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「レスコンシンポジウム2007」レポート
~中越沖地震で活動したロボットとその実用性


レスコン大会実行委員長の升谷保博教授(大阪電気通信大学)
 12月9日、神戸市立青少年科学館にて「レスコンシンポジウム2007」が開催された。主催は、レスキューロボットコンテスト実行委員会、兵庫県、神戸市、読売新聞大阪本社。

 最初にレスコン大会実行委員長の升谷保博教授(大阪電気通信大学)より開会挨拶と「レスコンシンポジウム2007」の趣旨説明があった。

 レスキューロボットコンテスト(以下、レスコン)は、大規模都市災害における救命救助活動を題材としたロボットコンテストだ。本物のレスキューロボットで行なうわけではないが、レスコンには将来レスキューロボットを実現するための技術的な要素が盛り込まれている。

 例えば、「ロボットの遠隔操作技術」や「要救助者をやさしく扱う技術」、「複数のロボットによる協働技術」などだ。

 災害は世界各地で常に起こっている。神戸でも1995年に阪神淡路大震災が発生したが、人は忘れやすく、時間の経過とともに防災意識が薄れてしまう。そのため消防署や行政も、防災意識を高めるための啓蒙活動を行なっている。

 レスコン委員会は、レスキューシステムの拡充とともに、世間の注目を集め話題になりやすいロボットコンテストを通じて、防災の広報や啓蒙を行なうことを目的としている。

 今回のレスコンシンポジウムは、広く一般に防災や災害対応について考える場を提供すると共に、レスコンに興味ある人々へ向けて第8回レスキューロボットコンテストの説明会を行なった。


レスキュー現場からの報告

神戸市水上消防署 消防指令補の山本大二郎氏
 神戸市水上消防署消防指令補の山本大二郎氏より、「阪神淡路大震災における消防の活動と神戸市消防局のレスキュー隊の紹介」があった。

 山本氏は、平成6年の10月に灘消防署に配属された。山本氏が、消防士として炎上火災の現場経験をしたのは震災の前日だったという。阪神大震災は、山本氏の2回目の現場だったのだ。山本氏はスライドで現場の状況を説明しながら、実際に救助活動にあたった時のエピソードを生々しく語った。

 山本氏は、シンポジウムに参加しているレスコン参加者に対して、「レスキュー現場にとって必要なものは情報。情報がなければ、やみくもに救助活動をしなくてはならず効率が悪い。情報を共有し、どこに要救助者がいるのかわかるようなロボットが欲しい」と情報収集の重要性を訴えた。

 また、「レスキューロボットは、タフであって欲しい。雨や雪では使えないなど条件を選ぶロボットでは実用性がない。重いロボットは現場に持っていけない。手軽に持ち運びができ、強度があるものがほしい」と語った。

 講演後、参加者はレスキュー車に搭載されている高度資機材を見学した。


レスキュー車には、エンジンカッターや救命ロープなど1,000アイテムもの資機材が搭載されている 超音波で壁の向こうの要救助者を探索するシステム 人がいるらしいと判ったら、壁に小さな穴をあけ、カメラで覗いて要救助者の位置を探索する

レスキューロボット実用化の可能性

木村哲也准教授(長岡技術科学大学専門職大学院システム安全専攻)
 長岡技術科学大学の木村哲也准教授が「中越沖地震ロボットボランティアから見るレスキューロボット実用化の可能性」について講演を行なった。

 木村氏はまず、「レスキューロボット開発者は、災害現場を知る必要がある」と強調した。

 すでに土木や建築工学の分野では、被災地の災害調査が普通に行なわれている。だが、建築や土木の調査報告だけでは、レスキューロボットの開発には足りない情報があると指摘した。

 ロボットシステムを構築するためには、例えば、現場までの移動手段として、どこまで車で行けるのか、その先どの位の距離を歩くのか? という具体的な情報が必要になる。レスキュー作業環境においても、広くて地盤がしっかりした場所で機材を運用できるのか? それとも狭いのか? 二次災害の可能性はあるのか? どのくらい、離れれば安全と考えられるのか? といった細かく具体的な情報がなければ、現場で実際に使えるレスキューロボットはできないと木村氏は言う。

 木村氏は自分が経験した、2004年の中越地震と今回の中越沖地震の現場から、そうした情報や事例を集めて、社会にフィードバックしていくことが重要だと考えている。


レスキューロボット開発者・研究者が災害現場に行く理由
 2007年7月16日に、新潟県で中越沖地震が発生した。その翌日に、北九州のロボットベンチャー・株式会社テムザックから、木村氏にレスキューロボット「T-53援竜」によるガレキ除去のボランティアの申し出があった。

