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「つくばチャレンジ開催記念シンポジウム」レポート
~つくばチャレンジ2008の課題が明らかに


 2008年1月12日、バンダイナムコゲームス未来研究所において、「つくばチャレンジ」の技術報告会「つくばチャレンジ開催記念シンポジウム」が開催された。つくばチャレンジは、昨年11月に開催された自律型ロボットによる屋外競技である。今回が初の開催であったが、33台のエントリー中3台のロボットが完走するという、当初の予想以上の結果を得た。

 つくばチャレンジは、技術的なアイデアや経験を広く公開し、社会の共有財産にすることをテーマとしており、このシンポジウムもその趣旨にそったものである。なお、本シンポジウムに先立って、2007年12月22日、第8回計測自動制御学会SI部門講演会SI2007において、「つくばチャレンジ」をテーマにしたオーガナイズドセッションが開催された。

 本シンポジウムは、第一部と第二部の二部構成となっており、第一部では、つくばチャレンジ委員会委員長の油田信一氏(筑波大学)による基調講演や100m走行のトライアルをクリアした10チームの技術発表(1チームは都合により欠席)、橋本秀紀氏(東京大学)と水川真氏(芝浦工業大学)のショートスピーチが、第二部では油田氏による来年度(2008年)の課題についての発表と、参加者によるフリーディスカッションが行なわれた。


つくばチャレンジ2007の総括

つくばチャレンジ委員会の委員長を務める筑波大学の油田教授が基調講演を行なった
 最初に、基調講演として油田氏によるつくばチャレンジ2007の報告が行なわれた。油田氏は、移動ロボットの最大の特徴は、行動・作業空間が非常に大きいことにあるとした。工場などで使われるマニピュレータ(ロボットアーム)の行動・作業空間は、ほぼロボット自身の大きさに限られるのに対し、移動ロボットは自分自身の大きさの数百倍から数千倍にも達する。作業空間の大きさと人間と比べた場合のセンサ能力の不足が、環境を知ることの難しさに繋がり、それが働く移動ロボットの実現の難しさであると指摘した。

 移動ロボットの実現には、人間が生活している実世界(リアルワールド)における実験が必要になる。つくばチャレンジは、人々が生活している空間の中で、ロボットが確実に自律的に動き回って働くための技術の追求を目的として誕生したものであり、昨年行なわれた2007年度の課題は、「つくば市内の約1kmの遊歩道を自律的に目的地まで走行すること」と決められた。目的地まで自律で移動するというナビゲーションは、移動ロボットの基本能力であり、まずはナビゲーション能力を高めようというのがテーマだ。

 つくばチャレンジ2007は、2007年11月16日~17日に開催され、エントリー総数33チーム(棄権6チーム)、100mのトライアル走行達成が11チーム、本走行の1km自律走を達成したのは3チームという結果になった。油田氏は、参加チームの数、達成チームの数ともに当初の予想以上であったとした。また、見物人が多く、その行動も印象に残ったとのことだ。


シンポジウムの第一部は、バンダイナムコゲームス未来研究所内の「ファンシアター」で行なわれた ファンシアターのスクリーンでは、開会前と休憩時間につくばチャレンジ2007の記録映像が上映されていた 移動ロボットにはさまざまな作業内容と対象が期待される

産業用ロボット→フィールドロボット→サービスロボットと、ロボットが働く環境は広がり続けてきた マニピュレータと比較した際の移動ロボットの最大の特徴は、行動・作業空間が非常に大きいことである 働く移動ロボットの実現が難しいのは、作業空間が大きく、センサ能力も不足するため、環境を知ることが難しいためである

働くロボットには、「自然な環境で働くこと」「普通の仕事をすること」の2つが要求される 実世界における実験をともかくやってみようということで、つくばチャレンジの企画がスタートした つくばチャレンジは、人々が生活している空間の中で、ロボットが確実に動き回って働くための技術の追求を目的とし、その技術をできる限り公開することを目指している

2007年度の課題は、つくば市内の約1kmの遊歩道を外部からのサポートを受けずに自律的に目的地まで走行することに決まった 目的地まで自律で行くという「ナビゲーション」は移動ロボットの基本能力である つくばチャレンジは、順位は付けないことも特徴だ。また、賞金もなく、達成者には名誉のみが与えられる

