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ロボットデザイン考(3) 家に置きたいロボットデザインとは?

Reported by 米田 裕


 この4月に『學天則』が復元された。昭和3年(1928)に西村真琴博士(俳優故西村晃氏の父)が、京都での大礼記念博覧会に出展した、日本、いや、当時は東洋で初めてのロボットだ。

 空気圧でさまざまな表情を作りだす。機械的な欧米のロボットと違い、ゴム管を血管に見立て、中に空気を送り込むことで、ゴムでできた顔面諸筋、眼球、頸、胴、上肢、手指を動かせるのだという。

 この學天則は、現物はドイツで行方不明となり、大阪市立科学館に動かないレプリカが展示されていたが、7月のリニューアルオープンにあわせて80年ぶりに再製作された。

 空気圧で動くという基本的な部分は同じだが、制御はコンピュータを使うようになっている。

 マスコミに公開された写真や、本誌での動画を見ると、人よりもかなり大きく、ふくよかな姿と相まって大仏のようにも見える。

 総じてというか、日本のロボットはふくよかなイメージのものが多い。その機構的な制約というよりも、身近にあった人形のイメージが大きく影響しているのではないだろうか。ロボット登場以前に、からくり人形が親しまれていたように。


米SF雑誌のロボット画

 1950年代、戦後のアメリカSFのパルプマガジンには、ロボットが数多く描かれている。1950年創刊の「Galaxy」誌や「Fantasy and Science Fiction」誌では表紙がロボット画となることが多かった。それらはたいてい、胴体以外の腕や脚は細い棒状のスタイルだった。

 もしくは、フランク・R・パウルの描いた『宇宙戦争』のイラストのように、触手のあるクラゲのイメージも多い。

 ニール・R・ジョーンズの『ジェイムスン教授』シリーズは、サイボーグとなったジェイムスン教授の宇宙活劇譚なんだけど、主人公のジェイムスン教授は四角い胴体に円錐の頭、4本の脚に6本の触手と、子供がみたら泣き出すような姿だ。

 触手系というのは欧米人的には好きな造形なんだろうか。

 ニュルニュル、くねくねと動く触手。腕。棒のように細い脚。

 さらには、顔の造作にもあまり気を使ってないように思える。

 「どーせ、機械だもんね」という雰囲気だ。

 戦前からのこうした思想は、第二次世界大戦後まで引き継がれ、米国SF雑誌のイラストでは、棒状腕脚ロボット、もしくは触手系がスタンダードとなっていった。

 イメージ的には、四肢と胴体とのバランスがよくないので、昆虫的な感じだ。そして、昆虫とは「お友達」になれないと感じている人も多いと思うので、これらのロボットと人間とは「お友達」にはなれない気がする。


映画では着ぐるみのロボットが活躍

 一方、古くは1920年代からあるSF映画にもロボットは登場するのだが、中に人間が入って動かすために、細い腕や脚のロボットはどうやっても出てこなかった。

 1926年の『メトロポリス』の「マリア」は人間に外形にぴったりと密着した着ぐるみで、この系列は『スターウォーズ』の「C-3PO」まで続いている。

 映画で、着ぐるみ系ロボットの傑作といえば、『禁断の惑星』(1956)の「ロビー」だろう。いまだに人気が高く。ある意味でロボットのイメージ的なスタンダードとなっている感がある。

 メカむきだしの頭部を覆う、透明なガラス。球状の造形が組み合わさった腕や脚。メカニズムとしてのロボットを強くイメージづけた。

 個人的には子供のころにテレビで放映されていた『宇宙家族ロビンソン』(原題は「LOST IN SPACE」だ)に出てくる「フライデー」(米国では「B9」とそっけない名前だったけど)が好きだった。

 フライデーが、蛇腹の腕をのばして振り回しながら「警告! 警告!」と叫ぶ動作はよく真似をしたものだ。

 後で知ったことだが、この2体のロボットをデザインしたのは、「Robert Kinoshita」という日系人デザイナーだった。今年の1月に94歳になられたというが、まだ、お元気だそうだ。

 「ロビー」と「フライデー」は、着ぐるみでも、人型にぴったりとするのではなく、メカむきだしの部分があったりして、ロボットのメカニズムとして納得できるフォルムを持っている。

 それはデザイナーが日系人だったからかもしれない。子供のころには、中に人が入っているのではなく、機械で作られていると信じていたぐらいだ。


 その昔のテレビ放映時、「フライデー」のプラモデルが欲しくて、親にねだったがなかなか買ってもらえなかった。

 何カ月もねだり続け、やっと買ってもらえるときにはわくわくとしたものだ。だが、当時の私は、バスに乗るとひどい乗り物酔いをして吐いてしまうので、バスでわずか15分ほどの川崎駅前へすら行けなかった。

 そのために、親に頼んで買ってきてもらったのだが、親が、同時期に放映していた『キャプテンウルトラ』の「ハック」を買って帰ってきたときには泣き出してしまった。

 「これじゃない~」と、現在なら「コレジャナイロボ」を買ってこられた子供のように泣き叫び、返品して交換をしてきて~とわめき続けた。親も困ったものだったろう。

 どちらも、銀色の胴体で、腕が蛇腹になっていて、テレビに出てくるロボットという条件はクリアしている。

 子供番組に興味のない大人には、どっちだかわからなかったのだ。

 「フライデー」と商品名を言っておいたが、メモもなにもとっていかなかったので、「ハック」だと思ったらしい。

 「フライデー」と「ハック」では、造形に雲泥の差があるし、「ハンニャカニャ~ン」などと言うロボットより「警告! 警告!」と叫ぶロボットの方がロボットらしくて好きだったのだ。

 さんざん泣いて、後日、やっとのことで「フライデー」のプラモデルを入手することができたが、メーカーはマルサンだったっけな? 「ハック」は今井科学だったと思う。

 もとい。ロビーやフライデーの系列はスターウォーズの「R2-D2」へと続いていると思うが、そこで途切れてしまったように思える。機械として見えて、その中に人間を入れるという構造のものだ。R2-D2は、スターウォーズ・エピソード4をよく見ると、人間の入っているカットがある。


CGになりロボットデザインも先祖返り?