 援竜を使ったレスキューロボットのボランティア活動は、新潟工科大学の大金一二准教授が中心に行なった。木村氏は現地コーディネーターとしてボランティア活動に携わった経験から、ロボット研究者として感じたことを動画を紹介しながら報告した。

 今回、被災地でボランティア活動に使われたレスキューロボットの「T-53援竜」は、クローラ走行式の搭乗型双腕ロボットだ。サイズは、高さ2.8m、幅1.4m、長さ2.3m、重量は3トン。腕の長さは3m位で、腕に6自由度と手部1自由度がある。可搬重量は両腕で200kg。

 木村氏は、「このようなレスキューロボットを使ったボランティア活動は日本で初めてと思われる」と言う。被災地でロボットがガレキを除くところは誰も見たことがないため、そもそも最初は、このスペックでガレキ除去に使えるのかどうかが判らなかった。木村氏は、「ボランティア活動の中で、実証データを取れればいいと思っていた」という。

 この作業で一番気をつけなくてはならないのが、安全性である。まず援竜を使ったガレキ除去作業に取りかかる前に、作戦会議を開いた。その会議に、建築会社の方が協力を申し出てボランティアで参加し、現場での作業手順を指示してくれたという。

 この事前会議だけではなく、被災現場でも、援竜を使ってどのようにガレキを除去するのか検討する作戦タイムが多かった。1日の作業時間は6時間程度だが、ロボットが実質稼働したのは、1時間程だったという。


 被災現場の土地勘がある大金氏が中心となり、レスキューロボットの受け入れ先を探した。最終的に、築100年以上の古い倉庫Aと、築40年以上の倉庫Bの2つの現場でガレキ除去作業を実施した。倉庫Bに関しては、倉庫Aのガレキ除去ボランティアのようすをニュースで見た倉庫Bの所有者からの要望で急遽決まったという。そのため倉庫Bに関しては事前の準備時間がなかったが、作業は2~3日で片付いたという。

 木村氏は、現場での援竜の活動をビデオで紹介しながら、レスキューロボットによるガレキ除去の利点や問題点について解説した。

 援竜の指先は鉄の3本爪になっている。ガレキ除去を行なってみて、改めてガレキはいろいろな形状や素材があることが判った。例えば、木材は爪が食い込むが石だと滑って落ちてしまうことがあった。どのようなエンドエフェクターが最適なのか、現時点ではまだ判らない。現場で、状況に合わせてエンドエフェクターを変えることができればいいのだろうか? 手が2本あるのだから、左右で違うエンドエフェクターを装備してもいいのかもしれない。といったことを、援竜の作業を見ていて考えたという。

 活動の中で、ロボットが双腕であることの利点に改めて気づくことが多かったという。下記の動画で紹介しているように、石塀が前方に倒れないように片手で保持しながら奥に向けて倒すことができる。また、棒と板がくっついてバランスを取っているガレキも、手が二本あるため片手で棒を押さえ、もう一方で板を手前に倒すことができた。この時は、奥の瓦屋根の下に取り出したいものがあった。向こう側に倒すと商品が傷ついてしまう状況だ。これが人命救助のレスキュー現場であったら、ガレキの除去する方向を選ばなくては、要救助者を傷つけてしまう。

 その他、倒壊倉庫の奥を目視で確認する時に、援竜が2本の手で屋根の両端を支えて保持し、人間が中を確認し作業方針を決めることができた。倒壊の危険があるため、援竜が上部を保持していなければ、覗きに行くのは怖かったという。こうした作業も双腕だからできることだ。


【動画1】崩れた石塀を片付ける作業。手前に倒さないように、右手で押さえて左手で奥に倒している 【動画2】奥の瓦屋根の下に取り出したいものがあるため、片手で棒を押さえながら、もう一方で板を手前に倒した 【動画3】援竜が屋根の部分を支え、人が中を目視で確認する。ロボットと人の協調作業

 難易度が高いのは、立方体であるベランダを外す作業だったという。建築物は釘がでていることが多く、人が直接触るのは危険であるため、ロボットで作業する優位性がある。

 また、土壁のように崩れやすく埃がたちやすいものも人が作業するより、3mの腕で距離を保って撤去作業が行なえるロボットは便利だったという。


【動画4】ベランダの除去作業。立方体は、奥行きの方向を把握するのが難しいという 【動画5】ガレキの向きを変えると力の掛かる位置も変わり危険なため、向きを変えずに除去するのが基本だという 【動画6】片腕ではこの重量を安全に除去することはできない。左右それぞれの手をジョイスティックとボタンを切り分けて操縦している