公道を利用するため、警察から道路使用許可を得る必要があった。また、試走会を数回設定し、このときのみ実地での実験を可能とした つくばチャレンジ2007の参加者には、北陽電機が開発中の屋外用測域センサが計15台提供された つくばチャレンジ2007のコース。当初発表されたコースより、少し駅から離れたコースで実施された

つくばチャレンジ2007の結果。エントリー総数33チーム(棄権6チーム)、100mのトライアル走行達成が11チーム、本走行1kmの課題を達成したのは3チームという結果になった 本走行11チームの結果とつくばチャレンジ審査評価委員会によるコメント 2007年度の課題を達成した3チームとそのロボット。多くのチームが複数のメンバーから構成されているのに対し、筑波大学知能ロボット研究室つくろぼチームは、大島氏一人のチームだ

つくばチャレンジは、情報の共有と公開が前提となっていることも特徴であり、SI2007や本シンポジウムでの情報公開が行なわれたほか、資料などがWebで公表される予定だ 参加者・登録者の数や、多くの見物人とその行動は想定外であり、実験(=地の利)やチャレンジの必要性も印象に残ったとのことだ 来年度は、さらなる技術チャレンジや見物人への対応がポイントとなる。来年度(2008年度)の課題については、第二部で明らかにされた

トライアル走行を達成した10チームによる技術発表

 続いて、トライアル走行を達成した10チームによる技術発表が行なわれた。シンポジウム参加者には、エントリーした全33チームのレポート集が配られており、各チームのロボットのシステムやナビゲーションアルゴリズムなどの概略が公開されていたが、技術発表ではさらに詳しい内容が解説されていた。その中から、特に印象に残った発表内容を紹介したい。

 芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室が開発した「PAR-NE07」は、機能の追加・変更を簡単化し、モジュールの再利用性を向上するために分散制御系を採用している。

 体内ネットワークには自動車などで使われているCANを採用し、高い信頼性を実現した。また、移動機構モジュールには、Pride社製の電動車椅子を利用。センサーとしては、自己位置同定用のGPSレシーバと前方認識用のレーザーレンジファインダーを2基搭載。機材前方に障害物が存在しない場合は、GPSによるナビゲーションを行ない、障害物が存在する場合は、その障害物を回避するという行動をとるようにプログラミングされている。

 GPSによるナビゲーションは、あらかじめ通過すべき目標点をマップとして持っておき、その目標点に向かって経路を修正し、順次目標点を切り換えていくというアルゴリズムを採用している。障害物回避は、レーザーレンジファインダーによって移動可能な方向を検出し、目標点への移動距離が最短となる経路を移動する。

 本走行はスタートから250m地点でリタイヤという結果となったが、その理由は、橋の手前のアスファルトの隆起に車体が乗り上げてしまい、レーザーレンジファインダーがノイズを複数出力。そのノイズをフィルタで除去しきれなかったことにあるという。今後は、機体の左右に搭載したカメラで路面画像を取得してその並進運動を計測することで、オドメトリ情報を得るDFITシステムの実装とRTミドルウェアの適用を行ないたいとのことだ。


芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室は、屋外での自律移動を目的に「PAR-NE07」を開発した PAR-NE07のシステム構成。機能の追加・変更を簡単化し、モジュールの再利用性を向上させるために分散制御系を採用している 体内ネットワークには、自動車などで使われているCANを採用

移動機構モジュールには、Pride社製の電動車椅子「GO CHAIR」を流用 オドメトリ車輪モジュールによって、GPSが衛星をロストした際にも、自己位置を推定できる 自己位置同定に、Hemisphere製のGPSレシーバ「A100 SmartAntenna」を使用

前方認識用に北陽電機のレーザレンジファインダー「UMT-X001」を使用し、機体前方180度に存在する障害物を検出する 移動アルゴリズムの解説。前方に障害物が存在しない場合はGPSによるナビゲーション、存在した場合は障害物回避を行なう GPSによるナビゲーションのアルゴリズム。目標点への距離と旋回角度が与えられる

