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通りすがりのロボットウォッチャー ロボット社会でのエネルギー供給の場は?
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Reported by
米田 裕
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人の動作をアシストして、超人的な力を発揮できるようになる「パワードスーツ」は、ロバート・A・ハインラインの小説『宇宙の戦士』に登場する。
高度な知能を持つ、クモに似た異星生物と戦うために、防護用の殻(シェル)と、強化された四肢の力にくわえて、殺傷武器を手に入れるために、兵士はパワードスーツを着込む。
そのパワードスーツは、装着していることすら気にならず、操縦する必要もない。自分の身体に服を着たときと同じように扱える。
実際にアメリカでは、こうした強化された能力を歩兵に与えるために、外骨格型パワードスーツの研究を1960年代後半から行なっているという。
『宇宙の戦士』は1959年の作品だから、兵器としてのパワードスーツは、小説の中で想像された方が先ということになる。
そして、『宇宙の戦士』が矢野徹さんによって翻訳され、日本で文庫になったのが1977年。その2年後にはパワードスーツではなく、モビルスーツという人型機械に搭乗して戦う『機動戦士ガンダム』がテレビで放映されている。
さて、パワードスーツの話に戻るが、『宇宙の戦士』の文庫には「スタジオぬえ」による口絵と挿絵がついていた。
「スタジオぬえ」は、日本でも本格的なSFアートを定着させたいと1974年に創設された会社で、メカデザイン、SFイラスト、アニメのSF設定など、SFに関係することならなんでもやるといった会社だ。
当時はSF小説の挿絵で、メカをリアルに描くイラストレーターは少なかった。だから『宇宙の戦士』の挿絵のパワードスーツはかっちょえーと、SFファンで絵を描ける者はこぞってマネをしたものだ。
パワードスーツを自分で描いてみるとわかるが、その駆動方法や動力源をどうするかということですぐに悩むことになる。
作者のハインラインは、パワードスーツの動力源について小説の中でふれてないのだ。
人類が宇宙へ進出している未来の時代のことだから、そうした問題は解決済だ。だから野暮なことは訊くんじゃないぜということだろう。
● 現在の主流は2次電池の電力で動く
そして現在、実際に開発されているパワードスーツのたぐいは、電力を動力源としている物が多い。
サイバーダイン社が開発、大和ハウスによってリース販売がこの10月より開始された脚力アシスト用「HAL」はリチウムポリマー充電池で動く。稼働時間は約60分とのことだ。
東京理科大学工学部小林研究室の「マッスルスーツ」は空気圧によって動く空圧アクチュエータで駆動するが、その圧縮空気を作るのはコンプレッサーで、電力を使用している。
現在のところ、コンプレッサーは大型で、固定式となり、空気を送り込むチューブでマッスルスーツとつないで使用するというシステムだ。室内や工場内などの限られた空間での使用を前提としている。
かつてその昔、イラストを描くのにエアブラシという道具が流行った時期がある。空気圧で絵の具を霧状にして吹き出し、それで絵を描くというものだ。
筆と違って、輪郭のぼやけたものや、グラデーションを作るのが得意な道具だった。このエアブラシを本格的に使おうとすると、コンプレッサーが必要だったが、エアブラシ専門のプロのイラストレーターは、プロパンガスの小型ボンベほどのエアタンクのついたコンプレッサーを使っていた。
