2007年2月12日、東京・秋葉原のKONDO ROBOSPOTにて無線操縦される二足歩行ロボットによるサッカー大会、KONDO CUP第3回大会が開催された。今回は初めてリーグ戦による戦いとなり、3体×11チームの33機が縦横無尽に駆け回っていた。
● 初の“サッカーらしい”リーグ戦
二足歩行ロボットの競技会はトーナメント方式で開催されることが多い。KONDO CUPも例外ではなく、これまで開催された2大会はどちらもトーナメントだった。
トーナメント方式は、参加者側から見ると、勝ち上がれば多く試合できる反面、緒戦で負ければ後の大会は観客側にまわるしかない。また、観客側から見れば、どんなにいい試合をしたチームでも、負けてしまえばそれ以降そのチームを見ることができない。これはちょっとさびしいものがある。
そこで今回導入されたのが総当たりによる“リーグ戦”方式だ。勝ったチームに勝ち点3、引き分けたチームに勝ち点1(負けたチームは勝ち点0)を与え、リーグ全てのチームと戦った後で合計勝ち点の最も多いチームが優勝となる。この方式は本物のサッカーのワールドカップ予選などで導入されているもので、サッカーとの相性はもともと抜群のシステムなのだ。
大会はKONDO製ロボットキット限定の「KHRクラス」と、全アクチュエーターがKONDO製であれば自作機もOKという「オープンクラス」それぞれ4チームを集める予定が、告知からたったの3日で応募が殺到。KHRクラスは3チームだったが、オープンクラスはなんと8チームが集まることに。
急遽4チームのリーグを2つ作り、そのトップ同士が優勝を争って直接対決するという方式に改められることになった。これはこれで「リーグ戦による予選→直接対決で決勝」という、ホンモノっぽいシステムになったともいえる。
また、試合数が増えたことで、オープンクラスの予選リーグは暫定的に6分一本勝負になり、決勝のみ5分ハーフの10分で行なうことになった(KHRクラスはすべて5分ハーフ)。
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フィールドは変わらないが、ゴールはキーパーが引っかかりにくいように改良された
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当日のスケジュール。13時から16時までびっしりと試合。実際には18時過ぎまで試合が行なわれた
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● KHRクラスは“RFCバンブーブリッジ”が連覇
第1回大会から無失点・無敗で連覇しているチャンピオン、“RFCバンブーブリッジ”が今回も出場したこのクラス。誰がチャンピオンを止めるのかが注目された。
……と言っても、筆者自身が“RFCバンブーブリッジ”の一人として参加している(ロボット名は「梓KHR」……ひねりも何もない)ので、このクラスはプレイヤー側からの視点でレポートさせていただく。チームメイトは本サイトでもKHR-2HVのレポートを連載されている石井英男氏「fighting-γ」と、同じくフリーライターの大塚 実氏「宗0郎」だ。
対戦するチームはオープンクラスに出場する“四川会”の兄弟チーム“四川会ジュニア”と、個人プレイヤーによる当日結成チーム“ガンバ秋葉”である。2試合なので、1回負けると優勝がとても厳しくなる、トーナメントのような戦いだ。
緒戦は“四川会ジュニア”。メンバーはKHRシリーズの設計者である吉村浩一氏の「リトルブルー」を筆頭に、ROBO-ONEやテレビでもおなじみ“アフロ”に見えるけれども体がKHR-2HVの「オフロ」、同じくMetallic Fighterの弟分である「こめた」という3体である。こちらの3機もKHR-2HVなので、言ってみれば吉村氏は“親”。さらに言えば「こめた」のオペレーターは筆者もお世話になっているロボコンマガジン誌編集長・竹西氏なので、妙なプレッシャーがかかるチームである。
いつもどおりに試合をして、まず1点……と思っていたものの、この日は3人が3人とも右に行きたいのに左に行くなどのミス連発。そんな中、伝家の宝刀・バンブー横歩きでゴール前までボールを運び、最後は「こめた」の頭がはずれて不安定になった隙をついて先制点をもぎ取り、この1点を守りきって1-0で勝利することができた。
試合をしていてとにかく怖かったのが、吉村氏の「リトルブルー」。機構部分はKHR-2HVがほぼそのまま使われているものの、マイコンボードが吉村氏オリジナルのものに置き換えられており、前進→旋回など、移動がすべてシームレスなのだ。普通のKHR-2HVは一つのモーションが終わってから次のモーションに移る一瞬の間があるので、その間に体制を整えたりもするのだが、リトルブルー相手は動き続けながら向かってくるので、予測がしにくいのだ。今回無失点に抑えられたのは運の要素がとても大きいだろう。