あらかじめ目標点を定めておき、目標点の近くに到達したら、次の目標点へと切り換える。経路は2mごとに修正する 障害物回避のアルゴリズム。まず、GPSによって現在地から目標点までの方向を導き出し、レーザレンジファインダーによって移動可能な方向を検出。最後に、目標点への移動距離が最短となる経路を選択して移動する つくばチャレンジの結果。トライアル走行には成功したが、本走行では250m地点でリタイヤ。その原因は、アスファルトの隆起に乗り上げた際に、レーザレンジファインダーから出力されたノイズを除去しきれなかったためとのこと

今後の展望として、「DFITシステムの実装」と「RTミドルウェアの適用」という2つを考えているとのこと DFITシステムとは、機体左右に取り付けたカメラで路面画像を撮影し、その並進運動を計測して、オドメトリ情報を得るというもの DFITシステムは、車輪を利用してオドメトリ情報を得る方法に比べて、滑りやドリフトの影響がなく、精度が高いことが利点だ

 日本SGIチームは、同社が販売しているSegway RMP200のプロモーションにもなるということで、つくばチャレンジへの参加を決定した。1km走行と、絶対に事故を起こさないこと、そして他のチームより早く走ることが目標である。

 残念ながら、本走行でのゴールはできなかったが、11月に行なわれた練習会では2回、1km完走を達成しており、ロボットの完成度と信頼性は高いといえる。つくばまでそう何度もこれないため、つくばチャレンジ専用シミュレーターを制作し、アルゴリズムの検証を行なったという。

 さらに、シミュレータ用のコースデータ取得のために、レーザーレンジセンサを4つ搭載した、専用3Dスキャナー(動力は人力)も製作するなど、ユニークなアプローチで開発が進められた。台車にはSegway RMP200を採用し、レーザレンジセンサーとエンコーダ情報を元に走行するというアルゴリズムを採用した。


日本SGIがつくばチャレンジに出場することになった経緯と目標、その成果 現地視察からつくばチャレンジ当日までの歩み(その1) 現地視察からつくばチャレンジ当日までの歩み(その2)。4回目と5回目の試走会で見事1km完走を達成した

アルゴリズム検証用の「つくばチャレンジ専用シミュレーター」とコースデータ取得のために「専用3Dスキャナー」を製作した システム構成。台車にはSegway RMP200を採用。制御用にノートPCを搭載し、センサとしてレーザーレンジセンサを搭載している

ナビゲーションアルゴリズム。レーザレンジセンサーとエンコーダ情報を元に走行。スピードは、安全性を優先し最高速度を時速1.2kmに設定した シミュレータの画面

 北陽電機・産総研ジョイントチームは、台車にSUZUKIの電動セニアカーを採用。3つのレーザーレンジファインダーを搭載し、路面検出、障害物検出、環境認識のそれぞれの役割を持たせている。

 ナビゲーションの方法としては、まず、リモコン操作によって周囲のデータを収集し、地図を作成。次に、その地図上に手動で目標通過位置を決めて、ファイルに書き込む。自律走行フェーズでは、オドメトリによる自己位置をもとに走行を行まい、0.1秒おきにレーザーレンジファインダーのデータから、障害物を検出。前方に障害物を検出した場合は、距離に応じて回避、徐行、停止を行う。また、1秒ごとにスキャンマッチングを行ない、オドメトリで推定された自己位置を修正するというアルゴリズムを採用している。

 本走行においては、90m地点で縁石に乗り上げてリタイヤしてしまったが、その理由は、ロボットに与えていた地図データの一部が破損していたためだという。90m地点から数十m分だけ地図データが空白になってしまっており、その結果、スキャンマッチングによる自己位置修正ができなくなっていた。また、本走行では観客が非常に多く、「壁」と「壁に沿って並んだ観客」の区別ができなくなるなど、ロボットにとっては非常に厳しい状況だったという。


北陽電機・産総研ジョイントチームのロボットの構成。車体にはSUZUKIの電動セニアカー「ET4D」を利用している 「リモコン走行」と「自律走行」の2種類の走行機能を実現 路面検出用、障害物検出用、環境認識用に、それぞれレーザーレンジファインダーを搭載

