輪教授は同研究室による、「存在表現」として影を使ったシステムをプレゼンテーションした。人間は、影があるとそこに気配や存在感を感じることができる。別の空間にいる人間の存在を影をプロジェクションすることで提示すると、人間は他者の影に身体と同じくらいの存在感を感じて、コミュニケーションをとることができるという。実際に、ビデオを使ったテレビ会議、シルエットを使った会議、影を使った会議を比較すると、影の場合は、あたかもお互いにその場にいるかのようなコミュニケーションや動きの同調が見られたと示した。これは、「記号を送りあう」ことと、「場の共存」を実現した例だという。

 人間が、ある場に置いてある間合いをとるということは、身体を通じて状況をセンシングし、「少し先の未来の無意識的な予測」を行なうことだと考えられるという。その過程を通じて自己や他者の存在を位置づけし、外に対する表現を実行し、新たな場の創出を行ない、また少し先を予測する。これを繰り返す。例えばサッカーのパスまわしのように、一歩先の情報をみんなで予測しながら、みんながうまく自分の表現を一致させることがうまい場作りであり、一歩先の状況予測が「場」だという。


 人間にとって、意識にのぼるよりも少し前の時間が重要であることは、脳科学からもある程度、支持する実験がある。意識にのぼるよりも少し前の時間が重要で、そこで「場」を感じるのではないか、相手が何をしようとしているのか読む時間が重要だという。よって、「場」をいかにセンシングするかが今後の技術においては重要になる。ちょっと先の未来を人間はキャッチしているとすれば、センシング技術を、人間が無意識で行なっている予測の領域まで拡大することが必要であり、異なるロジックである「安心」と「安全」の統合が重要だと述べた。

 同・創造理工学部 総合機械工学科の上杉繁氏は、道具と身体の一体感、そして拡張感の問題をきっかけとして、主に人間の身体感覚とインターフェイス技術の接点に関して述べた。まず自動車との関係ということで運転時の車幅感覚の例を出し、自動車の幅を自分の身体の一部のように扱うときの自分と自動車の一体感、拡張感はどういう仕組みでおきているのかと問いかけた。

 上杉氏によれば道具は二種類に分けられるという。通常の行為を直接対象に伝える道具と、行為を間接的に表現する道具(ゲームやキーボードなど)だ。働きも2通りある。ひとつは行為の機能支援、もうひとつが道具と身体の一体感・拡張感だ。とくに後者が今回の講演のテーマである。

 上杉氏は、道具と身体の一体感に関する認知心理学・脳科学に関する現在の知見を、光を使った視覚刺激と振動を使った触覚刺激を同時に与えるとその感覚が道具のあるなしで変化する「交叉感覚種消去」と呼ばれる実験や、サルの脳活動計測を使って、脳の受容野が道具のあるなしで活動を変化させる実験結果などを示した。


 このような感覚の変化は物理的な道具だけではなく、映像を使った仮想的な道具でおいても起こることが知られている。上杉氏は自身の研究室で開発された中華テーブルのような道具と投影画像を使ったインターフェイス例をビデオで紹介した。回転するディスクテーブルを回すとあたかも自分が相手の空間に行ったような感じがしたり、ふれているような感じがするようにしたものだ。また仮想の道具を想定し、持ち手だけは実物体だが、先端をテーブル上に投影した仮想的な映像で表現すると、手は短い棒を持っているだけなのに、遠隔の模型などをあたかも実際に触れているかのような感じがするという実験結果が出たという。

 ではこのような道具で何ができるのだろうか。道具と身体が一体すると、身体の先まで感覚も拡張し、空間にまで自分の存在が広がる、それが道具と身体のインタラクションで生まれるのではないかという。

 また上杉氏は「リアリティ(実在性)」と「アクチュアリティ(現実性)」の関係についても触れた。物体の存在感ではなく、自分がまさにそこに関わっているという感覚が現実性だ。離人神経症では現実性が感じられないのだが、それが道具の拡張感にも関わっているのではないかという。道具によって身体を拡張する場合も、単なる機能支援だけではなく、道具を使うことで身体と空間の関係が強まり、インタラクションが深まる「アクチュアル・インターフェイス・デザイン」が重要なのではないかと述べた。


