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「ロボカップジャパンオープン2008沼津」レポート~@ホームリーグ編


 静岡県沼津市にて、5月3日~5日の3日間にわたり「ロボカップジャパンオープン2008沼津」が開催された。主催はロボカップジャパンオープン2008沼津開催委員会、共催は社団法人 日本ロボット学会、社団法人 人工知能学会、社団法人 計測自動制御学会システムインテグレーション部門。

 本稿では、ジャパンオープンで初めて実施された@ホームについてレポートする。


「@ホームリーグ」とは

 ロボカップは「2050年までに、人間のサッカー世界チャンピオンチームに勝つロボットチームを作る」というわかりやすく夢のある目標を掲げている国際プロジェクトだ。サッカー競技だけではなく、人間社会に役立つロボット技術を育成するために、ロボカップレスキューという災害地でロボット技術を応用することを目指す競技も行なわれている。

 今回、新たに加わった@ホームリーグは、家庭の中で人とロボットがコミュニケーションをとって活動することを想定した競技だ。レスキューはあくまでも災害時を想定した競技で、人が入れないようなところでロボットを遠隔操縦で動かす技術を研究している。@ホームは、それよりももっと身近な日常生活の中で、人が自律型ロボットと共存する可能性を探るリーグとして生まれたのだ。

 2006年にブレーメンで開催された世界大会でエキシビションとして実施、2007年のアトランタ世界大会では15チームが参加して競技が行なわれた。@ホームリーグは、日本がもっとも得意としていそうな分野のはずなのに、これまで参加チームはなかった。各国の研究者からも「なぜ日本から参加者がいないのか?」と質問が出ていたという。そういった経緯を経て、本年度ロボカップジャパンオープンでは@ホームリーグを初開催し、2チームが参加した。


@ホームのステージ

 @ホームリーグは、家庭内を想定しリビングとキッチンの2部屋がモデルのステージで実施する。ステージサイズは4×9m。リビングは右端の奥が入り口になり、応接セット、本棚と壁型テレビ(競技進行を説明するモニターを兼ねている)が設置されている。またキッチンにはダイニングテーブル、カップボード、冷蔵庫が置かれ、リビングとキッチンは本棚と観葉植物で区切られている。出口はキッチンの左端奥だ。ちなみに入り口と出口にスウィング式のドアがあるが、ドアノブ等がないためドアの開閉は人が手伝っていた。

 人の日常生活は、さまざまな要素から成り立っているため、競技を行なうにあたり標準問題を設定し、一定のアプローチを行なうことが必要となる。国際ルールでは、予選に該当するファーストステージとオープンチャレンジ、セカンドステージ、そして決勝戦のファイナルと3つのステージが用意されている。各ステージ毎に成績を出し、上位チームが次のステージに出場できる仕組みだ。

 今大会では、初開催であることと参加が2チームであることを考慮し、ファーストステージとオープンチャレンジ、ファイナルのみを実施した。


@ホームのステージをリビング側から撮影 ステージのリビング側。右手奥が入り口になっている 中央に本棚と観葉植物、ベンチが置かれてキッチンとの仕切りになっている。左奥が出口だ

 ファーストステージには5つの課題があり、大会委員会はその中から4つの課題を選んで実施する。今回は1つ目が【Introduce】。ロボットがリビングの入り口から部屋に入ってきて、観客の前に進み自己紹介をして退場する。持ち時間は5分で登場から退場までが審査対象となる。

 2つ目は【Lost&Found】。ステージに10個程度の小物が用意され、その中から3つの品物を選び、それをロボットに探させるという競技だ。

 3つ目は【Who's Who】。 ロボットがステージ内にいる3人を見分けて挨拶する競技。既知の1人には「@@さん、こんにちは」と挨拶し、初対面の人には名前を尋ね、顔を覚える。その後、ロボットは出口で待機して、退出する人の名前を呼んで見送りをする。

 4つ目は【Fast Follow】。ロボットが入り口から出口まで、人の後を50cm程度の間隔をあけて追従していく競技だ。

 【オープンチャレンジ】と【ファイナル】は、それぞれのチームが自由にロボットの性能をアピールした。


音声認識と画像処理で全課題に挑戦した「eR@ser」

 チームeR@sers(イレーサーズ)は、玉川大学、電気通信大学、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の合同チームだ。それぞれが得意な技術を担当している。

 【オープンチャレンジ】では、「eR@ser」の画像認識処理と音声認識システムのデモンストレーションが実施された。「eR@ser」機能の特長を知っておくと、他の競技内容が楽しめるので、実施順とは異なるがこの競技から紹介する。

 チームeR@sersが特にアピールしたのは、「eR@ser」のその場で新しい物を見て名前を覚える機能だ。「eR@ser」のカメラの前にライオンのぬいぐるみを示して、「これの名前は“ライオン”」というように名前を伝えて、「eR@ser」に名前を記憶させることができる。

 従来の技術では、ロボットの内部辞書に“ライオン”という単語が登録されている場合にのみ、ロボットが発話ができた。だが「eR@ser」は、未登録語学習機能を持っており、自分が知っている言葉「これの名前は」の後にくる未登録語だけを認識し学習する。

