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ペットボトルロボからゾウリムシロボまで、研究者がロボティクスを解説!
〜第25回日本ロボット学会学術講演会一般公開セッション(その1)


未来の乗用車をコンセプトにしたビッグコックローチロボット!?

 9月13日から15日の3日間、千葉工業大学の津田沼キャンパスにおいて、第25回日本ロボット学会学術講演会が開催された。「ロボット研究と実用化」をメインテーマに、多様化したロボット工学関連の研究者が一堂に会し、最新の研究成果を公表した。ここでは一般公開セッション「ロボティクス若手ネットワーク・オープンセミナー」〜「君と共に、ロボティクスが拓く未来」の模様をレポートする。

 本セミナーでは、未来のロボット研究者を目指す中高生や、一般人に分かりやすくロボティクスを啓蒙することを目的に、4人の研究者が登場。ユニークな研究成果や、ロボットに対する考え方、日々の研究生活などを披露した。実行委員会の大武美保子準教授は「このセミナーは、ロボット学会の若い研究者や学生が集まって今回初めて開催されたもの。ロボットの実演を含めて、未来型のロボット、珍しいロボット、明日作れるロボット、人を助けるロボットを柱に紹介する」と、冒頭で挨拶した。


【写真1】千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターfuRoの古田貴之所長。脚・車輪ハイブリッド方式の多関節移動ロボット「Halluc II」について、軽妙な語り口で解説を行なう
 本セミナーのトップに登場したのは、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターfuRoの古田貴之所長だ。古田氏は、ヒューマノイドロボットから、玩具、家電、クルマなどに応用できる幅広いロボット技術の研究を進め、企業との共同開発や国家プロジェクトまで手がけている。来場者をひきつける軽妙な語り口で、自身がロボットに目覚めた幼少期から、徹夜続きの研究生活、手がけてきたロボットの研究成果や最新ロボットなどについて紹介した。

 たとえば、古田氏が最近開発したロボットに「Halluc II」がある【写真1】。これは「未来の乗用車」をコンセプトに開発された多関節移動ロボットで、この8月に日本科学未来館で導入されたばかりだ。Halluc IIを製作した目的について、「人に使われて役に立つロボットの一環としてロボットを作った。クルマは平坦な道路でしか走れない。木を切って道路を作るのではなく、技術が環境に歩み寄ってくれるエコな乗り物を作りたかった」と古田氏は語る。

 Halluc IIは、前後にレーザー式センサが装備されており、270度の範囲で障害物を検出する。また、13個の距離センサやカメラも搭載している。脚は8脚あり、それぞれの脚に付いたモータ(合計56個)で駆動する。駆動には脚・車輪ハイブリッド方式を採用しており、平地・荒地など状況に合わせて形態を「ビークル」「インセクト」「アニマル」というモードに変化させて動作できるという大きな特徴がある【写真2】【写真3】【写真4】【動画1】【動画2】。

 本セミナーでは、それぞれの変形モードでデモンストレーションが行なわれた。今回、ロボットの操作については、PCからHalluc IIをコマンドラインで直接入力していたが、テレイグジスタンスの技術にも対応している。実際に日本科学未来館では、子供たちに先端技術を体感してもらうためにHalluc IIが常設展示されており、そこで半球型スクリーンと3軸デバイスを備えた没入型コックピット「Hull」【写真5】によって、このロボットに搭載されたカメラ映像を見ながら直感的に遠隔操縦することが可能だ。このコックピットシステムでデータを収集し、誰でも使えるコックピットの実用化を目指しているという。


【写真2】Halluc IIの移動形態その1、「ビークルモード」(車輪モード)。合計56個のモータを協調動作させることで、前後左右やスラローム移動、その場での回転などさまざまな動きに対応 【写真3】Halluc IIの移動形態その2、「インセクトモード」。比較的広い場所で、上体を起こしながら脚を開いて、直進したり、横移動したり、段差越えにも対応 【写真4】Halluc IIの移動形態その3、「アニマルモード」。インセクトモードに比べて歩行速度は遅いが、脚が内部にあるため、狭いところを歩くことができる

