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「第7回レスキューロボットコンテスト」本選レポート
~レスキュー活動の啓発と広報を目的としたロボットコンテスト~


 2007年8月11日~12日の2日間、神戸市の神戸サンボーホールにてアールエスコンポーネンツ杯「第7回レスキューロボットコンテスト」競技会本選が開催された。主催はレスキューロボットコンテスト委員会。

 本選には7月に開催された予選で優秀な成績を納めた12チームが出場した。会場には2日間で親子連れ5,892人の来場者があった。


レスキューロボットコンテストとは

 レスキューロボットコンテスト(略称:レスコン)は、1995年の阪神・淡路大震災の経験を踏まえて発足したレスキューシステム研究会の中から考案された。コンテストを通じて、役に立つレスキューシステム構築のために研究・開発の継続と、レスキュー活動の大切さや難しさを考える機会を広く提案することを目的としている。

 競技は、地震後の市街地を模した1/6スケールのフィールドで行なわれる。被災地は二次災害の恐れがあるために、人が立ち入ることができないという設定だ。遠隔操縦のレスキューロボットでガレキの中にいる要救助者の人形(公式愛称:ダミヤン)を優しく救助し安全な場所へ運ぶことがミッションとなっている。レスコンでは、ミッションをクリアする時間を競うのではなく、どれだけダミヤンを優しく救助しているかが評価の対象となる。

 ダミヤンは、圧力センサによってボディや首に掛かる衝撃、3軸加速度センサでボディの角度などを検知している。検出した値はBluetoothで1秒間に10回の頻度でフィールド外のPCに送信されている。もし、ダミヤンの周囲にあるガレキを取り除こうとしてダミヤンにぶつけたり、救助する際にダミヤンを逆さづりにしてしまうと、減点の対象となる。ダミヤンのボディは今大会からスポンジ製で柔らかくなり、大・小の2サイズになった。これは、ダミヤンのサイズに合わせたレスキューシステム製作を牽制するためでもある。

 チームは、チームを統括する「キャプテン」、高台から俯瞰映像を撮影する「ヘリテレ」、ロボットを遠隔操縦する「オペレータ」、広報活動を行なう「スピーカー」、緊急時にロボットを救出する「ヘルパー」によって構成されている。

 レスコンでは、競技者はフィールドを直接見ることができない。チームメンバーの中で、唯一「ヘリテレ」だけが壁越しにフィールド内をカメラで撮影することが許されており、その映像をコントロールルームのメンバーに送る。ヘリテレが撮影した映像と、ロボットに搭載した無線カメラから送られてくる映像を頼りに被災地の状況を判断し、ロボットを遠隔操縦する。ロボットのサイズや台数に制限はないが、全てのロボットが競技開始時にロボットベースに待機することが定められている。


 競技は2体のダミヤンをロボットベースに搬送するか、制限時間に達すると終了する。ミッションの得点は、ダミヤンの体力を換算するフィジカルポイントと、救助活動達成度のミッションポイントの合計で決定する。

 レスコンでは、ミッション前に3分間のプレゼンテーションがあり、ロボットの開発経緯や特徴をアピールする。

 ミッションは2チームが同時に行なう。救助すべきダミヤンの配置は、ミッション毎に変るため、競技前に、ヘリテレが撮影した映像を見ながら、ダミヤンの位置を特定し、救助方針を決定する作戦会議が行なわれる。

 各チームのコントロールルームは、コントロールルーム間通信で結ばれており、両チームが連絡を取り合うことができる。このシステムを使い、互いが迅速な救助を行なうために、救出時に使用するルートを相手チームに伝えて救助方針を決定する。ファイナルミッションでは、ガレキや倒壊物の影にダミヤンが配置されヘリテレの位置からダミヤンが見つからないこともあったので、ヘリテレから死角になる情報を互いに交換し、チームメンバー内だけでなく、他チームとも情報を共有し協調するケースもあり、審査員に評価されていた。