 その際、「eR@ser」は発話者の音声をそのまま記録するのではなく、「eR@ser」の音声に変換して記憶し、発話する。そのため「eR@ser」に対して誰が物の名前を教えても、ちゃんと「eR@ser」の声で会話をすることができる。

 「eR@ser」は、初めてみた“ライオン”や“スリッパ”のように同じ色をしている小物を、形状を認識して記憶している。ロボットに物を認識させる場合、カメラが撮影した画像範囲内のどの物体を“ライオン”と理解させるのかが難しいという。チームeR@sersは、この問題をカメラの前で記憶させる物体を動かすことで解決している。これは、「注目すべき物体は同じ動きをするひとかたまりのものだ」という人間にとって自然な考え方をベースにした技術で、動きアテンションによる物体抽出技術という。「eR@ser」が画像認識している時に対象物を動かすと、その動きと3次元情報、色など複数の情報の同一性を計算し物体領域の抽出をしている。

 残念ながらオープンチャレンジでは、“ライオン”も“スリッパ”も「eR@ser」はスリッパと認識してしまった。エラーの理由を尋ねたところ、「eR@ser」が小物以外のところを画像認識していたらしい。そのため、ライオンもスリッパも同じものを覚えてしまい、名前が上書きされたようだ。「eR@ser」は、同じ物を2種類の名前で登録すると、データ検索時には早く見つけたものを答える仕様になっているため、両方とも“スリッパ”になってしまったものと考えられる。


カメラで見た映像のどの部分が“ライオン”なのかロボットに認識させるために、“ライオン”を動かす必要がある 【動画】「eR@ser」にライオンを見せて、名前を記憶させている

【動画】突然始まったダンス音楽の中でも、ちゃんと音声認識をしている。オペレータとは違う声で「eR@ser」が発話していることに注目してほしい 【動画】この時も、スリッパ以外のモノを認識していた訳だ。最初に覚えた“ライオン”も「スリッパ」になってしまった

 動画を見ていただければ判るように、会場内は周囲の音がとても響いている。隣でロボカップジュニアのダンスチャレンジが行なわれていたため、突然、音楽が鳴り始めたりもする。会場は、人間同士が会話していても聞き取りづらい状況だった。

 その中で、ロボットが音声認識を行なうのはかなりハードルが高い。「eR@ser」は、話者を事前に登録する必要がない不特定話者機能を有しており、チームeR@sersは、課題毎にオペレーターを交代して「eR@ser」に音声で指示を出し、音声認識システムの高さを示していた。この音声認識にはATRの音声認識システムATRASRを用いている。

 また天井には外光を取り入れる窓があるため、光の加減がめまぐるしく変わっていた。もちろん人には問題がないレベルだが、ロボットが画像認識を行なうには相当厳しい条件だったことを付記しておく。チームeR@sersの他のチャレンジの様子は下記の通りだ。

 【Lost & Found】で指定された小物(オブジェクト)は、赤い本、緑のウエットティッシュ、青いペン立ての3つだった。競技開始前に「eR@ser」に各小物を記憶させ、審査員が2つを床の上、1つをテーブルの上に置いた。オペレーターが合図すると、「eR@ser」が自律で部屋の中を動き回り小物を探し始めた。

 ステージ内の家具の配置等は、競技会場に来るまで公表されていない。そのため、競技開始前の事前の準備時間にコントローラーを使って、ロボットをステージ内でくまなく移動させて、家具の配置を覚えさせてからマップを作成している。「eR@ser」はボディの下部にあるスリットにLRF(レーザーレンジファインダー)を搭載しており、マップと照らし合わせて家具の位置を確認しながら自立で移動している。

 小物を探すには、頭にあたる部分のカメラを使っている。今回のチャレンジでは、残念ながら3つの小物を発見することはできなかった。だが、部屋の中央にある観葉植物の色を緑と認識し、確認のために近づいて「これは恐らく違います」と判断していた。この競技では、小物を発見したら1つにつき100点が与えられる。「eR@ser」のように色や形が一致していた場合は、半分の50点がポイントとなる。


【動画】【Lost & Found】。競技前に「eR@ser」へ小物を記憶させている 3つのうち2つは床の上に、一つはテーブルなどの上に審判が置く 【動画】「eR@ser」が自律でステージ内を動き回り、小物を探している

【動画】残念ながら、床にある青いペン立てを見つけることができなかった 【動画】観葉植物の緑を認識して、ウェットティッシュかどうか確認している。違うということを判定した

 【Who's Who】では、チームメンバー、観客、審判がステージ内にはいり、「eR@ser」が発見して回った。「eR@ser」は、ステージ内の空間だけを画像認識するように設定されているが、ステージの周囲に観客がずらりと並んでいるため、その前に立っている審判を発見するのは、難しかったようだ。