【動画1】Halluc IIのドライブモード。スラローム走行をしているところ 【動画2】Halluc IIのインセクトモードでの横移動。本体の向きを変えているところ 【写真5】ロボット用コックピット「Hull」。日本科学未来館では、Halluc IIを遠隔操縦するために用いられているが、Halluc II専用というわけではないという。オペレータ側の操縦桿は、力覚フィードバックによって反力が伝えられる

 また、古田氏は国が推進するロボット戦略のシナリオなどについても俯瞰した。経済産業省が進めてきた次世代ロボットの実用化プロジェクト、共通基盤開発プロジェクトや知能化技術開発プロジェクトなどに参画し、ロボットの普及に尽力している【写真6】。また国土交通省や東京都と共同で、街や生活と連動するロボット環境を作りだす次世代インフラの構築に向け、ユビキタス社会の実験を始めている。

 たとえば、銀座4丁目の交差点や地上・地下エリアでは、電波や赤外線によって情報を送れるようなマーカーを設置し、さまざまな街情報とロボットを連動させようとしているところだ【写真7】。周辺の地図データをロボットやビークルが取得し、自己位置の補正や経路生成をする。あるいは顔認証技術によって、リアルタイムに人の顔を抽出して、ビークルに乗る人を認証したり【写真8】、年齢や性別を判別するシステム【写真9】への布石を打とうと考えている。

 古田氏はロボットの未来について「技術の向こう側に未来がある。やはりロボット技術を皆に使ってもらうためには、人間の文化に目を向けロボットを実用化することが大切」とし、セミナーを終えた。


【写真6】経済産業省が進めてきたロボット政策。ロボットの本格的な普及を目指し、さまざまなプロジェクトが立ち上がっている 【写真7】国土交通省と東京都が進める「東京ユビキタス計画・銀座」。街・生活と連動するロボット環境の実現に向け、銀座で実験が行なわれている。中空にさまざまな情報が飛び交っている

【写真8】来るべきユビキタス社会に向けたロボット技術の応用。ucodeと呼ばれる周辺データをロボットやビークルが取得し、自己位置の補正や経路を生成することが可能 【写真9】NECソフトと共同で、顔認証技術による性別や年齢の判別を行なっている。どのような人が出入りしたのか、リアルタイムに人の顔を抽出して来場者数を認識できる

ゾウリムシをロボットに! ミクロの世界で微細な作業をこなす微生物ロボット

【写真10】東京大学大学院の尾川順子氏(情報理工学研究所/日本学術振興会特別研究員)
 一風変わった研究をしているのが、東京大学大学院の尾川順子氏だ【写真10】。一般にロボットというと、移動タイプやヒューマノイドタイプなど、姿・形のあるものをイメージすることが多い。ところが、ロボットにはさまざまな種類があり、ロボットの定義もまちまちだ。尾川氏は「実世界の状況を認識し、それを基に外界に働きかけをするものをロボットと考えている」という。そして、「マイクロバイオロボティクス」と呼ばれる、微細な世界で活躍するロボット分野での研究を進めている。この分野は、大阪大学や東京電機大学、東北大学などでも研究されているという。

 現在、微細な作業を行なうロボットには、マイクロマシンやMEMS技術を利用した研究がある。しかし、どちらかというと個々の要素技術の研究にとどまっている状況だ。そこで尾川氏は、天然のマイクロロボットとして微生物を利用することを考えた【写真11】。

 微生物をロボットに使うメリットは、現在の微細技術では難しい高性能なセンサやアクチュエータを自身で兼ね備えている点や、電源供給が不要な点(代わりにエサが必要になる)、バイオ分野での応用が利く点、コストが掛からず自己増殖してくれる点などがある。具体的には、扱いやすく、反応性の良いゾウリムシによって、ミクロの世界で物体の搬送や操作をしたり(歯車をまわしたり、部品を組み立てるなど)、センサとして状況把握などをサポートできるようなロボット利用を目指しているそうだ【写真12】。