地図生成の手順。まず、リモコン操作で経路を走行し、Top-URGとデッドレコニングのデータを1秒おきに取得する 走行の手順。地図上で手動で目標通過位置を決め、オドメトリによる自己位置をもとに走行する。Top-URGによって前方に障害物を検出した場合は、回避や徐行、停止を行なう。また、1秒ごとにスキャンマッチングを行ない、自己位置を修正する

自動車の発展になぞらえて移動ロボットの今後を予測

 技術発表に続いて、橋本氏と水川氏によるショートスピーチが行なわれた。橋本氏は、まず、折口透氏「自動車の世紀」(岩波新書)から自動車の発展についての引用を行なった。

 (ガソリン)自動車は今から約120年前にドイツで発明されたが、なぜ、当時最も進んでいたイギリスでなく、ドイツで発明されたのだろうか。当時の主流であった蒸気機関を使うには、巨大な資本と水施設(都市のインフラ)が必要になるのだが、そのどちらもイギリスより遅れた工業国であったドイツでは望めないものであった。そこで、新しいコンセプトのガスエンジンを開発することになり、それがガソリン自動車の誕生に繋がったのだという。

 しかし、当時権威のあった雑誌の評価は、「ガソリンエンジンは、蒸気エンジンと同様に、将来性が薄い」という辛辣なものであった。そこで、1888年、ベンツ夫人のベルタ・ベンツは、行程100kmにわたる自動車ドライブを行ない、自動車の実用性をアピールした。

 当時、ドイツでは自動車で公道を走ることは禁止されており、その他の場所でも午後2時から4時までしか認められていなかった。この公道上の走行禁止は1893年に解除されるが、最高速度は厳しく制限されていた。そこで、規制の強いドイツからより自由なフランスへと自動車産業の中心地が移ることになる。

 1894年には、「パリ-ルーアン」間で大規模な自動車レースが開催され、翌1895年には、パリとボルドーを結ぶ総行程1,178kmという都市間レースが開催された。このとき、走行した22台の中で、ガソリンエンジンを採用していた自動車は15台、6台は蒸気、1台は電気で動いていた。自動車レースは、その後、急速に平均時速を向上させていき、本格的な普及が始まったのだ。

 なお、フランスは1905年まで世界一の自動車生産国であったが、それ以降は米国にその座を奪われている。イギリスやドイツは保守色が強く、交通法規の壁が厚かったため、自動車の普及を遅らせることとなったのだ。


自動車が発明された経緯。自動車は今から120年ほど前にドイツで発明された なぜ、当時、最も進んでいたイギリスではなくドイツで発明されたのか。その理由は、異なるコンセプトのガスエンジンを開発したためである 自動車の初期の歴史(その1)。当時の権威ある雑誌の評価は「ガソリンエンジンの将来性は薄い」というものであった。誕生から3年後、100kmのドライブを達成

自動車の初期の歴史(その2)。当時、自転車で公道を走ることは禁止されており、1893年に走行禁止が解除されても、時速に制限があった。そこで、規制の強いドイツから、より自由なフランスへと自動車産業の中心地が移ることになる 初期の自動車レース(その1)。最初の大規模な自動車レースは、1894年に「パリ-ルーアン」間で行なわれ、21台が出走し、17台が完走した 初期の自動車レース(その2)。平均時速が年々向上。フランスは1905年まで世界一の自動車生産国(以後は米国)。保守色の強いイギリス、ドイツは交通法規の壁が自動車の普及を遅らせることになった

 以上の自動車の発展になぞらえる形で、移動ロボットと発展を考えてみようというのが、橋本氏のスピーチのテーマだ。以後のスライドは、実用的な移動ロボットが誕生するには、201X年と予想される(つまりもうすぐ)。その誕生から120年ほどたった現在(西暦213X年頃)に執筆された書籍からの引用であり、一応、フィクションという形になっている。

 最初の移動ロボットは日本で発明されたのだが、当時最も進んでおり、研究費も膨大であった米国ではなく、なぜ日本で発明されたのだろうか。移動ロボットの実現には、外界を認識するための知的センサが必要だが、現在のセンサでは、高度なプログラミングが必要になり、それには莫大な研究費や人件費が必要となる。