トヨタのパーソナルモビリティ「i-REAL」

トヨタ自動車株式会社 車両技術本部 統合システム開発部第4開発室主幹、商品開発本部レクサスセンター製品企画 主幹 森田真氏
 トヨタ自動車株式会社 車両技術本部 統合システム開発部第4開発室主幹、商品開発本部レクサスセンター製品企画 主幹の森田真氏は、トヨタのパーソナルモビリティ「i-REAL」について実車を使いながら講演した。

 「i-REAL」は「第40回東京モーターショー」でお披露目された一人乗りの電気自動車である。日常、一人の人が自由に動けるものを作りたいと考えたのが当初のコンセプトだという。2003年「第37回東京モーターショウ」で発表された「PM」、2004年末に発表された「i-unit」、2005年の「i-SWING」を経て、昨年の東京モーターショーからはコンセプトモデルではなく「スタディモデル」になっている。オートバイなどと比較すると、移動に特化したものではなく、移動しながらある程度、たとえば音楽を聴くなど、「ながらができる」ものとして想定されているという。

 世の中に出すためには社会に溶け込まなければならない。そのために大きさや操作形、安全性、そしてコミュニケーション能力などを煮詰めている段階だという。

 「i-REAL」は全てバイワイヤーで操作され、また前輪は独立に上下する。車体は曲がるときには傾斜するが、これもドライバーが操作によって行なっているのではない。「アクティブリーン」という仕組みを使って、自分で調節している。また急停止するときにもドライブコントローラが自動的に指令を出して車輪を操作している。


 「i-REAL」は、「動くこと」と「情報」を連鎖させて新しい出会いに繋げたい、というのもコンセプトになっている。情報を得て人が動く、そういう機能を実現したいという。そのために左手にはディスプレイを装備し、すれちがった人の情報や、近くに知らないお店があったら知らせてくれる。

 また、大きな特徴が歩行モードと走行モードという2つのモードを持っていることだ。歩行者に対しては強者になるが、通常の車に対しては弱者になる。そのためにさまざまな工夫がされている。歩行者から見てi-REALの動きが分かるようにするために、背面ディスプレイで進行方向を提示。また、ある程度ぶつかっても大丈夫なように接触しやすい場所にはウレタン素材を使用。そのなかには圧力センサーがあり、ぐっと荷重がかかると停止する。

 車に対しては自分の存在をアピールすると同時に、被衝突検知機能を持つ。i-REALはレーザーレーダを使って、おおよそ5mくらいの範囲を見ている。障害物の接近距離に応じて音で搭乗者に教える機能を持つ。なお移動速度は、歩行モードは車椅子に合わせて時速6km、走行モードは原付にあわせて30km程度を想定している。また環境負荷にも配慮しているという。

 i-REALはアクティブリーンを使って、車体全体を、いつも重心が搭乗者のお尻の下に来るように調整している。そのために操作系においても、ジョイスティックを前に倒すとアクセル、引くとブレーキとなっている。また、緊急時にぎゅっとレバーを握ってもブレーキが効くように、ボタン部分もブレーキになっている。

 クルマの技術開発はできたが実用化させるためには街づくりが重要となる。例えばどこを走るのかといった問題だ。クルマの開発だけではなく使う人と一緒に議論をしてやっていきたいと考えていると述べた。

 なお、価格に関しては、まだ積み上げでどのくらいかかるかの検討もされてない段階だという。同じくトヨタの倒立2輪ロボット「モビロ」との比較に対しては、スタートポイントが違うという。i-REALはメインは走行モードで一般ユーザーがターゲット、「モビロ」は自立支援がターゲットでゆっくり動くことが前提とされているからだ。しかしながら要素技術には共通する点も多いため、将来、合体することはあり得るという。


【動画】歩行モードで登場するi-REAL 【動画】i-REALの変形と走行の様子 【動画】歩行モードでは人と目線が合う高さ

【動画】アクティブリーンのデモ。お尻の下に常に重心があるように車体をコントロール 【動画】走行モードで旋回。車体の傾きは車両が自分でコントロールする i-REALの情報コミュニケーション技術