 このように双腕であることの利点は、さまざまな作業で見受けられたという。

 双腕の利点として土台の破壊が少なく、いろいろな条件に対応できることが確認された。

 長いガレキを持つ時に、端を掴むとモーメントが大きくなるので、強く掴まなくてはならない。そうすると意図しないガレキの破壊が起こる可能性がある。だが、双腕ロボットは両端を持つことで、ガレキの重心が真ん中に来るため、強く掴まなくても安定して保持できる。

 また、ガレキにはさまざまな形状がある。動画でみたようにガレキ同士が不安定な状況でバランスを保っているため、動かす時に安定条件が変わってくる。そうした不確定な状況に対応するためには、双腕であることの優位性は高い。

 そして、双腕だからガレキを左右どちら側に除去するか選択ができる。他にも【動画3】のビデオのように、両側をしっかり固定するつなぎ止め作業もできる。このように、片腕では絶対にできない作業が双腕で可能になる。

 レスキューロボットの実用化までには、データを取ることや実績を積むことが必要である。だが木村氏は、「それを被災現場で受け入れられてもらうことは難しい」と指摘する。

 レスキューロボットを実用化するためには、実証実験は必須であるが、被災地における現地感情を考慮すると「実証実験」はNGである。しかし、被災地でのボランティア活動は一般化しているため、現地で受け入れられやすい。また、行政に対しても説明が容易になる。

 混乱している現地の行政に負担をかけずに行なうことも重要で、ボランティア活動は自給自足が原則となる。今回のボランティア活動でも、現場で勧められても食糧配給をもらわないなど、徹底して手弁当で活動したという。援竜に関する費用はテムザックが全て負担している。


 1週間援竜の作業を見ていて、現在のレスキューロボット技術は、T53援竜に関しては、ロボットボランティアとしては受け入れられるという印象を受けたという。

 もちろん、問題点も多い。メーカーや大学が発表するロボットのデモンストレーションは、事前に練習した成果を披露しているが、被災地の現地ではぶっつけ本番で行なっている。何がどう起こるか判らない現場で、オペレータの判断で作業を行なった。ロボットを操縦する場合、横方向の距離感は掴みやすいが、遠近感を取るのが難しい。操縦トレーニングを積まないと、災害現場で実際に活動するのは難しいだろう。今回の操縦はテムザックのオペレーターの中でも、一番ロボットに精通した方が行なっていたという。

 また、状況に応じてハンドの形状を変えるなどの対応があった方がよいのかもしれないと木村氏は提案している。

 実用化に向けては、ロボットの作業速度をアップする必要がある。人間だったら、すぐにできることが、ロボットでは時間が掛かってしまう。ちなみにベランダ除去の動画は6分以上あったものを編集して掲載した。ユーザーインターフェイスを簡単に扱えるようにすることも必要だろう。

 ロボットの性能にも関わってくるが、作業手順の最適化も考えなくてはならない。木村氏は、「ガレキ操作の作業は工学的に分類できるのではないか」という。

 最後に木村氏は、レスコンの競技前プレゼンテーションで、「作業目的を考えてロボットを作った」という発言があるが、そうした考えをもっと突き詰めていくと、このように実際の作業現場で役に立つロボットが出てくると期待していると、講演を締めくくった。


レスコン2008開催スケジュール

 第8回レスキューロボットコンテストは、2008年7月6日に予選、8月9日~10日に本選を開催する。

 レスコンは2チームが同時に競技を行なうが、勝敗を競うのではなく一緒にレスキューをする仲間として互いがベストなパフォーマンスをすることを目的としている。競技は、被災地現場を模した1/6サイズのフィールドで行なう。成績は、要救助者役の人形(公式愛称:ダミヤン)をやさしく救助し、そのレスキュー活動に掛かった時間で評価される。

 第8回大会からは、無線LANを搭載したレスコンボードにサーボや有線カメラを接続する方法だけが許可され、ラジコン送受信器と無線カメラは使用禁止になる。他にも、チームメンバーが上限8名から10名になるなどいくつかの変更点がある。

 2008年1月31日まで、公式サイトにてコンテスト参加チームを募集している。


第8回レスキューロボットコンテスト 開催概要 競技概要

レスキューロボット規格 第8回大会の変更点

URL
  レスキューロボットコンテスト
  http://www.rescue-robot-contest.org/index.html
  テムザック
  http://www.tmsuk.co.jp/
  長岡技術科学大学 システム安全系 木村研究室
  http://sessyu.nagaokaut.ac.jp/~kimuralab/

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( 三月兎 )
2007/12/25 17:30

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