2戦目、そして最終戦となるのが“ガンバ秋葉”チーム。ROBOSPOT常連のくまま氏が操る「ガルー」に、数々のイベントに姿を見せる道楽、氏の古豪「か~る」、そしてオープンクラスで連覇しているロボット野郎Aチームキャプテン・Dr.GIY氏の実父、GIYパパ氏の「GIYパパ専用KHR」という3機が相手である。
こちらは開始早々にオウンゴールで1点もらえたものの、ROBOSPOTで日々鍛錬しているというウワサの「ガルー」の動きは素晴らしく、パスコースをしばしば切られて追加点が奪えない。と、「ガルー」が起き上がろうとした瞬間、背面から煙が出たかと思うまもなく、今度は炎が! 当然ながら試合は中断。「ガルー」は結局ベンチに下がることになり、控え選手がいない“ガンバ秋葉”は2機で試合を続行することになった。
数的有利にたったバンブーブリッジとしては(「容赦なく」「大人気ない」と実況されてやりにくくても)手を抜くほうが失礼と判断し、全力で攻めることに。後半には助っ人としてROBOSPOT所属のKHR-2HVがくまま氏の操縦で投入されたものの、最終的には6-0で勝利、勝ち点6としてKHRクラス3連覇を決めた。
ちなみに、「ガルー」が発火した直接の原因は、サーボのケーブルが機体に挟まったまま動き続けた結果、被覆が剥けてしまい、並行して走るケーブルのプラスマイナスがショートしたことらしい。また、「ガルー」のサーボやバッテリが標準状態ではなく、いわゆる「自己責任」改造が施されていたことも間接的な原因になったようだ。今回のことはあくまで珍しい事例だが、電源周りは1つ間違うと大きな事故に繋がるので(ロボットの説明書にも必ず書いてある)、たとえ改造していなくとも、ロボットを動かす前には必ずケーブルの被覆の状態などを含めた点検を行なうことも薦めたい。
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【動画】vs“四川会ジュニア”戦前半。「リトルブルー」の動きだけが違うのがわかるだろうか
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【動画】今回新たに導入したのは、“歩幅の大きい歩行”と、“待って打てるシュート”。セットプレーで大塚さんと私が狙ってみたものの(見にくいですが、2機とも体重を右足に乗せて、すぐ打てる姿勢で待っている)、うまく足元にボールが転がらず
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● ルールを変えた“カイザー・オールスターズ”
今大会最も注目を集めたチームの1つが、第10回ROBO-ONEを制した「キングカイザーS markII」、その先代モデルである「キングカイザーS」、第7回ROBO-ONE J-class優勝の「キングカイザー Jr.」という3機が結集した“カイザー・オールスターズ”だ(端的に言うと「どこを向いてもキングカイザー」)。
じつはキングカイザーのオペレーターであるマルファミリーは、息子二人が現役のサッカープレイヤー、お父さんの丸直樹氏も親子サッカー大会に出場するという、サッカー一家なのである。「今日は挑戦者です」と謙遜した丸氏だったが、「普段はロボットとサッカーの練習試合が重なるとサッカー優先なんですが、今日は(重なったんですけど)こっちに来ました」とも。
さらに、KONDO CUPのルールで想定していない「ボールを手にとって、ゴールキック」という“ホンモノのサッカー”っぽいモーションを作ってきたものだから、当日あらためて「これは認められます」というアナウンスがブリーフィングで周知されることになった。この日にかける気合いも想像できるというもの。
“カイザー・オールスターズ”の緒戦はKONDO CUPオープンクラスを連覇中の“ロボット野郎Aチーム”。しかもキングカイザー単体としては、ROBO-ONE GP総合優勝を阻まれた「旋風丸(Dr.GIY氏製作)」がキャプテンを務めている因縁の相手である。
しかし先制点は“カイザー・オールスターズ”がキックインからのダイレクトシュートで決める。自らのミスで失った点と感じた旋風丸は、そこからものの20秒ほどでカイザー側のゴールに持ち込み、試合を振り出しに戻すのだから、熱い試合だ。お互いにキック力があるのでめまぐるしく場面が変わるが、後半残り30秒というところで、3機すべてで前線に上がり、プッシュをかけていた“ロボット野郎Aチーム”が待望の勝ち越し点を挙げ、2-1で勝利した。