周囲への存在提示技術 i-REALのヒューマトロニクス ドライブコントローラー

ロボットとエンタテインメント

シンガポール国立大学インタラクティブディジタルメディア研究所所長 中津良平氏
 2008年4月からはシンガポール国立大学インタラクティブディジタルメディア研究所所長を務めている中津良平氏は「ロボットとエンタテインメント―ロボットが与える精神的安心―」と題して講演した。

 中津氏は、もともとは音声処理の研究者だ。それがなぜロボットやエンターテイメントコンピューティングに興味を持つにいたったのか。クルマはもともとデザインが意味を持っていたが、通信の世界ではそれはあまり意識されていなかった、という。しかしながらコミュニケーションとなると、デザインやアートも必要、だとすればロボット系が面白そうと考え、ロボットを使った研究を行なっているという。また同氏はニルバーナテクノロジーというベンチャー企業でもロボット関連の事業を展開していた。

 これまでのクルマは「安全」が大事なキーワードだったが、今回のフォーラムでは「安心」を掲げている。安全の先にある安心を求めたり、技術の先にアートや文化を求めるのは世界的なトレンドだという。エンターテイメントは単なる遊びで時間の浪費だと言われてきた。技術者はモノを作るのが本分であり、エンタテイメントは違うというわけだ。だが人々は時間の浪費だと言われながらもエンタテイメントを求めてきた。エンタテイメントは精神的な豊かさに関わっているからだ。

 技術者たちはこれまで物質的な豊かさを実現するのに大いに寄与してきた。クルマも第一義は移動手段だったし、家電製品そのほかも、本来の用途がある。だが21世紀に入り、だんだん、技術者に対しても精神的豊かさを人々は求め始めている。ロボットもそのなかの一つだという。


 日本はロボット開発に熱心だ。だが「なぜロボットなのか」ということに対してあまり議論がされていないと中津氏は語った。しかしそれは大変重要なことだという。日本は物質的な豊かさは既に実現してしまった。世界からも既に日本へはゲームやアニメ、漫画など、文化的な側面が期待されつつある。

 CGキャラクターはゲーム、アニメーションなどで重要な役割を果たしている。しかし、CGキャラクターには身体がない。ロボットは身体、身体性を備えている。だからCGキャラクター以上の役割を果たす可能性があるという。ロボットを、CGキャラクターが身体性を持って現実空間に出てきたものだと捉えてみるとどうだろうかというのが中津氏の考えだ。

 私たちの生活は、種々の経験の連続と考えることができる。経験は、2種類に分けられる。精神的な経験と身体的な経験だ。身体的な経験が、我々の生活にリアリティや臨場感を与えている。現実空間で体を使うということが欠けている点が、現在のゲームの危うさだという。

 身体的経験とは声を出したり、スポーツをすることだ。これは爽快感に繋がる。精神的体験とは、本を読む、音楽を聴くといったことで、夢中になったり感動する没入感に繋がる。つまり感動と爽快感は別の感覚だという。しかしながら大かれ少なかれ全ての体験は両面を持っている。高いレベルで両者がうまく組み合わされると「総合的な体験」になり、カラオケ、演劇、演奏、彫刻、プロスポーツ観戦などがここに位置づけられるという。つまり、精神的な体験と身体的な体験が非常にバランスよくミックスされると、満足感に繋がるのではないかという。

 ではロボットは何ができるか? 3つのレベルがあるという。身体的外観、身体的コミュニケーション、身体的経験だ。中津氏は直前に行なわれたトヨタ「i-REAL」の講演について触れて、実物があることはスライドを見るのとはまったく違う、と指摘した。また、実際に乗る行為はインタラクションすることであり、臨場感を与えられる。そしてさらに、これまでにない新しい身体的経験を与えてくれるようになれば、世の中に受けいれらるのではないかという。


 たとえば携帯電話は、最初はビジネスが便利になるようなものとして想定されて開発され、市場に送り出された。しかしながら実際の今日のケータイの使い方は当初の技術者からすると嘆かわしいとさえ言えるくらい、思いもしなかった使い方をされているのが現状だという。さらに、従来のコミュニケーションとは違うリアルタイムのテキストメールのやりとりをケータイは実現した。これは、従来なかった身体的体験だった。

