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Transducers 2007レポート
捨てられていたエネルギーを電力に変換するテクノロジー


会期:6月10~15日(現地時間)
会場:フランス リヨン市
   リヨン国際会議場(Centre de congres de Lyon)


 携帯電話機を持ち歩いているとき、携帯電話機は不規則に振動している。そこには機械的エネルギーが発生し、捨てられているとみなせる。また腕時計をはめているとき、腕の表面と外気との間には温度差がある。特に暑い季節や暑い地域を除けば、外気温度が低く、腕の表面温度が高い。熱エネルギーが発生し、捨てられている。さらに、腕に付けられた時計はほとんど常に、不規則に振動する。機械的エネルギーも捨てられている。

 こういった捨てられているエネルギーを集めて電力に変換すれば、出力によっては電池の換わりになる。機械エネルギー同士の変換では、腕時計に自動巻き機構が普及した時代があった。腕時計の不規則な振動をはずみ車の回転に変え、ゼンマイを巻く機構である。筆者も中学生のときには、自動巻きの腕時計を使用していた。

 当然ながら、携帯電話機や腕時計などではエネルギーを変換する機構が非常に小さくなければならない。自動巻きの腕時計では、小さなはずみ車と微小な複数の歯車が、微小なゼンマイを巻いていた。

 こういった微小で複雑な機構の製造を得意とするのが、マイクロマシン(MEMS)技術である。マイクロマシン技術の国際会議「Transducers 2007」では、振動や熱などのエネルギーを電力に変換する研究開発の発表が数多くみられた。本レポートでは、その一部を紹介しよう。


機械的振動を電気エネルギーに変換

 まず、機械的な振動エネルギーを電力に変換する研究の事例である。変換素子には、ピエゾ効果(圧力や歪みなどを加えると電圧を発生する効果)を有する材料、または、エレクトレット(静電荷を帯電させた高分子フィルム)を使うことが多い。

 例えばフランスのMNS Group TIMA Laboratoryは、機械的振動をピエゾ効果によって電力に変換する素子を開発した。4Gの加速度(振動周波数1,368Hz)を与えたときに、出力電圧1.6V、出力電力2マイクロワット(μW)を得ている(講演番号2EG7.P)。さらに、この変換素子と電圧てい倍回路チップを1個のパッケージにまとめたモジュールを試作した。モジュールの外形寸法は1mm3と、きわめて小さい。


機械的振動を電力に変換するモジュールの概念図(講演番号2EG7.P) 機械的振動を電圧に変換するMEMS素子の走査型電子顕微鏡写真(講演番号2EG7.P)。写真中央の重り(seismic mass)が振動して上部のピエゾ素子(piezoelectric AlN thin layer)に歪みを与える

加速度と出力電圧、出力電力の関係(講演番号2EG7.P) MEMS素子と電圧てい倍回路を同じ基板に搭載したところ(講演番号2EG7.P)

 ベルギーのIMEC(Inter-University Microelectronics Center)とKatholieke Universiteit Leuvenは、機械的振動をエレクトレットによって電力に変換するデバイスを試作した(講演番号1C5.2)。エレクトレットの帯電電圧によって出力電力が変化する。10Vに帯電させたエレクトレットを使い、3mm/秒、200~500Hzの正弦波振動を与えたときに2ナノワット(nW)の出力を得た。100Vに帯電させたエレクトレットを使った場合は、出力電力は5μWと大幅に増えた。


機械的振動をエレクトレットによって電力に変換するデバイスの概念図(講演番号1C5.2) 機械的振動をエレクトレットによって電力に変換するデバイスの構造図(講演番号1C5.2)

試作したデバイスの走査型電子顕微鏡写真(講演番号1C5.2)。写真下中央部の山が重り(seismic mass)。右上写真は重りを支持するスプリングの拡大図 500Hzで重りを振動させたときの出力電圧(講演番号1C5.2)

人体の体温を電源に利用する

 続いて、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する研究の事例である。変換素子には熱電対(2種類の金属線を高温側と低温側で接合しておくと、接合間に起電力を生じる素子)を使うことが多い。

 例えばドイツのUniversity of Freiburgは、非常に数多くの熱電対をシリコンチップに集積したデバイスを研究中である(講演番号1C5.3)。数多くの熱電対を直列接続し、出力電圧を稼ぐ。1個の熱電対が発生する電圧は非常に微弱で、そのままでは利用しづらい。125個の熱電対を搭載したチップでも、出力電圧は1.33mV/Kである。100Kの温度差があっても、0.1Vの出力電圧にしかならない。

 そこでUniversity of Freiburgでは、数千個~数万個の熱電対を搭載したチップを試作した。10mm角のシリコン領域に7,500個の熱電対を搭載した試作品では、1.37×10のマイナス3乗μW/(mm2)(温度Kの2乗)の出力密度を得た(温度差は5K)。熱電対の材料はアルミニウムとn型多結晶シリコンである。

 またベルギーのIMECとKatholieke Universiteit Leuvenは、微小な熱電対によるアレイを作製すれば、腕時計のサイズで出力電圧1V、出力電力1μW~2μWを得られることを計算で示した(講演番号2EG13.P)。熱電対の材料はn型およびp型の多結晶シリコンゲルマニウム(SiGe)である。4,200個の熱電対を集積し、温度差が14Kあると仮定した場合に、上記の出力が得られるとした。


数多くの熱電対を集積したシリコンチップの構造図(講演番号1C5.3) 熱電対周辺の断面で温度分布を計算した結果(講演番号1C5.3)。全体の温度差が9Kのときに、熱電対接合間の温度差は8.61Kとなっている。非常に良好な値である

熱電対のアレイを顕微鏡観察したところ(講演番号1C5.3)。右側の長方形が熱電対 6,000個の熱電対を集積したチップの写真(講演番号1C5.3)。チップ寸法は10mm角

 これらの研究発表から分かるのは、得られている電力が非常に小さいことである。大きくてもμW(100万分の1W)のオーダーに過ぎない。携帯型電子機器の主電源にはとても足りない。そこで現在は応用分野として、携帯型電子機器やセンサーなどの待機時電源やバックアップ電源などが想定されている。


URL
  Transducers 2007のホームページ(英文)
  http://www.transducers07.org/

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( 福田 昭 )
2007/06/18 17:16

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