 また、車道と歩道の分離も必要だが、それらの条件を満たすことは、狭い島国の日本では無理であった。そこで、日本の技術者が、従来とは違った新しいコンセプトに基づく、小型軽量の知的センサ(仮にYUTAセンサと呼ぶ)を開発し、移動ロボットを実現することになったのだ。

 しかし、当時の日本ロボット学会誌の評価は、「画像センサと同様に、YUTAセンサの将来性は薄い」というものであった。当時、日本では移動ロボットで公道を走ることは禁止されており、その他の場所でも、午後2時から4時までしか認められていなかった。この走行禁止は、その後解除されたが、最高速度は厳しく制限されていた。そのため、規制の強い日本から、より自由な中国へと移動ロボット産業の中心地が移ることになった。

 最初の大規模な移動ロボットレースは、201X+9年(つまり移動ロボットが発明されてから9年後)に、「北京-天津」間で行なわれた。さらに翌年には北京と西安を結ぶ都市間レースが開催。その後も、より長距離のレースが行なわれていき、平均時速もどんどん向上していった。ちなみに、中国は201X+20年まで世界一のロボット生産国であったが、以後はインドにその座を奪われている。保守色の強い米国や日本は、さまざまな方の壁がロボットの普及を遅らせることになったのだ。

 以上のスライドの内容は、もちろんフィクションなのだが、決して荒唐無稽な話ではない。201X年のXはいつになるのか? そして、誰がYUTAになるのか?というスライドを示して、橋本氏のスピーチは終わった。


移動ロボットが発明された経緯。西暦213X年に過去を振り返ってみたという設定で、自動車の発明になぞらえている(もちろん、以下のスライドの内容は全てフィクションとなる) 実用的な移動ロボットが日本で発明された理由について。米国よりも資金力やインフラが劣る日本だからこそ、異なるコンセプトの小型軽量知的センサ「YUTAセンサ」が開発されることになった 移動ロボットの初期の歴史(その1)。当時の日本ロボット学会誌では、「YUTAセンサの将来性は薄い」と評価された

移動ロボットの初期の歴史(その2)。自動車と同様に、移動ロボットが誕生した当時、公道を走ることは禁止されていた。そこで、規制の強い日本から、より自由な中国へと移動ロボット産業の中心地が移ることになる 初期の移動ロボットレース(その1)。最初の大規模な移動ロボットレースは、201X+9年に「北京-天津」間で行なわれた。なお、図中でABCセンサとあるのは、YUTAセンサのこと

初期の移動ロボットレース(その2)。平均時速が年々向上。中国は201X+20年まで世界一のロボット生産国(以後はインド)。保守色の強い米国、日本はさまざまな法の壁がロボットの普及を遅らせることになった 以上はフィクションなわけだが、というようなストーリーに果たしてなるのか? 201X年はいつか? そして誰がYUTAなのか?

実世界の共通課題を解決する移動ロボット

 続いてスピーチを行なった水川氏は、直面する実世界の共通課題として「テロ/災害」「高齢化」「エネルギー」を挙げ、移動ロボットはこうした課題を解決する有力なソリューションになりうるとした。そのためには、「オープン化」「ネットワークを利用した情報の流通」「機器・デバイス相互利用の仕組み」が必要であると指摘した。つくばチャレンジの目的は、アマチュアとプロが混在して交流する「知恵のアキバ」、学生の実体験による実践的理解といった「年代を超えた継続」「モジュールベンチマーク」の3つであり、移動ロボットの開発において、重要な役割を果たしていくことになるという。


直面する実世界の共通課題として「テロ/災害」「高齢化」「エネルギー」が挙げられる 実際に起こったテロや災害の例 経済産業省の「技術戦略マップ」で示されている、2025年における生活支援ロボットの利用シーンの例。ロボットによって安全・安心な生活が実現されている

ソリューションとしてRTが成り立つためには、「オープン化」「ネットワークを利用した情報の流通」「機器・デバイス相互利用の仕組み」が必要である 経済産業省が2007年12月に公開した「ロボット政策の全体像」 芝浦工大、千葉工大、NECソフトが共同で研究している「移動知能の開発」の提案書

米国では「FCS」未来の戦闘システムの一環として、自律戦車や、無人ビークルなどが研究されている リアルワールドの構造化には、さまざまな課題がある これからの無人システムには自律性が、産業用ロボットには高速と高精度が求められる。さらに、日常生活支援におけるサービスロボットやエンタテイメントロボットには、ヒューマンロボットインタラクションが重要になる