 この通信システムは「各県からレスキュー隊が出動し、災害現場で協調して救助作業にあたる」という想定の上で行なわれている。


地震被災地を模した競技フィールド。広さは50×50m。灰色部分が道路。黄土色は私有地でダミヤン救出時以外はロボットの立ち入りは禁止。左右の壁越しにヘリテレがフィールドの撮影をし、奥にあるコントロールルームに映像を送る 要救助者役のダミヤン。サイズは大が身長300mm、質量1kg。小は、身長230mm、質量0.5kg。人形の間にあるものは、ダミヤンのボディの断面。スポンジをウレタンで覆っている 【動画】競技前にロボットの説明や、ミッションクリアの意気込みを3分間でプレゼンテーションする。また、競技後には、ミッションを振り返り活動報告を行なう。写真は「SAKURAJIMA(鹿児島大学ロボット研究会)」

ヘリテレだけが、フィールド内を目視できる。ヘリテレが撮影した映像がコントロールルームに送られる 「桜菜(日本大学 理工学部)」のロボット。全ロボットは、競技開始時にロボットベースに待機しなければならない 本選では、各競技毎にダミヤンの位置を変更する。ガレキの中には、金属製の重いガレキも紛れている

【動画】「救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)」チーム。ヘリテレの映像を元にして、3分間の作戦会議を行なう。映像情報を元にしてダミヤンの位置を特定したり、救出戦略を考える チャット、ホワイトボード、ボイスチャットなどの機能がインストールされたコントロールルーム間通信PC。互いがスムーズな救助を行なうために、競技中もチーム間で映像の死角や走行ルートの情報交換を行なう

ファイナルミッションのレスキュー活動報告

 本選では、初日にファーストミッションが行なわれ、上位6チームが2日目のファイナルミッションに出場できる。ここでは、ファイナルミッションに進んだロボットの活躍を紹介しよう。

 初出場でファイナルミッションまで進んだ「SAKURAJIMA(鹿児島大学ロボット研究会)」は、ガレキ除去作業、救助活動にそれぞれ特化したロボットを製作して競技に挑んだ。青ダミヤンの救助に見事成功した。

 地元の「がんばろうKOBE(神戸市立高専)」は、緑ダミヤンの救助で2号機と3号機が見事な協調作業を行なった。救助用ハンドを持たない3号機は3つのカメラで、緑ダミヤンの救助活動をする2号機のカメラとは別の角度から周囲を撮影し、コントロールルームに映像情報を送り2号機オペレータの操縦をサポートした。2号機が緑ダミヤンを無事に救助すると、3号機のベッドに乗せダミヤンにカバーをかけて安全に搬送した。


SAKURAJIMA(鹿児島大学ロボット研究会)の2号機。青ダミヤンを無事に救出し、搬送完了した がんばろうKOBE(神戸市立高専)は、2号機がダミヤンの周囲にあるガレキ除去している間、3号機はただ待機するのではなく、カメラで別角度から撮影した映像をコントロールルームに送り、2号機の活動をサポートしている

2号機が救助したダミヤンを3号機のベッドに乗せると、ベッドをロボット内部に滑り込ませて収納する ダミヤンを無事にロボットベースまで搬送する3号機

 都工機械電気(大阪市立都島工業高校機械電気科)は2、3年生有志でチームを組んでロボットを製作している。レスキューの目標は、「シンプルで確実に簡単に操作できるロボットを製作して、焦らず、安全に、諦めない救助活動を行なうこと」とチームキャプテンが競技前に意気込みを語った。

 緑ダミヤンを3号機がスムーズに救出した後、全ロボットが互いの特性を活かしてもう1体の青ダミヤンの救出活動にあたった。

 1号機が途中トラブルを起こしたが、リスタートのタイムラグが惜しく、緊急停止を申請するのが遅れたため、最後に時間切れとなってしまい、救助した青ダミヤンを搬送することができず残念であった。