動作音がとても大きくうるさいので、夜中に使うのはためらわれるものだったとのことだ。僕は小型のコンプレッサーを買ったが、ほんの少し吹いただけで、すぐに空気圧が落ちてしまう代物だった。それでも自転車についている前カゴほどの大きさがあった。これもうるさかったなぁ。
圧縮空気を一定の圧力で維持するには大型の機器が必要みたいなので、マッスルスーツ自体にコンプレッサーが組み込まれることはないと思う。
脱線したが、ホンダが今年発表した2種類の歩行アシスト機器も電力を動力源としている。腰に装着する「リズム歩行アシスト」と、またがって使用する「体重支持型歩行アシスト」の2機種とも、リチウムイオン電池を動力源として、モーターを駆動し、アシスト量にもよると思うが約2時間の稼働ができるとのことだ。
この稼働時間をどうみるかだが、室内での作業や、リハビリ用の機器としては、そこそこの稼働時間だろう。しかし、アウトドアでの作業や、パワードスーツのように戦争のための兵器として考えるなら、もっと長く稼働してくれないと使い物にならないと考えられる。
そのためか、アメリカで歩兵用のアシスト機器として考えられているパワードスーツのなかには、ガソリンエンジンを搭載しているものもあるが、音がうるさいので、自分の位置をまわりに知らせて歩いているようなもので戦場では使えるかどうかというところだ。
あのキモーい歩き方をするBoston Dynamics社の「BigDog」も、戦地で長時間荷物を運ぶために開発されているためか、ガソリンエンジンと油圧で動く。
動作ビデオを見るとブーンというハエの飛行音のような音が途切れることなく聞こえている。小型のエンジンをずーっと回しているのだろうか。
どれぐらい外部へ出る音を少なくできるかわからないが、場面によっては音で場所を探されてしまうのではないだろうか?
もし、敵に見つかっても、ロボットであれば破壊されて終わるだけだが、人であればそうはいかない。生命の危険にさらされることになる。
エンジン付パワードスーツは、長時間稼働はできるが、実用化されても使える場所が限定されそうだ。
● 高エネルギー電池には危険がともなう
となると、未来はどうなるかわからないが、現在のところ、パワードスーツに使えるのは電力が妥当ということになる。その電力の供給元は電池ということになるだろう。
そうすると、電池のエネルギー密度を上げていくことになるが、それには危険も伴う。
現在のところ、民生用で一番のエネルギー密度のある電池は、リチウムイオン電池だと思うが、ご存じのようにこの電池にまつわるトラブルがある。
電池のエネルギー密度を上げるということは、小さな爆弾と同じようなものを作ることだという。そのエネルギーをゆっくりと取り出せば稼働時間の長い電池となり、一瞬にエネルギーを放出すれば爆発物となってしまう。
ノートパソコンや携帯電話機で、リチウムイオン電池によるトラブルは、短時間でエネルギーが放出されて熱になり、発熱や発火、爆発をすることだ。
これはより小さな体積のなかに、高密度のエネルギーを閉じ込めようとしているために起きるので、電池の高性能化を求めれば避けることはできない問題だ。
そのために、電池自体に安全対策がされるが、使用機器側にも電源管理機能や、充電時に電圧や電流を管理するプログラム機能が求められる。
これらのどれかに不具合があれば、電池の発熱や発火という事故も起きうるのだ。
そうした事故があると、電池だけが悪いと思われるが、複合的な原因で事故となることも多いという。
● 電気の時代へスイッチ?