平成16年4月に出された「次世代ロボットビジョン懇談会」報告書では、2025年時点でのロボット市場規模を合計で6.2兆円と見積もっている RWRC(つくばチャレンジの別名)の主な目的は、アマチュアとプロが混在して交流する「知恵のアキバ」、学生の実体験による実践的理解といった「年代を超えた継続」「モジュールベンチマーク」の3つである

2008年度の課題では右左折やUターン、追い抜きも加わる

 ショートスピーチ終了後、会場を社員食堂に移して、シンポジウムの第二部が行なわれた。第二部では、油田氏が、来年度(2008年度)のつくばチャレンジの開催概要を明らかにした。つくばチャレンジ2008の概要は、このシンポジウムで初めて一般に公開されたものだ。

 まず、開催日は11月21日(金)と11月22日(土)の2日間で、場所はつくば市の中央公園周辺の遊歩道である。距離は1kmで、つくばチャレンジ2007と同じだが、ほぼ直線のコースであったつくばチャレンジ2007とは異なり、右左折のカーブやマラソンのような折り返し地点でのUターンが含まれることが特徴だ。

 また、コースの幅が広くなり、コース取りの自由度が格段に大きくなる。さらに、コースの脇には図書館などがあるため、自転車が多数駐輪しているところもある。折り返しがあるということは、ロボット同士が出会ってすれ違ったり、遅いロボットを速いロボットが追い抜くこともあり得る。こうした他のロボットへの対処も必要になる。

 より中心街に近い場所で行なわれるため、通行人や見物客の数もつくばチャレンジ2007より増えることが予想され、通行人へのさらなる対処も要求される。そこで、ロボットに対する条件を、今回よりも少し厳しくすることも検討中だという。

 具体的には、安全性や操作のしやすさを考慮して、ロボットの大きさをより小さく制限するといったことが考えられる。このあたりについては、まだ確定したわけではなく、今後委員会などでの議論を通じて決定することになるだろう。距離は同じ1kmでも、つくばチャレンジ2008は課題の難易度が格段に上がっている。課題を達成するロボットの登場に期待したい。

 また、第二部の会場には、つくばチャレンジ2007に出場したロボットが展示されており、盛んなフリーディスカッションも行なわれていた。ナムコが27年以上前に製作したマイクロマウス「マッピー」やマイクロキャット「ニャームコ」も展示されており、懐かしがる人が多かった。


シンポジウムの第二部は、バンダイナムコゲームスの社員食堂で行なわれた 「つくばチャレンジ2008」開催概要。開催日は11月21日と22日(木曜日と金曜日と書かれているのは間違いで、実際は金曜日と土曜日である)。場所は、中央公園周辺の遊歩道(距離は1km)。直進のみではなく、コースには右左折やUターンがあり、通行人と他のロボットへの対処も求められるなど、課題が格段に難しくなった 予定コースの様子(その1)。つくばチャレンジ2007のコースに比べて、コース幅がかなり広くなっており、街路樹にも注意する必要がある

予定コースの様子(その2)。場所によっては、このように端に自転車が駐輪していることもあるので、注意が必要 中央公園周辺の遊歩道を進み、途中でUターンして帰ってくることになる 「つくばチャレンジ2008」開催概要の続き。ロボットに対する条件を変えることも検討中とのこと。もう少し大きさが制限されたり、機能・要素の制限が行なわれる可能性もある

第二部の会場には、つくばチャレンジ2007に出場したロボットが何台か展示されていた ロボットを前にして、開発者や参加者による活発な議論が行なわれていた マイクロマウス「マッピー」やマイクロキャット「ニャームコ」の実機も展示されていた(マッピーはテレビゲームだと思っている読者も多いだろうが、もともとマイクロマウスのマッピーが先に作られて、そのキャラクターが受けたため、ゲーム化されたのだ)

URL
  つくばチャレンジ
  http://www.robomedia.org/challenge/index.html
  ニューテクノロジー振興財団
  http://www.robomedia.org/main.html

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( 石井英男 )
2008/01/31 16:16

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