【動画】3号機は探査機能を兼ね備え救助、搬送もできる万能機。緑ダミヤンの上にあるガレキを除去し、無事に救出に成功、搬送した 【動画】1号機のハンドは、爪の間隔がダミヤンのサイズに合わせて稼動する仕組みになっている。ダミヤンを持ち上げると、格納式ベッドが出てきてダミヤンを助ける

 桜菜(日本大学理工学部精密機械工学科羽多野研究室)は、3体のロボット全てにガレキ除去、救出、搬送の機能を持たせた。フィールドの状況に応じて、ロボットが単独または協調してダミヤンの救出にあたる。

 ロボットの回路基板は、電源部、信号部、駆動部の機能毎に分けており、故障したときはその基板だけを交換すればよいようにしてある。3機のロボットはそれぞれ特徴を持っているが、回路基板は共通化しメンテナンス性を高めた。

 3号機は、大会で初めて単独でダミヤン救助に成功したという。桜葉チームのキャプテンは「全てのロボットが単独作業できるということが証明できて嬉しい」と競技を振り返った。


2号機は、ダミヤンのために柔らかいベッドを用意した。ベッド周囲をカーテンで囲い搬送中にダミヤンが被災地を見る恐怖を取り除くこととプライバシー保護に配慮している 3号機のベッドはベルトコンベア式。救助の際にダミヤンをハンドで吊り上げることを最小限にして、安全に保護する。ベルトにはゴムの素材を使用して、搬送中の振動を抑えている

 救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)の2号機は、ダミヤンを救助する時に、首を保護するギプスを実装していた。新しいダミヤンは首にかかる負荷をボディとは別に感知するようになり、首と頭部の保護を重要視している。ロボットのアームにスポンジ製のギプスを取り付け、ダミヤンの首を保護してから搬送する仕組みを考案した。

 残念ながらミッション中にギプス装着はできなかったが、チーム内で声を掛け合って臨機応変な対応をし、今までで一番スムーズに救助ができたという。

 また、1号機はダミヤンの搬送路に高台の裏にある道路を選択した。これまで裏道を通過したロボットはなく、速やかな搬送のための冷静な判断とも言えるが、大会委員長の升谷氏は「同時にミッションを行なっているTRRLチームと連絡を密に取り、道を譲り合って最短距離を搬送したら、その方が早かったかもしれない」とコメントした。


ベルトコンベア式のベッドにダミヤンを載せて搬送する2号機。道路には、写真のような悪路があるため、走行中にダミヤンに振動を伝えないようにする必要がある 高台の後方にある道を使ってダミヤンを搬送する1号機。来年は、裏道にもガレキが散乱しているかもしれない

2号機にはダミヤンの首を保護するギプス装着機能が搭載されている 【動画】競技後の活動報告で、2号機のギプス保護機能をアピールした。首の保持を考えてきたチームは他になかった

 TRRL(津山高専電子制御工学科)のロボットは、さまざまな状況に対応できるよう機体をユニット化し、作業に応じて搬送ユニットや情報ユニットを取り付けることができる。競技では1号機が搬送ユニットを搭載し、バンパーでガレキを除去しながら2号機を先導して、青ダミヤンの元へ現着。2号機が救助したダミヤンを1号機の搬送ユニットに乗せた。搬送ユニットは屋根つきベッドになっており、ダミヤンを二次災害から守りながら安全に搬送した。

 1、2号機は3年間に渡って改良を加え性能をアップしているだけあり、オペレーターの協調作業もばっちりと決まっていた。

 一方、3号機は今年新規で開発し、設計的に一番いいロボットになっているという。アーム部分はエアシリンダーを電磁弁で調整して、微妙な位置決めができるようになっている。ピンクダミヤンの上にあるガレキを2号機が除去し、3号機がダミヤンの下に爪を入れてアームを縮めてダミヤンを引っ張り、ベルトコンベア式のベッドに救出したダミヤンを無事にロボットベースまで搬送した。TRRLはわずか7分36秒でミッションを完遂した。