「思ったよりもフィールドが滑ったので、緒戦にAチームと当たったのは辛かった」と振り返った丸氏だが、重心移動を適正に直すなどの修正を行なった後の“四川会”戦は1-0で勝利。最後の“謎のチーム”戦はシュートの雨あられを降らせて8-0の圧勝を見せ、その能力が看板倒れでなかったことを証明した。
“ロボット野郎Aチーム”は緒戦を取った勢いで“謎のチーム”戦も4-1で勝利。“四川会”戦も積極的に勝ちを獲りにいったが、さすがに相手も強く、0-0の引き分け。勝ち点7で決勝進出を決め、連覇に王手をかけた。
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【動画】カイザー・オールスターズの先制点。旋風丸はセーブにいったが、横歩きが早すぎてボールを追い越してしまう。「ごめん!」と叫んだDr.GIY氏はすぐに点を取り返す
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【動画】カイザー・オールスターズの見せた横っ飛びのキーパーセーブと「ゴールキック」
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【動画】本来はKHRクラスに出られる“謎のチーム”だが、オープンにエントリー。“四川会”戦ではキックオフでインサイドキックを見せたが、さすがにKHRでは太刀打ちできなかったか、Metallic Fighterのゴールキックシュートなどで3失点
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Bリーグ勝敗表
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● もう一つの“ROBOSPOTチーム”が優勝
大本命としてBリーグを勝ち抜いた“ロボット野郎Aチーム”に立ちはだかったのが、個人参加チームでありながらAリーグを勝ち抜いた“オープン個人”チームである(最後までチーム名が決まらなかったので、これがチーム名)。
Aリーグは福岡・ロボスクエアのヒューマノイドカップで活躍するメンバーが遠征してきた“ロボスクエアーズ”や、第2回大会も参加していた“エスプレッソスギウラ”、3機全てマノイAT01という“大沼城”と、こちらもかなりの面子。しかし“オープン個人”は緒戦の“エスプレッソスギウラ”に1-1で引き分けると“ロボスクエアーズ”には1-0で勝利。“大沼城”戦では4-0の大差を付けた結果、勝ち点はエスプレッソスギウラと同点ながら、得失点の差で決勝に進出した。
個人参加チームではあるが、そのうち「クロムキッド(くぱぱ氏製作)」と「素体kun(吉田氏製作)」は、定期サッカー練習会をはじめとする、ROBOSPOTの常連であり、第2回KONDO CUPでは“素クロムぺんと”チームで肩を並べて戦った間柄。スピードとキック力が抜群の「クロムキッド」に対し、こぼれたボールの処理やフィードなど、スイーパー的な動きをする「素体kun」というコンビはもはやチームと言っても過言ではないくらいに機能していた。
もう一人の「Cavalier(えまのん氏製作)」もやはりROBOSPOTには何度となく訪れている機体であることも考えれば、“オープン個人”はある意味、ROBOSPOTのユーザー代表チームといえるだろう。
決勝戦は本来のKONDO CUPルールにのっとり、5分ハーフ・計10分の試合。両チームは「旋風丸」と「クロムキッド」という、それぞれのエースを軸に展開するが、お互いにスピードが速くキック力もあるため、フィールドが狭く感じられる試合になる。
どちらが押しているともいえない展開から、前半の3分過ぎに「クロムキッド」がサイドステップでボールを流し込み、これが先制点に。“オープン個人”はそのまま1-0で前半を折り返す。
調子が出てきたのか、「クロムキッド」は後半にもハーフウェーライン近くから糸を引くようなロングシュートを放ち、2-0とさらにリードを広げることに成功する。
このままでは終われない“ロボット野郎Aチーム”は、後半の3分に「ファイマン5(AIR氏製作)」からのゴールキックをうまく自分の前に呼び込んだ「T-Storm(tom-i氏製作)」がダイレクトにシュート。反応したキーパーの「Cavalier」脇をすり抜ける見事なゴールを決める。何とか同点に持ち込もうと、ここから“ロボット野郎Aチーム”の猛攻が始まるが、“オープン個人”も全員でこれをしのぎきり、2-1で“オープン個人”が勝利。第1回から続いていた“ロボット野郎Aチーム”の連覇を止めた。
今回の結果を受けて“オープン個人”は正式にチームとして結成するということなので、オープンクラスにまた1つ強力なチームが生まれるだろう。ちなみにチーム名はまだ未定だそうだ。
