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総務省、近未来交通情報システムの実証実験を公開
~実現すれば世の中のSF度数が確実に上がる8種の技術


実証実験用の車輌内の様子
 25日、26日の2日間に渡り、神奈川県の三浦海岸に近い研究都市の横須賀リサーチパーク(YRP)で、総務省施策「ユビキタスITS(Intelligent Transport Systems)」の一環として、情報通信研究機構(NICT)が平成17年度(2005年)より3カ年計画で実施している「ユビキタスITSの研究開発」並びに「電子タグを用いたITS応用技術の研究開発」の公開実証実験を行なった。

 実証実験に参加した企業は、情報通信研究機構の委託を受けた幹事企業のKDDI研究所以下、日本放送協会(NHK)、富士通、デンソー、トヨタIT開発センター(トヨタITC)、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の計6社。

 今回は、YRP内敷地の一般道を実際に使用して、ユビキタスITSによる「車々・路車間通信」「地上デジタル放送」「テレマティクスの高度化」「電子タグ応用」に関する実証実験が披露された。マイクロバス2台とライトバン1台を使い、実際に一般道を走って取材陣や関係者に披露するという規模の大きな内容であった。


「ユビキタスITSの研究開発」実証実験の概要

 今回の研究開発の背景には、総務省が平成22年(2010年)までに実現することを目指して策定された、「いつでも・どこでも・何でも・誰でも」ネットワークへのアクセスが可能となるユビキタス社会「u-Japan構想」の一環。『さまざまなメディアにより安全・安心、快適・利便に貢献する「ユビキタスITS」』をコンセプトとしている。

 今回は、合計すると8つもの技術の実証実験(デモンストレーション)もしくは展示・解説が行なわれた。「ユビキタスITSの研究開発」に含まれる技術は7種類。トヨタITCの「路車間通信」、デンソーと富士通による「車々間通信」、KDDIの「車々間通信の中継制御機能(携帯電話と車々間通信)」は、安全運転支援を目的とした車々間・路車間通信に関する技術として、デモ車輌(マイクロバス)1号車で実証実験が実施された。なお、携帯電話と車々間通信はテレマティクスの範疇に入り、こちらは展示ブースでの解説となっている。

 安全運転支援を目的とした車々間・路車間通信に関する技術のもうひとつであるATRの「マルチホップ通信」と、地上デジタル放送とITSの連携技術に含まれるKDDIの「放送と携帯電話の連携」とNHKの「放送と路車間通信の連携」は、2号車で実証実験を実施。そして、ブースで展示とデモが行なわれたのが、テレマティクス系の技術であるKDDIの「携帯電話と車内ネットワーク」だ。そのほか6つの実証実験の機器や技術なども、同時に展示・解説がなされた。

 もうひとつの実証実験である、NICTによる「電子タグを用いたITS応用技術の研究開発」は、ワンボックスカーを用いて行なわれた。3年間の研究が終わるため、今回は実証実験というよりは、研究成果の発表に近い形である。今後は、これまでの研究により得られたデータを各企業に活用していってもらうという方向だ。


電子タグ応用も含めたユビキタスITSの全体イメージ ユビキタスITSの7つの技術をジャンル分けし、さらに即時性と通信エリアに照らした位置付け ピンクが1号車のルートで、水色が2号車のルート

1号車での実験その1・路車間通信(トヨタITC)

 1号車で最初に行なわれたのは、トヨタITCの「路車間通信」。ドライバーへの情報提供や車輌間の情報交換により、交通事故の発生とその被害の低減を目的とする技術である。システム面の特徴はふたつ。ひとつが、緊急情報をより確実に路側機から車輌へ伝達させるために、2周波チャンネル併用路車間通信方式を採用している点だ。

 電波としての特性の異なる700MHz帯(制御チャンネル用)と5.8GHz帯(通信チャンネル用)の2種類を採用しており、緊急情報を送信する際は両電波を使用、車輌側では先に受信した情報を採用する仕組みとなっている。緊急情報以外では、700MHz帯はシステム制御系情報の、5.8GHz帯はユーザーデータなどそのほかの情報の伝達に利用される形だ。