 では、ゾウリムシの行動を思い通りに制御するには一体どのようにすればよいのだろうか? 何もしなければゾウリムシは各々勝手な動きをしてしまう。ところがゾウリムシなどの微生物は、外部から電界を加えると、陰極に向かって泳ぐという「電気走性」があり、電界をうまくコントロールすれば、その動きを制御することが可能だ【写真13】。この原理を利用し、尾川氏は電極の間にゾウリムシを入れて、2次元あるいは3次元的に一定領域でゾウリムシを閉じ込めたり、物体を運ばせるといった研究を進めている【写真14】【写真15】【動画3】【動画4】。


【写真11】高性能なセンサやアクチュエータを自身で兼ね備える微生物を天然のマイクロロボットとして利用。尾川氏は、反応性のよいゾウリムシを採用した 【写真12】微生物ができる仕事の例。物を運ぶ「マイクロデリバリ」や、物体を操作する「マイクロマニピュレーション」のほか、微小世界の状況を検出する「マイクロセンシング」の役割も可能 【写真13】微生物の行動を制御するために、電気走性を利用する。電極の間にゾウリムシを置いて電界を掛ける。陰極に向かって泳ぐため、この原理を利用して行動を制御できる

【写真14】ゾウリムシを2次元的(X-Y方向)に封じ込めて行動を制御する実験。青いラインがゾウリムシの行動の軌跡 【写真15】こちらは垂直方向のゾウリムシを封じ込めているところ。3次元的な行動の制御も考慮する必要がある

【動画3】2次元的に封じ込まれたゾウリムシのトレース。電界をコントロールすることで、うまく行動を制御できていることが分かる 【動画4】多数のゾウリムシによって物を運ばせているところ。マイクロロボットの世界では、複数のロボットを制御して、協力しあいながら1つの仕事をさせるという考え方。未来には、微生物が体内で薬を運んでくれるかもしれない

 とはいえ、微小なゾウリムシを制御するには、高度なノウハウが必要だ。顕微鏡でゾウリムシの行動を追っても、その動きが速く、焦点がぼやけたり、視界から外れて、観測できなくなってしまうことが多い。そのため、尾川氏は1,000分の1秒という高速撮影が可能なビジョンシステムを採用し、この問題を解決したという。

 ゾウリムシを水平方向でトラッキングして、常に視界の中心に対象がくるようにXYステージを動かす【写真16】。また垂直方向についても、焦点面の上下によって変化する明暗パターンからトラッキングすることで、正確にゾウリムシの姿を捉える工夫がなされている【写真17】。このように3次元でのトラッキングを行なうことで、ゾウリムシの挙動を正確に捕捉し、その行動を制御することが可能になった【動画5】。

 また、ゾウリムシのような微生物が刺激を受けると、その細胞内のイオン濃度が変化することが知られている。そこで、イオン濃度に応じて光を発する薬品を利用して、その光を高速ビジョンで計測すれば、ゾウリムシが壁などの障害物にぶつかった時にタッチセンサとして使うことも可能になる【写真18】。

 最後に尾川氏は、「微生物ロボットはまだ基礎研究の段階であり、すぐに実用化するわけではない。しかし、ロボティクスを突き詰めていくと、いずれはバイオ分野の研究に突きあたるはず。ロボティクスが生物から学べることはたくさんあるため、これからロボットを学ぶ人は、生物にも興味を持ってもらえると嬉しい」と述べた。今後は研究対象をゾウリムシだけなく、他の微生物にも広げ、さらに従来のマイクロマシンやMEMS技術との協調、コンピュータと生物を融合する基礎技術、微生物を利用した新たな超小型センサ・アクチュエータの開発なども取り組んでいきたいという。