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【動画】“オープン個人”vs“ロボット野郎Aチーム”前半。ボールの速さもそうだが、転がったボールに寄せるのが速い
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【動画】“オープン個人”vs“ロボット野郎Aチーム”後半。クロムキッドの2点目は実況が「信じられない!」と叫ぶほどの美しさだ
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【動画】オープン個人vsロボスクエアーズ。ロボスクエアーズは不慣れなツルツルのフィールド(ロボスクエアはパンチカーペット)でありながら、互角の戦いを見せる。何度となく好セーブを見せるワイルダー01(かつの氏製作)は、かの地では“守護神”と呼ばれているとか
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【動画】“エスプレッソ・スギウラ”は“オープン個人”戦でキックインから見事なゴールを挙げる。しかし最後の30秒で踏ん張りきれず、1-1の引き分け。チームは勝ち点7ながら得失点差で2位
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【動画】3機すべてがマノイAT01で構成された“大沼城”。じつは発売元である京商の方が「あくまでプライベートで」参加したチーム。好セーブを見せたりもしたが、そのあと押し込まれてしまうなど、思うようにいかなかったようだ。結果は勝ち点0でAリーグ最下位
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Aリーグ勝敗表
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● まる1日楽しめた“リーグ戦”
“エスプレッソスギウラ”は惜しくも得失点差で敗退することになったが、総監督(?)の杉浦富夫氏は「初勝利を挙げられて楽しかった。今度は勝つよ」と笑顔でコメント。九州から遠征してきたロボスクエアーズも「楽しかったですよ。今回は調整不足でしたが、今度はもっと動けるようにしてきます」と、口々に参加者から「楽しかった」という声が聞かれた今回のKONDO CUP。その背景にはやはり、1回戦っただけでは終わらないリーグ戦の長所があるだろう。
実際、緒戦でうまく動けなかった“カイザー・オールスターズ”が2戦目以降で修正してきたり、試合が進んでも「どこが決勝に進むか」が得失点差などの関係で複数のチームに可能性が残されているなど、見る側、プレーする側どちらもが楽しめる一日だった。
また、これは会場の都合上限界があるのだが、観客が見られる場所が少なかったのが残念だ。建物の外から見ている人も多かったようなので、モニターなどでフォローできるとより多くの人が快適に見られるのかもしれない。
次回のKONDO CUPは4月の開催が予定されており、募集開始時にはKONDO ROBOSPOTのサイトで告知されることになる。今度はどういう形で行なわれるのかわからないが、ぜひまたリーグ戦での開催を希望したい。
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左から主催の近藤科学(株)代表取締役・近藤博敏氏、KHRクラス優勝「RFCバンブーブリッジ」石井英男氏、オープンクラス優勝「オープン個人」くぱぱ氏
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今回も体験操縦が行なわれた。見るだけでなく、こういう機会が多いほうが興味を持ってくれるはずだ
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建物の外からも眺める人が。外からビデオを回している人もいた
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一枚では収まらないので2枚に分けて今回参加した機体の集合写真
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バリエーション豊か
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■URL
ROBOSPOT
http://www.robospot.jp/
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( 梓みきお )
2007/02/16 19:15
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