 控え室側に立っている2人は、発見して名前を尋ねることができた。人を発見すると「誰かを発見しました」と言いながら近づいて挨拶した後に、「あなたは誰ですか?」と名前を尋ね、顔を覚える。ステージ内の探索を終えると、自律で入り口まで移動し、人の退場を待つ体勢になる。3人がじゃんけんで退場する順番を決めて、「eR@ser」に顔を見せると、記憶した2人の名前をちゃんと認識して挨拶した。


【動画】【Who's Who】。「eR@ser」は人を発見すると、近づいていって挨拶をする 【動画】マイクに近づいて名前を教えてくれるように頼み、名前と顔を覚える 【動画】2人目は観客達の前に立っていたので、発見するのが難しかったようだ。練習ではこのポジションの人も見つけていたのだが……

【動画】観葉植物の影に立っていた人はちゃんと発見できた 【動画】ステージ内の検索が終わると、入り口で人を認識していることを実証した

 【Fast Follow】はロボットが人の後ろを追従する競技だ。ロボットが日常生活の中で人と共同作業をする時に、ポーターのように荷物を持って後をついてくるというのは必要な機能になるだろう。世界大会では、2チームが同時に入り口と出口から部屋に入り、途中ですれ違って部屋から出るが、今大会では1台ずつ競技が行なわれた。

 また、ゼッケン以外にマーカーとなるものを用意することがルールで認められているため、チームeR@sersは緑色のペットボトルをマーカーとして使用していた。ルートは競技開始時に伝えられる。今回は、リビングの壁に沿って移動してキッチンへ入り、ダイニングテーブルを一周して出口へ向かうルートだった。

 「eR@ser」はマーカーが離れすぎるとオペレーターに音声で注意を促し、自分から相手を探して追従し出口まで辿り着くことができた。


【動画】【Fast Follow】。「eR@ser」が緑のペットボトルをマーカーにして、人の後を追従していく 【動画】テーブルの周囲を1周し、指定されたドアから退場した

 最後に行なわれた【ファイナル】では、オープンチャレンジの時と小物を変えて「eR@ser」に物の名前を教えた。まず初めに“ライオン”“ペン立て”を教えて認識に成功。その後、ライオンによく似た“虎のぬいぐるみ”を追加して、“ライオン”と“虎のぬいぐるみ”の識別が出来ることを示した。


【動画】覚えたばかりの“ライオン”と“ペン立て”をちゃんと判別した 【動画】“ライオン”によく似た色と形状の“虎のぬいぐるみ”を見せて記憶させ、ちゃんと認識に成功

九州工業大学の「Ho-Ryu」

 「Ho-Ryu」を開発した九州工業大学のメンバーは、昨年までAIBOをプラットフォームとする四足ロボットリーグに出場していた。四足ロボットリーグは、AIBOの生産中止に伴い終了することになっているため、これまでの画像認識技術を活かして@ホームに出場することにしたという。

 ロボットは安川電機の製品がベース。タイヤはオムニホイールで、360度回転してロボットが方向を変えることができるため、家具を避けて狭いところで自在に動くのに適している。ボディのスリット部分にLRF(レーザーレンジファインダ)を搭載しているが、今回の競技ではまだ使用していない。そして画像センサで周囲の状況を認識している。ファーストステージの課題では、【Introduce】と【Fast Follow】に参加した。

 【Introduce】は、@ホームへの取り組みとチームメンバーの紹介をモニタと連動して「Ho-Ryu」が音声で説明したが、モニタの画像とロボットの音声がずれてしまったのが残念だった。しかし「Ho-Ryu」が自律でステージ中央へ登場し、挨拶して退場する移動は非常にスムースに実行していた。【Fast Follow】はA4の紙に赤と黄のマーカーを印刷にし、「Ho-Ryu」に見せて追従させていた。

 【オープンチャレンジ】と【ファイナル】は、今回は同じものを披露した。「Ho-Ryu」が自己位置認識をどのように処理しているのか、技術に関するプレゼンテーションを行なった。家の中にはさまざまな家具があるので、家具類はほぼ固定されているとしても、人はもちろん小物などは常に移動している。物の位置が変わった時に、それをどのように認識しているのかをマーカーを使いデモンストレーションした。

 今回の「Ho-Ryu」は画像認識を使って自律動作しているが、カメラはまだ1つしか使用していない。今後、4つのカメラを全て使うようになればステレオ視ができるようになり、画像認識の精度もあがって距離の認識も可能になる。将来的には画像認識でマーカーだけではなく、家具の木目なども認識できるようになるという。LRFセンサを組み合わせ優先順位を決めることで、実用化を高めていくそうだ。


【動画】九州工業大学「Ho-Ryu」の【Introduce】。入り口から自律でステージ中央に進み自己紹介を行なった 【動画】【Fast Follow】の競技はマーカーを画像認識し、追従した

【動画】「Ho-Ryu」のタイヤはオムニホイールなので、狭いところでもスムースに回転できる。画像認識はボディ上に載せたPCで処理 【動画】オープンチャレンジでは、画像認識による自己位置認識の技術について解説した

URL
  ロボカップジャパンオープン2008
  http://robocup-numazu.com/

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( 三月兎 )
2008/05/19 11:07

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