 もうひとつの特徴が、5.8GHz帯に採用されている「狭アンテナビーム切替方式」。「狭ビーム化」と呼ばれる幅を絞った水平面ビームを、随時角度を切り替える「ビーム切替方式」で送信する技術だ。それにより、道路周辺地物(天然・人工問わず道路周辺にあるあらゆる建物や地面など)による反射波を利用しつつも、マルチパス(反射・解析で複数の経路から同じ電波を受信すること)の低減を実現させている。これにより、路側機のアンテナから見て大型車の死角に入っている(シャドウィング状態にある)普通車・小型車でも、問題なく受信できるというわけだ。なお5.8GHz帯は、通常は広角ビームが使用されており、車輌側がシャドウィング状態などで受信が非常に難しいときに、狭アンテナビームに切り替えられるという仕組みである。

 実験では、2周波による併用送信方式と、ビーム切替方式による効果が実演された。電波の受信状況は視覚化しにくいため、PC上でクライアントソフトを用いて、状態を示す形で視覚化。最初に5.8GHz帯広角ビームのエリア外からスタートし、700MHz帯に切り替えての受信成功を確認し、2周波併用でより広域をカバーできることを証明。続いて5.8GHz帯広角ビームのエリアに移動し、さらに死角へ。そこで5.8GHz帯ビーム切替に変更して受信成功という具合であった。


展示会場の路車間通信に関する解説パネルその1 解説パネルその2 路車間通信用の機器の紹介パネル

実証実験の流れとエリア 通信状況を確認するクライアントの見方(動画はすべてこの画面)

【動画】スタート地点での2周波の切替の様子と、停車位置その1までの様子 【動画】停車位置その2で遮蔽物に入って通信が途切れる 【動画】停車位置その2で遮蔽物に入って通信が途切れる

路側機のアンテナの設置状況 車窓から実際に見えた遮蔽用車輌と、その右にわずかに見える路側機のアンテナ

1号車での実験その2・車々間通信(デンソーと富士通)

 続いては、デンソーと富士通による「車々間通信」。この実験は、見通し外通信エリアを拡大するためのデータ中継実験(デンソー)と、リアルタイム性を確保するための低遅延アクセス実験(富士通)のふたつが行なわれた。

 実験は、地物が多く見通しの悪い交差点での、車同士の出会い頭の衝突事故を防ぐというシチュエーションで行なわれた。具体的には、道路Aと、それに直交する道路Bがあり、道路Aを走っている車輌A1に対して、そのままだと交差点で出会い頭の衝突事故を起こしかねないタイミングで道路Bを走る車輌B1があるというもの。その事故を防ぐため、道路BをB1よりも前で走るため、タイミング的には衝突しない車輌B2がB1の位置や速度などの情報の中継を行なうという内容である(実際には、A1に当たる1号車のみが走行)。B2が十字路に差し掛かったとき、まだA1は交差点の手前を走っているわけだが、道路AをB1よりも遠方まで見通せるため、当然電波も遠方まで届くという寸法だ。もちろん、A1とB1が近づけば、直接的な通信も行なわれる。

 実験では、1号車から視認できる位置にいる車輌(B2に相当)を経由した中継通信エリアと、死角にいる車輌(B1に相当)から直に受け取る直接通信エリアの距離を比較。当たり前だが、中継通信エリアの方が長く、1.5倍以上。それだけ余裕を持って衝突回避の運転を行なえるというわけである。なお技術的には、物理レイヤにOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を採用してマルチパス耐性を上げると同時に、アクセス制御にCSMA(Carrier Sense Multiple Access)方式を採用してトラフィック変化に対する柔軟性を確保している。


デンソーの車々間通信技術の解説パネルその1 同解説パネルその2

デンソー製車々間通信用無線機 デンソーの車々間通信の実験の模式図

 一方のリアルタイム性を確保するための低遅延アクセス実験では、擬似的に発生させた高トラフィック状態でも遅延がほとんど生じないところを披露。オンラインゲームでままある「ラグ」が発生すれば、事故に直結しかねないことから、遅延は最大で100ミリ秒=0.1秒を目標として研究は進められた。実験では、トラフィックを一定時間ごとに段階的に増減させたが、まったく影響なし。100ミリ秒どころか1ミリ秒あるかないかという具合で、グラフ上で遅延を示す赤い折れ線が0ミリ秒の横軸上に接していた。擬似的にトラフィックの増減状態を作り出した環境ではあるが、ほとんど遅延が生じないことが証明された。