 ロボットにおいても、通信の世界に欠けている身体の臨場感、身体の仲介役をつとめられるのではないかと述べ、ロボットに衣装を着せたダンスや、ATR在籍時代のRobovieに関するジェスチャー実験などの様子を示した。

 ロボットは、ロボットができることで何を変えられるのか。まだそれは見えていない。ゲームやケータイは人々のライフスタイルを変えた。ロボットもライフスタイルを変えて、はじめて社会に入ってくるのではないか、という。だが、技術者が全部そこまでお膳立てするのは難しいかもしれない。携帯電話は、ビジネスコミュニケーションの道具ではなくむしろパーソナルコミュニケーションの道具として普及し、しかもリアルタイムでテキストをやりとりするという通信形態を消費者が選んだ。それと同様に、ロボットもいろいろなものを出して、消費者が使い方を考えるという方法もありえるかもしれないという。

 「技術というものは最終的に、これまでなかった体験を作り出すことで世の中に受け入れられる。市場に出して、一般の人に評価してもらい、新しい使い方を作り出してもらうという手もあるのではないか」と述べた。


「カーロボティクス」技術を投入した日産「PIVO2」

日産自動車株式会社 技術開発本部 先行車両開発部 主管 田部昌彦氏
 日産自動車株式会社 技術開発本部 先行車両開発部 主管の田部昌彦氏は「2007年東京モーターショー」に出展した「PIVO2」に関して講演した。「PIVO」は、軸という意味を持つ言葉である。その名前のとおり、中央に旋回軸をもち、キャビンが回転する車だ。PIVO2はその2代目である。PIVO2を開発するにあたって、PIVO1が「かわいい」と親しみをこめていわれていた点を伸ばすことにし、またキャビン回転によるバック不要という分かりやすい機能を、さらに拡張させたという。

 「PIVO2」は運転者がセンターに座る3人乗りの車で、コンセプトは「いつでもどこでも頼りになるパートナー」のような存在としての、人にも環境にもやさしい電動コミューター。運転で不満を感じるバックや駐車操作、乗降しやすさ、また不安を感じる狭い道でのすれ違いや事故リスク、疲労、経路案内に対して、ハードウェア、ソフトウェア技術でサポートすることを目指した。

 だが、クルマそのものが便利・安全になっても、クルマは最終的には人間が運転するものだ。人間がクルマを過信してもいけない。人間とクルマの関係をもっとよくするために、クルマをロボットに近づけるために「カーロボティクス」技術を導入した。これが今回のフォーラムでいう「ヒューマトロニクス」に近い、という。

 PIVO2は「メタモ・システム」と呼ばれる可変ジオメトリシャシー技術によって動くの自由度を拡大している。タイヤのなかにモーターをいれ、ステアリングもタイヤのなかにおさめられている。そのため、4つのタイヤがそれぞれ独自にステアリングが切れる。単純な例としてはキャビンとタイヤを真横に動かして、ごく簡単に縦列駐車ができる。

 特徴は、「ロボティック・インターフェイス」である。ボンネット部分にエージェント機能を持ったロボットが乗っている。自由に動ける車を、ロボットを介することで人間が自在に動かし、親しみが持てるようにした。

 重視したことはドライバーとの信頼感だという。ドライバーが不安に思っていることを解消したいと考えたのだそうだ。特に重要なのが事故だ。普通に運転していても事故の引き金はあちこちにある。ハンドルを握っているときに、いつもドライバがハッピーな気分であれば、クルマとの関係、ひいては周囲の関係も良くなると考えた。


 ロボットは、クビをふるだけの単純な動きでも愛着感は湧くそうだ。ロボットヘッドのなかにはカメラがあり、顔画像認識ができ、目、鼻、口の動きからドライバーの状態を推定する。たとえばまぶたが下がっているとか、眠くなっているといった状態を検知し、それぞれの状態に応じてロボットがドライバーに働きかける。発話音声からも状態推定を行なう。なおこのロボットにはNECの「PaPeRo」の技術が使われている。