【写真16】ゾウリムシの行動を制御するためには、まずその行動を観測できなければならない。高速ビジョンシステムで微生物を捕捉し、常に視界の中心にピントが合うようにステージを動かす 【写真17】ゾウリムシは水平方向だけでなく垂直方向にも動く。そのため、顕微鏡の焦点距離が合わなくなってしまう。オートフォーカスさせるために、明暗パターンを利用して垂直方向のトラッキングを行なう

【動画5】ゾウリムシの動きを3次元的にトラッキングしているところ。水平方向だけでなく、垂直方向にも目まぐるしく行動していることが分かる 【写真18】微生物をタッチセンサとして利用する事例。微生物が刺激を受けると、細胞内のイオン濃度が変化。この性質を利用し、イオン濃度に応じて光を発する薬品を投入。ゾウリムシが障害物にぶつかった時に発する光を計測する

ペットボトルを利用した、安価で創造的なロボット教育

【写真19】東京大学大学院(工学研究科 精密機械工学専攻知能システム分野 認知発達機械研究室/日本学術振興会特別研究員)の松下光次郎氏
 理工系離れが叫ばれ始めて久しいが、次世代の工学者を育成するうえで「ものづくり教育」はとても重要だ。学生自らが考え、製作し、制御実験を行なうロボット創造教育に注目が集まっており、実際にLEGOマインドストームや小型ヒューマノイドロボットといった教材を取り入れている教育機関も多い。そのような中で、誰でも手軽にできる創造的なロボット教育の開発を目指している研究者が、東京大学大学院の松下光次郎氏だ【写真19】。

 松下氏が研究しているロボット教材は、従来よりも身近かつ手軽で安価ながら、身体構造も含めて創意工夫できるものだ。モータなどの駆動源がなく、斜面を歩行する「受動歩行機」などのメカニズムにみられるように、ロボット製作において知能を理解する上で身体的特徴は切り離せない要素になっている(この考え方は「身体性人工知能」と呼ばれる)【写真20】。そこで、「情報処理や制御技術の体験だけではなく、試行錯誤で機構設計ができるロボットシステム全体の開発が必要だ」(松下氏)という。

 ところが、実際にロボットを設計・製作するためには、旋盤などの工作機械を扱うことになるため、技術的な敷居も高くなってしまう。松下氏は、ロボットの身体を簡単に製作するために、材料としてペットボトルを選んだ。最大のポイントは、グルーガンによって、ペットボトルにRCサーボモータを接着して、関節構造を作る方法を採用したこと【写真21】。グルーガンはスティック状の樹脂を溶かして接着する道具で、熱で溶けた樹脂が冷めれば固着するため、短時間での作業が可能だ。

 材料にペットボトルを選択した理由は、壊れにくく、取り付け取り外しが簡単な点、さらにボトルに水を入れることで重さを自由に変更できる点だ。つまり、形状や重量分布が簡単かつ自由に変更することが可能であるため、試行錯誤をしやくすく、創作活動にも有効に働くというわけだ。これにより、ペットボトルを利用したロボットアームや2脚歩行、4脚歩行などのロボットを、さまざまなアイデアを凝らして簡単に製作できるようになったという【写真22】。


【写真20】ロボット製作において、身体的特徴は切り離せない重要な要素。その代表例に受動歩行機がある。モータなどの動力源はないが、メカニズムをうまく工夫し、重力エネルギーを利用すれば、2足歩行を実現できる 【写真21】松下氏が提案するロボットキット。ロボットの身体構造を簡単・迅速につくることが可能で、なおかつ変更も容易。ペットボトルとRCサーボモータを接着して関節構造を作る。接着にはグルーガンを使用 【写真22】さまざまな構造のペットボトルロボット。ロボットアーム、2脚歩行および4脚の歩行ロボットの例。中央のロボットは、モータ1つで歩行できる準受動脚ロボットだ

 一方、松下氏は制御系の学習でも、いろいろな動作パターンを容易に作り出せる仕組みや、身体性人工知能、サイボーグ技術などの興味深いテクノロジーを取り入れることで、科学の面白さを伝える創造的な教育を実践している。たとえば、「センサリモータ技術」「生体信号」「直接教示(ティーチング・プレイバック)」による制御応用例がある。