 TRRLは、競技前のプレゼンテーションが時間オーバーしたため、ペナルティとしてダミヤンのフィジカルポイントが5ポイント減点で開始したが、競技中の減点が少なかった。特に青ダミヤンはわずか1ポイントの減点で、ほとんど苦痛を与えずに救助に成功している。


【動画】1号機と2号機が見事な連携作業で、スムースに青ダミヤンを救助していた。救助~搬送完了までにダミヤンが感じた痛みはわずか1ポイントだけだった 【動画】ピンクダミヤンの救出は、2号機がガレキを除去した後、3号機がエアシリンダー方式のアームでダミヤンのボディを保持し、ベルトコンベア式のベッドの上にダミヤンを乗せる 【動画】活動報告で1号機に情報ユニットを搭載した場合のデモを行なった。アームの先端にあるカメラで周囲を認識し、ヘリテレの死角を補って他のロボットのレスキュー活動をサポートするのが目的

レスコンが目指すもの

 レスコンは、2チーム同時に競技を行なうが、相手チームと勝負をしているわけではなく、「自己ベスト」を尽くす競技会だ。実際のレスキューと同じように、チーム内で助け合い、諦めないレスキュー活動が要求されている。

 また、ルール的に問題がなくとも、ダミヤンの気持ちになって考えた時にどういう救助が望ましいか? が問われる。例えば、腕を引っ張って搬送ベッドに引きづり上げることもできるが、自分がダミヤンだったら、「もうちょっと優しく助けて~」と願うだろう。前述のように、ダミヤンには各種センサーが内蔵されており、痛みや苦痛を数値化しているが、ダミヤンの感情はセンサーで検知できない。そこで、総合評価においては、救助活動を見ている一般審査員と専門審査員がダミヤンの気持ちになって評価する審査員ポイントが重要視される。


ベストポイント賞とレスキュー工学大賞を受賞したTRRL(津山高専電子制御工学科)のメンバー
 総合評価は、初日のファーストミッション得点+ファイナルミッション得点+審査員得点で算出される。今大会では、TRRLがベストポイント賞を受賞した。

 また、レスコンでもっとも名誉ある「レスキュー工学大賞」も同じくTRRLに贈られた。同賞は、競技で得たポイントにかかわらず、救助者の接し方やレスキューに対する考え方などを総合的に判断し評価する。

 筆者は今回、初めてレスコンを見て「とても面白いロボットコンテストだ」と感じた。

 一般的にロボットコンテストは、見学者にとって見どころがわかりづらい。見ていてルールや勝敗のつけ方が理解できても、ロボットの特性やロボット製作者の工夫点が判らないと楽しむポイントがつかめないのだ。


レスキューロボットコンテスト実行委員長 升谷保博氏 (大阪電気通信大学)
 レスコンは、各チームが競技前にプレゼンをして、ロボットの工夫点を説明しミッションクリアへの意気込みを語ってくれるので、ロボットの活躍を興味を持って見ることができる。また、コントロールルームで参加者が必死で頑張っているようすを見守り、活動報告でリアルな感想を聞くことができるので、感情移入がしやすい。一般見学者がロボット製作者やオペレータに関心を向けることができるコンテストというのは、珍しい。

 実行委員長の升谷保博氏は、「小学生や子どもにレスコンを見に来てほしい。ロボットやレスキュー活動に憧れを持ってほしい。そのためにも、参加者にカッコいいレスキュー活動をしてほしい」と語っていた。

 来年もレスキューロボットコンテストは同会場で8月に本選が行なわれる。多くの方が、レスコンを見て、レスキュー活動やロボットに興味を持ってくれたら嬉しいと思う。


URL
  レスキューロボットコンテスト
  http://www.rescue-robot-contest.org/index.html

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アールエスコンポーネンツ杯「第7回レスキューロボットコンテスト」予選レポート(2007/07/12)


( 三月兎 )
2007/08/23 00:10

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