 最近では、映画でも、CGの進歩により、実写に合成でロボットを登場させられるようになり、形状の制約もなくなった。
 その結果、昔の棒状腕脚タイプや触手系が復活してきたようだ。

 スターウォーズの「ドロイド」の腕や脚は細い。頭部は馬面で、なんとも気が抜けたようなデザインだ。

 アシモフの「I Robot」をモチーフに映画化したアレックス・プロヤス監督の「I Robot」には、人間型といっても、半透明の胴体とメカむきだしの腕や脚を持つロボットNS-5型が登場する。

 日本人なら、一家に一台といわれても、置きたくないデザインだ。

 映画のプロダクションデザイナーによると、半透明の身体は中身が見える「安全」の象徴。腕や脚は人工筋肉、顔は完全に左右対称で人とは違うことを表現したという。

 中身が見えるだけで、楳図かずおの身体が透明になっていく少女のマンガを思い出してしまう。途中の段階で、筋肉だの血管だの臓器が見える様子を克明に描いているので、とても怖かった。いまだにトラウマとなっているので、半透明家電時代はいやな思いでいっぱいだった。

 そんなわけで、身体の中身が見えても、安全という意味をくみ取ることはできなかった。

 家庭に置くためのロボットなら、日本人デザイナーでは、たぶんまったく違った姿を考えただろう。


実用化にデザインは必要なし?

 総じて欧米でのロボットは「機械」として実用になるなら、姿にはこだわらないという感じがする。

 話題になったBoston Dynamics社の「BigDog」は、荷物を運ぶ機械のロバとでもいうものだが、日本人ではあのような姿と脚の構造を考えたかどうか。

 動物的というか昆虫的な脚で、全体的な太さのバランスからいっても、どっしりと歩くものではない。ちょこちょこと手数? の多さで地形に反応していくように見える。

 同社の小型ロボット「RHex」は、脚ですらなく、回転する円弧状のものが左右に3つずつ付いている。車輪の変形版ともいえるものだ。

 それを回転させるだけで、不整地、泥、水上とどこでも移動できる。あっと驚くタメゴロー的発想だ。

 難しい脚の機構を考えなくても、不整地や段差のある場所、水上をどんどんと進んでいく。人間の脚などはいらないではないかというメッセージだろう。

 実用性という部分では、昆虫や動物の脚を模したロボットよりもすぐに使えそうだが、見ていると胴体が薄いこともあって、ゴキブリをイメージしてしまう。あんまりカッコよくはない。

 たぶん、軍からの資金で開発をしていると思うので、頑丈さや、機能の開発に重点が置かれているのだろう。実用になるなら、形は二の次でいいもんねという、割り切った考えが背景にありそうだ。


日本人の美意識が作るモノ

 では日本ではどうだろう。やはり「人形は顔が命」の国であるからにして、物にはふさわしい形が必要だと思っているふしがある。

 そして、日本で国産テレビアニメが始まってから45年。最初の作品は『鉄腕アトム』でモチのロンだが、ロボット物はアニメの系列として脈々と続いている。

 いつのまにか、メカデザイナーと呼ばれるアニメに登場するメカ類をデザインする職業もできた。

 アニメのロボットは、その機構よりも見栄えを重視する。大腿部より下腿部を長く太くし足部を大きめにする。肩の部分にボリュームを持たせ、上腕から前腕にかけては長くしすぎない。などといったカッコよく見せる約束事みたいなものがある。

 こうした手法が確立したのは1970年代後半のことだと思うが、そのときの子供たちもいまや40代。すでに社会では中心的な役割を担う年代だ。

 ロボットの研究者、技術者たちにも30~40代は多いだろう。彼らの脳裏には、残像として、アニメのロボットの姿が焼き付き、リファレンスとなっているかもしれない。

 だからかもしれないが、棒状の腕や脚を持った実際のロボットはほとんどみない。

 油圧や空気圧などを使った人工筋肉で動作するものでない場合、関節部にあるアクチュエーターで駆動する。

 その関節部分はアクチュエーターの大きさが必要だが、それ以外の部分、アクチュエーターとアクチュエーターをつなぐ部分は、ただのパイプでもかまわないと思える。

 しかし、企業の作るロボットでは、脚や腕は造形が考えられ、なめらかに、そしてボリューム感を持った構造となっている場合が多い。

 これは、もともと日本人の持つ美意識の現れなのか、アニメの刷り込みなのかはわからないが、形にこだわるのが日本のロボットといえそうだ。

 さて大和ハウスがCYBERDYNE株式会社の「HAL」の量産工場を建設開始し、この10月から量産するという。

 いまの「HAL」そのままのデザインなんだろうか? 非常にSF的というか、宇宙刑事モノというか、そんなイメージのデザインでカッコいいのだが、高齢者などの介護が必要な人に装着すると、ちょっと浮いてしまう感じがする。

 カッコよくても、それに抵抗感をもたれるかもしれない。お年寄りには、お年寄り向けのデザインが欲しいところだ。

 不気味でもダメ。カッコよすぎてもダメ。生活に溶け込むようなロボットのデザインてむずかしいねぇ。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2008/05/02 00:30

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