 センサリモータ技術では、サーボモータや光センサを使い、ワンチップマイコン(H8/3664)によって、プログラミングを学ぶことが可能だ。もしプログラミングができなくても、サンプルプログラムのパラメータを書き変えることで、動作を簡単に変更できるようになっている【写真23】【写真24】【動画6】【動画7】。ロボットの身体的な構造を工夫すれば、モータの数を減らせ、そのぶん要求される情報処理量を減らすことも可能になる。

 特に興味深かったのは、2番目のサイボーグ技術を取り入れた提案だ。これは生体信号と呼ばれる、いわゆる微弱な表面筋電位を利用したロボットで、古くから筋電義手などの研究で用いられているもの【写真25】【動画8】。最近では筑波大学の山海教授が開発したロボットスーツ「HAL」が、とても注目を集めている。従来このような筋電を利用するためには、高価な筋電位センサや増幅器が必要であった。

 そこで松下氏は、これらの装置を自作で作ってしまうことで、コストを3,000円程度に抑えることに成功したという【写真26】。信号の増幅器は市販のオペアンプを利用して製作できるそうだ。信号となる交流波(表面筋電位)を絶対値でフィルタリングして、さらにLPF(ローパスフィルタ)で波形を円滑化する。そして、この計測電位に比例するようにモータを動かしてやるという仕組み。筋肉を動かすと、その強さに比例してロボットが動作するようになる【写真27】【写真28】【動画9】。このような面白いテーマを、誰でも比較的簡単にできる点は、教育的にとても意味があるのではないだろうか。


【写真23】制御系の学習例その1、「センサリモータ技術」。ワンチップマイコンとセンサ、RCサーボモータを組み合わせた制御器。C言語でプログラミング学習ができるほか、サンプルプログラムのパラメータ変更による利用も可能 【写真24】センサリモータ技術を利用したペットボトルの4脚ロボット。ペットボトルの脚はキャップ部でジョイントされており、取り外したり、中に水を入れることも可能 【動画6】4脚ロボットの歩行デモンストレーション。RCモータ1個で、うまく4脚歩行できるような身体構造になっていることに注目

【動画7】こちらは2脚の準受動歩行のデモ。1個のモータを利用し、ペットボトルを振って重心を移動させながら歩行する仕組み 【写真25】制御系の学習例その2、「生体信号制御」。微弱な表面筋電位を利用した生体信号制御器を開発し、サイボーグ技術を学ぶ 【写真26】微弱な表面筋電位をセンシングするセンサや増幅器は自作。市販の電子部品を利用すれば、3,000円程度で作れるというので、ぜひチャレンジしてみてはいかが?

【写真27】生体信号制御の仕組み。筋肉の上にセンサをつけ、表面筋電位を検出。その信号を自作の電子回路によって、絶対値フィルタリング処理をしてから、LPFで円滑化する。この電位をRCサーボモータの回転指令電圧とする 【動画8】前腕動作時の表面筋電位をオシロスコープで観測したところ。このように、筋肉を動かすための交流波が発生していることが分かる

【写真28】交流会でのデモンストレーションの模様。腕に表面筋電位センサを貼り付け、自作の電子回路を動作させているところ 【動画9】筋電位を利用した歩行ロボットのデモンストレーション。自分の動きがダイレクトにロボットに伝わるので大変面白い。サイボーグ技術を理解するために最適な学習キットになる

 最後の提案は直接教示(ティーチング・プレイバック)による制御で、従来から産業用ロボットなどで使われている手法の1つ。プログラムの知識がなくても直感的にロボットの動作パターンを設定して、短時間でロボット教育を実現できるメリットがある【写真29】【動画10】。こちらはポテンショメータを利用し、手動で設定した関節の回転を検出、その電圧を記憶して動作を再現するもの。自分の思い通りにロボットが動作するようになるまで、何度でも設定を繰り返せる。