 富士通の車々間通信システムは、5.8GHz帯シングルキャリア方式を採用。低遅延アクセス制御技術としては、タイミング同期式CSMAを利用しており、車両台数100台程度までの通信状況なら遅延は発生しないとしている。ちなみにデンソーのOFDM/CSMA方式だと、遅延の赤い折れ線グラフは、高トラフィック状態だと若干ギザギザしていた(それでも、瞬間的に3ミリ秒に達するぐらい)。


富士通の車々間通信技術の解説パネルその1 同解説パネルその2 富士通製車々間通信用無線機

通信遅延グラフ。上が富士通方式で、下がデンソー方式 【動画】実験その2の様子。データ中継実験に続いて、低遅延アクセス実験を実施

1号車での実験その3・車々間通信の中継制御機能(KDDI)

 1号車最後の実験は、KDDIの「車々間通信の中継制御機能(携帯電話と車々間通信)」。実験や解説では特にうたわれてはいなかったが、この技術は実験2の車々間通信を補完する技術といえる。実験2では、中継車は1台という設定だったが、現実には脇道から大通りへの合流を行なう場合などは、中継可能な車輌が何台も出てくるはず。衝突の可能性がある車輌から、中継可能な複数台の車輌に通信することもそうなら、複数の中継車から同じ情報を脇道から出てこようとしている車輌に送ってしまうことも無駄なパケットを発生させる事態になる。そこで、必要な1台のみに中継してもらい、無駄にトラフィックを増加させないように制御するというわけである。

 実験では、T字路を利用して行なわれた。1号車がT字の縦の棒にあたる道路から、横の棒に当たる道路へ出ていくという設定。その横棒の道路を右方向の死角から1台の車輌(D)がやって来て、反対車線には中継候補の2台の車輌(右からB、C)が並んでいるという具合だ。今回は、車輌D以外はすべて停止した状態で実験が行なわれた。画面上では、中継車輌がわかるようになっており、Cが中継車として選択され、Dの接近を中継。画面の通りのタイミングで正確に1号車の目前をDが通過していった。

 この技術は、今回は新たに「交通情報配信基本通信プロトコル」を考案することで、冗長なパケット中継を回避し、通信遅延やパケット衝突の増加を減らしたという仕組みだ。安全運転支援を目的とした車々間・路車間通信でもあるが、テレマティクス系の交通情報配信技術でもある。

 また、カッコ内に携帯電話と車々間通信とあるが、こちらは車々間通信に加えて携帯電話網を補完的に利用し、交通情報を近隣行きの車輌に配信する技術も合わせて開発しているからだ。交差点などに設置した定点カメラの映像を携帯電話の上り回線でセンターに送り、その映像を携帯電話の下り回線を利用して車輌に配信するという仕組みである。


KDDIの車々間通信の中継制御機能に関するパネルその1。携帯電話との連携も説明含まれている 同解説パネルその2 見通しの悪い交差点で、車輌Bが車輌A(1号車)と車輌Dを中継する際の模式図

機能のひとつ、重複する中継は行なわない仕組み。Cも中継できるがBがしているので、行なわない 車輌Aが車輌Dを直接認識すれば、BやCは中継を終了 【動画】パケット中継の実証実験の様子

2号車での実験その1・マルチホップ通信(ATR)

 続いて、2号車の実験。まずは、ATRの「マルチホップ通信」からだ。車々間通信のひとつで、車々間情報共有システム「UbiView」と名付けられている。見た目的には、自車周辺の車輌の位置関係や状態がカーナビゲーション画面に表示されたシステムだ。緊急事態にも対応している。

 仕組みとしては、受信した情報をバケツリレー的にブロードキャスト転送していくフラディング通信方式を採用。重複パケットを転送しない制御手段により、転送成否を確認しないフラディング方式でも情報共有の高信頼化を実現している。それにより、目前で事故発生を目撃した運転者の急ブレーキを踏んだという緊急情報が、後続車へと次々に最低限の転送処理により伝達され、ブレーキランプを後続の運転者たちが目視して反応するよりも早く情報が伝わり、余裕を持って対応できるというわけだ。なお緊急事態が発生した場合は、画面上ではその車輌が赤くなる。同時に、警告音でも通知する仕組みだ。

