会期:6月10~15日(現地時間)
会場:フランス リヨン市
リヨン国際会議場(Centre de congres de Lyon)
マイクロマシン(MEMS)の研究開発で一大分野を形成しているのが、医療用途である。「Transducers 2007」では「埋め込み可能な医療用マイクロシステム」や「医療用マイクロシステム」、「ヘルスモニタリング」といったセッションが設けられた。そのほかのセッションでも、医療用途を想定した研究発表が少なくなかった。今回のレポートでは、その一部をお届けする。
● 生体に燃料電池セルを埋め込む
まず紹介するのは、生体に埋め込むことを想定した燃料電池セルの研究発表である。燃料電池セルでも、携帯電話機やノートPCなどのバッテリを狙ったセルは、液体のメタノールを燃料とする直接型メタノール燃料電池セル(DMFC)であることが多い。しかしメタノールは人体に有害な物質であり、生体への埋め込みには適していない。
そこでドイツのUniversity of FreiburgとドイツのHSG-IMTの共同研究グループは、燃料にグルコース(ブドウ糖)を使用した燃料電池セルを開発中である。「Transducers 2007」では研究の最新状況を明らかにした(講演番号1C5.1)。
開発中の燃料電池セルは、グルコースと酸素を消費して電気を発生させる(酸素は生体中に存在する)。試作した燃料電池セルは、50日間を超えても動き続けた。出力密度は1.1マイクロワット(μW)/平方センチである。電極寸法が3cm角(面積9cm2)の燃料電池セルを試作すれば、原理的には低消費電力型の心臓ペースメーカー(消費電力8μW)に適用できるとした。今回は初めての試作発表であり、改良の余地は十分にあるとしている。
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グルコース(ブドウ糖)を燃料とする燃料電池セルの原理(講演番号1C5.1)
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試作した燃料電池セルの構造(講演番号1C5.1)。触媒には白金を使用した
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試作した燃料電池セルの外観(講演番号1C5.1)。電極の面積は2cm2
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試作した燃料電池セルの出力特性(講演番号1C5.1)。50日間動作させた後の特性である。実線は出力電圧、点線は出力密度
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● 心臓の運動エネルギーをペースメーカーの電源に
続いて、心臓の筋肉(心筋)の動きを電力に変換し、心臓ペースメーカーの電源とする試みを紹介しよう。東京農工大学森島研究室と産業技術総合研究所が取り組んでいる(講演番号2EG11.P)。心筋の収縮力をピエゾ素子に伝えて起電力を得る仕組みである。
試作した発電システムでは、ピエゾ素子であるPZTをファイバー状にしたものを使う。心筋には柔らかな高分子薄膜(ポリジメチルシロキサン薄膜)を貼り付けておき、PZTファイバーと接続しておく。心筋の収縮とともに高分子薄膜がPZTファイバーを引っ張る。PZTファイバーは引っ張られることで起電力を発生する。試作デバイスではネズミの心筋を使い、起電力の発生を確認した。
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心筋の収縮を利用した発電の原理(講演番号2EG11.P)。心筋とともに収縮する高分子薄膜(PDMS)がファイバー状のPZTを引っ張る
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試作した発電セルの構造図(講演番号2EG11.P)。培養した心筋(cardiomyocyte)の動きを拾う。基板(dish)はポリスチレン。PDMSはポリジメチルシロキサンのこと
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試作した発電セルの外観(講演番号2EG11.P)
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PZTファイバーの出力電圧(講演番号2EG11.P)。ネズミの心筋を培養後、6日間経過した状態。心筋の周期的な動き(周波数約1.1Hz)に同期して起電力が発生していることが分かる
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● 内視鏡で生体組織の3次元立体像を撮影
医療機関では、さまざまな検査装置を駆使して疾患の有無や状態を判断する。その代表に、超音波断層撮影装置と内視鏡がある。超音波断層撮影装置は、超音波を生体内部に照射し、反射信号を観測することで生体組織や臓器などの断面構造を撮影する。一方、内視鏡は、生体内部に細長い管を挿入し、生体組織や臓器などの状態をカメラで観察する。
こういった検査装置を目指した研究成果も「Transducers 2007」では発表された。マイクロマシン技術による微小な鏡(MEMSミラー)を内視鏡の先端にとりつけ、光を生体組織や臓器などに照射することで3次元立体像を撮影する装置を、米Advanced MEMS Inc.と米Beckman Laser Institute、米University of California、米Case Western Reserve Universityが共同で披露した(講演番号1C6.1)。
MEMSミラーはX軸方向とY軸方向の2軸で動き、生体組織を2次元で走査する。反射光の信号をコンピュータで計算することで、3次元立体像を得る。Advanced MEMSらの共同研究グループは試作した装置で実験動物や人体などの生体組織を撮影し、3次元立体像を示した。
なお今回の装置では、「光コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)」と呼ぶ技術を撮影に利用している。低コヒーレンス光を使い、マイケルソン干渉計を構成する。撮影したい部位(ポイント)でビート信号を生成するように参照光の光路長を制御し、反射信号を画像に変換する技術である。光を使うと、超音波に比べて分解能の高い画像を得られる。光の波長は超音波の波長よりもずっと短いからだ。試作した装置での分解能は10μm×10μm×10μm~20μm×20μm×10μm、3次元立体像の撮影範囲は1mm×1mm×1.4mm~2mm×2mm×1.4mmである。講演論文によると、超音波撮影画像の分解能は100μm程度だという。
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MEMSミラーを組み込んだ内視鏡(講演番号1C6.1)
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MEMSミラーの走査型電子顕微鏡写真(講演番号1C6.1)。左のミラーは大きさ1mm角、右上のミラーは大きさ0.8mm角である
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試作した装置で撮影した、人間の声帯の3次元立体像(講演番号1C6.1)。なおsseは重層扁平上皮、bmは基底膜、slpは表在固有層のこと
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光コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)による3次元立体像撮影の原理図(講演番号1C6.1)。今回の装置では、波長1,310nm、波長幅70nm、出力10mWの低コヒーレンス光を使用した
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■URL
Transducers 2007のホームページ(英文)
http://www.transducers07.org/
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( 福田 昭 )
2007/06/21 00:11
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