 松下氏は、このようなロボットを教育カリキュラムとして組んで、大学生や院生の授業に取り入れている【写真30】。身体構造の製作から始まって、電子回路の工作、制御系の学習、移動距離や階段の昇降などを競うコンテストまでを実施【写真31】【写真32】。すべての内容を詳細に指導すると約45時間ほど掛かるというが、電子回路に完成品を使えば、授業時間を8時間から最短で2時間程度までに短縮することも可能だ。本授業によりグループ活動での協調性や、創造性、創作意欲も高まったそうだ。

 松下氏は「今後は、このようなロボット教育を発展させ、さらに新技術の発明まで挑戦していきたい」と抱負を語り、その1例として筋電を利用した「ロボティック眼鏡」について紹介した。これは、顔の動きで発生する筋電をセンサで捉え、レンズの開閉を行なう自動眼鏡。小さな文字を見るときに目を細めると自動的にレンズがセットされる仕組みだ【写真33】【動画11】。このような教育を通じて「ものづくりの知識と経験」を蓄積することで、ユニークなアイデアが広がり、あっと言うような発明が生まれるかもしれない。


【写真29】制御系の学習例その3、直接教示(ティーチング・プレイバック)制御。熟練者の技巧を再現するために、産業用ロボットで利用される技術。プログラミングなしで直感的にロボットの動作パターンを設定できる 【動画10】ペットボトルロボットをティーチング・プレイバックで動作させるデモ。ポテンショメータを利用し、後脚関節の回転角度を電圧として出力、そのデータを記憶することで、動作を再現する仕組み 【写真30】ペットボトルロボットの教育カリキュラム。「センサリモータ制御器」「生体信号制御器」の3種類の制御器に分けて授業を行なう。身体構造の製作から、電子工作、制御(情報処理)、コンテストまでを実施

【写真31】コンテストの模様その1。光源探索競争。ロボットには尻尾がついており、これで旋回運動を実現する。光センサが光源を検知すると動作モードが変化して、前進するプログラムが組み込まれているという 【写真32】コンテストの模様その2。1m競走。ロボットの身体的特徴を考えることがポイントになる競技。ペットボトルに入れた水が動的に変化して重心の位置が変わる。この原理を利用して移動する仕組み

【写真33】将来的なロボット教育の展望。人間の行動特性を応用したロボティクス眼鏡。ロボット教育の可能性が広がる実例の1つだ 【動画11】目をしばたかせると、その動きに追従してレンズがセット、リセットされることが分かる。顔の動きで発生する筋電をセンサで捉えて、レンズの開閉を行なう仕組み

人に役立つ福祉医療RTの実例

【写真34】早稲田大学の岩田浩康准教授(先端科学・健康医療融合研究機構 生命医療工学研究所)
 近年、先進国では超高齢化社会の問題がクローズアップされている。そのような背景を踏まえ、福祉医療分野を中心としたロボットテクノロジー(RT)の活用が注目を浴びている。現在この分野は、どちらかというと癒し系ロボット開発に目が向けられているが、早稲田大学の岩田浩康准教授【写真34】は、物を把持したり搬送できる、人に役立つ作業をサポートする福祉医療RTを積極的に推進している研究者のひとりだ。

 福祉医療RTは、産業用ロボットのように人と隔離された工場の中で利用されるものではなく、高齢者や体の不自由な人たちの傍らで用いられる。そのため特に安全面や巧みな作業を支援する人間共存テクノロジーが重要になる。「人とロボットの共存、人への影響を考えた新しい関係性をイメージすることが大切だ」(岩田氏)という。

 岩田氏は1995年に同大学の菅野研を見学して感動し、人と触れ合えるような次世代機械の知能化の研究を始めた。これまでに岩田氏が携わってきた研究としては、人間共存型ロボット「WENDY」や、バイオフィードバックを利用した歩行リハビリ支援システム、触れ合い認知技術などがある【写真35】【写真36】。