 実験では2号車に加え、A、B、Cの3台の車輌が参加。3台とも2号車からは目視できない位置におり、2号車は車輌Cと通信で接続しているという状況。BとCはお互いに見えるが、Aはどの車輌からも目視できない。2号車は、AとBとはC経由でつながっている形だ。実験では、そうした通信により目視できない位置にいる車輌の存在を確認できることをまず披露。緊急情報の伝達では、Aが擬似的に緊急事態の発生を送信すると、2号車でも映像と音声でAの緊急事態を確認できたという具合だ。


2号車内で行なわれたUbiViewのプレゼン画面 通常時は、お互いの位置情報を交換している 緊急時は、送信した車輌から次々とバケツリレー式に伝わっていく仕組みだ

実証実験中のUbiViewの画面。左の黄緑が2号車、紫が直接通信中で、緑と水色は中継中であることを示す 実験参加車輌のC 【動画】Aの緊急通信が2号車に届く様子

 また、展示ブースでは、「クロスレイヤ制御に基づく位置移動予測高速ルーティング」の紹介・解説も行なわれた。その中核となるのが、新開発の車々間通信用高速ルーティング・プロトコル「MP2R」である。車輌Aから間に車輌を数台挟んだ車輌Bまで情報を送信する際、その間の車輌に中継してもらう仕組みだが、高速道路などでは特に各車両が異なる速度で移動しているため、受信信号強度の値は絶えず変化している。そこで、対向車も含めた周辺車輌の今後の位置を予測し、現在の中継車との接続が切れる前に、信号が強く転送距離の長い接続経路に切り替えていくという仕組みだ。ブースではデモ映像が流されており、従来のオンデマンド方式とテーブル駆動方式では、送信映像が途切れてしまう距離になっても、次々と中継車を増やしていくので、途切れないというものであった。


ATRのクロスレイヤ制御に基づく位置移動予測高速ルーティングの解説パネル 実験映像のラスト。MP2R方式なら、従来方式では届かない距離も問題なし

2号車での実験その2・放送と携帯電話の連携(KDDI)

 続いての実験は、KDDIの「放送と携帯電話の連携」だ。ここでの放送とは、地上デジタル放送(MPEG2TS)で配信されている周辺地図および道路交通情報コンテンツのこと。現在は、放送サーバから放送(配信)で情報を表示しているが、パケットロスが発生すれば、そこで表示が中断してしまい、次の配信まで待たないとならない短所がある。それに対し、KDDIが提案する新方式では、携帯電話網を利用して通信サーバから欠損パケットを補完するというもの。受信側で欠損パケットを認識したら、通信サーバに対して携帯電話網を使って要求。通信サーバがその要求に従って欠損パケットを補完することで、次の放送まで待たずに情報を早く表示できるというわけだ。

 今回新たに開発されたのは、通信サーバ上に置く、補完用の道路交通情報データ仕様。リソースのプレゼンテーションを記述したSVG(Scalable Vector Graphics)とリソースのメタデータを記述したRSS(RDF Site Summary)からなる「LBR(Location Based Resource)」だ。XMLベースとなっている。そしてもうひとつが、LBRデータの符号圧縮方式。XMLデータに特化しているのが特徴で、gzip形式と比較して圧縮率で約2倍、復号時間が約2分の1、消費メモリ容量は約4分の1としている。

 実験では、PC上の携帯クライアントを利用し、従来方式と通信サーバを利用する新方式と直接並べて比較した。出だしは同じぐらいに見えたが、地図として形をなしたのは圧倒的に新方式。実証実験のスケジュールの都合から、新方式も完全に表示される段階ではなかったのだが、道路網や施設か何かの所在地を示するらしいカラフルな四角に加え、陸地と海の色まで表示されていた。それに対して従来方式では、背景は白いまま、わずかな道路網と四角が表示されているのみで、地図の様相を呈していない状態。確実に早いのが見て取れた。