歩行アシスト機器となると、1~2時間の駆動時間では心許ない気がする。室内で使うなら、電池がなくなったら交換するなどの方法があるが、戸外で電池がなくなった場合、非健常者が使用していたとなると、歩けなくなってしまうのだ。
戸外で立ち往生してしまったらどうしよう? というのが、現在のところ、電池で動く乗り物などに感じる不安だ。
電動バイクや電気自動車は、電池がなくなれば動くことすらできない。電動アシスト自転車は、なんとか人間の力で動くことができるが、どっしりと重い車体を人力で動かすのは不利になる。
電動バイクは、電池の搭載スペースもとれないので、大型のバッテリを搭載しづらい。バッテリのリコールがあり、改良のめどがたたないので販売が中止になってしまったヤマハの電動スクーター「EC-02」では、1回の充電で走れる距離は25km~30kmほどとのことだった。
原付バイクの法定最高速度、時速30kmでは1時間ほど走れることになるが、これを長いと見るか、短いと見るかだろう。
ほとんどのスクーターは、買い物とかに使われていて、片道5km以内をうろうろと走っているだけと考えるなら、30km走れれば十分ということになるが、途中で止まってしまえば、その車体は押して帰ってくるしかない。
EC-02の車重は47kgとのこと。車輪があるとしても押して歩くのは大変だろう。
電気自動車は、床下のスペースもあるので電池の搭載量も多い。その分長い距離を走れる。現在市販化に向けて開発されている三菱自動車の「i MiEV」は、1回の充電で約160km走れるという。
出先で電池がなくなり、止まってしまうのはいやなので、戻ってくることを考えれば、片道80kmの範囲となるが、道は直線ではないので、直線距離の80km圏よりはかなり短い範囲での使用に限られるだろう。
こちらのi MiEVの車重は約1トン。止まったら押して帰ることは不可能だ。
考えてみると、街中には「電気スタンド」がない。電気スタンドといっても照明用のスタンドではないぞ。ガソリンスタンドに対応する電気の供給源としての施設のことを言ったつもりだ。いまんとこ充電スタンドというらしいが、あんまりスッキリした名前でもないなぁ。チャージステーション、チャージスタンド、いい名称はないものかね?
● ガソリンスタンドとは別の発想が必要
考えてみると「充電スタンド」は、現在のガソリンスタンドとは違った要素が必要なことがわかってくる。
ガソリンスタンドでは、自動車に関するサービスがメインで、人に対してはガソリンを給油するわずかな時間にできるサービスがあればよかった。たとえばトイレが使えるとか、飲み物が買えるとかといったことだ。
これがもし、電気自動車、電動スクーター、電動アシスト自転車、介護用歩行アシスト器、屋外で活動するロボットが利用する場所となると、ガソリンスタンドとはがらりと違った施設としなければならないだろう。
電気自動車の充電スタンドを、ショッピングセンターに置いておくというのはありだろう。買い物をすれば小一時間ほどはかかる。その間に、高圧で短時間に充電するシステムを使えば、満充電の8~9割は充電できるんと違うだろうか?
満充電で160km走れるなら、8割でも128kmは走れることになる。街中だと十分な距離だろう。
電池を共通化しておいて、自動車に電池パックごと乗せ替えるというアイデアもあるが、これだと電池パックの重さと形状によって、自動車のデザインに制約ができそうだし、重いバッテリを載せ替えるのは、それこそマッスルスーツやHALの助けがいるのではないだろうか。
歩行アシスト機器の充電の場合は、アシスト機器がないと歩くことも不自由になる人が利用することを考えないといけない。
充電の時間、ただ座っているというのなら、それは苦痛になる。代替の歩行アシスト機器か、車いす。もしくは東京大学IRT研究機構の発表した屋内タイプのパーソナルモビリティなんてのが必要になるかもしれない。
ガソリンスタンドでは従業員がいるだけでよかったが、歩行アシスト機器類の充電スタンドでは介護士や、場合によっては医師やエンジニアも必要なのかなとも思う。
それぞれ、自動車などの乗り物類、歩行アシストなどの介護用機器類、あとはロボット用と充電スタンドを種類別に分けてしまうとややこしいことになる。
街中では、ここへ行けば充電できるということがハッキリとしないといけない。そうした場所をどのように考えるかだ。
ガソリンスタンドのガソリン供給を電気に変えましたというだけではダメなことが、少し考えただけでも浮かび上がってくる。
今までにない電力インフラの整備をしない限り、ロボットが社会の中で自由に活動することのネックにもなりそうだ。
外で立ち往生したら、ピザの出前みたいに、電池を持って30分以内に駆けつけるなんて商売もできるかもしれない。
化石燃料社会から、電力社会への転換はスムーズにできるのだろうか?
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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員
2008/11/28 00:05
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