 WENDYは、世界で初めて両ハンドで卵割に成功したロボットとして知られている。従来のハンドは指先が硬く、物を点接触で把持していた。人が物をつかむ状態を観察すると、同一の把持力でも触れる位置や角度によって接触面積が変わり、指先の圧力をうまく調整していることが分かる。そこで、人の手の機能や形態・構造を模倣することで、微妙かつ安定した把持するロボットハンドが実現できるようになったという【写真37】【写真38】。また、WENDYは安全性についても考慮されている。人がロボットの双腕に同時接触したり、背後からぶっかっても怪我をしないようにセンシングが工夫されている【写真39】【動画12】。


【写真35】巧みなハンドと受動関節アームを備えた人間共存型ロボット「WENDY」。WENDYは世界で初めて両ハンドで卵割を実現。人間の作業を安全にサポートできるロボット 【写真36】バイオフィードバックを利用した歩行リハビリ支援システム。足で床を踏んだときに、その反力が自分に戻ってくる仕組み 【写真37】人の指のような柔らかい指先と硬い爪を持つヒューマンミテックハンド。これで卵を割ることができるようになった

【写真38】WENDYの手は人間と同じように面接触で安定して物をつかむことができる。メカの工夫だけで指先の圧力調整が可能 【写真39】ロボットの触れ合い制御の一例。たとえば人がWENDYの双腕へ同時に接触しても、それを検出して怪我をしないようにうまくか避けてくれる 【動画12】WENDYの背後から人がぶつかってきても、うまく避けてくれる。傍らで激しく運動する人と衝突しても安全に対応してくれる

 一方、歩行リハビリ支援システムは、筋電によるバイオフィードバックを利用している【写真40】【動画13】。たとえば、正常な足底の圧力をフィードバックすることで、麻痺側の体に刺激を与えるようなシステムを開発し、左右に掛かる荷重のバランスを改善させる立位実験も行なっている。脳卒中で半身が麻痺すると、無意識のうちに麻痺側の足裏にかける力が小さくなってしまい、正常な足裏側に重心が移動し、体のバランスを崩してしまう傾向がある。そこで麻痺した側の足の着き方を正常側の体に呈示することで、等しい足圧で左右のバランスがうまく取れるように気づかせることができる。

 岩田氏は、役に立つロボットを想像・創造するには、「まずストーリーをうまく作ることが大事。どのような課題があり、それを解決することで誰が喜ぶのか、しっかりとイメージを絵にして他人と共有する。そして、そのイメージを実現するために必要となる機能を多角的に検討する。それが終わったら、ひたすら製作に没頭する。最後にユーザーに使ってもらって、改善ポイントを洗い出す」というプロセスを踏む必要があると強調した。


【写真40】座位訓練から歩行までをサポートするリハビリ支援システム。応用として、立位のバランスを改善させることも可能だ 【動画13】バイオフィードバックを利用したリハビリ支援システムの実用化を目指す。麻痺した足底の圧力をセンシング(動画下)。それを刺激圧として正常側に呈示する(動画上)

【写真41】立ち位置の実験。半身が麻痺している人は、正常側に重心が傾いてしまう。そこで、前述のリハビリ支援システムを利用し、左右の加重バランスを補正、姿勢を正す訓練が可能な知能装具として応用 【写真42】岩田氏が研究している他のロボット技術。世界で1台しかない双腕建機の開発や、手術を支援する技術など、人に役に立つことを心がけているという

 本セミナーでは、中高生や一般の人たちに興味を抱いてもらえるような刺激的なロボットの紹介がなされ、セミナー終了後の交流会でもたくさんの質問が飛び交っていた。ぜひ来年も同様のセミナーを開催して欲しいと感じた。


URL
  日本ロボット学会
  http://www.rsj.or.jp/
  第25回日本ロボット学会学術講演会
  http://www.robotics.it-chiba.ac.jp/RSJ2007/

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( 井上猛雄 )
2007/09/21 01:20

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