KDDIの放送と携帯電話の連携に関する解説パネルその1 同解説パネルその2 パケットロスを携帯電話網経由で通信サーバから補完する仕組み

従来方式と今回の新方式の差 【動画】従来方式と新方式との直接比較

2号車での実験その3・放送と路車間通信の連携(NHK)

 2号車の実証実験の最後は、NHKによる「放送と路車間通信の連携」。地上デジタル放送と、ETCなどに利用されている狭域双方向通信のDSRC(Dedicated Short Range Communication)を連携させた技術だ。安心・安全に寄与する「緊急警報放送通知伝送技術」と、利便性の向上を図る「ITS情報補完放送方式」が開発された。前者は、緊急警報放送が行なわれた際に、道路管理者がDSRC経由でその情報を車輌に通達するというもの。後者は、地上デジタル放送の広域情報に、DSRC経由の地域情報を融合させるというものだ。

 デモでは、ITS情報補完放送方式が披露された。神奈川県の広範囲の高速道路交通情報を表示している画面から、DSRCの路側機から地域情報を受け取った後、国道134号線を中心としたYRP近辺の道路交通情報に画面が切り替わった。国道134号線から左折してYRPへと向かう県道27号線の一部が混雑中、という内容である。しかしその様子は、残念なことにデモ画面で使用された映像上に動画で再配信が難しいものが含まれていたため、車内で撮影した動画の掲載は不可となった。代わりに、展示会場で見ることのできた車内で披露されたものと同じデモ映像を録画したので、そちらをご覧いただきたい。

 なお、技術的には情報伝送の効率化を行なっており、DSRC同報通信において、受信誤りの発生した分割化データの再送までの時間を短縮して、データ放送補完情報を効率的に伝送しているという点がポイントだ。つまり、1巡目に正しく受信できなかった情報を基地局に通知し、2巡目には伝送順序を変更して正しく受信できなかった情報を先頭にするという仕組みだ。


NHKの放送と路車間通信の連携に関する解説パネルその1 同解説パネルその2 地上デジタル放送の広域情報と、DSRCの地域情報の連携

2号車内の実証実験の画面。右上にテレビドラマが流れているという設定だった 【動画】展示ブースでの、地上デジタル放送の広域情報と、DSRCの地域情報がマージするデモ

展示されていた技術・携帯電話と車内ネットワーク(KDDI)

 KDDIの「技術・携帯電話と車内ネットワーク」は、今回はデモ車輌で披露できなかった技術。コンセプトとしては、携帯電話やPDA、ノートPCなど、個人が有するネットワーク端末群と、車輌に搭載されたネットワーク端末群を融合させるというものだ。ユーザ端末群と車内端末群を動的に融合/分離する「動的ネットワーク融合技術」と、融合ネットワーク上の適切な端末・通信リソースを組み合わせてアプリケーションを実行可能とする「端末間サービス連携技術(アプリ層の協調)」のふたつが考案された。

 動的ネットワーク融合技術では、「三角認証」により、車内ユーザーのみにリソースを提供する仕組みだ。カメラ付きのリアシートモニタ(この場合はタクシーなどが想定されている)、カメラ付き携帯電話、そして管理サーバ間での三角認証である。画面上に表示されるQRコードを携帯で読み取り、管理サーバに対して融合要求。管理サーバからは融合ネットワーク設定情報が渡され、認証情報が更新されるという具合である。端末死活監視が行なわれている仕組みで、下車した後に端末が使われなくなると、自動的に分離するという仕組みだ。

 端末間サービス連携技術(アプリ層の協調)では、携帯電話での音声通話から、車載端末を利用したテレビ電話に切り替えといった車内リソース情報を共有できるようになる。携帯電話のブックマークからの、遠隔ブラウジングなども実行可能としている。


KDDIの携帯電話と車内ネットワークに関する解説パネルその1 同解説パネルその2 展示ブースでは、ユーザ端末と車内ネットワークが融合する様子を、機器を取りそろえて擬似的に再現していた

電子タグを用いたITS応用技術の研究開発(NICT)

 NICTの「電子タグを用いたITS応用技術の研究開発」は、実際には「ユビキタスITSの研究開発」とは別プロジェクトである。情報通信研究機構が進めてきたプロジェクトだ。NICTは、移動体通信の研究拠点として横須賀ITSリサーチセンターをYRP内に構えており、2005年6月1日より同プロジェクトを発足し、今年で研究は終了する。今回の実証実験は、その集大成といえよう。