 ソフトウェアエージェントにするかどうかは最後まで迷ったが、今回はモーターショーに出展する車だということも考慮して、実体のロボットを載せることにしたそうだ。例えば、昔の米国テレビシリーズ「ナイトライダー」に出てくるロボットカー「KNIGHT2000」のように、ドライバーとクルマが互いに信頼感を抱く関係が実現できているのであれば、LEDの光だけでもコミュニケーションはおそらく可能だという。

 興味深いことだが、ロボットが何もしないのに勝手に喋ったりするところが愛着を呼ぶようだという。今回は最初の試みなのでリアリティあるものをつけたが、最終的にはいらないかもしれないし、また、既にNECが検討しているように、ソフトウェア・エージェントとして例えばケータイやカーナビのなかにロボットが移動していくようになれば、人には手放せないものになるかもしれないと述べた。最終的には、ドライバーと車の1対1の関係だけではなく、交通全体の場をよくする技術開発が目標だという。


PIVO2 車両のコンセプト 動きの「進化」と存在の「親化」を軸に

PIVO1とPIVO2 各ユニットのレイアウト ロボットヘッドを搭載

ロボットによってドライバーの心理状態は良くなったという ロボットがドライバーの状態を推定 PIVO2のまとめ

ITS技術者と社会科学者との連携

鳥取環境大学大学院 鷲野翔一氏
 最後に鳥取環境大学大学院の鷲野翔一氏は「ITS技術者と社会科学者との連携によるITSの推進」と題して講演した。ITSとは、人と道路とクルマの間をITで繋いで快適で安全な運転環境の実現を目指す一連の技術である。

 最近、ITSは「セカンドステージ」に入った、と言われている。だが鷲野氏によれば実際の歴史を振り返るとITS研究は1980年以前から始まっているので、いまは「サードステージ」だという。ちなみにカーナビが本格的に実用化されたのは1990年くらいなので、カーナビも普及には時間がかかったことが分かる。

 ITSの開発分野はいくつかに分けられるが、盛んに研究開発が行なわれている安全運転支援もITSの一環として捉えられる。だが、安全運転支援技術はまだなかなか普及していないという。なぜか。その理由の一つに、人間に関わる問題が、どちらかというとなおざりにされてきたことがあるという。もっと心理学や社会科学的側面の研究をもっと進めなければならないと強調した。

 たとえば、安全運転支援システムを乗せると、人間はシステムに影響を受ける。しかもその影響は線形ではない。鷲野氏は燃費を減らすと事故率が減少したり、ドライバーレコーダーをつけると燃費が変わる例を示した。

 またマニュアル車とオートマ車の事故率を比較すると、出会い頭衝突や追突の事故率はオートマのほうが高い。ただし、正面衝突の事故率はどちらも変わらないのだという。このことは、システムを乗せると、人間の注意力が変化することを示しているのではないかという。鷲野氏はそれを「スペア容量モデル」で示した。オートマにのると、システムが運転を助けてくれるので、逆に他のことに注意が向くようになる。その結果、ヒューマンエラーが起きるのではないかという。


 車の事故の件数は、ある程度ポアソン分布で予測できる。ということは、自動車事故は起きる確率は低いものの、ある程度の件数は起こってしまう現象だということになる。事故は、運悪くいくつかの事柄が連鎖的に繋がってしまったときに起こる。

 人間は、期待される利得がもっとも大きくなるように、ある程度であれば、リスクをとる。こうしてリスクにホメオスタシス(恒常性)がはたらいて、ある一定の値からリスクの量は変化しない。このような考え方を「リスク・ホメオスタシス理論」という。便益とリスクの差を考えながら、便益が最大になるように人間は行動する。たとえば近道だと思えば、横断歩道まで回り道をせずにショートカットする人は多い。人間はどうしてそういう行動を取るのか。そのような人間行動の研究をしないと、なかなかITSのようなシステムの導入は進まないのではないかと述べた。


ITSの技術ステージ ITS導入の課題 ドライバーの安全に関する「スペア容量」

URL
  人とくるまのテクノロジー展2008
  http://www.jsae.or.jp/expo/

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~「人とくるまのテクノロジー展2008」内で開催(2008/05/23)



( 森山和道 )
2008/05/26 15:36

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