 同プロジェクトの目的は、アクティブ型電子タグ技術と無線通信技術などを融合させ、人と道路と車輌を一体化するシステムの構築させること。つまり、交差点などで飛び出してくる可能性のある歩行者や自転車、交通弱者を、その速度や移動方向から検知し、あらかじめドライバーに伝えようという安全運転支援システムである。


NICTの電子タグを用いたITS応用技術の研究開発の解説パネル(研究開発概要) 同解説パネル(目的と方法とシステム概要) 同解説パネル(デモ概要)

今回のプロジェクトで製作されたアクティブ型電子タグのプロトタイプ 使用周波数は異なるが、市販されているカシオ製電子タグ。製品化されればこのぐらいに 電子タグリーダー

 実験では、LF(Low Frequency)信号ループアンテナを地面(横断歩道の手前に当たる)に敷き、歩行者役のスタッフがアクティブ型電子タグを装備。電子タグ送受信機(路側リピータ)がループアンテナ近辺の2カ所(説明が行なわれた建物の屋上と側面の2カ所)と、デモ車輌のコースの途中の1カ所に設置されている具合だ。デモ車輌のルーフ部分にもアンテナが設置されており、車内には電子タグからの情報を表示できる機能を付加されたカーナビという設定のPCとそのモニタが設置されている。


LF信号ケーブルアンテナ LF信号装置 アンテナが電子タグリーダーに接続されているのがわかる

ガレージのすき間から顔を出していたアンテナ デモ車輌

デモ車輌のアンテナ 車内。PCでカーナビゲーションを模して表示している

 デモは、まず停車した状態で「リピータ(路側機)間マルチホップ同報通信での情報の伝達」を実施。ループアンテナが設置された出発地点のリピータより200mほど離れた別のリピータに情報を伝達するという実験で、歩行者などの情報が問題なく表示された。

 次は、同じ内容の走行時のもの。デモであるため速度は低速に抑えてあったが、実際には時速100kmぐらいでも問題なく受信できるという。そしてハイライトが最後のデモ。実際に歩行者役のスタッフがクルマの目の前に飛び出して来たのだ。このときは、赤い人型マークが画面に表示される。一歩間違えれば、本当に交通事故もありえる実証実験で、歩行者役のスタッフはもちろんのこと、ドライバーの方もかなり心臓に悪かったことと思う。お疲れ様でした、といいたい。


【動画】実際のデモの様子。安全な距離の交差点で検知された歩行者などは白く表示される 【動画】危険な距離で人が飛び出してくると、人型が赤く表示される様子 デモ車輌の前にこうして飛び出した

 以上が、今回の実証実験で披露された技術だ。これらが実現すれば、交通事故の件数を目に見える形で減らせるだろうし、運転時の利便性も格段に上がることだろう。ただし、こうした技術を実際に普及させるには、行政の問題、自動車メーカーやIT企業など製品を搭載したり開発したりするメーカーの問題、インフラ整備の問題、そして費用の面も含めて実際にユーザが便利と感じて機器を購入するかどうかといった問題などいくつものハードルがあるのはいうまでもない。

 しかし、カーナビゲーションもETCも最初から普及していたわけではないのはご存じの通り。存在意義さえ疑われた時代もあったわけだが、今では100%まではいかないにしても、非常に多くの車輌が搭載しているのも事実。実現すれば世の中のSF度が上がると思うと、なかなかワクワクさせてくれる実証実験であった。


URL
  情報通信研究機構
  http://www.nict.go.jp/
  KDDI研究所
  http://www.kddilabs.jp/
  日本放送協会(NHKオンライン)
  http://www.nhk.or.jp/
  富士通
  http://www.nhk.or.jp/
  デンソー
  http://www.denso.co.jp/ja/
  トヨタIT開発センター
  http://www.toyota-itc.com/
  国際電気通信基礎技術研究所
  http://www.atr.jp/
  横須賀リサーチパーク
  http://www.yrp.co.jp/

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( デイビー日高 )
2008/03/03 00:41

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